少年の夢、そして決意
レイナ・・・
彼女の瞳に吸い込まれそうだった・・・
彼女の覚悟の決まった目。
そうか、レイナはずっと決めてたんだな・・・
「・・・・・」
レイナの問いに僕はすぐに答えられなかった・・・
瞼を閉じてしばし瞑想にふける。
冒険に僕の人生を掛ける価値があるか・・・・
この問いにもしノーと答えたら、レイナは二度と冒険に行こうなんて言わないかもしれない・・・
もちろんレイナは今の暮らしに満足している訳では無いだろう。
小人の姿では人としての当たり前の幸福を享受することすら出来ない。
バッドステータスを解呪できるならしたいに決まっている。
だからこそ冒険に行くとレイナは明言しているのだ。
では、僕が冒険に出る理由はなんだ?
僕が冒険に出る理由・・・もちろんレイナのバッドステータスを治したいというのも理由としてあるだろう。
レイナには言ってはいないけど・・・僕はあの日、あの時、何か運命めいたものを感じた。
僕の家に迷い込んできた小さな女の子を拾い上げた時に彼女の美しさに魅了されたのだ。
そして、今は彼女の神秘的な先見力にも惹かれている。
もちろんちょっとお調子者で軽口を叩くレイナも好きだ。
僕は最初から今に至るまでずっとレイナに惹かれ続けている。
最初は何となく綺麗な子だなとしか、思わなかったけど、
今じゃその才色兼備なレイナの全てに惚れ込んでしまっていると言ってもいい。
こんな事恥ずかしくて、レイナには絶対言えないけどね・・・・
好きな女の子を助けたい・・・男が冒険に命を掛ける理由としては十分だ。
では、僕自身の夢はどうか?
僕の夢は神話のアイテムを創作することだ。
・・・その為には僕自身のレベルも上げなければならないのは言うまでもない。
僕のプライマリースキルは”アナライズ”と”創作能力向上”。
僕自身が神からの贈り物だと思うくらい魔法技師として有用な能力だ。
だけど、これを活かすも殺すも僕自身の努力による。
プライマリースキルは使いこなせなければ、セカンダリースキルと全くと言って良いほど変わらない。
ただ、注ぎ込めるMPの上限が違うだけで、そもそもその上限に達する能力を持っていないと宝の持ち腐れになってしまう。
プライマリースキルがセカンダリースキルと隔絶した能力を発揮し始めるのは、
熟練の冒険者と言われるLv50以上の領域に到達した達人になってからだと言われている。
そこに到達しなければ、この与えられた魔法技師としての才能は真の能力を発揮することなく僕は生涯を終えることになる・・・
・・・そんなのはいやだ・・・!!
僕の中に明確に否定の感情が沸き起こる。
僕は自分の才能を活かしたいと思っている。
その為には、常人では体験しえない数々の経験を得て、自らレベルを上げる必要がある。
じゃあ・・・僕がこのまま騎士団に参加してそれは叶えられるのか・・・?
騎士団に参加すれば、僕はこれまで以上に色々な経験をすることは間違いない。
魔物との戦闘もあるだろうし、任務によっては世界中の色々な場所へ出かけることもあるだろうし、未知の体験もするだろう。
僕のレベルが上がっていくことは間違いない。
ただ、自由にそれが体験出来るかと言われればもちろん否だ・・・・
騎士団の最優先事項はエレノア様の護衛なのは言うまでもない事。
よしんば、神遺物の探索部隊に僕が配属されたとしても僕は後方支援に回されるだろう。
僕は戦闘向きの能力を得ていないし、もっぱら騎士団のサポート役に徹するだろうことは想像に難くない。
もちろん騎士団の皆は、得体のしれない冒険者たちよりもずっと信頼が置ける。
カーラ王国の騎士団という最高の環境に身を置きながら僕は安全にレベルを上げられる。
・・・そう、安全に確実に強くなるのであれば騎士団に入団したほうが間違いないのだ。
・・・だけど・・・・それでは熟練の冒険者以上には恐らくなれない。
確かに彼女たちは一般人よりも遥かに強い・・・
カーラ王国の軍人は熟練の冒険者にも匹敵する豪の者も多いと僕は聞いている。
第9近衛騎士団の最高戦力は副団長のエミリアという人だと僕はアイナさんから聞いていた。
そしてエミリアさんのLvは”45”・・・・十分強い。
一般人など瞬殺できるくらい強いし、彼女だったら熟練の冒険者にも対抗できるだろう。
・・・だけど、そこまでだ。
たぶん僕はそれ以上は強くなれないだろう・・・
冒険者とそれ以外の人には埋められない差というものが存在する。
冒険者は未知のダンジョンや魔物を相手にするため、常に生死を掛けて日常を過ごしている。
一方騎士団は鍛錬をしているが、それでも冒険者のように常に気を張っている訳でもないし、常時魔物と戦闘をしているわけでもない。
修羅場をくぐり抜ける機会が全然違うのだ。
それはつまり自分の能力の限界が事実上決められているということになる・・・
熟練の冒険者止まりでは、神話のアイテムの創作なんて夢のまた夢だろう・・・
僕の夢は、文字通り夢のままに終わる・・・・
・・・・・いやだ!!
