夏の収穫。
わたしは、思わずニヤついてしまう顔をなんとか誤魔化そうとしていたのだけど、あまり上手くいかなかったみたいだ。
「大道寺さん、楽しそう」
清野さんは、わたしを見てニコニコしている。
あのコンビニでの出来事をキッカケに、わたしと清野さんは時々、話すようになった。
わたしが思わず叫んだ、缶バッジのキャラクター達は、某ネコキャラクターに匹敵するのでは、と思うほどに仕事を選ばないので、結構色んなところでタイアップしたりしていたのだが、こちらの世界でも同じだったことに心底驚いた。
清野さんはわたしに対して、同じ匂いを嗅ぎ取ったらしく、情報を小出しにしながらも、わたしの反応をみていたような気がする。
わたしの反応は、それはそれはわかりやすかっただろう……あっさり同族認定されるほどに。
それでも清野さんは、わたしのようにリアルで妄想を繰り広げてしまうほど、腐ってはいないと思う。
わたしの腐仲間たちには、筋金入りが何人もいた。
それこそ、801という言葉が世間に認知され始めた頃には、すでにどっぷり浸かっていた人々である。
わたしの腐仲間たちの中には、無機物に対し攻め受けで萌えるという凄技を持っていた人もいた。
今でこそ、擬人化というジャンルが出来上がっているが、当時はそういうものはなかったわけで、彼女たちがいかに偉大な妄想脳を持っていたかがわかる……普通、茶碗と箸で攻め受けとか考えんだろうよ。箸が攻めだろうと言ったら、わかってないと怒られたものだ。
さすがにわたしは無機物萌えはなかったけど。
そんなわたしに同族臭を嗅ぎ取った清野さんは、なんでも今日発売のDVD付きコミックを買いに行くということで、わたしはオトモとして、アニメグッズやマンガ、同人誌なども扱っている、アニメガタワーに来ているのだ。
わたしはそのタワー入り口にあるガチャを、ひとつひとつ眺めて吟味していたのを、清野さんに楽しそうだと言われていたわけだ。
家には、塾で親しくなった鳳仙の子と、帰りにお茶を飲んで帰るとちゃんと言ってある。
最初、お母さまは難しい顔をされていたけれど、鳳仙の同級生で清野さんだと説明したら、今回だけよとお許しが出た。
そんなに過保護では、危機管理も出来ない子になっちゃうよ、とお母さまと言ってあげたい。
お母さまが心配してくれるのは有り難いけどね。
真莉亜として生まれてから、こういったサブカルと言えば聞こえはいいけど、要はヲタ御用達のお店に足を運んだことがなかったので、あまりの人の多さに唖然としてしまった。
清野さんを見失わないように、オトモは必死にその後を追って、狭い階段を上っていく。
清野さん曰く、この辺りは女性向けのゲームや漫画が充実しているお店が多いそうだ。要するに腐った人向けですね、わかります。
壁のあちこちに貼ってあるポスターも、女性ターゲットらしい匂いが漂っていた。あーなんだかとても落ち着く…。
清野さんは無事コミックをゲットしたらしく、ホクホク顔でわたしがうっとりと眺めていたポスターの貼ってある、レジの脇にやってきた。
「お待たせしました」
「無事、買えたのですね?」
「ええ、楽しみです」
清野さんが無事獲物をゲット出来たことを、オトモであるわたしも共に喜んでいた。
「この後は、どちらへ参りましょう?」と清野さんに尋ねた。
「あ、えっと……予約は済んでいるので、もうちょっとだけ、他のフロアを見て回ってもいいですか?」
予約?……なんだろう、お茶をしに行くのに、わざわざ予約してくれたってことかな?
「もちろんですわ」
ちょっと疑問に思いながらも、清野さんと一緒に上にあるゲームソフトやCDを販売しているフロアへと、また階段を上っていく。エレベーターは混み合うので、あまり使わないそうだ。
このフロアも混んでるねぇ……清野さんはゲームソフトのコーナーで立ち止まると、やや真剣に悩み始めた。
両手にソフトを持って、どちらを買うか悩んでいる。
「あーどっちにしよう……」
ひょいと見ると、同じタイトルのソフトなのだけど……ああ、通常版と限定版で悩んでいるのか。
ああ、懐かしや…わたしはソフトどころか、ハードを持っていないのでプレイすることは出来ない。今のこの成績を挽回しないことには、何かをねだることも出来るわけがない。そもそも、ハードを買ってもらえるかどうかも怪しいし。う……うらやましくなんか……くそー!中等部に上がったら、スマホでゲームデビューしてやるんだからね!
ちなみにスマホは外出が終わると、お母さま保管になっているので、アプリのインストールなどとんでもない、デフォルト仕様のままである……わたしによっぽど信用がないのかと思ったのだが、単に過保護なだけだった。
わたしが清野さんの横で、いつかのスマホゲームデビューを心に誓っていた時、彼女は決断したようだ。
「今日はやめておきます」
「え?買われるかと思ってましたわ」
「悩む時はやめたほうがいいと、姉から言われてますので」
清野さんには高校生のお姉さんがいるらしい。そのお姉さんの影響で、清野さんはヲタへの道を歩み始めたらしく、お姉さんの言うことは素直に聞いているみたいだ。
わたし達は、清野さんが予約をしてくれたという(正確にはお姉さんがしてくれたそうだけど)お店へと移動した。
そこはなんと!乙女ゲームを愛する者たちの至福の空間ーーーコラボカフェだった。
わたしは全く知らないゲームキャラなのだが、エレベーターを降りるとキャラたちの特大パネルがお出迎えしてくれていた。
清野さんの目にはもうすでにハートが……彼女はスマホで何枚か写真を撮って、レジのお姉さんに予約を入れいてる旨を告げ、わたし達は席へと案内された。
当たり前だけれど、そこは乙女の園だった。彩りを添える程度に男性もいるけれど、カップルなので彼女から誘われたんだろう。腐男子という可能性もあるけど、彼らがコラボカフェに萌えるかどうかは、わたしにはわからない。
メニューを見ると、プレイした人にはたまらんだろうなぁというネーミングで溢れていた。
色鮮やかなカクテル調のドリンクが全8種類にフードが全6種類。
注文すると、そのキャラのコースターやランチョンマット(もちろん紙)が貰えるそうだ。
「清野さんがお好きなキャラは誰ですの?」
「わたくしは……ジーク様ですわ!」
おう、そうか、任せろ!--ジーク様を貰うにはどれを頼むのがいいんだ……?
