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マルバスギルド




「見えました」



「あそこがマルバスギルドです」





アイナさんの指差す建物にエノクも私も視線を向けた。


王宮と商人ギルド連盟の会館がある浮島には様々なギルドの本部が集結している。


高さ30メートルを越す巨大な建物がゴールド通りに沿っていくつも立ち並んでいるが、その中でもひときわ存在感を発揮している巨大な建物があった。


歴史を感じさせる石造りの建物の上には巨大な獅子の像が鋭い眼光で来訪者を見下ろしている。


魔物達でさえ入館を躊躇しそうな圧を上から感じてしまうところだが、先頭を歩くアイナさんは涼しい顔をして館内に入っていった。


エノクもアイナさんの後に付いて、高さが5メートルはありそうな高い門をくぐり抜けると、程なくして群衆のざわめきが耳にこだましてきた。


私がエノクの防護カバンの中から興味津津に周囲を見回すと、館内には冒険者用の武器やアイテムを売っている店が所狭しと並んでいた。


アイナさんが言うには、酒場や礼拝堂、さらには宿泊所まで併設されているという。





「ここがマルバスギルドですが・・・」



「ここまで大規模な冒険者ギルドは初めて見ました・・・」





エノクが感嘆の声を上げる。


ともすれば巨大なショッピングモールにも似た巨大な建物に私も驚きを隠せなかった。





へぇ・・・やっぱりここも綺麗な内装ね。


それに、この展示物の多さは流石芸術の都と言われるだけあるわ・・・





館内の至る所に、ショーケースが設置されていた。


未知の領域で発掘されたレアアイテム、鉱物や遺物。さらには、魔物の毛皮なんかが展示されているようだ。


館内の至るところで観光客と思われる集団がショーケースの前で順番待ちをしていた。


特にレア度が高そうな展示物の前には長い行列が出来ていて、展示物の横では見張りの兵士が周囲に目を光らせている。





「王国でもここマルバスギルドは特別と言っていいでしょう」



「王国最大の冒険者ギルドということもあり、王国軍の兵站を担うこともあります」



「小国の軍隊にも匹敵する軍事力を誇るこのギルドは、人、物、資金、交易品など、あらゆる物流が諸外国から集積します」



「特に未開の地の探索で得た貴重なアイテムや鉱石、魔物の材料や古代の遺物は商人ギルド連盟管轄の下、王国各地へ卸されます」



「貴重なアイテムを求めるなら、ここで探したほうが良いものが見つかる可能性が高いでしょうね」



「なるほど・・・」





エノクは物珍しげに周囲に目を向けながら、アイナさんに答えた。


アイナさんの言う通り往来の中に商人らしき人の姿もチラホラ見受けられる。


亜人や獣人の姿もあることから、諸外国の商人もレアアイテムを求めてここまで来ているということだろう。


アイナさんがいなかったら、エノクもレアアイテムを求めて目を輝かせながらショーケースや店を見て回ったことだろう。


それこそ、当初の目的を忘れ、館内が閉店する時間まで入り浸っているかもしれない。


まあ、かく言う私もレアものに興味がないわけじゃないけどね・・・


私だって物珍しいものに興味は湧く。


一度じっくり見てみたいところだけど、この姿じゃそれが出来ないのが残念だ。


名残惜しげにショーケースを見送りながら私達が進んでいくと、館内の中央に巨大なポスターが見えてきた。


ポスターには1階から5階までの建物の見取り図が載っている。





「・・・これが館内案内図です」



「1階は武器・アイテム、交易品類等を扱う商店街」



「2階は冒険者の登録と依頼を請け負う窓口にレストランや酒場」



「3階は特にレア度が高い物品を取り扱うオークション会場」



「4階は熟練の冒険者など、高ランク冒険者専用の受付窓口」



「そして、5階にはマルバスギルドのギルドメンバーが在籍する本部があります」



「エノクさんは本日どこに行かれる予定ですか?」





ポスターを見上げながらアイナさんがエノクに問いかけてきた。





「・・・ええと、まずは2階ですね」



「ちょっと冒険者の情報で欲しいモノがあるのでギルドの窓口で購入しようと思っています」



「冒険者の募集などがあればそれも確認したいところですね」



「それと、自分に合う武器やアイテムの当たりも付けておきたいので、後で1階の店も回ってみようと思っています」





