1 妹からの部活勧誘
ヒロインは次か次の次ありで出てきます。
今回は妹ちゃんだけです。
御劔謙吾。
聖ヶ丘高等学校に通うごく普通の高校2年生の彼は現在困っていた。
「お願いしますお兄様!お兄様にしか頼めないのです!」
その原因は目の前で頭を下げてくる美少女・・・実の妹である御劔凛の頼みごとが原因だ。
凛はいかにもスポーツ少女という感じのショートの髪形のスレンダー美少女で普段は割りと凛々しい印象があるが、兄である謙吾に対しては表情をころころかえるので昔から謙吾は凛を甘やかしていた。
いつもなら凛の頼みにふたつ返事でOKする謙吾だが、今回は内容が内容なので悩ましい。
何故なら・・・
「お兄様しか頼れる人がいないんです!私たちに剣道教えてください!」
剣道。
一般的なスポーツでは柔道や空手などと同じく武道としてまとめられるスポーツ。
竹刀とよばれる剣で特定の部位にしっかりと技を決めることで得点の入るスポーツ。
ただ当てても得点は入らず、技を決めた時の姿やあとの姿勢、足の踏込みなどの様々な要素が合わさって始めて得点の入るある意味スポーツの中では難しい競技だ。
謙吾も昔は実家の関係で剣道を習っていた。
が、しかしとある事情から謙吾は現役を引退している。
なんとか妹を説得しようと謙吾は口をひらく。
「凛の頼みだし聞いてあげたいけど、俺には無理だよ。他に専門の先生がいるだろ?」
「お兄様じゃなきゃダメです!それに、今の顧問は素人だし、他の先生も誰も剣道は知らないらしいのです。」
「えっと、他の剣道部の人は?」
「3年生が卒業して残ってるのは経験の浅い人だけなんです。だからお兄様に!」
「そうは言ってもね・・・女子でしょ?」
剣道は男子と女子で同じ競技でも見方が変わるスポーツだ。
内容は同じでも男子と女子では力の違いや背丈の違いで戦法も変わってくる。
経験者とはいえ、簡単に指導を受けてあげて大会で勝たせてあげるほどの自信は謙吾にはない。
「凛が教えるのは無理なの?」
「私も練習したいです。何よりお兄様が私にしてくれる練習内容がしっくり来ますから。」
「それは凛だからだよ。俺には誰かに教えるほどの才能はないよ。」
謙遜ではなく、それは謙吾の本音だ。
謙吾はかつて、確かに力のある選手だった。
しかし、優れた選手=優れた指導者とは決してならない。
それを謙吾はよくわかっていた。
しかし、凛は謙吾の言葉に首を横にふった。
「お兄様には才能があります。私は信じてます。」
「買い被りだよ。兄としては期待に応えたいけど・・・」
「お兄様。」
なおも逃れようと言葉を紡ごうとした謙吾は凛の真剣な言葉と瞳に思わず黙りこむ。
凛はゆっくりと、幼子に言い聞かせるように言った。
「お兄様が大会に出なくなった事情は分かりません。推察はできますが、それを聞くことはしません。でも、私はお兄様に諦めてほしくないのです。」
真っ直ぐに謙吾の瞳を見つめる凛。
その瞳には慈愛の色が浮かんでいた。
「お兄様。これは私の我儘です。お兄様の心情的には色々思うことがあるでしょう。ですがお願いします。私はお兄様に頼みたいのです。1ヶ月で構いません。それ以上はお兄様が望まないなら大丈夫です。ですからお兄様。お願いします。」
「凛・・・」
どこまでも真剣で、でも謙吾のことを思ってくれている妹に謙吾は迷うように視線をさ迷わせてからあきらめたようにため息をついた。
「・・・わかった。1ヶ月は面倒みるよ。」
「ありがとうございます!お兄様!」
謙吾が了承すると凛は嬉しそうに微笑んだ。
引き受けた以上謙吾は真面目にやろうと、凛の笑顔をみて苦笑しながら思った。
そして、この選択が後に謙吾の運命を左右することになるとは謙吾も誰も思っていなかった。