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真莉亜9歳の秋。

季節は秋。


時が流れるのが早いなぁと思う。庭に面した長い廊下に座って、すいかを頬張っていたのが、ついこの間のような気がする。これからは葡萄の季節よねぇ~あ、梨も美味しいし、そろそろ栗ご飯を作ってもらえるかなぁ……。


こういうことを考えている時は、大抵、現実逃避をしたい時でもある。


家庭教師の先生のご指導の下、今日はお花を活けているのだが……。

先生が頬に手をあてて、長い溜息を零す。裁縫といい、生け花といい、無理ゲー臭ハンパない。特に生け花に関しては、もう壊滅的である。


「真莉亜さん、お裁縫も頑張ってらしたから、お花ももう少し頑張ってくださる?」

先生、これはどう頑張ればいいんでしょうか?裁縫は慣れの部分も大いにあるので、数をこなせばなんとかなるだろうと思うけれど、お花は才能だと思うんだ。


「先生、ごめんなさい……」

「いいのよ、得手不得手というのは誰にでもありますからね そのための、家庭教師ですから」

なんと、先生は菩薩のような方であった。


「来週から週に三日、お邪魔する日はお花を活けましょう、ね?」

いや、閻魔のような人だった……。

華道もただお花を活けるのではなく、そこには武道や茶道に通じる求道的なものがあるので、その意味合いはわたしなりに理解はしてるのだ。ただ、求道的とは言っても、芸術は才能に左右されるものであって、数をこなせばいいというものでもないような気が……ああ、先生のお立場もあるよね、仕方ない、先生が諦めてくださるまで、花を活け続けよう、お花が可哀そうな気もするけど。


芸術の秋らしく、しばらくは花を活け続ける羽目になりそうだ。

そしてスポーツの秋でもあって。


今年から武道大会に参加出来るので、稽古の時間を増やしていた。夏休みの間、お父さまはお仕事があるので、誠一郎と歳三に稽古をつけてもらっていた。

勇仁はどちらかというと、体術のほうが得意ということで、柔道や空手のほうが教えやすいらしい。


雄斗と二人、道場で汗を流した後に、廊下ですいかを頬ばるのが日課になっていたので、夏=すいかのイメージがすっかり出来上がっていた。


雄斗を相手に、模擬試合を何回かと打ち合いをしていたのだが、雄斗はカエルの子はやはりカエルのようで、未だにオタマジャクシのわたしとはえらい違いだった。

瞬発力というのか、最初の一撃が早い。相対しているわたしは防御するのに精一杯で、小手から面を狙ってもうまくかわされていつの間にか胴に一本入れられている、という具合。


むーー……これでは姉の威厳が保てんではないか……。


「姉さま?機嫌悪いの?」

「そんなことないわ 雄斗は強くなったのねぇ 姉さまじゃもう相手にならないわね」

苦笑交じりにそう伝えると、雄斗ははにかんだ笑みを零した。

こういうテレながらの笑顔とか、我が弟ながら尊すぎてクラクラするーーー。


今ここにスマホがあったら、間違いなく動画で残しておきたいほどだ。

雄斗のお陰で守備範囲が広がって、ショタも全然おっけー。ちなみにおっさん萌えは範疇には入っていない、念のため。


「姉さまが家庭教師の先生とお勉強してる間も、僕はここで稽古してたからね」

ちょっと自慢気に話す雄斗もかわゆす、ほんと、かわゆすなぁ……。

「姉さま、ちょっと……」

「なぁに?雄斗」

「くっつきすぎじゃない? 暑いからもうちょっと離れて」

なんと!雄斗のほうから離れてだなんて……今までは一度もそんなこと言わなかったくせに!


「そんな泣きそうな顔しないでよ、姉さま」

「してません~~」

「してるよ、姉さま、本当に僕が好きなんだね!」

おおーい、逆だろ、雄斗。君が姉さまを好きなんだよね?そうだよね?!


雄斗は余裕の笑みを浮かべている。


悔しいーーーっ!!


「べ、別にそんなことないもん 雄斗だって姉さまが好きなくせに!」

「ん~……」


……あれ?


