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勇敢なる鉄塊2

次の日、朝一番から侍の怒号が響く。

彼の足元には傷だらけのロボット。

傍らには甲斐甲斐しくロボットの手当てをする少女。

少年だった彼の傷も癒した世界樹の葉がロボットに効いた事が驚きだ。


生体パーツと呼ばれている有機体で構成されているものらしい。

エネルギーを消費してナノマシンが小さな傷程度なら修復するというのだ。

欠損などの大きなものは流石に無理なので身体ごと総取り換えになるそうだが。


なんというかロボットはダメダメだった。

侍が刀を振りかぶっただけで両手を顔の前に出し、体は既に逃走の体勢に入る。

とことんまで臆病だ。


その代わり世界樹の世話は率先してやる当たり、ロボットはその見た目に反して戦いが嫌いなのだろう。

少女が尋ねれば長い事動植物の世話をしていた気がするという。

確かに手慣れている。

農耕用の作業ロボなのだろうか?


数日後、ロボットの根底にあるものがうかがえる事件が起こった。


それは侍がロボットに鍛錬という名の扱きをつけていたときの出来事だった。

最初と比べると青年とわずかにでも対峙出来るようになったロボットは彼から木刀を渡されていた。

不幸な偶然が重なった。

救護班代わりに近くで見学していた少女に向けて、侍が弾き飛ばしたロボットの木刀が飛んできたのだ。

それは結構な勢いがついており、当たればただでは済まない。

咄嗟に身体は動かず、ああ……せめて頭は守らないとなぁ、などとのんきな考えをしていたときにソレは起きた。


異変に気付いた紳士が少女を守るために駆けだす。

侍も事態を即座に把握して同じく走り出す。

しかし、その誰よりも速く巨大な影が少女に覆いかぶさり、少女を襲う危険から守った。

ロボットは誰よりも少女から遠い位置に居たにもかかわらず、誰よりも速く少女に到達して身を呈して守った。

紳士も侍も唖然としている。

勿論少女もそんなことが起きるとは思わず呆けている。

そんな少女にロボットは大丈夫ですか? とやさしく声をかけ、無事を確認すると良かったと安堵した。


そう、ロボットは他人が傷つくのを極端に嫌う傾向があったのだ。


木刀が当たった個所は僅かにへこみが出来ていただけだが、それはロボットの硬さ故。

数刻もあればナノマシンがきれいさっぱり治すだろう。

世界樹の葉を使えばさらに早く治癒できる。

それよりも、それを容易く傷つけられる侍の剣技がどうかしていると思う。


事件から数週間がたった。

今、彼らは以前ロボットが逃げ出した箱庭の広場で兵士と対峙している。

全てはまやかし、そう理解していてもロボットの足は竦む。


侍は逃げずに自身の剣を受けられるようになったのだから大丈夫と檄を飛ばした。

それでも動かない。


時間だけが過ぎて行く中、紳士がコッソリ本を開き、侍にアイコンタクトを送る。

意図に気づいた侍は気づかれぬようコクリとわずかに頷いた。


つぎの瞬間広場に咆哮が轟く。

茂みから一体の巨大な虎が駆け込んできたのだ。


紳士は驚き少女を庇うように前に出るが、凄まじい勢いの体当たりをモロに受けて吹き飛び、気を失ってしまった。

駆け寄った少女が紳士に声をかけるが反応がない。


紳士の容態も気になったが侍は今向こう側に行かれると拙いと悟り、裂ぱくの気合を込めて咆哮をあげ、虎の注意を自身に向ける。


虎もこの中で最も戦闘能力が高い厄介者が誰かを悟ったのだろう。

少女と気絶した紳士はいつでも食える。

向こう側に見える鉄の塊は脅威にはならない。

コイツさえどうにかしてしまえばごちそうにありつけると少女を一瞥して侍に向き直った。


先手必勝! 侍は一足で間合いを詰めると渾身の斬り下ろしを虎に見舞う。

虎はそれをあざ笑うかのようにギリギリで躱すと、お返しとばかりに大きな口を開けて侍にせまる。

しかし、そこは未だ侍の殺傷範囲。

全身の筋力をフルに使って斬撃を御すると、剣を返して地面に食い込む軌道で斬りあげる。

地面の抵抗に反発するように気合を込めた一閃は初撃をはるかに上回る速度で放たれる。


今はもう侍以外に使い手の居ない剣技の中でも最高の速度と威力を誇り、唯一名が付いている技「残月」


獰猛にして神速の刃が虎の喉元に迫る。

噛みつこうとしている虎に回避は不能。


獲った! と侍が確信した刹那、信じられない事が起きる。


虎は自らの牙を刃に合わせてきたのだ。

ギン! という音を響かせ、牙が片方中空へと舞う。


侍は虎がニヤリと笑ったかのような錯覚を受けた。


瞬間、横合いから凄まじい衝撃が走り、ボキボキと嫌な音が体の奥から聞こえるのを耳にした。


猫(科の)パンチと言えば可愛らしいが、その威力は食らった本人の状態が物語る。


肺から空気が抜け、身体が酸素を欲するが上手く呼吸が出来ない。

立ち上がろうにも足に力が入らず、刀を支えにしても困難。

侍は少女に逃げろと一言だけ発すると意識を手放した。


少女の悲鳴が響き渡る。

虎は反応するかのようにターゲットを定めて悠々と少女の前に行き、勝鬨の咆哮を上げる。


大きくて生臭い口が開かれて少女へと近づいていく。


この箱庭で死んだら一体どうなるのだろうか? そんな疑問すら浮かぶほどに世界はゆっくりと動いて見える。


ロボットはその光景を見ていた。

あの不思議な紳士がなすすべもなく気絶し、あの恐ろしくも頼もしい侍が奮闘虚しく地に伏している。


自分は何をしている?

また守れないのか?

また?

またってなんだろう?

そんなの嫌だ

足を出せ!

目の前の兵士は偽物だ!

怖くない!

守れ!

守れ!!


ロボットは駆け出す。

自分の最高速度なら少女が食べられる前に間に合う。

否! 間に合わせる!!

