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故郷  作者: 丸虫52
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第二の故郷

 国を発つ前に僕は先生を訪ねて、自分の思いを打ち明けた。

 先生は、

「そうか」

 と言ったきり、長い間黙り込んでいたが、

「どこへ行っても、お前の故郷はここだぞ。忘れるな」

 と、テレビドラマそこのけの気障な台詞を言った。

 相変わらずだな――僕は懐かしさと、嬉しさと、そして少しの寂しさを抱えて国を離れた。


 砂漠の人達は僕を待っていてくれた。

 僕は彼らと行動を共にしながら、写真を撮った。それらはかなりの評価を得ていたようだった。


 戦争は相変わらず続いていた。僕達はそれを避けるように移動し、戦争は僕たちを追いかけてきた。


 ある日、僕達のテントのすぐ近くで爆発があった。無差別空爆だ。

 僕達はテントをそのままに、とるものもとりあえず逃げた。さっきより近くで、また爆発が起こった。僕達は地面に伏せた。

 その時、僕は大切な物を忘れた事に気づいた。

 カメラ……! 先生から貰ったカメラ! 今ではもう使う事は無いけれど、お守り代わりにいつもバッグに入れて持ち歩いていたカメラを、バッグごとテントに置いて来てしまった!

 僕は立ち上がると、テントのあった方向へ駆け出した。後ろから悲鳴に近い声が追いかけてきた。

「先に逃げていて! すぐ後から行くよ!」

 顔だけ振り返って、僕は叫んだ。僕の愛する少女の顔が恐怖に歪んでいた。


 ――それが僕の最後の記憶だった。


 駆け戻る僕から1mも離れていないところに爆弾が落ちて、僕の体をコナゴナに砕いてしまった。僕は死んでしまったのだ……。


   ◆◆◆    ◆◆◆


 気がつくと、僕の意識はしっかりと残っていた。


 目の前(肉体があった時の感覚で)には、青に白の混じった球体――地球。僕の意識は地球の衛星軌道に浮いていた。

 ――幽霊になった?

 そう思ったすぐ後で、その考えが間違っていた事に気づいた。

 確かに、肉体は無い。しかし感情はあるし、考える事もできる。


 なぜだろう?


 ふと、僕は死んだ母の言葉を思い出した。母が僕を身籠った時の事だ。

 母の体を通り抜けていった何か(・・)――あれは何だったのだろうか?

 生きている時、肉体を持っていた時は思いもしなかった考えが浮かんだ。

 ――精神生命体。

 僕の父親(母を妊娠させたモノ)は、形の無い生命体だったのではないだろうか? 地球上の生命ではなく、広い宇宙のどこかからやって来た、人間とは異なる生命体だったのではないだろうか?


 そんな事を考えていた僕は、死ぬ直前のことを思い出した。

 無差別空爆に逃げ惑っていた、僕の愛した少女とその家族――僕は慌てて彼等を探した。

 いた!

 彼等は相も変わらず砂漠にテントを張って、暮らしていた。

 僕はホッとした。もしかしたらもうすでに死んでしまっているのかもしれないと、思っていたのだ。

 戦火は彼等の近くにまだあったが、とりあえず彼等は無事に暮らしていた。


 その後、少しでも彼等の側へ行くために何度か地上へ降りようと試みたが、すべて失敗した。衛星軌道上なら、東西南北どこでも自由に動けるのに、それ以上下へ降りる事ができない。僕は衛星軌道上に浮いている事しかできないのだ。何かしたくても肉体が無いから、何もできない。

 それからの僕は、砂漠の民を見て過ご事しかできなかった。


 やがて僕には時間すらない事がわかった。


 地上にいる人々は年を重ねているのに、僕には何の変化も無い。肉体が無いのだから当たり前といえば当たり前だが……。

 僕は自分が愛した少女が女性になって、僕以外の男を愛するのを寂しい思いで見ていた。

 僕は死んでしまって、彼女に何もしてやれないのだから仕方が無い。彼女が幸せならば良いじゃないか――僕は自分だ自分を慰め、納得させた。


 そのころの僕は、自分の本当の姿について何も知らなかった。

 僕が見守っている人達と同じように、危険がすぐ側にあるという事に気づいていなかった。仮初めの平和に満足していたのだ。

 それがわかったのは、僕にとって実にショッキングな出来事のせいだった。


 彼女が死んだ。殺された。

 僕の愛した女性が、僕の目の前で、『戦争』と言うバケモノに殺された。

 僕はパニックに陥った。

 何故、彼女が死ななくてはならない? 彼女がいったい何をした!


 その時僕は、自分をコントロールできなかった。


 何のために彼女を殺したんだ!

 僕のたった一つの心の拠り所を!

 怒りに目の前が真っ白になった!


 そしてそれが起こった。


 その瞬間、僕は何か叫んだのかもしれない。何かを望んだのかもしれない。けれど怒りに支配されていた僕は、その時の事を覚えていない。


 我に返った時、たった今までそこにあった赤い不毛の大地が無くなっていた。そして代わりに深い大きな穴が開いていた。

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