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彼女の問い




許可をもらった僕は立ち上がり殿下を見据えた。


この時僕は初めて殿下のお顔を間近で拝見することになる。


クラウディア団長も綺麗だけど、エレノア様も別格の美しさを持っているんじゃないだろうか・・・?


アッシュブロンドの髪や、黄金のティアラに白いドレス。


エレノア様のあらゆる箇所から輝くような光が放たれ、僕の目を眩ます。


その背はピンと伸び所作は優雅で華美。


まさに王者としての風格と女神のような美しさを彼女は持っていた。


例え、エレノア様が僕らと同じ様な平装を着ていたとしても、その身から漂う気品で彼女だとすぐに分かるだろう。





「エノク・フランベルジュ・・・最後にそなたに1つ尋ねておきたいことがあります」



「先の告知で述べた様に、わたくしは神遺物奪還に全てを捧げるつもりです」



「貴方のように才能あふれる臣民が市井にいるのは我が国にとっても大いに喜ばしきことです」



「聞くところによればそなたは“ある事情“により仮ではあるものの我が騎士団の一員になっているとのこと・・・」



「私やクラウディアはこのまま貴方の才能を市井に埋もれさせておくのは惜しいと思っています・・・」





そこで殿下は一旦言葉を区切られると、真っ直ぐに僕を見据えてきた。





「正式に私に仕える気はありませんか?」



「・・・・っ!!!」





王妹殿下からの勧誘のお言葉だった・・・





「そなたが魔法技師に強い拘りがあるのは分かっているつもりです」



「もしそなたが承諾してくれれば、仮ではなく正式に騎士団専属の魔法技師として迎い入れるとしましょう」



「また、そなたの知を活かすためにキースと同じく書記官としての地位も用意するつもりです」



「・・・・・」





殿下の言葉を聞き頭の中が真っ白になる。


信じられない・・・・


・・・まさか僕を騎士団に迎い入れようとしてくれるなんて夢みたいだ・・・・


カーラの誰もが憧れ、敬愛する王妹殿下の騎士団に所属するのはこの上ない名誉のことだ。


しかも僕の適性と要望を考慮に入れて、魔法技師として迎え入れようとしてくれている。


親方の工房は辞める事になってしまうだろうけど、自分の魔法技師としての実績を積むことを考えたら間違いなくこれは栄達だ。


カーラ王国の中でこれ以上良いオファーはないと言ってもいいだろう。


だけど・・・・





「申し訳ありません。殿下」



「今この場で即答は出来ません・・・・」



「ご無礼を承知で申し上げます」



「一晩だけ考えさせていただいてもよろしいですか?」





僕は殿下の前で再び膝を屈し謝罪をした。


昔の僕だったら二つ返事で了承の返事をしたと思うけど今は違う・・・


カーラの英雄であり、民の信頼厚い殿下の誘いをすぐに受けないのはあまりにも無礼かもしれない・・・


後でクラウディア団長に怒られるかもしれないな・・・


だけど、今後の僕の進退に大きく関わる判断だ。


どうしてもレイナに相談したかった。


僕の返答を聞いた殿下は少し肩を落とされるものの、頷かれた。





「・・・エノク。分かりました」



「少し性急に過ぎましたね・・・」



「良い返事を期待しています」



「しかし、どのように判断したとしても私はそなたの意思を尊重いたしましょう」



「ありがとうございます!殿下・・・!」





僕は再び深く頭を垂れた。


殿下はそれを見て右手を上げられると、キースさんの方へ向いて目配せをする。


それを見てキースさんは1つ咳払いを挟んだ後、再び高々と声を上げた。





「・・・それではこれにて王妹殿下への謁見、ならびに報奨授与式を終了する!!」



「エノク・フランベルジュ・・・今後も王妹殿下の為に忠節を尽くす事を期待する!」



「閉会!!」





キースさんの言葉を合図にエレノア殿下はクラウディア団長と秘書の人に連れられ、謁見の間を退室していった。


謁見の間にいる騎士達はそれを畏まりながら見送る。


エレノア様が退室後、騎士たちも各々散開していったが、彼女たちの僕を見る視線に怒気が孕んでいた。


謁見の場で殿下の誘いを保留にしたのは、配下にしてみれば主君の面子が潰された形になる。


冷たい視線を受けていたたまれない気持ちになっていると、アイナさんが僕を迎えに来た。


そのまま僕達はエレノア殿下が住まう離宮を後にする。


宿舎へと戻る途中アイナさんは表面上普通だったけど、いつもより言葉が少なげだった気がする・・・







ガチャ!





