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事件の経緯を求めて




「・・・・それで?」



「お前はどうして任務の場を離れたのだ?」



「そ、それは・・・・」





目の前の兵士に私が問いかけると、彼は気まずそうに目線を下げ口ごもってしまう。


騎士団詰所にある応接間の一室は現在取調室と化していた。


背後ではサラサラとペンを走らす音が流れ、入口ではグレースとアイナが兵士の動向に目を光らせていた。





「・・・その、小隊長殿が交代の時間だって言ったからです・・・」



「嘘じゃありません!俺以外にも小隊長殿の言葉を聞いて会場から離れた仲間がいるんですよ」



「他の第1小隊の奴らに聞いてみたら分かります!」



「・・・・・」





彼の弁明を聞くと同時に、私は横に置いてある“ミーミルの泉“に視線を移した。


ミーミルの泉は無色透明のままだ。


どうやら嘘は言っていないようだな・・・


しかし、だからこそ不可解な部分もある・・・





「・・・“クルト“と言ったか」



「私は別にお前を責めているわけではない」



「あの時1階で何があったのかをただ知りたいと思うだけだ」



「ルーン結界が破られた経緯を辿れば、犯人に近づけるかもしれん・・・」



「私はあの時2階の会場の警備を担当していたが、1階は商人ギルド連盟が担当していたので詳細がよく分からないのだ」






ルーン結界の警護に充てがわれたのは北門警備連隊の兵士達と聞いている。


あの日、カーラ王国軍から出向という形で商人ギルド連盟に一時的に兵士が派遣されていた。


商人ギルド連盟総帥マイアー殿からの強い要望もあり、来賓者の気分を害さないような配慮ある警備体制の実現。


そして、神遺物(アーティファクト)の保管場所を完璧に隠蔽するため、


出向した兵士達にしか金庫の場所は明かされておらず、兵士の配置も連盟の担当者に一任されていた。


もちろん何かあったときはお互い情報共有はしていたが、1階の警備体制に基本私は関わる事が出来なかったのだ。


唯一関わることが出来たのは2階席へ登る階段くらいなものだ。





「・・・連盟の警備担当者は襲撃に巻き込まれ既にこの世にいないという」



「そして、お前たちの隊長、“ゲイル殿“も残念ながら会場で遺体が確認されている・・・」



「正直、お前たちだけでもよくぞ生き残ってくれたと私は感謝しているくらいだ」



「だから、そんなに畏まらずに落ち着いて状況を振り返ってほしい」



「お前たちだけが頼りなのだ・・・どうか、頼む」





私は彼の手を掴み、頭を下げた。


今の私は文字通り藁にもすがる思いだった。





「・・・ク・クラウディア団長!わ、分かりました!」



「とりあえず、手離して下さい!」



「貴方に手握られたんじゃ逆に落ち着きやしませんよ!!」



「・・・あ、ああ。すまない」





私が手を離すとクルトはパッと手を引いた。


彼は一息「はぁ」と深い溜息を付く。





「・・・それで?何を聞きたいんですか?」





落ち着きを取りした彼が再び私に顔を向けてきた。





「・・・ああ、不可解な点があってな・・・」



「報告によると、ゲイル殿は巨人との戦いで戦死したわけではないようなのだ」



「発見された遺体には後ろから刃物で刺された傷があった」



「・・・これは恐らくルーン結界を破ろうとした内部犯の犯行と見ていいだろう」



「つまり彼はお前たちに交代を告げた後、会場に残り、襲撃犯の一味によって殺されたという事になる」



「・・・私が不可解に感じているのはここだ」



「お前たちに交代と告げて退勤させたことや、その後自分だけ会場に残り続けた理由が不明なのだ」



「・・・お前にはこの理由が分かるか?」





私の言葉にクルトは首を捻りながら考え込む。


しばらくして、彼は難しい顔をしながら答えてきた。





「うーん・・・今、パッと思いついた理由ではあるんですけど・・・」



「ゲイル隊長がその内部犯の一味に交代があると騙されたとかはどうですかね?」



「小隊長殿は仕事が終わると、酒場に飛んでいくくらい誰よりも酒が好きだったんですよ」



「あの時会場には豪華な料理と酒が山のようにありましたから、飲みたい衝動は相当なものだったはずです」



「交代があると聞いたら喜んでその話に飛びつくと思うんですよね」



「・・・なるほど。そこを内部犯につけこまれ、騙されたんじゃないかとお前は言いたいわけだな?」



