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踏ん切りがつかない少年




エノクはあっさりと見返りを求めようとしたことを認めた。


彼としては別に隠すつもりはなかったのだろう。


あるいは話が前後しただけで、ブラッドフォード殿の手紙を出した時に話そうとしていたのかもしれない。


彼の正直過ぎる回答に思わず笑みがこぼれる。





「ふっ・・・あっさりと認めるのだな」



「はい。元々クラウディア団長にお願いをさせて頂くつもりでしたから・・・」



「たとえ事件解決に貢献できなかったとしても、要望だけは聞いてもらいたいと思っていたんです・・・」



「それでブラッドフォード殿の手紙という訳か・・・・・」





私の言葉にエノクがコクリと頷く。


私はしばし思案した後、彼に諭すように返答した。





「・・・エノク、知り合ってまだそれほど経っていないが、お前の人柄はある程度分かったつもりだ」



「お前は“恩“を知る人間だと私は思っている」



「・・・私は立場上色々な者と交渉する機会も多いのだが、中には無礼な奴もいてな」



「欲の皮が突っ張っている輩がなんと多いことかと、溜息が出てしまうくらいだ」



「そしてそういう輩は漏れなく人の窮状に付け入ろうとする・・・」



「自身が協力する見返りとして、要求を高く飲ませようと法外な条件を提示してくるものだ」



「・・・だが、お前は条件を先に提示せず、私への協力を優先し、それを叶えた後で要望を伝えようとしている」



「・・・これらは一見同じ様に見えて全く違う」



「前者では私の不利な状況を利用して“利“で私を使役させようとする者」



「一方後者では、私の窮状を解決し、その“恩“によって私の協力を引き出そうとする者だ」



「お前は私を恩を返す人間だと信用してくれた。恩へは恩で返さねばなるまい」



「だから、私は喜んでお前の要望を叶えたいと思う」



「もちろん、私が叶えられる範囲の中ではあるがな」



「・・・クラウディア団長・・・・ありがとうございます!」





エノクは私から視線を逸らし目をしばたたかせる。


そして、私の方へ再度向き直ると、深々と頭を下げてきた。


私は静かに頷くと、彼が顔を上げるのを待ってから問いかける。





「それで・・・私に協力をお願いしたい事とはなんだ?」



「・・・はい。それなんですが、その前に確認したいことがあります」



「・・・・ん、なんだ?」





エノクはすぐに要件を切り出そうとせずワンクッション置いてくる。


私が首を傾げると、エノクはすぐに事情を説明してきた。





「すみません。回りくどくて・・・だけど、これはお願いしたいことに関係するんです」



「・・・確認したい事というのはエレノア様が告知した内容についてなんです」



「告知内容はあの巨人達について全く触れられておりませんでした。あれには何か意図があったのでしょうか?」



「犯人に懸賞金を掛けるのなら、巨人達の風貌に触れられるべきだと思いますし、」



「神話のアイテムの行方を求めるのなら、事件の内容も詳細に告知すべきだと思ったのですが・・・」



「・・・・・」





・・・確かに彼の言うことも一理ある。


あの告知の内容については王室のメンバーと顧問大臣。


それに各ギルドの要人が参加した会議で決定されたと聞いている。


私が事件調査のため王都を留守にしていた時に告知が決まり、


具体的な経緯については私も聞いていなかった。





「・・・あの告知か」



「あれは国内の要人達との会議の中で決定されたものだと聞いている」



「・・・ディーナ。お前は確か会議に参加していたな?」





私がディーナに問いかけると、彼女は前に進み出て敬礼をしてきた。





「はっ!」



「会議にはエミリア副団長と、キース隊長、それに私が参加しておりました」



「・・・ふむ。私も興味が湧いた。経緯を話せ」



「はっ!申し上げます」





そう言うとディーナは経緯について話し始めた。





「・・・あの告知は事件から5日後、ヘルヴォルの館で開催された会議の中で決定されたものです」



「会議の議題は、事件の影響を踏まえたカーラの今後の対応策が主なものでしたが、」



「議論が犯人討伐と神遺物の奪還に焦点が当たった時、そこに強い意向を示されたのが商人ギルド連盟・外交局長の“グレゴール“殿でした」



「グレゴール殿が仰るには、“巨人たちにカーラの兵士が無惨に殺された事はカーラの臣民に失望感を与え、また諸外国に対する軍の威信を損なう恐れがある“」



「“商人ギルド連盟としても、我等連盟の会館の中で無惨な事件が起こったことをツラツラと書き立てるような告知に対しては断固として反対する“」



