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禁忌の遺物




「――――アナライズ!!」





連盟魔術師の能力発動に伴う声が周囲に響き渡る。


ただ単に、分析の魔法を掛けているだけだというのに、


周囲からは息を呑む雰囲気が漂っていた。


連盟魔術師・・・確かあの人はラナさんって言ったっけ・・・?


僕が事情を説明するとクラウディア団長は直ちに商人ギルド連盟へ急使を派遣して助力を仰いだ。


僕の言葉を受け入れ、クラウディア団長は迷うことなく宝箱の開封を先送りにするという決断をしてくれたのだ。


正直言って、騎士団の一員でもない僕の言葉を何故素直に受け入れてくれるのか疑問だった。


ラナさんの到着を待つ間に僕がその疑問を質問すると、クラウディア団長はこう返事をしてきた。





『なぜ、素直にお前の言うことに従うかだと?』



『・・・愚問だな。信頼出来るからに決まっているだろう・・・』



『お前が我々に道を示してここまで導いてくれたのだ』



『そのお前が危険と言っているんだ』



『お前を無視して開けるほど私は愚かではないさ』



『・・・・・』





彼女の言葉を受け取ると僕は下を向いて縮こまってしまう。


僕への評価の高さに恐縮してしまった。


どうやらこれまでの一連の流れですっかり彼女の信頼を勝ち取ってしまっていたようだ。


僕としては意見を言えば聞いてくれるんだから、この状況は喜ぶべきなのだけど、


虚像を含む僕への信頼は僕自身に重荷となってのしかかって来る。


後で化けの皮が剥がれた時に彼女はどんな顔をするんだろうか・・・


レイナは僕の手柄にすれば良いと言ってくれているんだけど、それは言い換えれば僕は道化を演じる事になる。


レイナのお陰で僕は多くのことを助けられたし、彼女の知恵に今後も頼る事になるのは想像に難くない。


彼女の助言・・・特に緊急時において僕はもうそれを聞き入れることに抵抗が無かった。


人によっては小さな女の子に頼るなんて情けないなんて思うかもしれないが、僕は“あの時“何を差し置いても生きたいと思ってしまった。


僕の小さなプライドをかなぐり捨ててでも僕はまだ生きたいと思うし、


魔法技師として研修を積み重ねていきたいし、未知のことを経験していきたいと思っている。


そして、ゆくゆくは神話のアイテムを創作するという大きな夢を持っている。


自分の人生の目標を達成する上でもレイナの助言は貴重だ。


既に助言を拒むのが怖いとさえ思ってしまっている。


後は僕がそれを受け入れられるかどうかだけ。





僕自身がピエロを演じ続ける覚悟を持たなければならないのかもな・・・





回想しながら僕がそんな小さな覚悟を決めた時だった・・・





「・・・・あああ!こ、これは!!?」





連盟魔術師のラナさんが恐怖に顔を歪めながら、悲鳴を上げた!


