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3話 持病の浮気癖

 エイドリックが《《持病の》》浮気癖を拗らせて、厄介ごとを持ち込んでくるのは、今回が初めてではなかった。


 女性たちの姿はその時々によって異なり、人数や表情も変わるが、どれもが共通していたのは「愛ゆえの執着」を体に纏い、エイドリックを取り囲んでいるということだ。


 最初にこれを目の当たりにしたときは、フォルトゥナも両親も衝撃を受けた。


 エイドリックが何故そうした行動に移ってしまったのかについてはフォルトゥナもその一端を担っている自負があるので強くは言えないが、理解するには時間がかかった。


 しかし、次第にその光景に慣れ、衝撃が薄れていったのも事実だ。


 今では、フォルトゥナも両親も、ある意味で諦めに近い気持ちでエイドリックを後ろの彼女たちを風景のように放置しておくことにしている。というのは、以外にもエイドリックは「彼女たち」からの影響を受けにくいらしく、多少の事故だったり原因不明の発疹に悩まされたりすることはあったらしいのだが、ほどなくして解決してしまっていたので、今回のようにファルソン夫妻が思い悩むまでには至らなかった。


 頭の痛い問題で、何としても更生させたいという気持ちはあっただろうが、今回のように深刻な事態を引き起こすまでではなかったので、なまあたたかく見守っていたというのが実情だろう。


「困った方だこと」


 苦しげに呻くエイリックの額から滑り落ちた温かくなった布を手に取ると、氷水が張られた陶器の器に浸して絞って顔の汗を柔らかくぬぐってやる。


 ほんの少しだけほっとしたように表情が緩み、荒かった呼吸が少し落ち着きを取り戻したようだ。


 医師が処方したのは熱さましの薬だけなのだが、それがようやく効いてきたようである。


 フォルトゥナは、寝台脇の椅子に座わりなおした。


 彼の苦しそうな顔を見つめながら、冷静にその周りを取り囲む霊たちを観察する。


 顔に色味があり、髪形も瞳の色も違う。生きている人間に近い色味があるが、半透明で向こう側が透けている。


 目は冷徹にエイドリックだけを見つめていて、その前を誰が通り過ぎようが視線は微動だにしない。


「いったい何をしたのかしら」


 体調に異変が出るほど、強く憎まれて、さしものエイドリックも今回ばかりは懲りただろうか。


「きっとまた同じだわ」


 閉じられているエイドリックの横顔を眺めていると、ゆらり、と一人の女がその頭を殴りつけるように拳を振るっている。止めようにも相手の拳はエイドリックの頭をすり抜けているし、「自分は見えるだけで実は何もできない」ので、諦めて傍観するしかないのだ。


 エイドリックが苦し気に嫌がるように顔を横に振るのを見て、フォルトゥナはゆっくりと椅子から立ち上がって背を向けた。


 熱が下がったタイミングで提案していく内容を頭の中で組み立てながら、まずは外堀をしっかり埋めておくため、フォルトゥナは部屋を静かに後にした。


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