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長過ぎた一日。

流血表現があります、苦手な方は読み飛ばしてくださいませ

「ここらが潮時か……」

一人ボソッと呟くと、おもむろにアニキは立ち上がる。

あいつも出てったきり戻ってこない、裏切るような奴じゃないから、何かあったのだろう、最悪、警察に捕まっているのかもしれない。


「お嬢ちゃん、行くぞ」

「え?」

「俺の気が変わらねぇうちに、早くここを出るんだ」

アニキはそう言うと、わたしの腕を取って歩き出そうとした。


そこへドアが開く音がする。


「ふざけるな」

地獄の底から響くようなおっさんの声。

「出て行くんならその娘は置いていけ」

「あ?おっさん、何言ってんだ?もうすぐここにサツが来るだろう、その前にこの子を逃がして俺らもずらかるんだ」

どうした、仲間割れか?そっか、子分が帰ってこないからか。

「その娘は置いて行け 出て行くならお前一人で行くんだ」

アニキが息を飲む。おっさんが得物を持ってるんだな、わたしには全く見えないけど。


ここで置いて行かれたら……いやいや、わたしは死ねない、死んだら化けて出てやるぞ!


「なぁ、おっさん」

「なんだ?」

「はっきり言ってやるよ ガキを殺ったってなんの意味もねぇよ」

「なんだと?」

「この子にはなんの罪もねぇんだ おっさん 馬鹿なことはやめろ」

「うるせぇ!」

おっさんがアニキに向かってくる気配がした。

アニキは素早くわたしを背に隠すと、おっさんと揉みあってるようだ。ええい、ままよ!わたしは自分で頭の布を勢いよく外すと、ちょうどアニキとおっさんが床に転がっているところだったのだが……。


「グハっ……」

アニキの動きが止まって、おっさんがゆらりと立ち上がる。その手にはナイフが握られ、すでに血だらけだった。


「ひっ……」思わず喉の奥から悲鳴にならない声が出る。

アニキは呻きながら床の上を転がっているままだ。


ああ、わたしの命も最早ここまでか……。

おっさんは嗤いながらわたしへと向かってくる。

思わず目を閉じた、瞬間。


「ぐぇっ!!」カエルを圧し潰したような声がして、ドサリと音がする。

え……?

「お嬢様、申し訳ありません、遅くなりました」

「誠一郎!!」

まだ両手を縛られていたので、身体ごと誠一郎に縋りつく。

「誠一郎、アニキを助けてあげて!わたくしをかばって……」その後は、さすがのわたしも溢れてきた涙で声にならなかった。

誠一郎は頷くと、勇仁に目配せを送る。

「お嬢様、大丈夫ですよ 傷は浅い」

その言葉を聞いてホッとする。


「お嬢様、さぁ家に戻りましょう」

「ありがとう、誠一郎、勇仁、歳三」

おっさんを縛り上げている歳三を見ると、珍しく微笑んでくれた。


こうして、狗たちのお陰でわたしは無事に救出された。ちなみにわたしの居場所はわかっていたので、警察には知らせずに動いていたらしい。


................................................................................................


深夜、家に戻ると、家族だけではなく、使用人全員でわたしを出迎えてくれた。

お母さまはわたしを抱きしめてずっと泣いていたし、お父さまも雄斗もわたしを抱きしめてくれて、泣いて無事を喜んでくれ、ばあやはそんな様子を傍で見守ってくれていた。


手首の傷は、家で待機してくれていた梯先生が処置をしてくれ、アニキのほうは梯病院に入院させてもらえることになったそうだ。


わたしが子分と呼んでいた男ーーー加藤 正夫という名前らしいーーーは、アニキに付き添って病院にいると聞いた。監視を付けているけれど、何事もないだろうと誠一郎が言っていた。


ひとしきり家族で無事を喜んだあと、手首の傷が悪化しないよう、軽くシャワーを浴びてから自室のベッドに潜り込む。昨夜もあまり寝ていないというのに、興奮しているのか眠れる気がしなかった。


もう夜明けも近いというのに。


おっさんはどうなったかなぁとふと思い出した。本城家に対する怨念が相当だったから、あのまま無罪放免というわけにはいかないだろう、むしろ無罪放免のほうが恐ろしい。

けれど、警察沙汰にしてしまうと、アニキと加藤くんも罪に問われるだろうし、どうするんだろう?


