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聞け!我が妹よ。偉大なるホーカンの娘よ!




グレースの兄、確かアラン・ホーカンソンと言ったか・・・


彼は現在行方をくらましていた。


・・・グレースの心情を考えると、兄の所在を尋ねるのは少し気が引ける。


これから実の兄に尋問する事になるかもしれないからだ。


しかし、まともな情報が得られていない現況の中では、生還者の証言は何よりも貴重だ。


グレースの兄君はエノクと同じく地下牢からの生還者だと言うし、彼の証言は必ず聞いておかねばならなかった。


私の問いかけにグレースは眉をひそめると渋々と言った感じで言葉を返してきた。





「兄ですが・・・正直とてもではないですが隊長の力になれるとは思えません」



「あれはハッキリ言って阿呆の極地に位置している男です」



「まともな人間が相手してはいけない人物なのです」



「例え事件の重要参考人だとしても、兄の証言は信頼に足るものではありません」



「また、兄だったら自己暗示をかけてミーミルの泉にも引っかからないかもしれません・・・」



「あれに会うだけ、正直時間の無駄かと思うのですが・・・・」





グレースは自分の兄のことをボロクソにこき下ろしてきた。


いったい何があったというのだろうか・・・?





「グレース・・・お前たち兄妹の間柄に私が口を出すのもあれだが、そんなに兄君のことを悪く言うものではない・・・」



「お前にとっては唯一の肉親だろう」



「あの日、兄君が何をしたかは知らないが、特に問題を起こしたという報告もない」



「流石に牢獄に入れたというのは、兄への感情を少しスネらせ過ぎていないか?」



「もう少し、兄に対して素直になったらどうなのだ?」



「・・・は・・・はっ!申し訳ありません・・・」





私の叱責にグレースが肩を落とす。


事件の事を調べているうちにグレースの兄の事も私は知った。


彼は何か犯罪を犯した訳でもなく、グレースに牢に入れられたという。


その理由をグレースに聞いたら兄が問題行動を起こす前に閉じこめたという話だった。


やれやれ・・・いくら肉親の間柄だとはいえお騒がせなことだ。





「それで話を戻すが兄君の行方は分かったのか?」



「私としては是非とも事情聴取をさせて貰いたいのだが・・・」





グレースに再度私は尋ねた。


アラン・ホーカンソンは地下牢からの生還者の2名の内の1人だった。


あの襲撃事件が起こった翌日、会館の外で吟遊詩人の格好をした見慣れない男の姿が目撃された。


近くにいた兵士が詰問をしたところ、グレースの兄だということが判明したらしい。


彼はしばらく王都の宿に滞在していたのだが、1週間ほど前にふらりと何処かに消えてしまった。


彼には出頭令が下ることは通達していたし、国外への渡航を禁止していたにも関わらずだ。





「それが、大変申し上げにくいのですが・・・」





グレースは浮かない顔をして話を続けてくる。





「・・・実は、昨日兄から手紙が送られてきました」



「それによると、やはり兄はすでに国外に脱出してしまったようなのです・・・」



「・・・うっ、やはりそうか」





グレースの言葉は私の予想の範疇だった。


私はグレースの兄とは面識がないが、会場で吟遊詩人の格好をした者がいた事は覚えている。


あれだけ目立つ格好をした者が消息を断ったのだ。


既に国外にいる可能性のほうが高い。





「隊長!本当に申し訳ありません!」



「兄の不手際は私の責任でもあります!」



「お暇を下されば、今すぐにでもあの大うつけを追いかけて連れ戻しに行く所存です!」



「そして、そのままもう一回牢にぶち込んでやりますので!!」





グレースがずいっと私に近づき、鼻息荒く私に上申してきた!


彼女の瞳が髪色と同じく赤く燃え上がっていた・・・


私は彼女を落ち着かせるべくポンポンと肩を叩く。





「・・・おいおい。落ち着け!流石にそこまでしなくていい!」



「あくまで重要参考人として聴取をしたいだけなのだ」



「彼はカーラ王国の人間でもないし、既に国外に脱出しているというのなら話は別だ」



「無理にしょっぴいてくれば、それこそ現地の法に引っかかるだろう」



「・・・そ、そうですよね。捕まえちゃ駄目ですよね・・・・」





グレースは私の言葉を残念そうに反芻する。


捕まえたかったのか・・・?





