4 目標と現実
自己紹介をしてから謙語はひとまず今のメニューを凜から聞いて考える。
内容は基礎的な練習と実践的な練習を交えたバランスの良いものだったが、謙語は少しだけ考えてから聞いた。
「一応聞きたいけど目標は?」
「目標ですか?無論全国優勝です」
「凜はその覚悟だろうが、他の皆も同じか聞きたくて」
そう聞くと他のメンバーは顔を見合わせてから代表して綾が言った。
「正直、そこまでモチベーション高くは無理だけど、行けることろまではいきたいかなー」
「と、綾は素直には言いませんがやる気はあります」
「もうー、凜たらそれじゃあまるで私がツンデレみたいじゃん。こんなに素直な気持ちを伝えてるのにー」
「ふむ・・・」
他のメンバーを見ても特に反対はなさそうだ。
とはいえモチベーションが高いとも言いづらい。
そうなるとどうすればいいか謙語はしばらく考えてから凜に視線を向けて聞いた。
「防具を着けての練習はしてる?」
「はい、一応皆一通りの練習はこなしたので多少はできます」
「なら、試合をするのが一番いいか。これから俺と一人づつ試合をしよう。それで実力を見させてもらうよ」
「ですが、お兄様が相手だとすぐに終わってしまいますよ?」
「手加減はするさ。それに俺からは極力手は出さない。牽制や返し技のための攻めはするが、一本にはならないよう心掛けるさ」
男子と女子では剣道というスポーツはまるで別物だ。
男子がパワーとスピード重視だとすれば、女子はテクニックの世界。
だからこそ男子のスピードになれれば大抵の攻撃は遅く見えるだろう。
そう思って提案すると、凜はしばらく考えてから頷いて言った。
「わかりました。では順番を決めましょう」
「あ、なら私が最初にやりたーい」
そう挙手をしたのは綾だった。
それに続いて他のメンバーもこぞって手を上げてから話合いをするが、謙語はそれを横目に持参した胴着に着替えようと服に手を伸ばすと、何故か話合いが中断して視線がこちらに集まっていた。
「あの、なにか?」
「い、いえあの・・・その・・・」
中でも恥ずかしそうにこちらを見ていたのは紗耶だった。
何を照れているのかと思っていると、その視線はどうやら謙語の脱ぎかけの上半身に向いていた。
「というか、ここで着替えるの?」
照れる紗耶に対して冷静に突っ込んだのは恵だった。
それに続いてスマホを取り出す叶絵は表情は恥ずかしそうにスマホをこちらに向けていた。
『いやーん(σ≧▽≦)σ御劔くんのえっちー( ´∀`)』
果たしてこの顔文字が適切なのかすらわからなかったが、綾が笑いながら近づいてきて言った。
「いやー、いい身体してるね。流石凜のお兄さまだ」
「当然です。お兄様ですから」
「うんうん、でもね。ここにはシャイな女の子多いから着替えるなら場所変えようねー」
「ああ、なるほど。すまない」
確かに配慮にかけていたと謙語は着替えを持って移動したのだった。