ドリンクは【青い焔の王子】これだな?えっと……フードは……あれ、フードはないの?
「フードはないんですの?」
「フードで貰えるランチョンマットはランダムなので……」
ああ、なるほど、そういうことなのか。なかなかボロ……じゃない、うまい商売ではある。
「では、わたくしは、この、【君にメロメロんジェリープレート】にしますわ」
言うのが恥ずいけど、仕方ないよね、書いてあるんだし。
「わたくしは、こちらの【プリンセスの恋わずらいプレート】で」
あ、無難なネーミングのにしたのね……わたしはメロンゼリーが食べたかったので仕方ないけど。
お店のスタッフが注文を聞きに来たので、わたし達は指で差して注文した。声にのせるのは一度で十分だろう、少なくともわたしは一度でもうお腹いっぱいである。
注文したものがやってくると、わたしは早速【ジーク様】のコースターを清野さんに差し出した。
「はい、どうぞ」
「え……よろしいんですか……」
「ええ、もちろんですわ。わたくし、ゲームをしていないですし」
わたしがそう言うと、清野さんは少し申し訳なさそうな顔をした。
「そうですよね……すみません、同じ学校の同級生とこういう趣味で話せるということに舞い上がってしまっていたみたいで……こういったところも、ご迷惑だったのでは……」
ああ、そういう意味じゃないんだよ!誤解しないで!
「違います!誤解しないでください、わたくしもこういうところは好きですし、先ほどのアニメガだって楽しかったんですのよ。残念ながら、このゲームをプレイしていないので、キャラたちの良さがわからないというだけです。それに、せっかく誘ってくださった清野さんに、お好きなキャラクターの物を差し上げたいと思っただけですわ」
わたしが一生懸命言い募ると、清野さんは本当に?というような顔をしている。
そりゃ、わたしだってゲームをやりたいけども、我が家はゲーム機を買って欲しいなんて言えそうな環境じゃないから、無理だし。いずれ貯めているお小遣いを放出してもいいんだけど、我慢している分、反動が来たらわーっと使ってしまいそうで怖い。
「ですので、こちらは貰っていただけるとありがたいのですが」
わたしは、未だに遠慮している清野さんに、コースターを差し出した。そうしているうちに、ハズいネーミングのデザートが運ばれてきた。
わたしのはメロンゼリーとアイス、ケーキのプレートで、清野さんのはプリンアラモードにロールケーキのプレートだった。
そして、わたしの分で貰えたランチョンに、清野さんの目が釘付けになった……ああ、これがお目当てだったのか…わたしは笑顔でそれを差し出す。
清野さんは、今度は素直に受け取ってくれ、バッグの中からクリアファイルを取り出して、折れないようにしっかりと挟み込んでいた……これぞ愛、である。
前世のわたしの場合、大抵、物欲センサーが発動して、ランダムでお気にキャラが当たった試しはないし、ガチャでもほとんど出ない、レア素材じゃないのに剥ぎ取りで出ないこともよくあった。
こういうのは無欲な時のほうが不思議と出るんだよね……欲しい時は出ないくせに。
誘ってくれた清野さんの嫁キャラのが貰えて本当によかった。
わたしはデザートを堪能しながら、このゲームがいかにしていいのかを清野さんがアツく語ってくれたので、もし出来る機会があったら、清野さんが貸してくれることになった。いつになったら出来るかわからないけど、楽しみは熟成させておこうと思う。
清野さんとの楽しいひとときはあっという間で、時間制入れ替えのカフェということもあって、わたし達はお店を出た。
のんびりと駅まで歩きながら、清野さんにまた機会があったら一緒に行きましょうと約束をしつつ、改札口で別れる。
彼女の家とわたしの家の最寄り駅は同じ路線ではないので、ここでさよならだ。
こうして、今年の夏休みは勉強と貴重なヲタ友を得て終わりを告げた。
学苑では天宮さんの手前もあって、なかなか話せないかもしれないけど、一応、スマホで連絡先を交換した。お母さま保管だから、すぐに返信出来ないかもと告げると苦笑されてしまったけど。
清野さんのおうちは、隣町で病院を経営しているんだそうで、製薬会社の社長令嬢である天宮さんとは、その辺の絡みもあって、一緒にいることが多いらしい。
家同士のしがらみって面倒だよねぇ……すっごくよくわかるわぁ……。
そして九月に入る三日前に、始業式を迎えた。
今回はみっちり勉強していたので、宿題もついでにやってしまっていたから、余裕だぁと思っていたら、家庭科の宿題をすっかり忘れていて、またお母さまに怒られた。
わたしという人間は夏休みには宿題がらみでやらかすのがデフォらしい、なんだか切ない。




