あなたをプロデュースします。
――午後四時三十五分。
決まってこの時間になると彼女は現れる。
「高木先生! 」
今日もいつも通り彼女は私の名を呼び、走ってきた。
彼女は西国総合医療大学病院の附属母子医療センターの中に店舗を置くコンビニでバイトをしている須藤由夏である。彼女は元々、ここの病院の小児科と私のいる歯科にも通院していた。
という事で私の職場と言ったらいいのであろうか?
私の職場の近くで彼女は高校に進学すると同時にバイトを始めた。
それでバイトの終わる午後四時三十五分、決まってこの時間に歯科の受付に来るのである。もはや最近では日常化してきている。
「高木先生! 」
今日も明るくハツラツとした声の持ち主、須藤由夏が歯科に来た。時計の針は午後二時四十三分……
いつもより約二時間早い。今日は金曜日、学校は無かったのであろうか?
「由夏ちゃん、今日学校は? 」
疑問に思い、彼女に質問した。
「あ、もう冬休みなんですよ! 」
彼女は元気にはっきりと答えた。
「それより……」
彼女は少し俯き、顔を赤らめ一呼吸置くと、急に……
『あなたをプロデュースします!』
と、いい放った――。
「ん、どういうこと?」
正直に聞き直してしまった。
プロデュースされる覚えは、はっきり言って皆無である。
「高木先生、片思い中ですね? 」
「……って、あのねぇ。」
女子高生に図星を突かれ僅かに動揺してしまった。
「取り合えず明日は土曜日、診察は午前のみですよね! 」
彼女はハキハキとした口調で問いかけてくる。
「詳しいことは後で話します! 」
それだけ言うと彼女は急いで去っていった。
「高木先生! 随分待ったんですよ。」
職員通用口で会ったのは言うまでも無い須藤由夏である。
「どうしたの、わざわざ待ってたの? 」
何だか追っかけをされているような気分である。
悪く言えば紛れもないストーカーであるが……
「昨日の約束、忘れたとは言わせませんよ……? 」
というと彼女は私を職員駐車場まで強引に引っ張って行った。
「さぁ、高木先生の車はどこですか。」
「あ、あそこのシルバーの軽……」
と答えると彼女は「じゃ、行きましょ! 」と行って私の車に乗り込んだ。
何となく瞬時に考えてみた。
私は歯科医師であり彼女は元患者……。
彼女と私が車に乗り込んで話しているところを誰か他の看護師または医師に見られたとしたら……
あまりに最悪すぎる!
というか責任問題にまで発展しかねない――。
とにかくこの場をどうにかしなくてはならない。
「あ、高木先生お疲れ様です。」
声の主は同じく歯科医師の黒川祐也だった――。
この時、私の頭の中は最良の言い訳を考え出そうと脳がパンクしそうなほど高速で物事を処理していた。
そして出した答えは『石になる』という考えであった。
「あれ、由夏ちゃんどうしたの? 」
見つかってしまった! 遅かった――。
「高木先生の片思いを両思いにさせるべくプロデュースするんですよ! 略してタカプロっ! です。」
と彼女はまた余計なことを口走る。
「へぇー、タカプロっ! 面白そうだね、まずは何をプロデュースするの? 」黒川が何気なく彼女に質問した。
「まずは、ここです! 」と言い彼女は私の目元を指差す。
正直言って、ここです! とは何処のことを指しているのか
さっぱりわからない。
「ここって何処を……」
と言っている間に頬に何か冷たいものが当たった。
メガネのフレームだ。
「え、メガネは無いとあの……」
と私がブツブツと小さな声で反論をしていると
「高木先生? これ度が入って無いじゃないですか! 」
とアッサリ言われてしまった。
彼女の言葉に便乗し黒川まで
「メガネ無いとなんか、スゴい格好いいというか……」
と言い出した……。
何なんだこの状況……。
「じゃあ、明日からメガネ無しで行っちゃいましょう! 」
「え……」
まだ何も言っていないが『メガネ無し』の方向で決まってしまった……。
こんにちは。
初投稿で『? 』と思うところもあると思います。
最後まで読んでいただけると幸いです。
第一話を読んでいただきありがとうございました。