そして音だけが残った
ギィコラ、ギィコラ──
「どこへ行くの、お父さん?」
「どこにも行く場所なんてないさ」
ギィコラ、ギィ、ギィ──
「舟を漕いでどこへ行くの、お父さん?」
「川のむこうさ」
ギィコラ、ギィコラ──
「川のむこうはあるの、お父さん?」
「行ってみなきゃわからないさ、坊主」
ギィコラ、ギィ、ギィ、ギィ──
「浸水してきたよ、お父さん?」
「ああ、船底に穴が空いてるからな」
ギィ、ギィ、ギィコラ、ギィコラ──
「この船、沈むの? お父さん」
「ああ、もう、そのうちに沈む」
ギィコラ、ギィ、ギィ、ギィ、ギィ──
「沈むのになんで漕いでいるの、お父さん?」
「おまえにはわからないだろう。でも、それでいいのさ」
ギィコラ、ギィコラ──
「もう、沈むね。お父さん」
「ああ、さよならだ。坊」
ギィコラ、ギィコラ──
ギィコラ、ギィ、ギィ──
ギィ、ギィ、ギィ──
ギィ、ギィ、ギィ、ギィ──
……コラ、ギィコラ、ギィコラ──
……ぴちゃん
……コラ、ギィ──
賑やかな音楽が聴こえてきた。
ハワイを思い起こさせるような、ウクレレとスチールギターに乗せてあかるい男の声が下手くそに歌う。
それが何もない川面を揺らしていた。
♪ほぅら、聞こえる君の声が
そんなポジティヴな歌詞を