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真莉亜の危機2。

暴力表現がありますので、苦手な方は適当に読み飛ばしてくださいまし。

脅迫電話を受けた本城家では、まず会場にいる美沙子へ電話をかけた。


会場では、真莉亜がいなくなったことで昏倒した小百合がホテルの一室に運ばれ、医師の診察を受けていたし、パーティも終盤に差し掛かっていたとはいえ、真莉亜が行方不明となったので、早々にお開きとなり、美沙子は本城家からの電話で、真莉亜が華恵と間違われて誘拐されたのだと知った。


美沙子はとりあえず、本城家の車で子供たちをそれぞれの自宅へと送り届けてから、小百合がいる一室を訪れた。


「小百合さん」

美沙子が声をかけると、小百合が起き上がろうとしたので、急いで制した。

「ああ、美沙子さん……取り乱してしまって、ご迷惑をおかけしました」

「いいのよ、母親ですもの 気持ちは痛いほどわかるわ」

「どうして、こんなことに……」

「……わたくし、小百合さんに、謝らなくてはいけないの」

「……?」美沙子の言葉に、小百合は不思議そうな顔をしていた。

「真莉亜ちゃんはね……華恵と間違われて誘拐されたのよ」

「え……?」

「先ほど、自宅に脅迫電話が……」

そこまで言うと、気丈な美沙子も涙が堪えきれずに小百合の寝ているベッドに突っ伏してしまう。

「ごめんなさい、わたくしが、お揃いのお洋服を着せたばっかりに……こんなことになってしまって……」

しばらく呆然としていた小百合だったが、ごめんなさいを繰り返す美沙子の手を握った。

「美沙子さんが悪いわけじゃないわ……悪いのは誘拐した犯人よ」

「小百合さん……それでも、わたくしはあなたに申し訳なくて……」

「大丈夫、真莉亜はしっかりした娘だもの、きっと大丈夫」

「小百合さん……」

小百合は自分に言い聞かせるように、大丈夫と繰り返し、その姿がまた美沙子の涙を誘った。



......................................................................................................


同じ頃、本城家ではーーー


執事の榊から、本城 貴之が報告を受けていた。

「それで?それから連絡はないのか?」

「はい 電話を受けてすぐに奥様にご連絡をいたしました うちのお嬢様はご無事でしたが……」

「そうか……」

「旦那様、いかがされますか?」

「華恵と間違われたんだろう?しかもうちの主催のパーティで同じ服を着ていたらしいじゃないか」

「はい」

「全くの無関係という訳にはいかないだろう、あちらの意向も聞かなくてはならんし」

「左様で」

「こちらとしては、うちの娘ということにするしかないだろう 下手に気づかれて大道寺の娘に何かあってみろ、大変なことになるぞ」

「畏まりました」


一方、大道寺家ーーー


「どうなっているんだ!!」

大道寺 真雄は机をドンっと叩いた。その拍子に湯飲みが浮き上がって、中のお茶が零れる。

「旦那様、お気を鎮めてくださいまし 狗たちが追っておりますので」

そんな真雄の様子を見ても、ばあやは全く動じていない。

「以前、お前が言っていたことと関係があるのか」

「しかとはわかりませんが、恐らくは」

「……狗たちに必ず助け出せと伝えろ 後のことは任せるとな」

「畏まりました」


........................................................................................................


狗と呼ばれる者たちーーー誠一郎、勇仁、歳三の三兄弟は、真莉亜が監禁されている廃屋から200メートル程離れた、同じような廃屋のそば、草深い場所に車を止めて作戦を練っていた。

母親からの連絡で、本城 華恵と間違われて拉致されたという情報がもたらされると、誠一郎は眉を顰めた。

「兄者、どうした」

「うちのお嬢様は本城のお嬢さんと間違われたようだ 不味いな……」

「そりゃやべぇな とし、ファイバースコープ仕込めるか」

「勇仁、簡単そうに言うな……お嬢様のいる部屋を特定するから、もう少し待ってくれ」


真莉亜のいる廃屋は、まだ打ち捨てられてそう年月が経っていないらしく、二階の窓ガラスが割れている他は、目立って傷んでいる箇所は見受けられない。

一度偵察に行った歳三が言うには、真莉亜が監禁されているのは一階に三部屋あるうちの二つのどちらからしい。

相手は三人でこちらも三人だが、人質がいる分、分が悪いのは明らかだった。どうにか一人でも相手の勢力を削ぐことが出来れば、活路も見い出せるだろうが。

「とし、準備が出来たら早く仕込め、中の状況がわからんとどうにもならん」

「わかった」


......................................................................................................


