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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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魔法の全て

9層の傷が塞がれ、中級以下の探索者と一般向けには『ダンジョンマスターを取り込んだデビルロードを倒したが、魔族の介入の影響でダンジョンの崩壊には暫く間がある』と現状が発表されたんだぞ。


当面は9層の数ヶ所に、脱出の鏡が安定しないから緊急離脱用の転送門とセットで仮設聖堂を建てつつ、8層も要所だけは一通り抑え、崩壊前にちょっとでも回収したい集金目的の7層探索がガシガシ行う感じになった。

中級以下の連中は中層より上でそれぞれ最後のクエストに挑んでる。


観測所の文官何かの半数くらいは「役職も爵位も心許ない」とかボヤきながら王都への帰路につきだしてた。


森の宿はオイラ達が慌てて帰った時は力の使い過ぎで、本館は崩れ掛けて枯れたトーテムは倒れ掛け、先に還された幻獣達も軒並みダウンしていたから、森のモンスター達が敷地にちょっかいを掛けだしている有り様だった。

従業員達じゃ追い付かないから客も総動員で対応してくれていて、大騒ぎ!


数日経って今は落ち着いたとこだ。ナガとツチタは疲れ過ぎてトーテムの近くで爆睡。サラ猫とお付きのセバスチャン爺さんは疲れてるところに農園と温室と国と観測所のやり取り調整を続けた結果、2人ともポーション点滴を付けて絶対安静状態となってた・・


ゼルアンは体調が戻らないまま、各所の補修の指導をしていたせいでまだ青い顔をしてちょっと痩せちまったが、ようやく早上がりで自室で休めてる。大丈夫かよ?

タツノジもおんなじだけど、普段はあまり戻らない自室が蘇生所の一角にあるから、ハーディ婆さんに面倒がられてた。


ヨムエルはもうこっちには戻らないのかと思ったけど、昨日ひょっこり戻ってきて、普通にコック服で厨房でタツノジのフォロー入ってた。

話してみると「天使としてのダンジョンの使命はほぼ終わった。ここにいるのはただのカリスマ少年コック」て事らしい。


ティティは「あとちょっとで『グランミスリルスライム(はがね)シリーズ』の製造販売ができるまで街が発展してたのに! 魔族のバカっっ」何て悔しがりながら、自分の部屋の商工街の『店仕舞いセール』の対応に忙しくしてる。


普通に生き返った(!)御先祖ロンダとマリユッカはオイラ達が手が回らない分、転送門で観測所とダンジョンを行き来して『最後の始末』の手筈を整えてくれていた。


ミィルスは、今は二番館の補修とゴーレム達と破棄と回収の監修に忙しくしているが、ゴゥラス達がほんの1日だけ泊まって結局王都に戻る事になった時(光画全員撮った!)、オイラ達もだけどちょっとしたやり取りがあった。


「ミィルス、ここから先は私にもわからない領域だが、私のサラマンダーを連れてゆきなさい。きっとお前を護ってくれる」


ゴゥラスはほとんど竜みたいなサラマンダーをミィルスに預けた。


「うん。ちゃんとする」


「そうか」


「イグエルによろしく~」


「失礼します」


「正直もう2~3日休んでゆきたいのだが・・」


「帰りはあり物の転送門を乗り継ぐ、問題無い問題無いっ。ガハハハッッ」


「レンダ、ティティ、ロンダとマリユッカも、あとは任せた」


「おう!」


「御先祖に同じくっ」


「何をどうしたらいいかはよくわからないですけどっ!」


「どーんっ、とやったったらええねん」


皆、軽く笑って地下の転送門に向かい、何かヘンテコな虫々(むしむし)なマルは頭に小さいカナブン型の幻獣を乗せて黙ったまま、茹で玉子を齧ってゴゥラスに続いてたんだが、