「レイナ・・・ただいま」



「おお!おかえりエノク!どうだった!?」



「・・・うん。報奨は無事に頂けたよ」





宿舎に戻ってきたら、レイナは興奮気味に僕に状況を聞いてきた。


彼女としては報奨を貰えたかどうかが気になるところだろう。


僕は手に持っているモノを彼女に見せた。


“大量の金貨の袋“に、大冒険者すら欲しがる伝説のアイテムである、“スヴェルの楯“。


レイナはスヴェルの盾がなんの効果があるかは知らないだろうけど、僕が大事そうに抱えている姿を見てすぐに察したようだ。





「・・・おおお!凄いじゃない!!」



「報奨でもらえる予定だった300万クレジットと・・・あと、それは何か特別な恩賞でしょ?」



「伝説のアイテムか何かかしら?」





レイナの台詞に僕は微笑みながら頷いた。





「うん。そうだよ」



「凄いアイテムをくれたよ・・・」



「正直、こんなもの貰っちゃっていいのか迷うくらいにはね・・・」



「・・・うん?」





僕が目を泳がせながら返答すると、レイナはすぐに僕の違和感に気づく。





「・・・な~に?その含むような言い方は?」



「謁見で何かあったの?」



「エレノアさんに嫌味でも言われた感じ?」





想像の斜め上な問いかけに僕は慌てて手を振って否定した。





「いやいやいや!!そんなことないよ!」



「殿下は凄い優しい方だったよ!!」



「僕に気を使ってくれたし、不愉快な思いは全然しなかったよ!!」



「むしろ逆だよ!」



「・・・・逆?」





彼女はさらに眉を顰めて僕に問い詰めてきた。





「・・・うん。実はね・・・」







「・・・という事があったんだ・・・」





僕はレイナにエレノア様から騎士団に誘われたことをすぐに打ち明けた。


僕の人生の転機になるだろう大きな岐路に立っているという事を彼女に知ってもらいたかった。


彼女は頷きながらも黙って僕の話を聞いてくれた。


そして・・・・





「・・・なるほどねぇ」





・・・とだけ、言葉を返した。


もっと反応があると思ったけど・・・レイナは僕の話にもさして驚きはしなかった。





「・・・驚かないのかい?あの王妹殿下から僕は騎士団に誘われたんだよ?」



「これはカーラの臣民にとって凄い名誉なことなんだ」



「僕は未だにあれが夢なんじゃないかと疑っちゃっているよ」





僕がそう言うとレイナは少し逡巡した後、僕に返答してきた。





「・・・うん。まあ、名誉な事は私も分かるわよ?」



「だけど、エレノアさんがエノクを誘ってくるのは至極当然なことだと思っていたからね・・・」



「むしろ、エレノアさんの見る目に間違いがないと分かってホッとしたくらいよ」



「・・・・えっ・・?」





レイナの言葉に僕は驚く。


エレノア様が僕を誘うのは当然だって・・・?


そんな恐れ多い事を・・・


僕とレイナの認識が噛み合わなくて戸惑ってしまう。





「・・・もしかして、僕に自信を持たせようとして持ち上げてくれているのかい?」



「でも、今はレイナに正直に答えてほしいんだよ・・・」



「僕が過剰な評価を受けているのは分かっているんだ」



「レイナが本当に評価されるべきところを、僕がその功績を横取りしてしまっているからね」



「分不相応な役職を得ようとしてしまっているというのに、エレノア様から勧誘されて僕は喜んでしまっている」



「でも騎士団に雇われるということは、僕達が自由に冒険できなくなることも意味しているし、僕は断りたいとも思っているんだ」



「・・・レイナはどう思う?」



「・・・僕はエレノア様の勧誘を受けるべきなのかな?」



「・・・ううん・・・」





レイナは考え込むように唸ると、頬をポリポリとかきながら僕に返答してきた。





「・・・まず、何か勘違いしているようだから訂正しておくけど・・・私は別にエノクを持ち上げてなんかいないわよ?」



「・・・!?」





彼女の返事の第一声がそれだった。


僕が眉をひそめると、彼女はさらに言葉を続けてきた。





「私はこの世界の事をまだきちんと知っているわけじゃないけど、それでもエノクが凄い人間だというのは分かるわよ」



「エノクが持っている魔法やアイテムの知識、そして状況の分析力があればこそ、私はあの推理が出来たと言っても過言ではない」



「今回の報奨の功績の半分が私にあるとすれば、もう半分は間違いなくエノクね」



「だからエレノアさんがエノクを誘うのは至極当然だと思ったのは私の本音」



「・・・・・」





意外だった・・・


レイナが僕をそんな高く評価してくれているなんて・・・・





「あと、エレノアさんの誘いを受けるかどうかだけど・・・」



「・・・この際だから、私が逆にエノクに聞きたいわね・・・」



「エノクは私と冒険に出ても本当に後悔しないの?」



「・・・えっ・・・・」





思わぬ逆質問に僕はまたしても戸惑ってしまう。





「エノクの人生を掛けるに足る目標が冒険に出なくても叶えられるものなら、わざわざ危険を犯す必要はないと思う」



「私のバッドステータスの解呪の為に冒険に出る話をしたけど、でもそれはあくまで私自身のためよ」



「エノクにしてみれば、素性の知らない転生者の手助けをする事になり命を落とす危険性もある」



「・・・・・」





人生を掛けるに足る目標・・・





「私はもちろんエノクが一緒に冒険に出てくれると嬉しいけどね・・・」



「だけど同時にカーラ王国の魔法技師として花開こうとしているあなたを私のわがままに巻き込んじゃうかと思うと、少し申し訳ない気持ちにもなる」





そう言って言葉を区切った後、レイナは僕の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。


その目は真剣そのものだ。


有無を言わさない気迫が僕に伝わってきた・・・





「・・・改めて聞くわ。エノク・フランベルジュ」



「あなたは自分の人生を掛けてまで冒険に出る覚悟があるの?」




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