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勇敢なる鉄塊

ココはとある場所にある箱庭。

今はもう誰も訪れる事のない筈だったこの場所に生える一本の巨大な樹木「世界樹」。

その根本にある切り株に腰かけで本を読み続ける一人の紳士がいた。


その顔は朧気で、目の位置だけ穴を開けたようなシンプルなもの。

燕尾服に身を包み、一つ一つの文字をかみしめるようにページをめくる姿は優雅の一言。


誰にも邪魔されることのないその場所で、彼は今日も本を読み続ける。


傍らでは少女が嬉しそうに世界樹に水をあげ、声をかけている。

世界樹も嬉しそうにサワサワと葉をならしてい返事を返す。


キラキラと光を反射する澄んだ湖の向こうでは侍が素振りをしていた。


紳士はページをめくる手を止め、チラリとその様子を眺めて僅かに微笑むと再び本へと集中する。


現在の日常である。




あくる日、いつものように侍が湖の向こうに行くと何やら発見した様子。

二人を呼びつけ、現場に到着すると奇妙なモノが地面に埋まっていた。

それは鉄でできた人型の塊。

ロボットだった。


三人が首を傾げていると不意に機械の目に光が灯る。

顔を上げ、キョロキョロと周りを確認して地面から這い出るように立ち上がったロボットは体長3Mはあろう巨体。

SFの世界にしか出てこないような姿に僅かに少女が引いている。

侍に至っては鉄の塊がそのように動くとは思ってもみなかったので顔が引き攣っている。


とりあえず少女が事情を聴くとロボットは首を傾げた。

やはり何が起きたかは覚えていないらしい。

侍の時もそうだったから予想はしていたので慣れた様子で亀裂を探す。


しかし見つからない。

そも、割れた音が聞こえなかったのであるかどうかも分からない。

では一体どこから来たのだろう? と紳士も首を傾げて困ってしまった。


ロボットも一緒になって首を傾げている。

四人でウンウンと考え込んでいる姿は滑稽であった。

はっ! 腕を組んでいた紳士が顔の横に人差し指を立てる。

同時に紳士の頭上にピコンと電球が灯った。


それを見た少女は手を叩いて喜んでいる。

侍は訳がわからないと言った顔をしている。

ロボットに至っては表情がないのでわからない。

というか今さら芸風を変化させた意味も分からない


そんな三人からツッコミ待ちするでもなく、紳士は世界樹の方に歩いて行き、コンコンコンと三回ノックするとハラハラと葉っぱが舞い散った。

世界樹の葉は風にのり、ロボットの足元に集まっていく。

紳士はロボットに少しだけズレるようにジェスチャーするとそこにあるのはロボットが這い出てきた穴。

よくよく見れば亀裂が見える。

探してもわからないわけだと三人は納得した。


そうしていつものように扉を作ろうとして手が止まる。

じっとロボットを眺めてウンと頷くと、いつもより気合を込めて念じ始めた。

パン! とはじけたページが扉を作る。

そのサイズはロボットが入れるほどの巨大なもの。

見上げれば首がいたくなりそうだ。


開けて覗けばソコはおどろおどろしい森。

如何にも何かでそうな雰囲気だ。


少女と紳士は慣れた感じですたすたと入って行く。

侍もその後に続いた。

ロボットは中を見て立ち尽くしていた。


お前が入らないとダメだろうと侍に引きずられていくロボット。

あの巨体がズルズルと引っ張られていく様は流石に紳士も少女もあんぐり。

当の本人は多少重たいが、熊を引きずって街に帰ったときくらいかな? と考えているのがとんでもない。


薄暗い陰鬱な木に囲まれた道をすたすたと先ヘ進む。

少女は幽霊は苦手なのか少々怯えた様子で紳士の後ろに張り付いている。

侍は斬れる奴なら何とかする。

斬れない奴は……まあ何とかなると楽観的に先頭を歩く。

ロボットはというと紳士の後ろの少女のさらに後ろ。

びくびくと震えながら少女の服をつまんでいる。

図体に似合わずとても臆病だ。


暫く進むと開けた場所に出た。

見通しがきくがやはりどこか陰鬱だ。


キョロキョロとしていると広場の中央に何やら集まっていく。

侍はいつか見た光景に似ていると刀を抜いて臨戦態勢に入った。

程無く、目の前にはおびただしい数の兵士が銃を構えて整列する。


銃は見たことがない侍は僅かに警戒を露わにしたが、すかさず少女がアドバイスをすると即座に行動に移す。

砲身が向いている方向に気を付けて一気に間合いを詰めると先頭に居た兵士目掛けて気合一閃。

獣を斬る様は過去に見ていたので少々なら動じないが、さすがに人が斬られるのを目の当たりにするのは嫌らしく少女は目をつぶって結果を待つ。


しかし、聞こえてきたのは侍の間抜けな声。

顔を上げて見れば紳士も首を傾げている。

侍に目線を向ければそこには信じがたい光景が。


なんと兵士と侍がピッタリ重なっているではないか。

すわ幽霊か? と紳士に尋ねるが、どうやら幻影の類だという絵が返って来た。

恐る恐る近づいてみればなるほど、ホログラムのようなものなのだろう。

全く害がない。

些か拍子抜けにも感じる。


こけおどしだと伝え、ロボットが一歩広場に入った時異変は起きた。

構えていた兵士が一斉に銃を放ち始めたのだ。

勿論当たることなど絶対にありえないのだが、ロボットには効果てきめんの様。

撃ってきた事に慌てたロボットは一目散に入って来た扉に駆けて行く。


紳士は目を丸くしてその光景を眺め、少女は開いた口が塞がらない。

侍は額に手を当てて天を仰ぎ、あきれ果ててしまった。

仕方なしに三人もロボットの後を追って引き返す。


扉を抜けてロボットの姿を探すと彼は世界樹が自己判断で開けたのだろう、根元に出来上がっていた洞(?)に頭を突っ込み、ガタガタと震えていたのだ。

体は当然無理だったので丸見えである。

それを見た侍は性根から叩きなおすのを決意したのだった。

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