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巨人の跡を追って




私は手紙を折りたたむと、顔を上げてエノクを見据える。





「・・・エノク、話は分かった」



「私も魔法技師の協力があればそれに越したことはないと思っている」



「・・・事件の後、お前のことは少し調べさせてもらった」



「お前はその若さで既に工房ギルドのメンバーに選ばれているらしいな?」



「流石ブラッドフォード殿が期待する弟子だと私は感心したよ」





私が賛辞を送るとエノクは謙遜して首を横に振る。





「いえ、そんな・・・僕の両親が親方の友人だったから目を掛けて貰っているに過ぎません」



「僕自身これからが魔法技師の正念場だと思っています」



「魔法や道具の知識はもちろん、自分の持っているスキルの熟達や戦闘経験も積まなければならないと思っています」



「いずれは神話のアイテムを自分の手で作れるようになりたいと思っていますので・・・」



「・・・・ふふ、そうか」





エノクの言葉に私は微笑みながら相槌を打った。


彼が神遺物を自らの手で作りたいと言っていたのは前回の尋問でも分かっていたことだ。


神話の時代に作られた遺物を自らの手で生み出すなど、何も知らない人間からすればホラ吹きの戯言だと思われてもおかしくない。


だが、私は彼が大口を叩いているとは全く思っていなかった。


それどころか、彼が本気で目指していることを知り、応援する気持ちすらある程だ。


・・・ブラッドフォード殿が気に入るわけだ。


大物になるかもしれないな、この少年は・・・





「・・・エノク。本来であるなら軍の関係者以外に機密情報を教えるわけにはいかない」



「だが、事件は既に公に知れ渡っており、お前は事件の当事者でもある」



「それに私も今は余裕がなくてな。手掛かりを掴むために猫の手も借りたいほどなのだ」



「だからお前の申し出はありがたく受けさせてもらうとしよう」



「・・・ありがとうございます!」





エノクは私の言葉を聞くと彼は嬉しそうに頭を下げてきた。


私は彼を元の席に座らせると、ディーナの方に振り返る。




「ディーナ、筆記を止めてくれ」



「ここからは記録する必要はない」



「・・・はっ!承知いたしました!」





私の言葉にディーナは素直に頷くと、筆記を止める。


一方、アイナは怪訝な表情で言葉を挟んできた。





「・・・隊長。よろしいのですか?」



「軍の機密情報を教える事になってしまいます」



「軍規に違反することになりますが・・・」



「・・・責任は私が取る」





アイナに手のひらで静止を掛けると私は彼女に向かって諭すように言った。





「軍の機密を守る事や、そういう議論が出来るのも全てカーラ王国と王家が安泰だからこそ出来るのだ」



「・・・だが、神遺物が奪われ、その安泰が崩れ去ろうとしているのが今の王国の現状だ」



「神遺物の奪還は私の命より優先される。これは王妹殿下のお言葉でもある」



「私はなんとしても手掛かりを突き止め神遺物を奪還しなければならない」



「今は綺麗事を言っている暇はないのだ。分かってくれ、アイナ」



「隊長・・・・」






私の覚悟が伝わったのか、アイナが無言で敬礼をしてその場を下がった。


私はエノクの方に顔を向き直ると話を続けた。





「・・・待たせたな。エノク」



「あの後何が起こったのか話すとしよう」



「何か分かったら遠慮なく言って欲しい」



「・・・はい。お願いします!」





エノクの返事に私も頷く。





「・・・では、襲撃が起こった翌日の朝から話すとしよう」



「時間帯としてはお前が脱出して丁度気を失っている間になる」



「あの時、私と騎士団は――――」





私はあの後起こった事について、知る限りのことをエノクに話した。


王宮で起こった災害のような爆発と、救助活動。


王妹殿下からくだされた新任務とミンツの町への派兵。


そして、巨人や神遺物が蒸発したかのように消え失せてしまったこと。


事情聴取で得た情報を含め、一連の流れを詳細にだ。







「――――と、言うわけだ」