「代わりと言っては何だが・・・お前の兄君から来たという手紙を見せてもらっても構わないか?」





私が手紙を見たいと述べるとグレースは眉をひそめて、首を縦に振らなかった。





「え?あ・・・そ、それは、見せないと駄目なのでしょうか?」



「正直、隊長の気分を害するのではないかと気が引けます・・・」





・・・まあ、自分宛の手紙を他人に見せるのは気が引ける。


グレースの気持ちも分からんではないのだがな・・・


今は公私を問わず是非協力してもらいたい。


私はグレースを見据えると、彼女を説得した。





「そんな事で気分を害すことはない」



「それに、事件に関わることが書かれているかもしれんから、是非見せて欲しいのだ」



「これは命令でこそないが、私からの強い要望だ」



「・・・うっ・・・わ、わかりました。そこまで隊長が仰るのなら・・・」





グレースが渋々と受け入れる。


彼女は手甲の中から折りたたまれた手紙を出すと、それを広げ私に手渡してきた。





「ど、どうぞ・・・」



「うむ。すまない・・・」





手紙を受け取った私は、早速手紙の内容を読み始めた。





ペラ





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親愛なる我が妹へ




この胸の焦燥は恐らく終末の訪れが近いことを意味しているかも知れぬ。


今私はカーラの地から離れ、孤高なる未知の旅に出ている最中だ。


原罪を償うために私は太陽が上るあの地平線の彼方を今まさに目指している!


ああ・・・なんて罪深いのだ、私は。


我が最愛なる肉親。赤き薔薇の乙女を残して私は立ち去らねばならない・・・


生まれて此の方、こんなに苦しくなった事はない!


こんなに足が重たくなったことはない!


こんなにも誰かを愛おしく思ったことはない!


運命の女神が再び私達を交わせてくれる事をただ願うのみだ。


どうか止めないでくれ妹よ!


これは私の悲願であり、使命であり、宿命なのだ!


私は暗い闇が宣告されたこの世界を見守る為に旅立たなければならないのだ。


恐らくこれが今生の別れになるだろう。


だが、悲しむことはない。我々の魂は常にこの世界に留まりそして流浪する。


それはすなわち我々が同じ空、同じ大地、同じ空気を共にしている事を意味するのだ。


ゆえに私は常にお前とともにある。


旅行く先でお前の事を想って詠うとしよう。


例えどんなに離れていようとも私の詩が風とともにお前に言伝を知らせるだろう。


詩は悠久な時を超えて語り継げる不滅なる風の記録である。


これを持って私は“ネフィリムの山脈“の向こう側へと挑み、失われた伝説の解明に挑むとしよう。


私の身は滅びるかもしれないが、私と我が父“ホーカン“の名は不滅のものとなる。


お前も偉大なる父の名に恥じぬよう己が宿命を果たすべく生きろ。


さらばだ我が妹よ。


お前のこれからの人生に幸あらんことを。




ドレイクスレイヤーホーカンの子 アラン・ホーカンソン







✁┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈(切り取り線)┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈







↑こっから上を切り取って上司の人に渡してね♪


これを渡せばお兄ちゃんが居なくなった理由も上司の人が納得してくれると思うから(^_-)パチン-☆


グレースちゃんに被害が及ばないように配慮したんだ♪


お兄ちゃんの完璧な演出の手紙凄くな~い?( *´艸`)ウフフ


ところでグレースちゃんは、アランお兄ちゃんの事をきっと心配してくれていると思いますが、僕は大丈夫です。(*´꒳`*)


今、ミンツの町を出港し船の上からこの手紙を書いていますが、とっても元気にやっているよ♫


ちょっとうっかりしてカーラ王国から間違って出ちゃったのはご愛嬌(・ω≦) テヘペロ


なお、行き先は秘密です♪




麗しのお兄ちゃんより。愛を込めて♪(´ε` )♡




----------------------------------------------------------------------




グシャ!





「グレース!私が許可する!!」



「今すぐ追いかけて、奴を引っ捕らえてこい!!!」



「・・・ええっ!!?」







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