エノクの回答にアイナさんが頷く。





「・・・なるほど、分かりました」



「そうなると、まずは2階ですね」



「こちらです」





彼女が指差す方向に目を向けると幅広い通路の先に、これまた大きな階段があった。


アイナさんの後に続いてエノクも2階に上がっていく。


2階はギルドの受付窓口があると言っていたけど、どうやら冒険者たちの歓楽街も兼ねているようだ。


2階に到着すると酒場やレストラン、公共広場が私達の目に入ってきた。


王国の直営のギルドということもあり、行き交う通行人もバラエティに富んでいる。


冒険者だけではなく、依頼に訪れた一般人や商人、見回りをしているカーラ王国の兵士たちの姿も見て取れた。


アイナさんが王国の兵士とすれ違うたび、兵士がビシッと敬礼をして立ち止まるのが印象的だ。


彼女はその度に右手を上げて答礼し、通路をそのまま歩いていく。


アイナさんが兵士の横を通り過ぎた後、兵士の目元がだらしなく緩む様に見えるのは私の気のせいではないでしょうね・・・


私達はもう見慣れたかもしれないけど、彼らからしたらクラウディアさんの第9近衛騎士団は憧憬の対象なのだろう。


同じ女としちゃ複雑な心境だけど、まあ・・・それが普通の反応よね・・・


アイナさんのお化粧の仕方やほのかに香らせる上品な香水の付け方なんか非常に参考になる。


多感なお年頃の初な男子だったら、アイナさんが近づいただけで一発でノックアウトされてしまうのは目に見えている←妄想あり


私だって女だし化粧の心得がないわけではないが、やっぱり絶対的に経験値が不足している。


もし、バッドステータスが治ったら、そういうものにも注力していきたいわね・・・


前世ではそういう事にうつつを抜かす余裕も相手もいなかったしなぁ・・・(遠い目)


・・・・・ってこんな場所まで来て何で色気を出すこと考えているんだ私は・・・





ブンブンブン!





なんか変な感傷モードに入ってしまったので首を振って一回思考をリセットする。


周囲の酒場に視線を向け、色気話とは無縁そうな冒険者たちを視界に入れてみる。


・・・まだ昼間だというのに酒場には数多くの冒険者が集い酒を嗜んでいた。


テーブルを囲んで和気あいあいとしている姿を見ていると、冒険者という職業が楽しそうに見えてくる。


信頼する仲間との宴が何よりも楽しいというのは私も理解できるし、実際陽気な奴らも多いのだろう。


冒険者は細かいことは気にせず、豪快で大らか。


どんな種族や人間とも別け隔てなく交流を持つ気持ちの良い奴ら・・・


この風景の一面だけを切り取れば、冒険者にそういうポジティブな印象を持ってもおかしくない。


私達も冒険に出る以上、パーティを組むか、既存のパーティに参加することになる。


出来れば付き合いが良さそうなパーティに参加したいものよね・・・





将来組むであろう冒険者達に私が思いを馳せている間にエノク達は歓楽街を通り過ぎる。


幅広い通路の先へと視線を移すと、広大な大広間が見えてきた。


広間には膨大な依頼の張り紙が貼られた掲示板が存在感を示しており、いくつもの待合所が設置されていた。


そして依頼の順番待ちで行列が出来ている先にはギルドの受付窓口がある。


今回私達が目指す先もギルドの受付窓口だ。


てっきりアイナさんはその順番待ちの行列に並ぶのかと思ったけど、彼女はその横を通り過ぎていってしまう。





「・・・あ、あのアイナさん?」



「並ばないんですか?」





予想外のアイナさんの行動にエノクが声をかけると、彼女は立ち止まってこちらに振り返った。





「並ぶ必要はありません。私についてきてください」



「・・・?」





涼しい顔をしてアイナさんはまたすたすたと進んでいってしまう。


エノクが戸惑いを覚えながらアイナさんに付いていくと、


受付のあるスペースの一画に、仕切りが立てられ、周囲から隔絶した個室があった。


個室の入り口には見張りの兵士が立っている所を見ると、特別なお客さん向けの窓口なのだろうと想像がつく。


アイナさんがその窓口の男の人に声をかけると、男の人は恭しく頭を下げてきた。





「これはアイナ様!」



「よくぞお越し下さいました」




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