2.魔王だって叫ぶんです
連日書こうとしたらまさかの風邪をひく……
みなさんもご注意を!
「……暇だ」
流れる汗をタオルで拭きながら玉座に座り、勇者を待つ私はあれから8時間も待機している。いや、いくら何でもちょっと長すぎないか?そのせいで今、人族で流行っているボビーざブートキャンプを2回もする事になった。
場面を録画&再生できる水晶には未だに褐色肌マッチョのボビーと相棒のミシェルが汚い言葉を吐きながらダンサーと共に踊っている。元騎士の運動を取り入れたダイエットプログラムらしいがこれがまた実に素晴らしい! 倒れそうになった所に汚い言葉を吐きかけられれば意地でもやりとげようとしてしまう。
魔王軍にも是非採用しようとしたらスケルトン達に泣きながら止められたので却下されたのだが…
水晶を止めて改めて入り口を見るが未だに勇者はやって来ない。道にでも迷ったのか?いや、それは無いだろう。きちんと看板も用意してるし魔王城の入り口にはパンフレットも置いてある位に親切設計にしたのだ。罠?そんなもの置いて配下が怪我をしたらどうするのだ。危ない物は撤去するに限る
「う~む……すれ違ったらマズイからおいそれと出るわけにも行かないしな……さて、困った」
魔王城には遠隔で中を見る事が出来ないしようにしてあるため、誰が何処にいるか分からないようになっている。一度アネスを探そうとして入浴中の彼女を見てしまった私はこの力を封じた。
私も性欲が無い訳ではないが直ぐに死んでしまう為に子供を残そうとは思わない。やはり家族や恋人を残して先立つのはしのびない。
できる限り性欲を発散する為に運動をしている私は昔と比べると体力がかなり違う。今では魔王城の端から端まで歩いても息一つ切らさないのが自慢だ
「あ~……風呂にでも入ろうかな? さすがに汗臭い体で勇者に会うわけにも行かないしな」
自分の体をクンクンと嗅ぎながらマントを脱ぎ、上半身が裸になった瞬間にドタドタと足音が聞こえてくる
「え!? ちょ、ま! 今? 今なの? く、空気読んでよ!」
私は慌ててタオルで上半身を拭い、マントを羽織って玉座に座り直し、部屋の照明を暗くし、ローソクに炎を灯す。
後は勇者と相対した時の口上を述べる為に噛まないように深呼吸っと! 勇者にとってはラストバトルなのでそれなりの演出をせねばならない。
勇者への口上が終わり次第に私の背景は溶岩が噴き上げ、玉間を飾りつける。そしてバトル中盤辺りで星々の空間を作り上げ、最後は花畑で終わる段取りだ。前回はこれが好評だったので今回は更に当社日二倍にしてみた。演出も完璧、準備も何とか整った! さあ来い勇者よ!
「……あれ? おかしいな?」
意気揚々と門が開くのを今か今かと待っているが勇者が来る気配が一向にない。ではさっきの音は何だったんだ?
私は玉座から離れ、門の前まで行き、耳を済ませてみるが何の音もしない
「何かあったのか? それともさっきのは幻聴?」
門を少し開けて外を除いた瞬間
「え!? ちょ、え?」
聖剣を握り締めて仰向けに倒れ付している男が目に入った
「あ、あの……ゆ、勇者さんですか?」
門からひょっこりと顔を出して勇者におっかなびっくり声をかけた私の心拍数は最大値にまで膨れ上がっている。
まさか…ね、まさかですよ? 恐る恐る門を開けて勇者の首筋に手を置くが脈拍が感じられない。
「し、死んでる!? な、何で? どうして!? こんな事今まで無かった!」
突然のイレギュラーに流石の私も混乱一歩手前である
「あ~…間に合いませんでしたですぅ」
「だ、誰だ!?」
後ろから聞こえたいきなりのおっとり口調の声に思わず振り向くとそこには
「……天使?」
「はい、そうですぅ。天使のサナエルと申しますですぅ。魔王さんにお手紙を持ってきましたですぅ。はい、コレですぅ」
と、サナエルと言う天使から手紙を預かるが……天使なんて生まれて初めて見た!実際にいたんだ。私、ちょっと感動!
「つかぬ事をお伺いしたい。この手紙は誰からかな?」
「決まってるじゃないですか。神様ですよ。まったく人使いならぬ天使使いがひどい神様ですぅ。……まあ、昔のジジイよりはいいですけど」
「か、神様からですか……開けてもいいですか?」
と、ちょっとダークモードになりかけているサナエルさんに聞いてみる
「いきなり開けると爆発する可能性もあるので気をつけてくださいですぅ」
「何その猟奇的な手紙!! 神様ってそんな方!?」
「嘘ですよ。 どうぞ開けてください」
しれっと嘘をつかれた私の心臓はもう爆発寸前ですよ? 天使ってもっとこう…まぁいいや。なんかもう疲れました。
恐る恐る封を切って中身を確認した所……ただ一言こう書いてあった
『がんばれ!』
「何をですかーーーーーーーー!!!」
私の心からの叫びが魔王城に響き渡った