真莉亜の目覚め。
長い夢をみていた。
小学生で車で通学してて、両親をお父さま、お母さまと呼び、可愛らしい弟が一人。
なんて夢のような話!
実際のわたしの環境はというと、父ちゃん母ちゃん、そして婆ちゃんに小憎らしい弟が一人。
古い木造家屋の二階建てに住み、わたしにあてがわれた部屋は、六畳一間で本棚に収まりきらない漫画が溢れ出し、パソコンラックにはPCゲームが積みとなって折り重なり、もはや自分でもいつプレイするつもりなのかわからない。
社会人になった途端にペースがガタ落ち。
それでもやれ初回限定だ、ショップ限定だの甘言にホイホイされて、ついついポチる始末。
それにソシャゲのイベントもあるし、携帯ゲーム機専用ソフトもあるしで、出来れば会社辞めてずっとゲームして生きていたかった。
でも、我が家はお金持ちでもなんでもないので、自分の食い扶持くらいはしっかり稼ぎださねばならない。
そして各種ゲーム関連のイベントやソシャゲにせっせとお布施。給料は家に入れる分と、ほとんどがそういうものに溶けていった。
幸いなことに親バレはしていなかった。ポスターやグッズはステルス仕様でいつでもカモフラージュされていた。
両親は、せいぜい漫画好きくらいにしか思っていないだろう。パソコンなんて恐ろしくて触れないらしいしね。そんなんで21世紀は生き残れないよ?と言ってやったら、市役所のパソコン講座を受講してたみたい。全く触れないよりはマシだから、いいんじゃないかな。
そもそも、わたしのPCにはロックかけてあるから、立ち上がっても何も出来ないだろう。
え、そりゃヤバいもんが色々あるからだよ。拾いものだとか、壁紙からしてヤバいからね、会社の同僚にすら見せられない。
あ~それにしてもよく寝たなぁ~ヤケにリアルで夢とは思えないくらいだったよ。
大きく伸びをする。
「ふぁ~よく寝た……ん?」
見慣れない天井。シンジ君が目覚めた時ってこんな感じだったんかしらん?
学校の保健室とか会社の診療所みたいな感じだな。あれ、仕事中に倒れたりしたっけか……?
とりあえず起きないと、とベッドから起き上がった。
(あれ?こんな服着てたっけ?)
ん……?
え、え、な、なんか縮んでるじゃん!!
え、ちょっ、どうした!!一体何があった!!
そもそもここはどこ?!
「大道寺さん、目が覚めた?」
カーテン越しに声がかかる。身体がビクッと反応してしまう。
(……大道寺さんって誰さ?)
女性の声が聞こえたと思ったら、閉じられていたアイボリーのカーテンがシャっと音を立てて引かれた。
カーテンの先には、白い上っ張りを着て眼鏡をかけ、ミディアムロングの黒髪を一つに束ねた、アラサーくらいの若い女性が立っていた。
「大道寺さん?」
そう呼ばれて、茫然とそちらを見る。
「顔色が悪いわね……今日は帰ったほうがいいかもしれないわ 担任の先生にお話ししてくるから、もう少しここで休んでてね」
大道寺さんってさっきまで見てた夢の中の女の子だよね。
まさか、まだ夢を見てる?
夢を見たと思って起きたら、また夢とかすごい器用な寝方してんのね、わたしったら。
それにしてはリアルよ。
試しに、その小さな手を握ったり開いたりしてみる。
うん、確かにわたしの手だわ。
でも、記憶にあるわたしの手はもっと大きかったし、一応ネイルなんてものもしてた気がする。
アラフォーだし女子力低すぎだから!とかよくわからん理由で、ヲタ友の一人に連れられ、初めてネイルサロンなるところに行ったんだっけ……。
一応会社での立場もあるから、ド派手には出来なかったけど。
確かしたはずのネイルも、もちろんない。
とりあえずはまだ夢の中で、わたしは大道寺 真莉亜という7歳の女の子で、鳳仙という学校に通っていてーーー
ーーーあれ?
なんか思い出したぞ?
大道寺、大道寺、大道寺……そんな大仰な苗字、友達にもいなかった。
でもなぁんか引っかかる。
思い出せ、思い出せ、今ここで思い出さなくてどうする!
自分にプレッシャーをかけながら、必死に足りない頭を回転させる。
そして思い当たった瞬間ーーー
雷が落ちるようだとは、まさにこのことだ!と妙に納得しながら。
わたしはまた、気を失ってベッドに倒れこんでしまった。