一体、どのくらいの時間が経ったんだろう。

後ろ手に縛られた両手が痺れてきて、両肩も悲鳴を上げていた。


「あの」

「どうした、お嬢ちゃん」

「トイレに行きたいんです……」

「トイレか、弱ったな……おい、ここのトイレ使えるか?」

「あ?使えんじゃねぇの?」

「お嬢ちゃん、トイレまで連れてってやるから、ちょっと待ってな」


アニキは意外と優しい手付きで立ち上がらせてくれると、わたしの腕の辺りを持って、部屋の外へ連れ出した。前が全く見えないせいで足元の覚束ないわたしを、さりげなく気遣う素振りさえ見せてくれた。

アニキはドアを開けて、そこがトイレだと確認すると、後ろ手のロープを解いてくれた。

「俺はドアの前にいるからな」

「はい」

本当はトイレに行きたいわけじゃなく、一度ロープを解いて欲しかったのだ。拉致したのはあのおっさんだろう、ギリギリと締め上げやがって。

使えそうならば、一度用を足しておくかと、紙を探すがどこにもない。

「あの」

「あ、どうした?」

「ティッシュ、ないですか?」

「あ~……そうだよな、ちょっと待ってな 妙な気は起こすんじゃねぇぞ」

アニキがどこぞからティッシュを探してくる間に、頭の布を少しずらしてトイレのドアを薄く開け、見える範囲だけでもと観察する。

このトイレは玄関のすぐ脇にあるらしい。ドアの隙間から引き戸の扉が見え、外はすでに暗闇に包まれていた。

足音が近づいてきたので、慌てて頭の布を被りなおす。

「ほらよ これしかなかったから我慢してくれ」

ポケットティッシュを渡されて、ドアが閉められた。

薄く開いていたことには気づかなかったようだ、アニキは細かいことには頓着しないタイプらしい。

頭の布を取ってトイレを見ると、埃をかぶっていたものの、案外きれいだったので、遠慮なく使うことにする。正直、トイレの前に男とか冗談じゃねぇと思ったが、居酒屋のトイレ待ちだと思えば耐えられんこともないと思い直した。布を被りなおして外に出る。


「終わったか、どれ……」

もう一度、後ろに手を回されたのだが。

「こりゃひでぇな、お嬢ちゃん、よく我慢してたな」

トイレで自分の手首を見てあちゃーとは思っていたが、痺れていたせいか、最初は痛みを感じなかったものの、ジクジクと痛み出していたので、後ろ手はキツイなぁと思っていたのだが。

「せめて前にしといてやろう ロープじゃこうなっちまうわなぁ もう少し緩めとくからそれで勘弁してくれよ」

アニキのお陰でキツい態勢だった後ろ手が前で縛られることになった。随分楽になった気がする。

小声でありがとうと言うと、アニキの身体がビクっと震えてこちらを振り返った気配がした。

「?」

「いや……なんでもねぇ ほら歩け」

アニキに連れられて、元居た場所に戻ってくる。またジメっとしたマットレスの上に腰掛けさせられた。

「アニキィ 俺、ちょっとたばこ買いに行ってくるわ 切らしちまってよ」

「そうか、そんじゃちょっと食糧も調達してきてくれよ おっさんは?」

「隣の部屋で寝てる んじゃちょっと行ってくるわ」

そう言って子分が出て行くと、部屋の中はやけに静かになった。

たばこに火を付けたらしく、たばこの煙の匂いが辺りに漂う。


「お嬢ちゃん」

「なんでしょう?」

「なんていうか……あんた、すげぇよな 俺がガキの頃にこんな目にあってたら、泣き喚いてると思うぜ」

そりゃそうでしょう、わたしも中身がこうじゃなかったら、冷静でいられる自信ないもん。ここはなんて答えるべきなんだろう?下手に刺激するのも得策じゃないと思うし……。

「心配しなくとも、ちゃんと家には帰してやるよ あのおっさんには手出しさせねぇから安心しな」

「ありがとう」

「礼を言われるようなことはしてねぇよ あんた、度胸もあるし、大人になったらいい女になるんだろうなぁ」

それはどうだろう?自分でも自信がない。

「俺らは、一体何やってんだろうな……」

アニキは性根まで腐った人間というわけじゃなさそうだ。ノリでやっちまったって口なのかな、それならまだ立ち直る余地はあると思うんだけど……。

それきりアニキは黙ってしまった。


....................................................................................................


