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05 後編

更新が大変おそくなり申し訳ありませんでした。

今回は作中にてチャット会話文があります。

ハンドルネーム表示、チャット文字での「w」の使用などがあります。

嫌悪感を抱く方は、申し訳ありませんがブラウザバックでお願いいたします。

 ニジュマル《そのさん、いますかー?》


 私が話しかけたのは、昔から馴染みのあるギルドメンバーの一人で、ハンドルネームを《そのたん》という社会人の年上女性だ。

 もうあと一人、女性のメンバーがいるのだが……あの人に身なりのことを相談しても意味がないだろうから、今回の件には適さない。候補からは除外させていただいた。


 反応は間を置かずに返ってきた。


 そのたん 《なあに?》

 ニジュマル《今お時間よろしければ少々ご相談したいことがあり候》

 そのたん 《かしこまってどうしたのw 嫁か? 嫁のことだろww》


 ギルドメンバーから、私たちは必ずと言っていい程セットで扱われる。まさにその通りなのだが、冗談でもセットの扱いが過ぎる。つまり、遊ばれる。

 一々反応を返せばそれだけ相手の思う壺だとわかっているので、時間のあるとき以外は付き合わないようにしている。


 ニジュマル《毎度のからかい文句はスルーさせていただぎす。月に洋服はどのくらい購入されますか?》

 そのたん 《唐突だなw》

 ニジュマル《人生は何もかも唐突なものです。地震あり雷あり火事あり親父どうでもいい》


 間違っても「嫁と買い物にいくのですがリアル嫁が高レベルイケメンすぎてこちらのレベルが足りません。釣り合うための装備を教えてください」なんて聞こうものなら「最初からkwsk(くわしく)」とかいって、要らぬことまで聞かされ教えられ、の朝までコースに違いない。

 頼れる良い人ではあるんだけどね。


 そのたん 《んーそうだねえ…欲しいときに買う、これに尽きる。マルちゃんもお洋服に興味がでてきちゃったかしら? オススメのショップ教えようか!》


 ちなみに私のハンドルネームはニジュマルという。

 三浦潤→miurajun→nijumaru→ニジュマル、と安直なアナグラムからつけた名前だ。

 ネットを始めた当時は携帯獣も好きだったが、世界一売れた児童書にもはまっていたのだ。

 仲間内からは丸やマルちゃんと呼ばれている。ラーメンはよぉと言われても出せません。


 ニジュマル《何もかも見通すようなその黒い眼差しにニジュマルは逃げることができない!》

 そのたん 《新しいお洋服着てどこにいくのかなー? 興味あるなー? チラチラ》

 ニジュマル《おおっと揺るぎねえ。誤魔化されないそのさんパネェっす》


 くっ、やはり曖昧な言葉で交わすのは無理があったか。さすがに長年の付き合いなだけはある。


 ニジュマル《ちょっと友達と遊びに行くだけですよ。さすがに高校生になって、ウニクロがマイベストなのはどうかと思った所存です》


 事実しか言ってないよ。真相は語らないだけ。


 そのたん 《ウニクロいいじゃん!ウニクロだけ着るから変なんだよー》


 え、そうなの?

 もとはといえば、私のタンスの中に入っている服の中で一番マシだったのがUNIQLOだったことに絶望したのが始まりだった。

 ただでさえ不細工な自分を、なんとか一緒にいても恥ずかしくないくらいに整えねば、旦那としての威厳に関わる!


 というのは言い訳で。


 実際は、彼と普段着の自分が一緒に遊びにいくのを具体的に考えてみたのだ。

 想像するのは容易かった。釣り合わない。

 わー恥ずかしいわ。これはないわー。

 これだから後先考えず返事をすると痛い目を見る。自業自得ですね、わかります。


 ニジュマル《とりあえず、高校生っぽい服装でアドバイスお願いします……》

 そのたん 《マルちゃんってスカート持ってる?》

 ニジュマル《そんな軟弱者が穿くようなものは武士として許されざることでして云々かんぬん》

 そのたん 《よし、スカート買え》


 おおっとまさかの購入命令!?


 そのたん 《足って出さないとどんどん太くなっていくからね》

 ニジュマル《先生、すでに大根は美味しそうに太く瑞々しく育っています》


 とうの昔に手遅れです、はい。

 この足にできることは、潔く出荷を待つのみです。ドナドナド~ナ~。


 そのたん 《そうだ、制服はスカートだから足出してるはずだよね。……まさかジャージ穿いてる?》

 ニジュマル《私がこの高校を選んだのは自由服だからです(キリッ》

 そのたん 《学校にズボンで行っているだと……ゆるさん! ゆるさんぞー!!》

 ニジュマル《ジーパンは年中無休で活動中だぜ!! ヒャーハー!!》


 厳密に言えば、毎日ズボンで通っているわけではないけど。

 体育がある日や行事がある場合は制服で登校している。制服だと入りづらい場所への寄り道もさることながら、夏場は特に私服登校はありがたい制度だと思う。汗や洗濯の都合が効くからな。


 そのたん 《とりあえず、マルちゃんはスカートを買うこと》

 ニジュマル《あふん》

 そのたん 《いきなり足出したくないなら、レギンスとか中に履けばいいし》

 ニジュマル《なにそれ強そう》

 そのたん 《別にSTR(こうげきりょく)上がったりはしないからね。薄いスパッツみたいなもの》

 ニジュマル《足装備なのはわかった》


 適当な用紙を買い物リストに、スカートとレギンスをメモする。


 そのたん 《クラスのお友達でもいいから女子力高そうな子にお買いもの付き合ってもらいな?》

 ニジュマル《それができたら相談に来ませんって……!》


 最初はそれも考えた。

 けれども、私をよく知っている人たちだからこそ、この女子力皆無な私が服装の話題を出しただけで怪しむに違いない。

 とくに友人には知られるわけにはいかなかった。相手が悪い。ここは慎重にいくべき。


 そのたん 《じゃあ私御用達の通販サイトを教えてやろう。ちなみにノット、ウニクロだからね》

 ニジュマル《きゃいん!》


 チャット画面に張られたURL先のカタログを見ながら《このカットソーに合う色と形は……》やら《おすすめはこっちので、値段も……》など解説を交えながら見ていく。なるほど、わからん。

