表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/184

置き土産




宿屋の主人に連れられ僕達は2階の大部屋がある扉の前に来る。


2階の最奥にあるこの部屋は他の部屋とは作りが違うから、恐らくスイートルームなのだろう。





ガチャ!


ギィ・・・





宿屋の主人が懐からマスターキーを出してドアを開ける。


クラウディア団長が扉から視線を外さずに僕達に小さく声を掛けてきた。





「・・・お前たち油断するな」



「奴らが潜んでいる可能性がある」



「周囲を警戒をしながら部屋の中に入れ・・・」





シャ・・・





そう言うとクラウディア団長は帯剣していた、腰元の剣を抜いた。


彼女はそのまま宿屋の主人に続き部屋の中に入っていく。





「エノクさん・・・私が後ろを見張ります」



「キースさんの後ろから決して離れないでください・・・・」





アイナさんが僕に小声で話しかけてきた。


僕の後ろに回った彼女も抜剣して、周囲に目を光らせる。


キースさんとアイナさんに挟まれながら僕達も部屋の中に入った。





「おいおい・・・厄介事はゴメンだぜ」



「調べたらさっさと帰ってくれよな・・・」





先に部屋の中で待っていたマスターが僕達の物々しい態勢に眉をひそめる。





「・・・主人。協力感謝する」



「後で返すから鍵だけ置いてお前は先に戻っていい」





クラウディア団長がそう言って、主人の前に手を差し出した。





「・・・ちっ!勝手なこといいやがって・・・!」



「騒ぎを起こしやがったら領主様に訴え出るからな!」





パンッ!





