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王家の花嫁~少女は王子のもの~  作者: 柚希
第2夜 婚約式
27/76

1:痛み

「もう時間あまりないのに、いつ起きてくださるのですかぁ?」

「わからないわ」

 人の話し声で、意識が覚醒する。

「……?」

 瞼を瞬かせ、眩しさに目を閉じる。

 ゆっくりと目を開き、瞬きをした。

(ここは――)

 見覚えのない天井。

 ベッドカーテンが片方人が通れる分だけ開けられていて、そこからちょうど窓の外が見える。

 空は青く晴れ渡っていた。

「――ったい」

 体中のいたるところが痛い。

 ファリーに教わったマナー練習が原因だった。夜にケアを怠ったために、全身の筋肉が痛みを訴えている。

 筋肉の痛みとは別に、腹部に鈍痛がした。

 膝蹴りをまともに受けた場所がずきりと痛む。手で支え、なんとか上体を起こした。

 痛みに堪えてベッドから立ち上がると、ベッドカーテンが勢いよく開かれ、仕切られた空間に外からの光が入り込み明るくなる。

「スティラーアさま!」

 コーラルはほっと安堵して美衣歌に駆け寄った。

 コーラルに続いてイアが顔を覗かせた。

「お目覚めになられてようございました」

 安堵の息を吐き出して、胸をなでおろす。

 コーラル、イアが部屋にいる。ということは。

 もう戻らないと思っていた場所へ戻ってきてしまったのだ。

 あの男。

 美衣歌のいるべき場所へ連れて行くと言っていた。

 ここが美衣歌のいるべき場所といいたいのだろうか。

「スティラーアさま、起きがけで大変申し訳ないのですが、お時間がありません」

 なんのことかと首をかしげる。

「今日は婚約式の日ですよ!」

「……えっ!?」

 納得しかけて、目を見開いた。

(うそ、でしょ!?)

 屋敷での出来事が、婚約式の前日。

 指折り日数を数えていたから間違いない。

 コーラルが美衣歌に告げたことが事実なら。

 フィリアルが宣言した日。美衣歌が召喚されてから7日目になる。

「スティラーアさま、お急ぎください。お式まであと一時間もありません。会場の近くに控室がありますので、急いで移動を」

 コーラルに促され、ベッドから数歩離れるが足が痛い。足裏から踵、大腿にかけてすべてが痛みを訴え歩くことができない。

「足腰とお腹、痛くて歩けないんです」

 乾いた笑いで、逃げ腰になる。

 式に出たくない。

 婚約は結婚をすることが前提で、この人となら生涯を共にしていきたいと思える人とするものだから。

 還りたい。還ることしか考えていない。

 婚約する覚悟は全然ない。

 動けないと言えば諦めてくれるだろう。そんな安易な思惑は第三者によって簡単に打ち破られた。

「ならば、わたしがその痛みを取り除いてあげましょう」

 窓を開け放ちながら、闇色の外套をまとった男が部屋に侵入してきた。

「誰!」

 コーラルが美衣歌を後ろに庇い誰何する。

「あなたは……」

 黒のローブの上からさらに黒の外套を羽織り、フードはかぶっていなかった。手には真鍮の杖が握られている。

 はしばみ色の長髪を後ろで縛り、同じ色の細められた目に睨まれた。美衣歌の隣で、予想だにしない事態に困惑していたイアが震え上がった。

 召喚された日に地下の一室で会った男。フィリアルにヒンツと呼ばれていた。黒いローブが印象的で覚えている。

「着衣に魔法の力を与えましょう。さすれば、痛みは除かれる」

 ヒンツはそれだけ告げると、呪を唱え出した。

「なにを! やめなさい!」

 コーラルが止めなければと伸ばした手は、男の周囲を加護する見えざる壁に邪魔をされ届かない。

 強くたたいても壊れない壁にコーラルは舌打ちをした。

「……魔法の壁とは卑怯な!」

 氷のように冷たい空気が美衣歌を包み込む。

 美衣歌の全身にあった筋肉の痛みがほどけていくように、無くなっていく。

 腹部の鈍痛も抜き取られたかのように、痛くない。

 喉に何かがつっかえるような変な感覚が一瞬あったが、それよりも肌を刺す空気に耐えられず、身体を縮こませた。

 ふっと、外気の生暖かい空気が美衣歌を包むころには体の痛みはどこにも感じられなかった。

「成功。効力は二時間。婚約式までは持つ。その服のどこか一部をドレスの中に隠して着ろ。効力は続く」

 ヒンツはフードをかぶり窓際に戻り、バルコニーの柵へ地面を一蹴りして上がった。

「出られないとは言わせない。これで問題は何もない」

 男はバルコニーから飛び降り、驚いたコーラルがバルコニーへ駆け寄る。三階から降りて着地に失敗したら骨を折るどころではない。部屋の下は花園があり、四季の花が咲いている。中には棘を持つ花も植えられている。

 柵に手をかけ下を覗くと奇麗な庭に咲き乱れる花が風に揺れている以外誰もいなかった。

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