心の奥底から、マグマの煮えたぎるような激情が僕を猛烈に焦がした!
確かに命は惜しい・・・あの巨人に踏み潰されそうになった時・・・僕は何を差し置いても生きたいと思った。
魔法科学の真髄である神話のアイテムをこの目に焼き付けるまで僕は死ねないと思った。
人間の能力がどれほどのものになるのかを僕は知りたい!
そして、人類の未来の可能性を垣間見たい!
それを知れないまま死ぬなんて嫌だった。
思考の深い深い渦の中に入ってようやく僕は悟る。
僕はどうやら想像以上に自分の中に強い欲望があったようだ。
自分の人生を捧げるに値する目標。
それが・・・冒険の先にこそあるのを僕は今になってようやく知覚するに至ったのだ・・・
なんだ・・・
レイナに関係なく僕は冒険に出たかったんだ・・・
結論が導かれた僕は驚くほど平静な気持ちになる。
そして。僕はゆっくりと目を開けた。
「エノク・・・」
レイナがじっと僕を見つめていた。
その瞳に僅かな戸惑いと、諦観の気持ちが見て取れる。
僕の回答を待っている間、レイナはどのような気持ちでいたのだろうか。
レイナを不安にさせていたかも知れないな・・・
気持ちをハッキリさせてこなかった事を申し訳なく思う。
僕はレイナの視線を受け止めて、静かに彼女に語り始めた。
「レイナ・・・ようやく分かったよ」
「僕自身の気持ちと、本当のやりたい事がね・・・」
「レイナの言葉を吟味してようやく分かるなんて、全く僕はどんだけ鈍いんだろうね・・・ハハッ」
「・・・・・」
重々しい空気の中に僕の自嘲の言葉が虚しくこだまする。
引っ越したばかりということもあり、最低限の荷物しか存在しないこの部屋はやけに空気の通りが良かった。
抑えめに発した声ですら部屋全体に拡散し、広々とした空間は空虚な感情をより隆起させる。
僕の言葉にレイナはピクリと反応を示すと、首を一回縦に振り、その顔に掛かった前髪を両手でかき分けた。
そして、僕の答えを待つかのように、じっと僕を見返してきた。
僕はそんな彼女を見据えると、一旦大きく息を吐いて呼吸を整えた。
僅かに緊張が残る面持ちで言葉を続ける。
「結論から言うね・・・僕は冒険に出たい」
「これは誰に言われたからという訳でもない」
「僕自身の内にある、飽くなき探究心と創作の意欲が僕に冒険に出ることを訴え掛けてきたんだ」
「・・・冒険に出なければ僕は後悔するって今ハッキリわかった」
「・・・僕は神話のアイテムを創作して、人々の未来の役に立ちたい」
「・・・この“堕ちた牢獄の世界“・・・争いと大魔王の呪いが宿命付けられた世界を今よりも良くしたい」
「人々と世界の未来をこの目で直に見届けたいんだ」
「僕が魔法技師を目指した理由はそれだ。これは僕の人生を捧げるに足る目標だ」
「・・・・・」
レイナは黙って僕の述懐を聞いている。
心なしか、彼女の目は少し潤んでいるようにも見えた。
「自分を鍛え今よりもさらに知識と経験を積まなければ、僕のこの夢は本当に夢で終わる・・・」
「そんなのは嫌だ・・・・!!」
「だから僕は自分の意思で冒険に出るよ」
「レイナ・・・こんな僕のわがままに付き合ってくれるかい?」
「・・・・っ」
レイナは目尻を手の甲で拭うと、コクリと一つ頷いた。
「いいわ・・・なら一緒に冒険に出ましょう!」
そして、今度は満面の笑みで応え手を差し出してくる。
レイナの言葉に僕も微笑みながら頷くと、僕たちは改めて握手を交わすのだった・・・・・
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