表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

女の子と猫。

その日、あの子に出会ったのは本当に偶然だった。

後から考えたら、偶然の一言で片づけられるものではなかったと思ったけれど、後の祭りというものだ。



学苑からの帰り道ーーー。


誠一郎の注意が歩道に逸れた。わたしはぼんやりとフロントガラスを眺めていたので、誠一郎の頭が左にふいと動いたのにつられて、ついとそちらを見た。

見ると、女の子が何かを抱いてしゃがみ込んでいた。いつもなら通り過ぎてしまってもおかしくないのだが、何を思ったか「停めて」と誠一郎に声をかけた。


車が緩やかに停まる。


「お嬢様、どうされましたか?」

「今の女の子、ちょっと気になるの」

「畏まりました、私が見てきますので、こちらでお待ちください」

誠一郎はハザードを焚くと、素早く車を降りて女の子へ近づいた。わたしもパワーウィンドウを下げてそちらを見ていたけど、どうも女の子が泣いているみたいだ。

誠一郎が急いで駆けてくる。


「お嬢様、あの女の子は飼っている猫が車に轢かれてしまったようで……」

「えっ!!」

わたしは、慌てて車を降りると、誠一郎の呼びかけを無視して、その子のところへ駆け寄った。

「どうしたの?猫ちゃん、病院に連れて行かなくて大丈夫?」

女の子は猫を抱いたまま、ハラハラと涙を零すばかりで要領を得ない、猫の様子はぐったりしているけれど、まだ息があるようだった。


「ほら、しっかりして!猫ちゃん、助けたいなら車に乗って!」

「え?!」

「いいから、早く!誠一郎、ここから一番近い動物病院に連れて行ってちょうだい」

「ですが、お嬢様……」

「誠一郎、これは命令よ」

「畏まりました……」


誠一郎は渋々といった様子だったけれど、その女の子を促すと、車へと招き入れた。


前世のわたしの実家には猫がいた。婆ちゃんが猫好きのせいか、近所のノラが住み着き、いつの間にか我が家に入り浸るようになった。時々わたしの部屋で大暴れしていたっけ、気まぐれだったけれど懐こくて可愛いヤツだった。

この世界に来て、猫を見かける機会が全くなかったせいかすっかり忘れていたけれど、わたしは猫ラーなので、この子とケガした猫を見て見ないふりなんて出来なかった。


動物病院へ駆け込むと、緊急ということですぐさま診察してくれた。けれど、手術が必要という先生の言葉を聞いて、その女の子が青ざめる。人間と違って保険というものがないから、動物の医療費は恐ろしく高額だ。