「・・・・なるほど。連盟魔術士の探知でも見つからなかったのですね・・・」



「そして、巨人の足跡も消えたままだと・・・」





エノクが真剣な表情で私の言葉を反芻する。


私の見落としていた点や、気づきにくいところを彼が拾ってくれることを私は期待していた。





「そうだ・・・正直途方に暮れたよ」



「私は連盟魔術士の探知スキルで確実に神遺物の位置を特定できると思っていたのだ」



「だが、結果は今話した通りオークション品も巨人たちも痕跡を残さず何処かに消えてしまった」



「・・・念の為、トール山脈方面にも一応探索を掛けたのだが、徒労に終わってしまったよ」



「・・・・・」





半ば懺悔をするかのようにエノクに自分の失態を告げる。


糾弾できるならして貰いたいくらいだった。


私としては最善の手を打ったつもりだったが、


あの時どうすればよかったのか今でも判断が付かない状態だ。





「1つお伺いしてもよろしいですか?」



「その連盟魔術士のラナさんは探知に引っかからない原因については何かおっしゃられていましたか?」



「・・・ああ、少しな」





私は頷くと続きを話した。





「・・・私も必死だったからな」



「彼女の能力のせいでない事は分かっていたのだが、どうして探知できないのか何回も聞いてしまったよ」



「ラナ殿が言うには、理由がいくつか考えられるそうだ」



「1つ目として単純に対象の宝箱が既に探知(サーチ)の範囲より遠方にある場合だ」



「彼女の探知スキルは周囲300Kmに対象物が会った場合は探知が可能だという」



「逆に言えばそれ以上宝箱が遠方に持ち去られていた場合は追跡が出来ない」



「ただし時間的にこれは考えにくいがな」



「・・・ええ、そうですね」





エノクが相槌を打つ。


・・・彼も同意見の様だ。





「2つ目としては探知範囲の中にあっても効果が遮断される場合だ」



欲望の塔(マーセナリータワー)の中にあったオークション品が納められていた保管庫」



「王宮の特別管理区画や、各ギルドの宝物庫等の倉庫は特殊な術法が掛けられており、外界の魔力を遮断しているという」



「もし、そういう所の中にあった場合は探知(サーチ)も効果が及ばないとのことだ」



「まあ、これは私も知っていたことではあったのだがな・・・」



「あの時の私は取り乱しており、こんな基礎的な事も忘れ彼女に何度も理由を問い正してしまった」



「・・・恥ずかしい限りだよ」





私がそう言って自嘲すると、エノクは首を振る。





「・・・いえ、そんな事はありません」



「原因を突き止めるために齟齬がないようにしておくのは当然のことです」



「僕も知識としては知っていましたが、やはり同じ状況なら担当者の方に納得するまで聞いていたと思います」



「・・・ありがとう」





エノクに礼を言った。


私より年少の子供に気を使わせてしまうとは、私も焼きが回ったものだ・・・





「・・・それで、早速だがお前の意見を聞きたい」



「今の話を聞いて巨人や神遺物が消えた理由に思い当たるものはあるか?」



「そうですね・・・・」





エノクはしばし考えを巡らせた後、私に返答をしてきた。





「能力の中には姿を消すものもあるので、巨人たちがそれを使って逃げたという可能性はもちろんあるでしょう」



「ただし、クラウディア団長が仰った隠蔽スキルを使って足跡を消したという線は考えにくいと思います」



「それならスキルの効果時間が消えた後、足跡が浮かび上がってくるはずだからです」



「あの後、足跡は見つからなかったのですよね?」



「・・・ああ、そうだ」





彼の問いかけに、肯定の言葉を返す。


・・・そう、結局あの後周囲を探索しても巨人はおろか、その足跡すら私達は見つけることが出来なかったのだ。


もう、何が起こったのか私には見当もつかない





「もしかしたら奴らは・・・“巨大化の魔法“を使っていたのかもしれません・・・」



「・・・なに?」





エノクがボソリとそう呟いた。


突拍子もない言葉に私は思わず首を傾げてしまう。


・・・巨大化の魔法だと?




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