その時はせめて
今にも崩れそうな橋の上で
僕は、僕は君に追いすがる。
震えた声で叫びながら。
しかし、君は歩みを止める事は無く。
そうだ、僕は怖かったんだ。
去っていく君の背中を見つめながら。
僕の心は今にも崩れそうで。
だけど君は立ち止った。
僕の声が聞こえていないかのように。
橋の下を流れる川の遠くを見据えて。
橋は今にも崩れそうだった。
僕の心と同じように。
風化して脆くなる。
そうだ、僕は怖かったんだ。
本当の事を知る事が。
君の口が開く事が。
真実を語る事が。
君はただ一言で答えた。
僕が待っていた、いや恐れていた言葉を。
君は紡いでしまった。
その通りだと。
彼はそう言った。
今にも崩れそうな橋の上で。
僕は君に掴みかかった。
君が彼女を殺した。
君が彼女を殺したんだ。
君が彼女を幸せにすると言ったから。
僕は君に任せたのに。
彼女は君の傍に居る時が一番輝いていた。
彼女は君を愛していたのに。
つまりはそう言う事だ。
つまりはそう言う事なのだ。
俺が憎いのか。
そう言って君は笑った。
何度も見て来た笑みだった。
まさか憎める訳が無い。
彼女の最期の顔も笑っていた。
今は僕も笑っていた。
君もそれは知っているだろう。
つまりはそう言う事なのだ。
君に殺されて彼女もきっと。
今にも崩れそうな橋の上で。
僕らは笑っていた。
僕らは別れを告げた。
僕らは笑いながら。
彼女は君の中で呪いとなった。
彼女は僕の中で楔となった。
彼女は僕らの過去になった。
彼女の最期の顔は笑っていた。
僕らはただ笑っていた。
彼女の最期の顔は笑っていた。
本当は僕が殺したかったのに。
僕が殺すべきだったのに。
その時だけはせめて。
君を忘れられるように。
僕だけを思えるように。
だけどもう。
彼女は永遠に君のもの。
この笑いが止んだ時は。