「はい。俺たちは正装(スーツ)の着替えがなかったから街の方に出ちまいましたが、小隊長殿はこっそりと持ってきていたかもしれません」



「それだったら会場に残り続けていた理由も分かりますよ」



「・・・・ふむ」





彼の言葉を吟味する。


一瞬ありえなくもない話だと思ったが、他の事情を考慮すればこの説は説得力に欠ける。


理由はゲイル殿の遺体が発見された状態だ。


スーツ姿で発見されていたら今の話にも少しは信憑性が出てくるのだが、


彼は鎧を着たまま後ろから刺し殺されていたという。


当然、鎧を着たまま飲み歩く兵士がいたら他の兵士に気づかれないはずがない。





「・・・クルトよ。少し考えたが、今の話は考えにくいな」



「彼は鎧を着たまま刺し殺されていたそうなのだ・・・」



「・・・ああ、そうだったんですかい」



「それなら今の話ちょい無理ありますね・・・」



「クラウディア団長には申し訳ないんですが、自分じゃ他の理由は正直見当つかないっすわ・・・」





クルトが首を振りながら残念がる。


これ以上彼に理由を聞いても何も出てきそうになかった。


仕方ない・・・





「分かった・・・とりあえず理由はもういい」



「他のことを聞くとしよう」



「・・・お前たちが会場を離れる前の事をもっと詳しく知りたい」



「その時のゲイル殿の様子はどうだ?彼に何か変わったところはなかったか?」



「変わったところですか?うーーん・・・・・」





腕組をしながらクルトは考え込む。





「・・・そうですねぇ、ちょっと無愛想だったですかねぇ~」



「・・・無愛想?」



「ええ、まあ任務中だったからかもしれないですが、交替だと言った時の小隊長殿の顔は無表情でしたよ」



「いつも退勤時間が来た時は表情が緩んでだらしない顔になるんですけどね」



「あの時だけはあまり喜んでいない印象を受けましたよ」



「・・・・・」





それだけではなんとも判断しづらいな・・・


国の威信をかけたオークションの警備を任されたのだ。


警備に力も入るし緊張もしよう。


いつもと違う感情が起こったとしても何ら不思議ではない。


まあ、いい・・・


今は手当たり次第聞くしかあるまい・・・





「・・・では、会場の様子はどうだ?」



「違和感や疑問を感じたことなら何でも良いから言ってくれ」



「・・・違和感や疑問ですか?うーん・・・」





私が再度尋ねると彼はまた唸りながら回想を始める。





「・・・と言っても俺たちは長時間小さな部屋の前で突っ立ってただけでしたからねぇ」



「正直あまり話すような事はないんですよ」



「・・・あっ!でもそういえば・・・」





その時彼は何かを思い出したかのように、高い声を上げた。





「違和感というか、ちょっとドン引きしたようなことがありましたよ」



「・・・俺たちの仲間である“ラルフ“が目撃したらしいんですがね」



「会場に設置されている化粧室で泥酔して倒れていた兵士が何人かいたらしいんですよ」



「連盟職員に介抱されていましたが、よく任務中に酒を飲めるものだと逆の意味で感心したのを覚えてますよ」



「・・・なに!!?」





今の情報は私にとって衝撃的だった!


兵士が酒を飲んでいたということにではない。


事件後、化粧部屋の更衣室の中から何人もの兵士の遺体が発見されたからだ。


実はゲイル殿の遺体もその中から出てきたものだった。


目撃された場所が化粧室というのが引っかかる・・・


偶然にしては出来すぎている・・・


何か関連性があるのは間違いないだろう。


介抱していたという連盟職員に後で尋問しなければなるまい!


私が驚愕している中でクルトはさらに驚きの話を続ける。





「・・・あと強いて言えば、ルーン結界の部屋に見慣れない坊主が来たことくらいですかね」



「・・・坊主だと?」



「ええ、シルクハットを被った眼鏡の坊主が来たんですよ」



「背は160cmくらいと小柄で、15・16歳くらいの好奇心旺盛なマセガキって感じのやつですよ」



神の酒(ネクタル)とその落札者についてやたら聞いてくる奴でしてね」



「俺たちが交代を小隊長殿に告げられる直前まで話していたからよく覚えていますよ」



「・・・・・!」





今の特徴を聞いて私の頭にあの少年の姿がパッと思い浮かんだ。


エノク・フランベルジュ・・・




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