「僕ね、好きな子がいるんだ 姉さまはその子の次かな?」


……へ?


す、す、好きな子ですってーーーーーっ!!

ゆ、許さん、うちの可愛い雄斗をたぶらかすとは!どこの馬の骨だ、嫁にはやらん、絶対やらんぞ!!


………ん?す、好きな子って……ま、まさか。


「ねぇ、雄斗……」

わたしはゆっくりと雄斗の横顔を見る。

「なぁに?」

「好きな子って……み、みつまさくん……?」

「……」

え、何、その無言は肯定と受け取っていいって事?ねぇ、そうなの?!

雄斗は一つ瞬きをすると、じとーーーとわたしを横目で見ている。


「あのねぇ、光正は男だよ、お、と、こ! なんで僕が男を好きになるの?!」

……ですよねぇ~…いや、姉さま的には、みつまさくんでも全然おっけーというか、むしろそうであって欲しいというか……。


物凄く不審なものを見るような目でわたしを見る雄斗。

「そ、そうよね、や、やぁねぇ、冗談よ、冗談!」

雄斗の背中をポンと叩く。


「はぁ~……姉さま、僕、姉さまのことがとっても心配」

「心配?どの辺が?」

「全部だよ!ぜ、ん、ぶ!」


雄斗はそう言って、さっさと廊下を歩いて行ってしまった。あーらら、怒らせちゃったかな?でも「全部」が心配ってどういう意味だろう?機嫌がいい時にでもさりげなーく聞いてみようと思った、秋の午後だった。


いよいよ、武道大会当日ーーー。


女子は長刀の子が多いので、剣道で出場する子は同学年では八人しかいなかった。男子は柔道と剣道が半々くらいで、団体戦は各学年ごとの優勝を決めるのだけれど、男子と女子の混成チームで戦うことになった。


わたしのチームには武清がいて、大将で出場する。わたしは次鋒なので、武道場で開始の際にはすでに面を付けて審判席に挨拶した。


先鋒の子が礼をして開始線で蹲踞、試合が始まった。激しい鍔迫り合いで、審判の両旗が何度も上がる。体格差はあまりないけど、うちの先鋒のほうが気迫が勝っている気がした。そのうち、相手が小手を狙ってきた剣筋を見切ると、鮮やかに面を決める。

「面ありっっ!」

いいぞ、いいぞ!勢いが大事なので、先鋒は攻めが得意な選手が選ばれることが多い。

竹刀の擦れ合う音と、気迫の籠った声が響く。


相手も何度か打ち込んでいるけど、なかなか一本が取れなくてイライラしてきているようだ。イライラしたほうが負けのような気がするけど……。

「小手ありっっ!」うちの先鋒が二本目も綺麗に決めて、勝者で戻ってきた。この流れを止めちゃいけない、なんとか勝ちたい。


さぁ、わたしの初めての試合だ。

「はじめぇーっ!」

竹刀がぶつかり合う、相手は上段からバンバン打ち込んでくるので、竹刀で防御するので精一杯、隙を見つけたくてもなかなか難しい。

このまま鍔迫り合いに持ち込むか、それとも引きで胴狙いでいくか。

相手が大きく上段の構えを取った、このまま面を打ち込んでくる、その一瞬をついて、引きから胴を狙う。

「胴ありっっ!」

おお、やった、取った!!


だが、相手も負けてはいなかった。二本目が始まると、攻められ続ける。この子、先鋒のほうが向いてるんじゃないかと思うくらいだった。

いや、気持ちで負けちゃダメだ。弟にも勝てない姉さんだけど、気合だけは負けないぜ!押してダメなら引いてみな! 引き小手から面を取れるか……。

「面ありっっ!」

二本、取れた……やった!