「どうしよう……うち、そんなお金……」

飼い主はあくまでこの女の子だ、わたしには何の関わりもない。関わりはないけれど……袖振り合うも他生の縁と言うではないか、ここで出会ったのも何かの縁に違いない。


「いいわ、わたくしが出します」

わたしがはっきり告げると、誠一郎もその女の子も驚いた顔をしていた。


「……でも、そんなこと……母に叱られます……」

「あなたのお母さまには、わたくしから説明します。手術して助かる見込みがあるなら、してもらいましょう?」

「そんな……でも……」

こうしてグズグズしている間にも猫ちゃんは苦しんでいるのよと告げると、逡巡していた彼女もわかりましたと納得してくれた。

わたしと彼女は子供ということで、手術の承諾及び仮払いを誠一郎がしてくれた。誠一郎にも後できちんと返さなくては。


いずれにしても猫ちゃんは入院することになるので、女の子も家に帰ったほうがいいということになった。

「あなたのお母さまは、家にいらっしゃるの?」

「いいえ、わたしの母はこの時間はまだ帰ってません」

彼女は、自分の決断が正解なのかどうか、まだ考えあぐねているようだった。もちろん、気持ちはわかるし、逆の立場であったなら、わたしだって躊躇すると思う。


でも、この時はなぜだか、どうしても猫ちゃんを、ひいてはこの女の子を助けなくてはと思ってしまったのだ。


病院を出て、改めて彼女を見て、おや?と思った。先ほどまでは泣きべそをかいていたせいか、全く気付かなかったけれど、この子は……。

「誠一郎、あの子、雄斗が思い切りぶつかってしまった子じゃないかしら?」

「そうでしょうか……ああ、そうかもしれませんね、聞いてみましょう」


病院の入り口を名残惜しそうに振り返っていた彼女に、誠一郎が声をかけてくれる。

「もしかして、少し前になりますが、私が名刺をお渡しした方ではありませんか?」

「え…?あ、ああ!あの時の」

やっぱりそうか、猫ちゃんばかりに気を取られていたせいもあるだろう、まぁ一瞬の出来事だったしね。雄斗の様子は変だったけど。

わたしは二人に歩み寄って、改めてご挨拶した。

「申し遅れましたが、わたくし大道寺 真莉亜と申します。いつぞやは弟が大変ご迷惑をおかけ致しました」

「そんな、とんでもない!それよりもうちのリンを助けてくださって、ありがとうございます」

彼女はペコリとお辞儀をする。


「大道寺さんって……あの大きいお屋敷の?」

ここで謙遜するのも逆にいやらしい気がして、わたしは曖昧に微笑んだ。

「わぁ……お嬢様なんですねぇ……すごい、生のお嬢様、初めて見た」

ハハハ……中身はお嬢様なんて目じゃないくらい、年増だけどね!


「あ、すみません、わたしったら。わたし、烏丸からすま あおいって言います」

「葵さん、いいお名前ね」


「真莉亜さんだって、いい名前!本当に聖母マリア様みたい!」

いやあ、そんなことは……。なんて照れている場合ではなかった、いい加減帰らないとお母さまに叱られてしまう!


「葵さん、申し訳ないですが、わたくしそろそろ帰りませんと叱られてしまいますので……」

「あ、ごめんなさい、わたしのせいで……本当にごめんなさい!」


「そんな、謝っていただきたかったわけではありません。誠一郎の名刺はまだお持ちですか?」

「はい!母に言ったら、わざわざご丁寧にって言ってました」


「でしたら、何かありましたらご連絡をいただけますか?あいにく、わたくしは携帯電話を持っておりませんので」

「わかりました。わたしはここからでも歩いて帰れますから、大道寺さんはどうぞ」

「申し訳ありません、それでは失礼しますね」

わたしと誠一郎は烏丸さんと別れ、車で自宅へと戻る。


「誠一郎、後でわたくしから渡すわね」

「いいえ、そのくらいなら私も持ち合わせがありますから」

「ダメよ、そういうことはきちんとしないと。それよりも……」

「ええ、奥様からすでに私の携帯に連絡が入りました」

「やっぱり……」

病院の待合室で、誠一郎が携帯を持って外に出たので、もしやと思ってはいたけれど。


「お嬢様はご学友とばったり会われて、近くのカフェにお誘いいただいたので、お寄りになったとお伝えしておきました」

さすが誠一郎、気が利くなぁ……。わたしがお礼を言おうと口を開きかけた時。


「ですが、お嬢様、こういうことはあまりなさらないでください。お嬢様の優しいお気持ちは私も嬉しく思いますが、お相手があのお嬢さんのような心根の方ばかりではありません。ご自分のお立場もよくお考えください」


おおっと、誠一郎にお説教をされてしまった……まぁそうだよね、うん、そこは素直に謝ろう。

「ごめんなさい、これからは気を付けます」

「わかっていただければ、これ以上私から申し上げることはございません」

誠一郎はそう言うと、アクセルを静かに踏み、車は動き出した。


車に揺られながら、誠一郎に感謝しつつ、なぜわたしは烏丸さんを助けたのだろうと自問自答していた。


それから三日ほどしてから、動物病院に行った。リンちゃんのお見舞いと烏丸さんのお母さんも来るということなので、一度お会いしておかないといけないと思ったし。


烏丸さんのお母さんは、この日のためにお休みを取ったそうだ……逆に申し訳なかったなと思う。


娘である葵さんはお母さんに似ているらしく、うちのお母さまと歳はそう変わらないと思うけど、可愛らしい印象の女性だった。リンちゃんのお見舞いに一緒に行った後、近くにある喫茶店でお茶を飲みながらお話しをした、誠一郎も一緒だ。


