発火能力
良ければ読んでやってください。
「なあなあ、春乃。見てみろよほら」そう言って隣の席に座る蒼汰は手の平を上にしていた。その上には洋ナシほどの火の玉が揺らいでいた。
「なあ、すげーだろ!?」蒼汰は目を輝かせてこちらを見てくる。だが一つだけ言っておこう。今は数学の時間だ。化学の時間ではない。それにほら、教科書に飛び火しそうになってるぞ。早く消せ。
「そうかな?火だったら私も使えるよ。放課後見せてあげるから今日うち寄っていきなよ」
そして、放課後になると蒼汰は急かすように言った。
「早く帰ろうぜ!で早く見せてくれよ!火!」蒼汰は待ちきれないという様子だった。
「ちょっと待ってよ。今用意するから」あたり前だが私は蒼汰のように火を掌に創出することなんてできない。いや、私以外の誰であってもできないだろう。きっと今これを読んでくれている、心優しきあなたであってもそんなことはできないだろう。できるなら教えてほしい。
正直なところ帰る頃になったら蒼汰は私の発言なんて忘れているだろうと思った。だが、いつもならすぐに忘れてくれるのに、今日に限ってそんなことはなかった。そして、そうこうしているうちに家についた。だがもうここまで来たらやるしかない。決して蒼汰に自分が凄いと気が付かせてはいけない。だってどう考えてもその力を持っていることが世間に知られたら、面倒事に蒼汰が巻き込まれてしまうに違いない。でも蒼汰はきっとそんなこと考えない。おそらく自分の凄さに気が付けばそのことをネットに載せるに違いない。普段から有名になりたいとか、ユーチューバーになりたいとかそんなことばかり言っている奴である。私としては小学校からの幼馴染がいまだにそんなことを言っているのは残念に思えるが、それよりも蒼汰の身に何かあってほしくない。
「じゃあちょっと待ってて」そう言って私は家からライターを持ってきた。
「ほら、私だって火が使えるでしょ?」そう言ってやった。だが蒼汰は不満そうな顔をした。
「いや、でも俺は手から直接出せるんだよ?・・・もしかしてこれってすごいことなんじゃ・・・」蒼汰が自分の手を眺めているときに私はそれを否定した。
「確かに、手から火が出るのは分かったけど、それどうやって使うの?例えば料理とかで使うの?コンロがあるのに?それか花火とか?花火だったらもっと勢いもあるし、それに綺麗だよね。使い道のない火に意味なんてあるの?多分だけど蒼汰がその力をむやみやたらに使ったら、火事になって多額の損害賠償を払うことになるだけだと思うよ?そうじゃない?」それを聞いて蒼汰は掌の火を消した。
「確かに、春乃の言う通りかもな。俺、料理なんてしないから火なんていらないし。花火とかだったら一瞬で燃やして楽しめないかも・・・」
「そうそう。蒼汰普段火を扱うことなんてしてないから、たぶんケガするよ。それにほら、料理とかだったら私がしてあげるからさ。またおばさんいないときに家に来なよ」蒼汰はそれを聞いて顔をあげた。
「分かった。確かに人に火傷さしたりするかもだしな。この力は使わないようにする」蒼汰はもう飽きたと言わんばかりにテンションが元に戻った。
「あっ、そういえばさ、日曜日母さんいないからごはん食べにいっていい?」蒼汰が聞いてきた。
「うん。別にいいよ」そう言うと蒼汰は満足したように笑った。
「それじゃあ。帰るわ。じゃあまた明日な」手を振って蒼汰は3つ先の自分の家に向かった。
「うん。また明日ね」
そうして今日という一日が終わっていった。良かった。蒼汰が火を使うことに目覚めてしまったらきっと火を自分の周りにまとったり、中二病の見本市のようなことをしでかすに違いなかった。小さいころから一緒にいるから分かる。また将来それも近い将来きっとまた蒼汰は別の能力に目覚めるだろう。だけど今日みたいに阻止しないといけない。蒼汰のためにも。
ありがとうございました。