「“もしこの要望が受け入れられない場合は、商人ギルド連盟からの今後の援助は厳しいものになることをご承知願いたい“・・・と告知の内容に待ったを掛けられたのです」



「――――えっ!!?」





そこで、急に驚きの声を上げたのはエノクだった。


何事かと私もディーナもエノクの方へと振り返る。


彼の様子を伺うと、目を大きく見開き手が強く握りしめられていた。





「あ、あの?今の話は本当なのでしょうか!?」



「その、商人ギルド連盟が告知の内容に干渉したというのは!?」



「・・・え、ええ。そうですが・・・」





エノクの勢いにディーナが気圧されそうになる。


彼の尋常じゃない雰囲気に私も少したじろいでしまった。


エノクを落ち着かせるべく、私は彼の肩に手を置いて席に着かせた。





「エノク、落ち着け・・・」



「何がそんなに気になるのか知らんが、急にそんなに凄まれたらこちらもびっくりするぞ・・・」



「あ・・・す、すみません!」



「ちょっと、取り乱してしまいました・・・・」





エノクはまたシュンと縮こまってしまう。


私は少し間を置くと、ディーナへ続きを促した。





「・・・おほん。話を戻そう」



「それで、続きはどうなった?」



「はい。その後ですが・・・」





気を取り直したディーナは話を続けた。





「グレゴール殿は、本件は繊細な対応を要するため、襲撃の内容に関しては黙秘をするようにと関係者に釘を刺されました」



「国王陛下も王妹殿下もそれは最な事だと判断し、告知内容に商人ギルド連盟の意向が反映される事になりました」



「その結果、襲撃の内容に関しては最小限に触れられる程度に留められ、署名も王妹殿下の単名で出される事になったのです」



「・・・・・なるほどな」





・・・商人ギルド連盟に思うことがないと言えば嘘になる。


王家の専権事項である民衆への告知に連盟が干渉するのは好ましいことではない。


それに共同主催をしておきながら、エレオノーラ様単名で告知に謝罪文を載せていることも腹立たしかった。


・・・しかし、連盟の言うことに理があるのも分かる。


だからこそエレオノーラ様もリーファ殿も私に何も言ってこなかったのだろう。


告知の内容が簡略化されたのも頷ける話だった。


後はこれをエノクがどう受け取るかだが・・・・・





「・・・・・」





私はチラリとエノクの方へ視線を向ける。


・・・彼は剣呑な雰囲気で物思いにふけっていた。


先程ディーナの言葉を受けてから、彼はこんな調子だった。





「・・・エノク。告知が決められた経緯については今聞いたとおりだ」



「先程、取り乱した訳を話せ」



「お前の依頼したい事とやらに今の内容が関係するということか?」



「・・・はい。そうです」





私の問いかけに頷くと、エノクは伏し目がちに理由を話し始めた。





「・・・実は先程の事情聴取で言っていなかった事があったのです・・・」



「非常にセンシティブな話題ですし、僕自身オロフさんに聞いただけで実際に現場を目撃したわけではありません」



「だから、素直にこれを話してしまっていいものか迷ってしまって・・・」





そう言うとエノクは一旦目線を下げて、大きく息を吐いた。


彼の緊張が伝わってくる。


話したくても素直に話すことが出来ないジレンマがあるのだと私はようやく悟ることが出来た。


私も配慮が足りなかったな・・・


当然彼の話は他の者の秘密にも関わってくる。


この話をキチンとしておかなければならなかったか・・・





「・・・エノク、先程言ったであろう。どんな些細な事でも話して欲しいと」



「例えそれが誰かの毀損に関わることであったとしても、それでお前を責めることはない」



「・・・もちろんそれが“商人ギルド連盟に関わること“であってもだ」



「お前がここで何を話そうが、お前の不利にならないように配慮はする」



「だから安心して話せ」



「・・・はい!ありがとうございます・・・」





エノクが再び私に頭を下げてきた。


彼も今ので決心がついたのか、確信に迫る話を切り出してきた。





「・・・もう予想していらっしゃると思いますが、これは商人ギルド連盟に関係することです」



「話は前後しますが、エレベータから脱出する際にオロフさんが言っていたのです」



「外へとつながる回廊が“ストーンウォール“で塞がれていたと・・・」



「それによって多くの兵士や避難客が逃げることが出来ずに犠牲になってしまったと僕は聞きました」



「・・・なに!?」




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