「この度は娘が大変お世話になりました……うちの猫のことも、ご迷惑をおかけして……」

烏丸さんのお母さんは、何度も頭を下げてくださった。いやいや、わたしが勝手にしたことだと言っても、なかなかその頭を上げてくださらなかった。


猫ちゃん……リンちゃんという、雌の黒猫ちゃんは、いつもは臆病で絶対に外には出ないそうだけれど、近くで工事があってその音にびっくりしてしまったらしく、たまたま開いていた窓の隙間から逃げ出してしまったらしい。

猫は一度逃げてしまうと、そう簡単には捕まらないからねぇ……烏丸さんが懸命に探し回っていたところで、ブレーキの音がしてリンちゃんが倒れていたらしい。目立って出血はしていなかったけれど、内臓がいくつかダメになりそうになっていたのと、骨も折れてしまっていたそうだ……。ただ、運よく頭は轢かれなかったので、なんとか手術で一命はとりとめたらしい。


後は骨がくっつけばということらしいけれど、猫は動き回ってしまうから、しばらく入院することになったそうだ。え……しばらく?ということは。わたしの頭の中は真っ白になってしまった。これは相当かかるぞ、わたしの貯金で果たして足りるだろうか……?いや、ここは言い出しっぺがなんとかするしかないだろう、お母さまを丸め込むか?いや、ばあやに加勢を頼んで(ばあやはわたしには激甘なのだ)お父さまを説得してもらうか……。


わたしが一人、費用のことで悶々としていると、烏丸さんのお母さんがにっこりと笑った。

「費用のことはご心配なさらないでください。私共でなんとかいたしますので」

すごい、この人はエスパーか何かなのか?!いやいや、相当かかると思うんですよ、お母さん。


「お母さん、大丈夫なの?」

「大丈夫よ、お母さんがなんとかします、任せて」

烏丸さんのお母さんは、娘の葵さんに軽くウィンクまでしてみせた。やっぱり余計なことをしてしまっただろうかと、わたしは今更ながらに後悔する。

「ごめんなさい……却ってご迷惑をおかけしたのではないですか……?」


「そんなことはありませんよ。わざわざ声をかけてくださって、車で連れて行ってくださったんでしょう?その優しいお気持ち、いつまでも大切になさってくださいね」

烏丸さんのお母さんは、心からそう言ってくださっているようだった。

確かに間違ってはいないとは思うけど、軽率な行動だったと思うのだ。小学生に支払いを求める大人はいないだろう、わたしは頭を抱えたくなった。


「真莉亜さん、すごく落ち込んでるでしょう?」

「え?」

「お母さんが言った通りだと思うし、わたしが泣いていたって、声をかけてくれたの、真莉亜さんだけだったのよ?だから、大丈夫、きっとなんとかなるわ」

烏丸さんはそう言って、笑った。



その日以降も、わたしは誠一郎が迎えに来てくれる日はリンちゃんのお見舞いに通った。


人間のお見舞いと違って、何か持っていくことは出来なかったけれど、何度か通ううちに、飼い主ではないわたしのこともわかってくれるようになったみたいだった。


わたしが行くと「ニャーウー」と動けないことを抗議するかのような、甘え声で鳴いてくれる。


ケガをしていることはかわいそうだとは思ったけれど、わたしにまで甘えてくれるなんていヤツめと、わたしのほうが和ませてもらっていた。


そうして何度か通ううち、烏丸さんと会うこともあって、わたし達は色々と話すようになった。

烏丸さんは公立の小学校に通っていて、同い年であると判明してからは急速に仲良くなっていったように思う。


そして、いよいよ、リンちゃんが退院出来ると決まった日。


葵ちゃんが深刻な顔をして、病院の前で立っていた。恐らく、わたしが来るのを待っていてくれたんだと思う。何か良くないことでも起きたのだろうかと、わたしは焦ってそばに駆け寄った。