礼をして、コートの端に座る。隣の先鋒の男子が「よくやったな」と褒めてくれたので「ありがとう」と素直にお礼を言った。話したことはない子だったけど、先鋒らしい、いい戦いっぷりだったなぁ。


試合は大将戦までもつれ込み、武清に全てを託して、みな応援していた。

あの高柳の跡取り息子である武清は、三歳から各種武道を仕込まれているので、本人の努力と天性の才能もあるんだろう、武清の試合はわたしのお手本だった。

いつか、武清のような剣士になりたい、美しい剣筋で勝ちたい、そう思った。


三年生の部では、わたしたちのチームは残念ながら三位に終わった。わたしも頑張ったけれど、やはりそう甘いものではない、上には上がいるということだ。また地道に稽古を頑張るしかないなぁと思いながら、教室に向かっていた廊下で、天宮さんと同じクラスの女の子たちとすれ違った。


すれ違いざま、クスクスと嗤われたような気がした。

面倒なので、そのまま教室へ向かおうとすると「大道寺さま」と呼び止められる。


「なんでしょう?」

「何やら匂っていらっしゃいますわ お気をつけあそばせ」

「……それは、それは、ご親切に、ありがとうございます」

さっきまで試合してたんだ、そりゃ汗臭いだろうよ!というか、長刀の試合にも出なかったくせに、教室で一体何をしてたんだか……。


「ああ、そういえば 大道寺さまはいらっしゃるの?」

いらっしゃるの?ってどこへだよ?わたしが不思議そうな顔をしていると、勝ち誇ったような笑みで天宮さんが続けた。

「あら、ご存知ないの?それは、申し訳ないことをしましたわ」

勝手に言ってろ、面倒くさいわ。


「来週、本条さまのお母様主催のパーティがあるんですって わたくし、ご招待いただきましたの」

「はぁ……左様でございますか、それはようございました どうぞ楽しんでいらしてくださいませ」

わたしはそう言うと、さっさと教室へと向かう。


なんなんだ!


天宮さんは、まだあの噂を信じてるのかなんか知らんけど、わたしを目の敵にしてるのだ、うざすぎる。

わたしが相手にしないせいもあるんだろうけど、ここのところ、あからさまにいちいち突っかかってくるのだ。せっかく気分よく帰ろうと思ってたのに!

小声でブツブツ言いながら教室に入ろうとすると、クククと笑い声がする。今日はよく笑われる日だな!


「どうしたの?ブツブツ言って」

「なんでもありません!」

綾小路がいつものキラキラしい笑顔を浮かべて、扉の前に立っていた。


「なんでもないって感じじゃないけどね もしかして、天宮さんから何か言われた?」

……明らかにわかってるくせに、なぜ聞く、綾小路よ。結構性格悪いな!


「別に、大したことは……あ、わたくし汗臭いらしいですよ?近寄らないほうがよろしいと思います」

イラついてたので、珍しく強気で接してしまう。


「そう?別に気にならないけど やっぱり天宮さんに言われたんだね?パーティの件」

なにが『やっぱり』なんだ、わたしには関係ない、ないない!

「なんでも、子供服ブランドを父兄に売り込むためのパーティらしいよ?」

「そうですか……」


美沙子さまは、あの件で一度立ち上げた子供服ブランドを潰してしまわれたと聞いていたけど、復活させたんだ。

「それで、鳳仙の初等部に通う子女の父兄に招待状を出したんだって」

「へぇ?そうなんですね」

「それでね、貴彬と同じクラスの子供たちも、全員招待するらしいよ?」

「へぇ?それはすごいですわね……え?」


綾小路はキラキラが更に明度が上がって、キラキラ×3くらいの笑顔でにっこりと笑った。


「天宮さんの言ってることは間違ってはないけれど、クラス全員ってちゃんと聞いてなかったみたいでね」

「貴彬に招待状をもらって、かなり舞い上がっちゃってたみたいだから」


「はぁ、そうですか……ですが、わたくしはご招待いただいてないようですので、ご遠慮させていただきますわ」にっこりいい笑顔でそう言ったのだが。


「やだなぁ あの時、美沙子さんが言ってたの、忘れちゃった?」

「あの時って……?」


「『言ってみれば、あなたたちはイメージキャラクターね』って言ってたじゃない?」

「確かにおっしゃってましたが、あれはあの場だけの……」


「大道寺さん」

「はい?」

「美沙子さんはあの貴彬の母親だってこと、忘れてない?」


え……そんな……親子揃って、執念深いの?!


そんなの聞いてなーーーーい!!




























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