そう心に強く、強く力を込めてロボットは走る。

果たして、ロボットは少女と虎の間に割って入る事が叶った。

左腕を差し出して虎の口に突っ込み、開いた右手で握った拳を勢いよく振りぬく。


メキメキと頭蓋を砕く感触が触感センサーに伝わり、なんとも嫌な気分になったがそんな事を気にしている時ではない。

僕が守るんだ! その思いが込められた拳は虎の頭をまるで水風船のように破砕した。

瞬間、虎がパン! と弾けて紙に変わる。

バサバサと舞う紙は吸い込まれるように紳士が持つ本に集まって消えて行った。


一体何が起きたのかさっぱりわからない。

クルリと振り返ればニコニコ笑顔で座っている紳士。

青年も胸を抑えながら近づいてくる。

少女は訳が分からなくて思考が停止しているようだ。

何がどうなっているのだろうかとロボットが尋ねると教えてくれた。


なかなか前に踏み出せないロボットの背中を押してあげようと紳士が画策したお芝居だったのだ。

リアリティを出すために少女には一切伝えず、さらに侍は怪我を負ってしまったようだが、本人いたって気にせず。

むしろロボットに脂汗を浮かべた笑顔で「やりゃ出来んじゃねえか」と褒めてくれる始末。


ふと気づけばあれだけおどろおどろしく、陰鬱とした雰囲気を放っていた森と広場が爽やかな空気溢れる空間になっている。

空を見上げれば世界樹の箱庭のような晴天。

ロボットは悟った。

これでお別れだと。

ロボットは思い出した。

やることがあると。


三人を担いで世界樹の箱庭の境界扉まで運ぶと、ロボットはお礼を言う。

さよならは言わない、代わりにまたねと言った。

紳士は首を傾げていたが、侍と少女は納得している。

扉が閉まり、境界が無くなった場所に背を向けて広場へと戻る。

まばゆい光がロボットを包み込んでいった。















意識が覚醒するとそこは見たことが無い研究所だった。

起動したことに反応してロボットが接続されているケーブルが外れる。

それがどこかに合図として伝わったようで、室内に人間タイプでボサボサの髪をした無精ひげの男と、同じく人間タイプのくたびれた白衣を着た眼鏡の男が入ってくる。


ここは帝国の支配を覆そうとするレジスタンスのアジトだった。

ロボットはとある場所で壊れていたのをレジスタンスのメンバーが回収。

武装を一新し、修理したという。


ロボットはメモリーをサルベージした。

帝国で生まれ、戦いに向かない性格が災いして廃棄されたのをある村に拾ってもらい、農耕用としての身体を貰って生活していた事を。

帝国が村に攻めてきて、村人が全員連れ去られたことを。

自分が怯えて何もできなかった事を……。


男はレジスタンスのリーダーだった。

リーダーはロボットに提案する。

連れ去られた人を助けたくは無いかと。


ロボットは尋ねた。

連れ去られた人は生きているのかと。

リーダーは答える、「一応」と。

その言葉に引っ掛かりは覚えたが、生きているなら救出したい。

守れるなら守りたい。

ロボットの心にはもう怯えはなかった。


数日後、作戦決行の日。

ロボットは帝国のエネルギー施設に来ていた。

彼の役割は陽動。

帝国全てのエネルギーを賄う施設を襲う事で本命の警備を薄くする算段だ。


頭部に内蔵された無線からGOサインが入る。

ロボットは彼ようにカスタマイズされた大型の機関銃を放ちながら施設に突入した。


施設に入り、わき目もふらずに中枢へと向かう。