「葵ちゃん、どうしたの?何かあった?」

「真莉亜ちゃん……リンはね、大丈夫。ちょっと足を引きずっているけど、元気だよ」

「そう……じゃあ……」

え、リンちゃんじゃないってことは、し、支払いのこと…かな?わたしは葵ちゃんのお母さんの言葉を信じてしまっていたけれど、やっぱり無理だった、とか。


「真莉亜ちゃん、ちょっと時間ある?」

「うん、大丈夫よ」

最近はお友達と勉強会をしていると言ってあるから、少しくらいは遅くなっても大丈夫だと……思う、たぶん。

誠一郎に話してから、動物病院のそばにある公園のベンチに腰掛けた。誠一郎は微妙に見えない位置から、わたしのことを見ていてくれているだろう。


「あのね……わたし引っ越すことになったの」

「え、そうなの?遠くに行ってしまうの?」


「遠く……なのかな、わたしもよくわかんないんだけど」

ん?よくわかんないってどういうことさ?ーーわたしが黙っていると、葵ちゃんはぽつりぽつりと話し出した。


「うちね、母子家庭なの。わたしが幼稚園の時かなぁ、お父さんと離婚しちゃって、それからずっとお母さんと暮らしてたんだけど」

「そうだったのね」


「うん、それでね。お母さんのお父さん、つまりはわたしのお祖父ちゃんがね、帰って来いってずっと前から言ってたみたいで」

「お祖父様が……」


「リンのこともあったし、お母さん、決心がついたみたいで。お祖父ちゃんのところに帰るって」

「そのほうが葵ちゃんにとってもいいということなのね」

「わたしは……会ったこともないから、わからないんだけどね」

葵ちゃんは、眉が八の字になっている。そんな顔も可愛いんだけど。


「それで……とっても言いにくいんだけど…」

葵ちゃんは上目遣いでチラとこちらを見た。わたしのほうが背が高いせいか、座っていてもちょっとだけ高い。誰だ、座高が高いなんて言ってるのは!断じて違うと宣言したい!


葵ちゃんは決心したのか、わたしに向き直るとしっかり目線を合わせた。


「実は、真莉亜ちゃんにお願いがあって」

「改まってどうしたの?」


「真莉亜ちゃん、リンのこと、貰ってくれない?」

「え?」

リンちゃん、確かに可愛いけど、どうしよう、お母さまになんて言おう……しばらくわたしの部屋で匿うしかないかな……。こう考えている時点で、わたしの中ではリンちゃんをうちの猫にすることは決定事項だったんだと思う。


「お祖父ちゃんに、猫は飼えないって言われちゃったんだって。だから、真莉亜ちゃんならリンを可愛がってくれるかなと思って。もしかすると、ずっと足を引きずったままかもしれない猫だけど」

「そんなことは気にしてないわ。わかったわ、リンちゃん、うちの子にするわ」


言ってしまってから、激しく後悔したけれど、仕方ない、わたしは猫ラーなのだ。


「本当?!嬉しい、ありがとう!」

葵ちゃんがわたしの手を握ってブンブンと振っていた。まぁ…なんとかなる、かな?冗談抜きでしばらく匿って、既成事実を作ろう、よし、無謀かもしれないが、いや、確実に無謀だけども!

リンちゃんは葵ちゃんとわたしの友情の証でもある、大切に育てなければ。


「うちのお母さんが、真莉亜ちゃんのお母さんに頼みに行くって言ってたから、安心はしてたんだけど、真莉亜ちゃんにもお願いしておきたくて」

「……え?う、うちのお母さまに?!」

ど、ど、どうしよう!わたしがリンちゃんのお見舞いに来てるなんて、お母さまは知らないのに……。わたしは一気に青ざめた。


……いや、待てよ?さすがに葵ちゃんのお母さんだって、うちがどういう家かってわかってるよね?


