活動記録1
コンコン。
ノックの音が響きます。
ノックをしたのは植木風作。
高校2年生の男の子です。クラスの男子からはフーサク。女子からはフウちゃんと気軽に呼ばれています。
そんな普通の高校生の彼ですが、クラスメイトに秘密にしていることもあるのです。
風作は普通の高校生。
人には言えないことの一つや二つあるでしょう。
秘密はさておき彼の姿を説明しましょう。
黒に近い濃紺のブレザーとズボンをまとい、これまた同じく黒に近い濃紺のネクタイを締めていました。
彼の通う高校の制服です。
外側が少しだけ吊り上がっている真っ黒なサングラス。
サングラスは制服に含まれません。
もちろんですね。
彼はこれまた黒い手袋をはめた手でネクタイを緩めてみました。
ワイシャツのボタンは外しません。
真面目だからではありません。
皮の手袋だからです。
手袋をつけてボタンを外すのは大変です。
コンコン。
もう一度ノック。
ただその音は広い廊下と毛足の長い絨毯に吸い込まれてしまってあまり長くは響きません。
彼がいるのはさわやかな空気に満たされた避暑地の別荘。
白くて大きな神殿みたいな別荘です。
季節は春。
時間は午前11時。
太陽が真上に登りきる前の空がとっても青い時間です。
広くてきちんと手入れがされた庭。
そこを美しい花々と蝶や蜂がいろいろな色で飾っていました。
彼はその別荘の2階の一番奥の部屋。
こげ茶色の分厚いそのドアをノックしていたのです。
なぜかって?
それは中に入れてほしいから。
それでも中から返事はありません。
彼はドアを見つめながら腰に着けた革製の黒くてしっかりとしたホルスターから水鉄砲を引き抜きました。
水鉄砲です。
水鉄砲はよく玩具屋で売られているような子供向けの透明で黄色い物。
知らない人が見たらただの玩具にしか見えないでしょう。
その水鉄砲にはラベルが貼られていました。
「ミルク」
そのラベルには言葉が一つ書かれていました。
風作はいつでも撃てるように水鉄砲の引き金に人差し指をかけました。
やる気です。
そして腰を折り曲げドアとドアを支える隙間、ドアノブから左に伸ばした延長線上の辺りを覗き込みます。
ドアに鍵がかかっていないことがわかりました。
彼はドアの左側の壁に背をつけますと左手をドアノブにかけました。
息を整えながら頭の中で数字を思い描きます。
カウントダウン。
3、2、1
彼はほんのわずかな隙間が出来る程度にそっとドアを開けました。
微かに聞こえる音楽は恋に落ちた二人にお似合いの甘い様子で続いています。
標的はイヤホンで音楽を聞いているんだな。
そう判断した彼はより詳しく中を見ることにしました。
ブレザーの内ポケットからボールペン状の金属製の棒を取り出しますとその金属製の棒を素早く伸ばしきりました。
わずかに開かれたドアからゆっくりと挿しこみます。その先っぽには小型の鏡が付いていました。
鏡に映る標的の後ろ姿。一人がけのソファに腰を置きながらも、標的の前の大型テレビを覗き込むように前のめりになっています。
大型テレビの画面の中で、やさしく微笑む青年の美しい顔が大きく描かれていました。
その青年の胸元辺りには文章が映し出されています。
食い入るように微笑む青年の姿を見ている風作の標的です。
その姿をくわしく見てまいりましょう。
少女です。
真っ直ぐに腰の辺りまで伸ばされた緑の黒髪。頭には同じく黒い耳。
まるで猫の耳のようです。
そしてゴスロリファッションのドレス。
標的は10代前半。彼はそう聞かされていました。そう聞かされていなかったとしても後ろ姿を一目見ただけでそう判断したことでしょう。
部屋の中に彼女以外に人影はありません。
『なるほどね。お楽しみの最中ってわけか』
彼は心を決めてドアを開け放つと叫びました。
「お楽しみはそこまでだ! 子猫ちゃん! そのゲームは君にはまだ早いぜ!」




