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真莉亜の幼馴染。

わたしが声をかけると、そろそろと扉が開いた。


「……すまん」

入ってきたのは、鳳仙の制服姿の男の子。

誰?と思う間もなく、名前がすっと出てきた。


「武清、どうしたの?」


入ってきたのは、高柳 武清。

お父さまと縁続きの親戚で、隣のクラスに在籍している。


わたしの問いかけに、武清は口を開いては閉じ、もの言いたげにしながらも俯いてしまった。

こんな武清は見たことがないので、密かに驚く。


武清もわたしも元武家の家系で、特に武清のお父さまは様々な武道に優れ、親戚の中でも恐れられている存在だ。当然、武清も武清の父親を物凄く怖がっている。

厳しいし、男の子には容赦しないらしい……そういう家に生まれなくてよかったと本気で思っているわたしは、武清には同情しているのだ。


よく見ると、武清の顔は真っ赤で薄らと涙の跡が残っていた。


わたしが見つめているのに気づいてか、ようやく顔を上げた武清は、こちらが驚くほど、一気にまくし立てた。


「真莉亜、俺のせいで本当にごめん!ごめんなさい!おじさんにも改めてお詫びに行くけど、真莉亜にはどうしても謝らないといけないと思って、迷惑だと思ったけど来たんだ」


なんのこと?

わたしが訳が分からず、首を傾げていると、武清は益々言い募った。


「だからさ、俺らが廊下でふざけてる時に真莉亜が通ったんだよ そしたら同じクラスの奴が俺と真莉亜が夫婦だとかなんとか言いやがって、頭に来てそいつを突き飛ばしたんだ」


「そしたら……その、そいつが……」

最初の勢いはどこへやら、どんどん尻すぼみに声が小さくなってゆく武清。


ああ、なるほど。武清が突き飛ばした子の先にはわたしがいて、ぶつかられた挙句に倒れて意識不明だったということ。状況が良くわかってなかったから、助かったわ、武清。


「あら、そうなのね 武清、わざわざ来てくれてどうもありがとう」


わたしの返事を聞いた武清は先ほどの殊勝な様子はどこへやら、ベッド脇まですっ飛んできた。

「真莉亜、やっぱり頭打ったんだな?!ああどうしよう……真莉亜、ごめん!!」

んんん?どういうこと?

「真莉亜、本当にごめんな……」

目にいっぱい涙を溜めた武清。武清の顔はストライクにはほど遠いけれど、この顔は可愛いわ。


「……っ!い、いつもの真莉亜だったら、きっと俺をとことん責めて、好物のフィナンシェ買ってこいだの、新作のドレスのカタログもらってこいだの言うじゃないか……そ、それなのに、ありがとうなんて……あの真莉亜が……俺のせいだ、本当にごめんなぁ……」


おい!さりげなくディスってんじゃねぇよ!


それにしても真莉亜ってこの歳で親戚の子をパシリに使ってるとは……あのゲームの真莉亜の一面を垣間見た気がした。


「頭は打ってない気がするけど  武清、おじさまにこってりしぼられたんでしょう?」

武清はハラハラと涙を零しながら、コクコクとうなずく。

「それで反省して、一人で来たんでしょう?だったらわたしが怒ることは何もないじゃない、もういいわよ」

「ま……真莉亜ぁぁぁ~……」

武清はわんわん泣き出してしまった。

あまりにもかわいそうなので、思わず頭を撫でてやる。あの怖いおじさまからこってりだなんて、想像しただけで恐ろしい。

「ック…ヒック……真莉亜って……ほ、本当はいい奴だったんだなぁ~……」


……だからディスるなっての!!


涙でグシャグシャの武清だけれど、ちょっぴり嬉しそうな顔。


「それより武清 お見舞いの品は持ってこなかったの?」

思わずポカーンとわたしの顔を見つめた武清は、はっと思いだしたように手に提げていた紙袋からお菓子を取り出した。

「真、真莉亜の好きなやつ、持ってきた」

可愛らしく籠に盛られて、わたしがお気に入りのパティスリーのフィナンシェが入っている。


「武清、わたしのランドセル取って」


椅子に置かれたままのランドセルを、武清が取ってくれる。

ゴソゴソと中を漁ってお財布を探す。高額紙幣は入っていないけれど、何かあった時のためにと持ち歩いているのだ。


「悪いけど、これで売店でお茶を買ってきてくれない?お母さまがいないから、勝手に動けないのよ」


フラフラ出歩いてるうちに、お母さまが帰ってこないとも限らない。

ベッドがもぬけの殻だった時のお母さまの慌てた様子が想像できてしまうし、何よりこれ以上心配させるのは親不孝だから。


涙をゴシゴシと腕で拭うと、わかったと言って武清は売店へと行ってきてくれた。

武清にコップを出してと頼んで、わたしの分と、武清の分のお茶が用意出来た。


「さ、食べましょ?ここのは本当においしいのよ?」

言いながら笑顔になる。甘いものって思わず笑顔になってしまうから、不思議だ。


「い、いいのか?」

「もちろん 一人で食べるより、二人で食べたほうがおいしいもの」

そう言って微笑むと、わたしから慌てて目を逸らした武清が、フィナンシェをパクついた。


ね?と目で同意を求めると、武清もうんと頷く。


武清はしばらく病室にいたけれど、わたしが元気な様子に安心したらしく、おじさまに報告してくると帰っていった。

それにしてもディスられまくりの真莉亜ってすげー。


真莉亜の中の人状態のわたしというのは、鳳仙に入学してから発現している。

それまでのことは、一応、真莉亜としての記憶はあるけれど、あまり細かいことは覚えていないのだ。


武清は歳も同じだし、幼稚園も一緒だったので幼馴染ということになるが、きっと今までは理不尽な仕打ちをされていたのだと思う。同級生の言葉じゃないけど、尻に敷かれた亭主という感じだった。

武清、色々ごめんねと心の中で謝っておいた。


武清が帰ってしばらくすると、入院のためのパジャマや本、洗面用具を持ったお母さまが帰ってきた。

今夜はこちらに泊ってくれるらしい。


身体は元気なので、明日は病院内を少し散歩しようかと思っている。


誰よ、妄想ネタ探しとか言ってるのは。




当たってるけどね!














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