そのただ事じゃない様子に周囲の緊張感が更に高まった。


険しい表情で騎士たちはラナさんを見つめ彼女の言葉に意識を集中しているのが見て取れる。


そんな中ラナさんの隣りにいたクラウディア団長はあくまで冷静に問いかける。





「ラナ殿・・・何が見えたのですか・・・?」





ある程度彼女も想定していたのだろう・・・


ラナさんが驚くような何かがあった事を・・・


一方ラナさんは宝箱を信じられない様な顔で見つめると、ゆっくりと振り返ってクラウディア団長に返事した。


その顔は明らかに強張っており、身体が小刻みに震えていた。





「・・・この中に入っているのは・・・“スルトの小剣“です!!!」



「・・・・っ!!」





ラナさんの言葉にクラウディア団長も僕も息を呑んだ。


周囲で見守っていた騎士たちの顔も真っ青になる。


「嘘でしょ!?」という声がどこからともなく聞こえてきた。


彼女たちは任務で幾度の苦難を経験し、戦闘も経験豊富なはず・・・


それなのにこの狼狽ぶりはそれだけラナさんが発した言葉に衝撃があったことを意味している。


“スルトの小剣“・・・それは禁忌とされている魔法遺物の1つだ。


先史文明の残した遺物にも種類がある。


文明の礎たる魔法科学の発展に貢献が期待されている“正の遺物“。


使用者に多大な魔力と恩寵を与える神遺物はその代表と呼べる代物だ。


そしてもう一つには破壊と絶望をもたらす“負の遺物“。


純粋な兵器や災いをもたらすと伝えられている魔法アイテムがそれに属する。


スルトの小剣が属するのはもちろん後者だ。


その効果はまさに災いと呼べるもの・・・


大気中の魔素(マナ)と接触したら最後・・・無尽蔵に周囲の魔素を取り込みそれを熱エネルギーへと変換する。


変換された熱エネルギーは円形状に放射され、周囲数十メートルが“蒸発“し、数百メートルが火の海と化す・・・


その威力の恐ろしさから、古の大巨人スルトがそれを使って地上を焼き払ったという剣をもじり、“スルトの小剣“という忌み名が付けられている。


魔力結晶体(マジカル・コア)を改良して作ったものと言われているが、その製法は今には伝わっていない。





「・・・なんて恐ろしいものを奴らは仕込んでいるのだ・・・!」





流石のクラウディア団長もスルトの小剣の名を聞いて絶句してしまっている。


それもそのはず、これは人が使って良い兵器ではない。


というより使い方を間違ったら自分たち自身も“蒸発“してしまう恐れがある諸刃の剣。


それを平然と使用し、罠として仕込める劇団達のイカれ具合は推して知るに余りある・・・


僕達は想像以上に危ない集団を追っているのかもしれないな・・・・





「・・・アナライズで内部をスキャンしましたが、どうやら宝箱を開封すると同時に起爆するようですね・・・」



「魔素が入り込めないようにスルトの小剣の外部は封印の壁で覆われておりますが、」



「宝箱を開封すると同時に、封印の壁も解ける仕掛けになっております」



「危ないところでした・・・宝箱を開いていたら、皆様は既にこの世にいなかった事でしょう・・・・・」





震える声でラナさんはそう述懐した。





「そうでしたか・・・私はどうやら良い友人と仲間に恵まれたようだ・・・」





クラウディア団長は言葉少なげにそう応答し、目を伏せて物思いにふけった。


しかしそれも束の間、彼女はすぐに目を開くとラナさんに改めて問うた。





「ラナ殿・・・一応確認なのですが、スルトの小剣以外には何か入っておりましたか?」



「神遺物はあったのですか?」



「いえ・・・残念ながら・・・」





ラナさんはその問いにゆっくりと首を振った。





「7つある宝箱はすべて同じ仕掛けのようです・・・」



「宝箱に掛けられていたパスコードは既に突破されており、神遺物はすべて持ち去られたと見て間違いないようです」



「誠に残念ですが・・・・」



「・・・・・」





ラナさんの言葉にクラウディア団長は肩を落とした。


さすがに彼女もショックを隠しきれなかったようだ・・・


劇団は既に行方をくらましており、見つけたと思った宝箱の中身は既に持ち去られた後。


これまでは神遺物が入っていた宝箱、もしくは劇団を追跡すれば良かったのだが、これで手がかりが1つ消えたことになる。


奪還の希望が見せられた矢先にこれだ。


クラウディア団長の立場で考えれば肩の1つも落として当然だろう・・・


・・・しかし、やはり彼女は強かった。


その顔に覇気を改めて宿らせると、すぐに次の行動に移った。





「・・・・ラナ殿、ご協力感謝いたします」



「神遺物がなかったのは残念ですが、落ち込んでばかりもいられません」



「宝箱をこのまま放置するわけにはいきませんので、このまま連盟に返却させて頂きます」



「・・・商人ギルド連盟の方で罠の解体をお願いしてもよろしいですか?」





クラウディア団長の問いかけに、ラナさんは頷く。





「承知いたしました。クラウディア公女」



「スルトの小剣は恐ろしい存在ですが、魔素を取り込めないように封印してしまえばただの加工された鉱物です」



「連盟本部から応援として解体部隊をここに呼ばせましょう」



「解体自体は容易ですのでご安心を」





ラナさんの承諾の言葉にクラウディア団長はお辞儀(カーテシー)で返礼した。





「ありがとうございます。ラナ殿」



「それでは解体部隊に引き渡すまで、我々が責任を持って護衛致します」





彼女はそう言うと、傍に控えていたキースさんに顔を向けた。





「キース、悪いが引き渡しを頼めるか?」



「護衛部隊としてこのまま第1・第2小隊を置いていく」



「お前が引き渡しまでの指揮を取ってくれ」



「はっ!承りました!」





キースさんが敬礼で応えると、クラウディア団長は言葉を続けた。





「こんな恐ろしい策を弄す奴らだ」



「何をしでかすか分からない。十分気をつけてくれ」



「はっ!」





彼女の警告の言葉に、キースさんは覇気のある言葉で答えた。


クラウディア団長はその頼もしい応答に僅かな笑みを浮かべながら頷くと、


後は任せたと言わんばかりに彼の肩をポンと叩いた。


クラウディア団長とキースさんの信頼関係が伺えそうな微笑ましい光景だった。


なんか、こういう光景いいなぁ・・・


先程僕はクラウディア団長に信頼されていると思ったけど、少し勘違いしていたかもしれない・・・


あくまで僕に対してのそれは外部の人間に対してのそれで、仲間に対しての信頼ではなかった。


明らかに僕とキースさんに対しての距離感は違う。


ガングマイスター工房ではそういう人間はいなかった。


アベルは仲間と言うより悪友という感じだし、信頼関係が無いわけではないけど結局僕はレイナの事を彼に話していない。


親方の事は信頼しているけど、仲間と言われると少し違う。


親方はあくまで親方だ。僕の目標となる人であり、尊敬する人物。同じ肩を並べて背中を預けるような関係ではなかった。


同じ部隊に所属すれば僕も信頼関係が築ける仲間が出来るのだろうか・・・?


僕がこれまで経験してこなかった一幕を見たからだろうか、僅かな疎外感を感じてしまう。





「・・・よし!全員聞け!」



「我々だけで劇団の追撃を行うのはリスクが高い事が分かった!」



「追撃は一旦取りやめとし、お前たちは宝箱を引き渡し後直ちに王都に帰還しろ」



「今回の件は至急王妹殿下にご報告申し上げなければならない」



「私は先に王都に戻っている。以上、後は頼んだぞ!」



「はっ!」





クラウディア団長の言葉に騎士たちが敬礼を持って応える。


彼女は続けて僕とアイナさんにも視線を向けてきた。





「アイナ、エノク。お前たちも私と一緒に帰還するぞ」



「はっ!」



「・・・了解しました」





僕達の了解の返事を受け取ると、クラウディア団長は僕とアイナさんを連れ立って広場を離れた。


転送棟がある建物へと向かう途中、彼女は僕に耳打ちをしてきた。





「・・・特にエノク、お前の事は念入りにご報告申し上げるつもりだ」



「謁見の用意をしておけ」



「は、はい・・・・!」





クラウディア団長に間近に寄られて、薔薇の良い香りにドギドキしながら、僕は襟を正すのだった・・・・









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