蒸気機関の話(戦艦三笠の主機を例に)
なろうでの内政チートでお馴染みのひとつ、蒸気機関。しかし蒸気機関の運転方を理解して書いている人はなろうにはあまりいないように思う。身の回りにある機器として内燃機が多いからでもあろう。しかしそれは全く特性がことなる。
蒸気機関の動力特性はどちらかと言えば直流モーターに近い。つまり動き出しが大トルクであり、回転数をあげて行けばある点から回転数をあげればあげるほどトルクは縮小して行くのである。これは鉄道車輌、あるいは自動車等の機械にとって最適な動力であることを示す。
内燃機ではこのような特性はない。適切な回転数でなければ効率が落ちるだけだ。だから変速機を用いるのだ。逆に蒸気機関であるならば変速機をつける必要性は全くない。
蒸気機関の場合、運転の前にボイラに点火して沸かさねばならぬ。それは凄まじく手間だ。軍艦なんかだと冷えきったボイラから最大に上がるまで一日ほどかかる代物もある(二、三時間で実用圧力まで上がる例もあるが)。
ちなみに軍艦のボイラは最大戦速ともなれば三直で休ませているボイラも全力で焚くことになる。石炭焚いていた頃ではその時はなにか歌わせてそれに合わせて投炭させることでタイミングをとってたとか。
そして機関である。まず逆転機をフルギア、すなわちシリンダ行程に対して蒸気の供給割合を最大に置く。そして加減弁を開いて蒸気を入れてやればそれだけで回る。この始動性のよさが鉄道で蒸気機関車が長く使われた理由のひとつである。単気筒ならば始動のときに死点にあると厄介で、フライホイールを蹴飛ばしてどうかすることになる。二気筒以上ならその心配はない。しかし流石に炭鉱に使われたり船に使われたりするものは大きいからこの辺が厄介だ。というわけで下記に戦艦三笠の例を挙げよう。
ついでに言うと三笠の主機のシリンダ配列は物凄くおかしくてだな。この機関は三段膨脹三気筒であるのだが、普通の配列とことなるのだ。普通ならば艦首方から高圧・中圧・低圧の順列に並ぶのが一般的である。しかしなぜか日本海軍においては三笠のみ、高圧・低圧・中圧の順列に並んでいる。それでも扱い方は変わらないが。
(前提条件としてボイラは適切な圧を保っていること)
まず補機である小型エンジンを始動する。これも蒸気機関である。小さいためにフライホイールは手動でも回せるから始動の際に回らなければこれを手で回してやったら良い。そうすれば普通に回る。そしてこれをしばらく暖機運転する。
補機の暖機運転が適切にすんだら、それから繋がる歯車の回っている部分を主機のフライホイールに切られたギヤに接続する。要はこの補機の役割としてセルモーターとか言えばわかると思う。
そしてまず一回転させる。ここで軸受けに油を回すと共に弁の状況なども見る。このときに逆転機をフルギアにする。三笠の主機の場合三気筒であり、その弁装置はスチーブンソン式であるからひとつのシリンダ当たりに二本の大きなエキセントリックロッドが接続するしていて、これをすべて連動させなければならないため、二人がかりで回す大きな逆転機ハンドルが側面についている。このそばには計器盤もある。これを回してやることになる。
適切にフルギアに出来たならば、蒸気を主機のシリンダに供給してやることになる。この機関は三段膨脹三気筒であるから最初の一回転では高圧シリンダにしか蒸気が入らず、これだけでは始動に足りない。だからまだ補機は繋がっていて回し続ける。二回転目で高圧シリンダを通過した蒸気が中圧シリンダに入る。無論この時には高圧シリンダにも蒸気は供給されておる訳だ。それでもまだ主機の始動に足りない。まだ回す。三回転目で低圧シリンダにも行き届く。その瞬間主機に力が宿る。
その力で補機側のギヤは蹴り出されるから直ちに補機を止める。あとはしばらく暖機運転をしてやれば良い。
また回転数をあげる、あるいは経済運行をするときは逆転機をミッドに寄せてやることになる。そうすると膨脹をより有効に使えるから経済的であり、回転数も上がる逆転機はそのような機能がある。これは蒸気機関車でも同じだ。
以上が戦艦三笠の主機の始動に当たる場合である。質問は受け付ける。