封鎖された扉を破り、中に入ったロボットは愕然とする。


中枢にあるマザーマシン。

そこから数えきれない人間タイプの「上半身」だけが生えていた。


男型も女型も、大人も子供も関係なく……。


力任せに扉を閉め、帝国兵が自分の所までやってくる時間を稼いだあとロボットは一人の上半身に近寄った。

視界をサーモに切り替えれば全てに体温がある。

即ち生きている……。


ああ、「一応」とはこういう事かとロボットは思いながら恩人たちの身体を探す。

途中で一人の男が声をかけてきた。

ロボットが帝国兵じゃないという事を理解すると男は殺してくれと懇願する。


助けることは出来ないのか? と尋ねると男は「俺を外してみればわかる」と言った。


言われた通りに外そうと試みたロボットは理解する。

機械と融合しているのだ。

それは正に生きた部品。


原油などのエネルギー資源の枯渇によって世界は荒れ、核でまかなう事も難しくなってきた。

そんな折に新しいエネルギーの開発に成功した帝国が牛耳ったのだ。


その正体がこの悪魔の装置。

彼らは生体エネルギーを搾取される為だけの電池。

寿命で死なない限り永遠に搾取され続ける哀れな存在。


彼らの生命を奪うのも装置。

しかし、彼らを永らえさせているのも装置。

即ち、装置との乖離は死を意味する。


同時に悟った。

自らの活動に必要なエネルギーは、彼らの命なのだと。


ロボットは歩きだす。

男は殺してくれないのかと尋ねてきたのでこう返した。


施設ごと破壊しますと。


それを聞いた男はニコリを笑って頼んだと言った。


それからロボットは様々な人に話しかけられ、都度同じ答えを返す。

中には恩人たちの姿もあった。

もし彼が泣けるのなら涙を流していただろう。

大切な村人たちの尊厳を守るために殺す。


そう、守るため。


そう言い聞かせて彼は中枢の最奥、マザーの核へとたどり着く。
















革命は成った。

帝国は滅び、様々な苦労があったが人々は笑顔だった。

リーダーは破壊されたエネルギー施設を訪れる。


瓦礫の山。


そこにあったのは焼け焦げてしまった大量の骸。


目を逸らしたくなるような光景に胸を痛めながらリーダーは中心を目指す。


やはりこうなったか……。

リーダーはそうつぶやいて一つの残骸を拾い上げた。


それはロボットの頭部。

かなり強烈な衝撃をうけ、装甲は完全に剥がれ落ち、内部がむき出しになっている。


彼の魂と呼べるパーツがその熱量で半分以上溶けていた。


リーダーはその頭部を大事そうに抱えると一言、ありがとうと言った。










その場所が元帝国と呼ばれ、世界を恐怖に陥れた場所だというのが歴史書でしか見れなくなった。

人々が笑顔で暮らすこの街には一つの名所がある。

それは街の中心にあった。

機械文明で栄えた都市の中央に位置する自然保管平和記念公園。

待ち合わせなどで使われる美しい噴水広場の中央、街の正門を見据える形で片膝をつくように蹲るロボット型の鉄の塊。

昔は兵士と呼ばれ、エネルギーが続く限り働き続ける人間型の良き隣人としてどこでも見ることが出来た。

戦争利用もされたが、帝国が滅んでからは恐怖の対象ではなく、とくにこの噴水広場から街を見守るようにいる彼は好意的に見られたいた。

傍らにある歴史がつづられた石碑にはこうある

守護機神と。

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