エレオノーラの告知
ガヤガヤガヤ・・・
ん・・・なにか外が騒がしい・・・
ガヤガヤと群衆が騒ぐ声が聞こえてくる。
なにか事件が起きたかのような騒ぎだった。
まさか!これって・・・
嫌な予感が私の中を駆け巡った。
「レイナ・・・なにか外が騒がしいね・・・」
エノクが本を手に取りながら図書館の外へと顔を向ける。
その表情には先程までとは違い戸惑いが出ていた。
「・・・エノク、すぐに外にいきましょう」
「何があったのか確認しないと。たぶん碌なことじゃないけど・・・」
「・・・分かった!」
エノクは私の言葉に頷きすぐに本を片付ける。
私が防護カバンの中に身を潜ませると、彼はカバンを背負って足早に図書館の外へと出た。
ガチャ!
「うわっなんだこれ!?」
エノクが面食らったかのように高い声を上げる。
外に出ると人々が噂話をしながら流れるように移動している姿が目に飛び込んできた!
「これってもしかして・・・ついにあれがバレたのかな・・・?」
エノクがぽつりとそんな感想を漏らす。
私の方は状況を把握するために、道行く彼らの言葉に耳を傾けた。
「はぁ信じられねぇ・・・カーラの秘宝が盗まれたんだってよ!」
「オークションに出品されてたやつだろ?それが丸々盗まれたんだってな」
「まったく、王国軍は何やってんだよ!」
「王妹殿下が噂じゃオークションの主催者だったらしいぜ・・・」
「それ本当か!?おいたわしやエレノア様・・・」
外はすっかりオークションの噂で持ちきりだった。
先程までのようなひそひそ話ではない。
号外でも流れたかのように街全体が喧騒で溢れている。
私は意外にもそんな状況を驚くほど冷静に見ていられた。
戸惑いも少しはあったが、やはりこうなったかという感想の方が大きい。
この騒ぎの内容から判断するに、残念ながらカーラ王国は取り戻せなかったのだろう・・・
「すみません!何かあったのですか?」
「さっきからこの騒ぎはなんなのでしょうか?」
エノクが近くの肉屋のおじさんに話かけた。
「なんだ、あんた聞いてないのか?」
「つい先程ギルド街で王家から告知が出たって話をよ」
「告知・・・ですか?なんのです!?」
「なにって・・・決まっているだろう。あの王都のオークションの話だよ」
「やっぱりあの噂は本当だったんだよ!」
「オークション会場がとんでもねえ怪物に襲撃されたっつー話!」
「出品された神の遺物が持ち逃げされたんだとよ!」
「・・・・!!!!」
その話を聞いてエノクは目を白黒させた。
エノクの反応からすると、まさか王家の方からオークションの真相を暴露するとは思わなかったのだろう。
今の話が本当だとすれば、口止めしてきた相手が梯子を外した形になる。
「ま、まさか、そんなはずが・・・・・」
「嘘なもんか!お前もギルド街に行ってくれば分かるさ」
「エレノア様の署名付きで告知がされているんだよ!」
「襲撃犯の討伐した者、神遺物を取り戻した者、またはそれらに関する有力な情報を提供した者に多額の報奨金を授与するってな!」
「ほ、本当ですか!?それ!・・・すみません。失礼します!」
おじさんにそう告げると、エノクはすぐにその場を離れる。
彼は歩きながら小声で私に声を掛けてきた。
「・・・ごめんレイナ。ちょっと揺れるけど許してね」
トン!
承諾の合図を私は返す。
「・・・ありがとう!」
エノクは私にお礼を言うと、早歩きでギルド街へと足を運んだ。
ギルド街は図書館から目と鼻の先の距離にある。
程なくしてギルド街にエノクが入ると、群衆の喚き立つ声がより一層迫力を増した。
すごい人の群れね・・・
これ全員、王家からの告知を見に来た人達なんだろうな・・・
目の前では人の波が長蛇の列をなしており、大通りの外れにある広場まで続いていた。
広場はギルド街の総合掲示板があり、今、一際巨大な告知物が貼られている。
全員の衆目を集めているのがあれだ。
告知物の左右には兵士が控えており、前では蝶ネクタイを着けたコート服姿の中年の男が立っていた。
目の前の群衆に向かって高々と声を張り上げている所を見ると、彼は告知の内容を話す公示人なのだろう。
掲示板の周囲に集っている人々からは、様々な感情の声が上がっている。
ある人は驚嘆の声を上げ、ある人は悲観の声を上げ、ある人は喜びの声を上げていた。
受け取る人にとってそこまで内容に差があることなのだろうか?
エノクが列の後方に並んでいると、ふと目の前の人波がすぅーーと捌けていった。
どうやら順番に告知物の回覧をしているようだ。
次のグループが丁度エノクがいる周囲の群衆だ。
エノクは群衆の移動に従って、掲示板の前へと進む。
カランカランカランカランカラン!!
群衆の波が完全に入れ替わったことを悟ると、掲示板の前にいた公示人が手に持っていたベルを鳴らす。
そして、目の前の人々に向かって高々と声を上げた!
「偉大なるカーラの忠誠厚き民たちよ!」
「お前たちの敬愛するエレオノーラ王妹殿下よりこの度勅が下った!!」
「王妹殿下に代わり告示の内容をこの場で私が読み上げる!」
「いざ、心して聞くがよい!」
公示人が前置きを挟んだ後、告知内容を読み上げ始めた。
それは次のような内容だった・・・
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親愛なるカーラの民たちへ。
この度、私は皆に謝罪とお願いをしなければなりません。
先日、私と商人ギルド連盟主催の下、神話の魔法アイテムのオークションが開催されたのは皆も承知の事でしょう。
オークションは滞りなく進行しておりましたが、途中予期せぬ事態が発生致しました。
王宮とオークション会場に賊が忍び込み、王国の宝である神の遺物が6つも無法者達に奪われてしまったのです。
襲撃犯とオークション品の行方を我が配下の近衛騎士団が現在追っておりますが、未だ行方は掴めておりません。
この様な事態になってしまい皆にどのような申し開きをすればいいか私には言葉もありません。
今の私にはカーラ王国の善き隣人達と、忠誠厚き皆の助力に期待する他ないのです。
身勝手な頼みかと思いますが、どうか私に力をお貸し下さい。
私は今回のオークション事件に関し、皆に以下の報奨を与える事をカーラの名に掛けて誓いましょう。
1.襲撃犯、又は神遺物の確かな目撃情報を寄こした者には100万クレジット。
2.襲撃犯、又は神遺物の有力な手がかりを寄こした者には300万クレジット。
3.襲撃犯、又は神遺物の現在の場所を特定させた者には1000万クレジット。
4.襲撃犯を捕らえた者、又は討伐した者には襲撃犯1人に付き5000万クレジット。
5.神遺物を取り戻した者には、神遺物1つに付き1億クレジット。
6.カーラの秘宝たる「知恵の実」を取り戻した者には上記5に加え、貴族への叙位と封地。
上記いずれかを達成したものはカーラ王宮第9近衛騎士団詰所まで申し出て下さい。
必ずや厚く遇することをお約束いたします。
さらに、奪還と討伐に多大な貢献をした者へは、望むなら私の身も喜んで捧げましょう。
署名:エレオノーラ・アポストロス・ヴァルキュール・カーラ
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「・・・・・以上が、エレオノーラ王妹殿下のお言葉である!」
「諸君らにおいては、貴き地位を得られると共に殿下にご恩を返すまたとない機会となろう!」
「殿下のご温情に応えられるよう、諸君らの奮闘に期待する!」
「以上。解散!!」