主人は半ば投げつけるようにクラウディア団長に鍵を渡し、肩を怒らせながらそのまま出ていった。


事態が事態だから仕方ないよな・・・


彼には申し訳ないが、劇団と戦闘になるかもしれない事を考えると、いないほうが都合が良いだろう。


宿屋の主人がいなくなった後、僕達は改めて部屋の探索を行う。


部屋はスイートルームらしく巨大なベッドが置いてある寝室や、ダイニングルームに執務室。さらには応接間もあるようだ。


戦闘になるかもしれない・・・と思い緊張の面持ちで僕は周囲を伺うが、


一見すると劇団の姿はなく、物陰にも潜んでいないようだった。


僕達は固まりながら各部屋を当たっていく・・・・





「・・・これは!」





・・・応接間に入った時だった。


クラウディア団長が剣を構えながら目の前の異様な光景に思わず声を出す。


・・・面食らったのは彼女だけではない。


アイナさんやキースさん・・・そして僕もそれは同じだった。


クラウディア団長と、キースさんの背後から覗き込むように前を伺った僕は驚きの声を出してしまう。





「・・・・これは・・・宝箱!!??」





この場にいる全員の視線の先には、アダマンタイト製の“あの宝箱“があった。


オークション会場で見た神話のアイテムを収められた特注品の箱・・・


それも御大層に横一列で綺麗に並べられていた。


・・・しかし、明らかに違和感というか・・・何かが可笑しい。


劇団が置いていった荷物が“これだけ“しかないのだ。


彼らが本当にまだ滞在しているというのなら、他にも荷物があって然るべきだ。


しかし、見当たる荷物と言えば目の前にあるこの7つの宝箱だけだった。


まるで、誰かがこの光景を見ることを想定して宝箱だけを置いていったんじゃないかと思ってしまう・・・


そう考えたのは僕だけではなかった。


キースさんがすぐに警告の声を上げる。





「・・・団長、これは罠です!」



「奴らの荷物がこれだけというのは余りにも可笑しすぎます!」



「あの中には“例のミミック“が仕込まれているかも知れません!!お気をつけを!」



「・・・ああ、分かっている・・・!」





クラウディア団長が剣を構えたまま、キースさんの言葉に深く頷いた。





「どうやら我々はここに誘われたようだな・・・」



「しかもありがたい事に、我々が探し求めた置き土産を残してな・・・!」





クラウディア団長の剣を握る手に力が込められる。


その表情は伺えないが、彼女の怒りが僕にも伝わってきた。


僕達をおちょくっているとしか思えないこの光景に不快感を感じているのだろう。


“ほら・・・お前らが探しているものをここに置いておくぞ!“と。


“中を開けて調べてみろよ“と。


・・・そういう嘲弄の声が聞こえてきそうだ。





「・・・どうなされますか?」



「私は一度宝箱を運び出してから中身を確認するべきだと具申いたします」



「時間はかかるかも知れませんが、魔力封じの囲いを持ってこさせてから運び出しましょう」



「アビスミミックが入っている可能性がある以上、今、不用意に近づくべきではありません!」



「・・・・・」





キースさんの意見にクラウディア団長は黙って考え込む。


・・・そう、宝箱はなぜか“7つ“あるのだ。


今回オークションで出品された神話のアイテムは、


“ 魔法の薬“、“アムブロシア“、“ネクタル“、“賢者の石“、“ホーリーグレイル“、“知恵の実“、以上の6つ。


もし、神話のアイテムが目の前の宝箱に入っていたとしても一つ余る計算になる・・・


そして、奴らがアビスミミックを持っていることを考えると、どれかに入っていたとしてもおかしくない。


キースさんの意見は最もだった。


・・・しかし、クラウディア団長は彼の意見に難色を示す。





「今は時間が惜しい・・・」



「劇団の追撃もせねばならんが・・・これ以上の戦力の分散は避けたい」



「従って、目の前の宝箱に神遺物が入っているかすぐに白黒を付ける必要がある」





クラウディア団長はそう言うと、僕の方に振り返ってきた。





「・・・エノク。お前は直接アビスミミックを見たと言っていたな?」



「あれをこの場で判別する方法はあるか?」





僕は少し間をおいて彼女に返答する。





「何か魔力を帯びたもの・・・そう、例えばポーションでも投げてみれば反応するはずです・・・」



「しかし、もしこの狭い部屋でアビスミミックが出現すれば宿屋の建物に損傷が出るでしょう」



「下手をすれば他の宝箱も吸い込まれてしまうかもしれません・・・」



「・・・ですので、僕はキースさんの意見に賛成です・・・」





クラウディア団長を諫める形で僕は答弁する。


安全に確認できる方法があればそれに越したことはない。


ただし、僕はアビスミミックを見たことがあるとは言え、その生態はほとんど何も分かっていなかった。


・・・分かっていることはアビスミミックは魔力のあるものに反応すること。


そして開いたら最後、周囲にあるもの全てを飲み込もうとすること。


生物は大なり小なり魔力を帯びているから、誰であれアビスミミックに近づけば“地獄の釜“は開く。


あれを反応しないようにするには、劇団がそうしたように魔力を遮断する檻の中に閉じ込める他ないだろう。


クラウディア団長は僕の言葉に渋い表情を返した。





「お前も同意見か、エノク・・・」



「だが、お前がそう言うならば、仕方あるまいな・・・」



「分かった・・・」





しかし、彼女はすぐに頷いて納得してくれた。


彼女は周囲に敵が潜んでいないことを確認してから、剣を鞘に納めてキースさんに指示を出す。





「・・・キース。お前はすぐに搬送の手配をしてくれ」



「我々はここで宝箱を見張っている」



「・・・はっ!」





キースさんは敬礼をして部屋を出ていった。


魔力封じの囲いを取りに行ったのだろう。


クラウディア団長は続けてアイナさんにも指示を出す。





「アイナ・・・お前は任務中の第1、第2小隊をここに集合させろ」



「そして宿屋の周囲を固め、我々以外誰も宿屋に入れさせるな」



「もちろん宿泊客が帰ってきたとしてもだ!」



「・・・宿屋の主人は“50万クレジット“くらいで黙らせとけ」



「はっ!承知いたしました!」





アイナさんも駆け出していった。


残されたのは僕とクラウディア団長だけ。


僕達はしばし宝箱を傍観して待つことになる。





「ふぅ・・・もどかしいな・・・」



「目の前にカーラの宝があるかもしれないというのにすぐに調べられんとは・・・」



「そうですね・・・」





クラウディア団長の言葉に同意する僕。


そんな僕に顔を向けてきた彼女の表情はなぜか少し嬉しそうだった。





「ふっ・・・だが、これこそまさに贅沢な悩みというやつだ」



「捜査が八方塞がりだったこれまでとは違い、追うべき相手が明確になったのだからな」



「これも全てお前のおかげだエノク・・・お前のその洞察力には改めて感服したぞ」



「いえ・・・そんな・・・お褒めに預かり光栄です」





ポリポリと頬を掻く僕。


僕のおかげじゃないんだけどなぁ・・・・と心の中で苦笑いをしてしまう。


・・・レイナからは“胸を張って手柄をアピールしなさい“と言われている。


変に友達のおかげだというと話がややこしくなるし、最悪分け前が減る可能性があると釘を刺されてしまっている。


素直にレイナのことを言えないのが心苦しかった。





「王都に戻ったら、エレオノーラ殿下にお前の貢献を上奏するつもりだ」



「・・・もしかしたら殿下から直接お褒めの言葉を頂けるかもしれないな」



「・・・・え・・・ええ!?」





話の流れの中で、クラウディア団長にさらっと凄い事を言われた!


殿下に直接お目通りが叶うかもしれないって・・・!?


突然のサプライズで僕は裏返った声を出してしまう。





「・・・何を驚いている。当然だろう?」



「今回のお前の貢献を考えたら報酬授与は確実だ」



「王都に戻ったら礼装を新調しておいたほうがいいぞ」



「・・・・は、はい」





僕はそう小さく肯定の言葉を返すだけで精一杯だった。


エレノア様に直接会えるかもしれないなんて、庶民である僕にとって夢が叶うかのような大事だった。


クラウディア団長と僕はしばらくこの部屋で番をしていたが、


僕はエレノア様への謁見の事で頭が一杯になってしまう。


・・・それから程なくしてキースさんに率いられた輜重隊の部隊がここに到着する。


魔力封じの囲いをそれぞれの宝箱に被せた後、拍子抜けするほど呆気なく宝箱は搬送された。


全ての宝箱が搬送された後、宝箱はクラウディア団長旗下の第1、第2小隊に厳重に警備されながら人目の付かない広場に運ばれる。


本当は転送魔法陣を使って王都まで宝箱を運んでから中身を確認したいところだが、


この箱は特別な呪法が掛けられており転送陣を通ることが出来ないらしい。


そして、グラーネの町の一画で確認作業が行われることになった・・・・







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最近更新が早くなってきたようですが、相変わらず話の進み方は遅い気がします。 最初はこの物語は主人公の成長して強くなっていく姿を見て楽しむものだと思っていたのですが、実際にそうではない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