「一人出てきた」

「後を付けろ」

無言で勇仁が音をたてないように車から降りる。


男は辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いて行く。一番近いコンビニまではここから徒歩で20分ほどか。勇仁は慎重に男の後を付けながら、捕らえる機会を伺っていた。

あまり廃屋から離れると運ぶのも面倒だと、勇仁は背後から襲いかかる。頸部に手刀を打ち込むと呆気なく男の身体は膝から崩れ落ちた。

「なんだよ もうちっと手応えある奴らかと思ったのに」ブツブツ言いながらも猿ぐつわをさっと咬ませ、目隠しをすると、手早く両手両足を縛り上げ、軽々と男を担いで来た道を戻って行く。


バンの後ろを開けて、男を放り込むと、慎重に扉を閉めて前に乗り込む。

「いっちょ上がり」

「ご苦労だったな それで、わかったことは?」

「あ……」

「まさか、聞く前に倒したのか?」

「へへへ……」

「はぁぁ~……」

誠一郎はがっくりと肩を落とす。勇仁は手練れだが、思考回路までが筋肉で出来ているらしく、後先考えずに行動することが多い。結局、歳三が二階に忍び込んでファイバースコープを仕掛けるまで、何もわからず仕舞いだった。


歳三が仕掛けたファイバースコープの映像を見る限り、真莉亜は無事だが、頭からすっぽりと布を被せられているようだった。捕らえた男がうめき声を上げたので、勇仁が器用に後ろへ移動して猿ぐつわを外す。

「な、なんなんだよ!お前ら、こんなことしてただで、グフっ……」

「おい、あんまり手荒な真似はするな」

「チッ……わーったよ で、お前らの仲間は全部で何人だ?」

「な、なんのことだかさっぱり…ガハっ」

「……おい……」

「わーってるって 素直に話してくれりゃあいいんだよ、な?身代金目的で誘拐したんだよなぁ?」

勇仁は凶悪な笑みを見せながら男に話しかける。

「……てめぇらサツか?」

「サツがこんなしち面倒くせぇことするかってんだよ オラ吐けよ 身体に聞いたほうが早えぇか?」

「我々は警察ではない だが、お嬢様の身に何かあったら容赦はしない」

誠一郎の凛とした声が車内に響く。

「へぇ……金持ちってのはすげぇんだなぁ……」

「変なとこに感心してねぇで、さっさと吐けよ サツのほうがマシだって、こいつに教えてやったほうがいいんじゃねぇか?」

勇仁の言葉に男の顔色が変わった。


「三人だ……」

「は?」

「俺を含めて仲間は三人、一人は俺が施設ん時から頼ってる兄貴で、一人は飲み屋で知り合ったおっさん」

「なるほど、それで?」誠一郎が続きを促す。


「兄貴はあんま乗り気じゃなかったんだ……俺が、ヤバい奴らから金借りちまって……そんで……たまたま飲み屋で金の話してたら、変なおっさんが絡んできて、金持ちから金を巻き上げようってことになって、そんで……おっさんがすげー乗り気でさぁ…俺らも後に引けなくなったっつーか……」

「そのおっさんてのはどこの誰なんだ?」誠一郎が男に問いかける。

「わかんねぇ 自分のことはあんま喋んねぇし、あ、でも、会社が本城のせいでどうとか言ってた気がする」その言葉に、歳三が反応する。


「本城のせいで会社が潰れた、お陰で妻子も出ていった、か?」

「そう言えば、そんなことも言ってた気が……あ」

「なんだ?」

「あんたらんとこのお嬢ちゃんを殺しても殺し足りないとかなんとか言ってたぞ?」

「「「何?!」」」三人は一斉に男のほうを見た。

気配が伝わったらしく、男は震え上がった。

「お、俺が言ったんじゃねぇよ、それに俺らはお嬢ちゃんを殺すなんてこれっぽっちも考えてねぇし」

「わかった、もういい」

誠一郎の合図で、もう一度猿ぐつわを噛まされた男は唸っていたが、勇仁に腹に一発入れられるとまた気を失ってしまった。

















長くなってしまったので、次話も続きます、申し訳ありませんm(__)m

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