「真莉亜ちゃんのお母さんのこと、うちのお母さん、知ってたみたい」

「えっ!!」

な、なんで?!うちのお母さまと葵ちゃんのお母さんの接点が全くわからないんだけど!!


「葵ちゃんのお母さまって……もしかして……」

「うん、わたしも知らなかったけど、割とお嬢様みたい。全然そんな風に見えないけどね、アハハ」

葵ちゃんはあっけらかんと笑っているけど、わたしは違和感を覚えた。


あれ、何かがおかしい。なんだろう、すごく、大事なことを忘れている気がする……。


「リンの退院の日は明後日なの。だから、真莉亜ちゃんも一緒に来てくれると嬉しいな」

「え、ええ、それはもちろん行くわ」

「色々ありがとう、じゃあまた明後日、ばいばい!」

葵ちゃんはリンちゃんを任せられる安心からなのか、わたしの変化には全く気付かない様子で手を振って去って行った。


わたしが感じた違和感がなんなのか、大事な事とはなんなのかも思い出せず、結局、誠一郎と一緒に家に帰った。



家に戻って、夕食が終わった後、お母さまに和室へ来るように言われた。葵ちゃんのお母さんから話があったのだろう、きっと叱られるだろうなぁと予想して、和室の前の廊下に正座した。


声を掛けると、お入りなさいと言われたので、襖を開けて和室へと入った。


お母さまは怒ってはいらっしゃらないようだったけど……。


「真莉亜さん、今日、烏丸さまがいらして、事の次第を伺いました。誠一郎に聞いたら、あなた、何度も病院に行ってたそうね」

「お母さま、黙っていてごめんなさい」

わたしは畳に頭を擦り付けるようにして、平伏した。お母さまを騙していたことには変わりない、ちゃんと事情を説明すべきだったのに、言わなかったのはわたしが悪いのだ。


「烏丸さまから、あなたのした事は聞きました。あなたのことを責めないで欲しいと仰られていたので、あなたを責めはしないわ。でも、リンちゃん、だったかしら、その猫の命を預かるということは、生半可なことではないわ。そのことはよくわかっているのかしら?」


お母さまの仰る通りだ、わたしは一年経たずに寮へ入ってしまう……ということは、結果的にお母さまにリンちゃんのお世話をお願いすることになるのだ。無責任極まりない。


平伏して、お母さまのお話を聞いていたわたしは、頭を上げ、お母さまの目を真っすぐに見た。


「お母さま、わたくし、寮へ入ることはしません。系列の女子中に参ります」


寮へ入らなければ、リンちゃんのお世話も出来るから、責任を持ってうちにお迎えすることが出来る。今のわたしに出来ることはこれくらいしかないし、リンちゃんの為なら、別に寮に入らなくたっていいのだ。どっちかと言えば、行かないほうがわたしとしても都合がいいのだから。


「真莉亜さん……」

お母さまは、一瞬呆気に取られた顔をした後、ため息を吐いた。


「……仕方がない子ね。そこまで覚悟があるならいいでしょう。猫をうちで飼ってあげる」

「本当?!」

「ただし、寮に入るまではきちんとあなたが面倒を見なさい。猫の餌や、えーっと…猫はトイレの砂がいるのだったわね、そういう物は、あなたのお小遣いの範囲でするのよ、出来るかしら?」

「もちろんです、きちんと揃えるし、面倒も見ます!お母さま、ありがとう!」

わたしは感激のあまり、お母さまに思いっきり抱き付いてしまった。


「あらあら、まるで幼稚園の頃みたいね、ふふふ」


お母さまは、かつてやってくださっていたように、背中をポンポンと優しく叩いてくれた。


お母さまの甘い香りがなんだか懐かしくて、わたしはお母さまが苦しいと仰るまで、離れられなかった。
































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