後でばあやに聞いてみるかぁなどと思っているうちに、わたしは眠りに落ちていった。


翌日、当然のことながら学苑はお休みした。

手首以外は元気だったので、自室でのんびりとベッドの中で本を読んで過ごしていたのだが、午後になってばあやがわたしの部屋にやってきて、見舞い客が来たことを告げた。


「お見舞い?どなた?」

「本城さまです」

「げ……」

「お嬢様?」

「コ…コホン…華恵さまかしら?」

「いいえ、貴彬さまが」

「はぁぁぁ~…」

「お嬢様……せっかくお越しくだすったのですから」

「わかっているわ、お通ししてちょうだい」

本城家から誰かしら来るだろうと予想していたが、まさか貴彬がやってくるとは、想定外だ。さすがに他人の家でいつもの俺様風を吹かすことはないだろう、だけどあの貴彬だからなぁ~なんて思っていたら、コンコンとノックの音がして、ばあやに連れられた貴彬がやってきた。

その手には大きな花束が抱えられている。

赤やピンクのガーベラと白いバラ、レースフラワーのとてもきれいな花束だった。


「本城さま、わざわざお越しいただいてありがとうございます」

ベッドの上からで申し訳ない気もしたが、一応病人扱いなので、そこは許してもらいたい。

「これは我が家からの見舞いの品だ」

「まぁ、ありがとうございます ばあや、こちらを生けてちょうだい」

「畏まりました」

ばあやは花束を抱えて部屋を出て行った。


貴彬が物珍しそうにわたしの部屋を見回す。華恵さまの部屋と違って、お母さまの趣味てんこ盛りのピンク仕様だからね、わたしの趣味じゃないんだよ、断じて違うから!


ひとしきり観察し終わったのか、わたしに視線を戻すと、ボソッと何事か呟いた。

「はい?」聞き取れないくらいの声だったので、思わず聞き直す。


「いや……思ったより、元気そうだな」

「えぇ、手首だけでしたので」そう言って自分の手に目を落とす。

「両方か?」顔を顰めて問われたので、縛られていたせいだと説明を付け足した。

「怖くなかったのか?」

「正直に申しますと、やはり怖かったですよ」

「そうか……?もっと落ち込んでいるかと思ったが、お前は強いんだな」

「そう見えますか?そうでもないんですけどね」

苦笑いをしつつ答える。


「ああ、そうだ、忘れるところだった」

貴彬が上着のポケットから、ネックレスを取り出す。

「華恵から返すように言われて持ってきた」

「わざわざすみません」

わたしはそのネックレスを両手で受け取る。


「華恵にお守りと言って付けさせたらしいな?」

「ええ、そうですが……」

え、もしかしてGPSが仕込まれてたってバレてる?……まさかね…ハハ…。


貴彬が珍しく神妙な顔をして続けた。

「華恵がもし……」


「ああ、そうでした 華恵さまは大丈夫ですか?体調を崩されたりしていませんか?」

貴彬の言葉を遮ってしまったが、気になっていたことが思わず口をついて出てしまった。


貴彬は一瞬ポカーンとした顔をして、ゆるく頭を振った後、今まで見たこともないような……正確にはわたしに一度も見せたことのない微笑を湛えた。


や、ちょっと待て、それは反則だろう!!心臓が妙に煩い、発作が起きたらどうしてくれる!

反則、ダメ、絶対!


「華恵は、元気だ お前のお陰だ」

貴彬は噛みしめるようにそう言うと、また笑顔を見せた。


チーン……今、わたしの口からはエクトプラズマが出ていった、魂抜ける、何このメデューサ並の破壊力。


「おい、大丈夫か?」


は……い、今何が起きた?天変地異か、カタストロフィか?!わたしの脳内では大変なパニックが起きております!ええ、パニック映画も真っ青な程の!


「ええ、大丈夫ですわ、その……あまり寝ていないせいだと思います」


なんとか言い訳を取り繕うが、貴彬の笑顔、破壊力ぱねぇっすなんて言えないだろ!

こ、これ程の破壊力なのか……普段の貴彬の無表情からは想像もつかない。もう二度と見てはいけない、こんなもの何度も見たら心臓がもたない、わたしはまだ死にたくない。


「そうか、突然訪ねてすまなかった 華恵には元気だったと伝えておく」

「き、今日は本当にありがとうございました」

「ああ、また学苑でな」

貴彬は軽く手を挙げて、部屋から出て行った。


な、なんなのあれ……7歳でこれじゃあ、将来はどれ程の……というか、フルバーストモードなら間違いなく即死レベルだろ、あんなの。

これ以上、貴彬とは関わってはいけない、後のことはヒロインにお任せしたい、全力でお任せしようと改めて心に誓ったのだった。




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