 うわっ! スカート一枚に一万以上とかするのね。どういうことなの。

 あんな短い布きれにコート並みのお値段とか……購入者は違う世界の人種か。そう思うことで納得した。貧乏人で悪かったな。

 全く理解が足りてない私のために、そのさんが放った究極のお言葉がこちら。


 そのたん 《この時期だったら花柄履いとけば間違いないから》


 は、花柄だと……!?

 確かに選びやすくはなったが、スカートを履きなれていない人間にいきなり派手なのは抵抗感がすさまじいのですが!!


 ニジュマル《一気に難易度あがりましたね先生!!》

 そのたん 《大丈夫。結構柄多くても色が地味ならそんなに浮かないよ》


 地味目で花柄……。


 ニジュマル《……ズボンではだめですか?》

 そのたん 《スカートだと言っただろう》

 ニジュマル《あべしっ!!》

 そのたん 《上はウニクロのシャツでもいいからとにかくスカート!》

 ニジュマル《へ、ヘイ親びん……》

 そのたん 《あと、ベルトと帽子もいっておこうか》

 ニジュマル《ちょちょちょ、待ったあああ》

 そのたん 《あ?》

 ニジュマル《そこまではご勘弁を……平に、平にっ!!》


 スカート一枚の講義に費やした時間はおよそ一時間半。

 これ以上項目を増やしても、時間と脳の許容量の無駄に違いない。

 というか、まず私がそこまで追いついていかないのでムリ!!


 ニジュマル《ショッピング初心者には一つで充分です……》

 そのたん 《しかたないなー。そのかわりに、ス カ ー ト だからね^^》

 ニジュマル《笑顔が脅迫に見えるのは気のせいですか?》


 最後に色味と丈について事細かく念押しされて、飛び込みお悩み相談はお開きとなった。


 そのたん 《買ったら写メ送ってもらうから。ごまかせないからね?》

 ニジュマル《提出義務だと……!?》



 翌日の放課後。昨晩のうちに予め決めておいた店に向かう。

 一人で来店すると、十中八九店員に話しかけられると聞いていたので、早々に目に付いた花柄のスカートを持ってレジへ直行。

 さすがにカタログで見たような高い値段を言われたらストップをかけようと、精算中ドキドキしながらバーコードを通すのを見ていたが、杞憂に終わった。

 お値段、意外にも2980円と予想外の安さ。これなら問題あるまいと軽い足取りで帰宅した。

 途中、レギンスの存在を思い出し、戻るのを渋った私は結局行きつけのユニクロを頼って購入する。

 これをスカートの下に履くのか……?パッツンパッツンやぞ。大丈夫か?

 あ、でもAGI(かいひりつ)はちょっと上がりそう。


 家に帰ると真っ直ぐ脱衣所へ直行。洗濯機の中にスカートとレギンスを入れる前に、携帯でパシャリ。忘れないうちに、その場でそのさんに報告メールを送った。


 《To:そのさん

  title:ミッションコンプリート

  本文:隊長、報告します。レギンスとやらで、AGI(かいひりつ)が上がる予感》


 余談だが、我がギルドメンバーは全員携帯のアドレスを交換済みである。

 突然人手が足りない場合や、面子が揃わないことがある時に便利だからとの理由でだ。最近ではもっぱらネット麻雀の呼び出しに使われることが多い。

 洗濯機を回し、ついでとばかりに風呂掃除を始めていると、ポケットでメールの着信を知らせる音が鳴る。


 《From:そのさん

  title:Re:ミションコンプリート

  本文:貴様これがスカートに見えたのか……? ほう。帰ってきたらカタログ見直して復習だ。

  ※レギンスでAGI(かいひりつ)は上がりません》


 なん、だと……!?

 メール内容に驚愕した私は、すでに濯ぎに入っている洗濯機の蓋を開けて、荒れ狂う波の中から目的の物を慌てて引っ張り出した。

 水分を吸って重いスカートを広げてまじまじと見る。まさにどこからどう見てもスカートだ。どこがおかしいのだろう。

 不思議に思ってヒラヒラと手前に振ってみる。すると、ちらりと見えたスカートの中身。

 …………中身?

 パラリと捲ってみると、あら不思議、そこには足を通す二つの穴が。


 うん、最近のキュロットって凄いんだね。どこからどう見てもスカートにしか見えないよ。

 まあでも、買ってしまったものは仕方ない。現状、まともな服が他に無い以上、これで行くしかあるまいし。

 本音を言うと、スカートを履くという大儀がなくなり私は安心していたり。


 これだけ張り切って身なりを整えてしまう辺り、私も嫁との外出はまんざらでないのかもしれない。

 変な方向に気を張ったようにも思えなくは無いが。結果的に見れば、私にしては上々だと思う。

 戦装束は調えた。あとは合戦当日に備えて体調を万全に整えるだけ。

 自然と上がる口角。週末の予定に逸る気持ちを抑えつつ、嫁との通話のためにわざと平常心を装う。


 「ただいま」

 『おかえり~。あれ、なんだか機嫌いいね。なにか良いことあった?』


 一発でバレました。

 当日まで大丈夫か、私……?

11/18 一部改稿

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