「マル!」


「んん?」


ミィルスが呼び止めた。


「私・・いつもちゃんとしてるから!」


マルは9層戦でヒビが入ったままの眼鏡越しに不思議そうにミィルスを見て、不意にニカッと笑った。


「刺激的~っ」


ミィルスも笑い、オイラ達は一足先に『人の世界』に帰るゴゥラス一行を見送ったんだ。


・・ティティとミィルスが中々手を離せない分、宿のオーナーの仕事はオイラが大体1人でする事になって今日まで大変だったぁ。

夜、人気が少なくなった1階の食堂で、夜食のワカメウドンヌードルを平らげ一息付いていた。


と、特に待ち合わせてもないティティとミィルスがフラフラと食堂に現れ、カウンターで何か頼んで飲み物だけ持ってオイラのテーブルに来た。


「商工街の店仕舞いセールどうにか上手くいったよ。これも合わせたらたぶんだけど、探索の後遺症のある人や遺族の保証、国の分の不足額、補えると思う」


「破棄しないゴーレムの回収の目処も立ったし、二番館も何とか使えそう」


「お疲れ~」


ここ2日くらいは送別会やらお疲れ会が多いから特に、オイラは昼間の賑わいが嘘みたいな『宿の気配』を感じ取ってみた。

この繰り返しが、途切れ途切れでも、今日まで伝わってんだな、て。


「『魔法』みたいだよな」


「何?」


「森の宿の事? まぁ、『宿の形の魔法』ね」


「そういう事じゃないんだぞ? 野暮だなぁ、2人とも!」


「え? 何がっ??」


「文脈を教えてよ」


2人に反論されたけど、機嫌の好いオイラは余り取り合わなかった。



もしかしたら最後の二番館のテレポートは特に荒れたりはしなかったけど、亜空間を抜けるのに少しいつもより時間が掛かってミィルスを困惑させた。

それに僕ら3人は誰かの『歌声』を聴いた気がした。あれは誰の声だったんだろう?


既に殆んどの探索者は離脱し、要所に転送による脱出手段を確保した管理観測担当者のみとなった亡き谷のダンジョンに、歌う二番館は空間を越えて潜っていった。


4層のカジオ達の隠れ家には普通に健康そうなカジオ隊と、噂の元階層守護者のヌイグルミ達8体、ロンダと三番館に乗ったマリユッカ、サエモンさん、パリカリさん、ユンシエル、後はイグエル様も居た。

カジオ隊のポポエルとユンシエルは呼応して、目の前にしても信じられない『真のダンジョンマスター』だという女の子のヌイグルミを光で浄めていた。


「観測の結果、深部まで魔物は存在していない。だが、『彼』がいる。『最初のダンジョンマスター』だ。敵意は無いようだが、一応保険に、ティティにはこれを渡しておこう。回収できた『全ての残照物』から生成した」


イグエル様は念力で1本の捻れたワンドを僕に渡してきた。


「いやっ、さらっとパスされましたけどっ??」


「問題無い」


無いのかな?? というか兄さんとミィルスの「ふーん」くらいの反応っっ。


「じゃ、カジオ。よろしくて?」


「拳の時!」


「拳、関係無いかんな?」


「ええと、とにかくやってみる!」


カジオが前に出ると、ヌイグルミ達が彼を囲んで不思議なマナを込めだした。


「カジオ! 姫を護って!!」


ぽふんっ、と、煙共にカジオは荷馬車くらいの大きさの『浮遊するカジオのヌイグルミ』に変化させられた。


「俺にぃ、任せろぉお~~ぅぅ」


喋り方までヌイグルミっぽくなった!


「思ってたのと違うよね?」


「事実とは時に悲しい物何だぞ・・」


「錬金術的には『等価っぽく』はあるね」


僕だけ動揺してる??


「色々調べてみたが、カジオに乗って中に行けそうなのはお前ら3人とマリユッカだけだ。頼んだぜぇ?」


頭頂部に芽が出てる生身のロンダさん。もう種族がよくわからない・・


「やったるで!」


「よっしっ、行くかぁ」


「サラマンダーよろしくね」


「あ、皆待ってよっっ」


躊躇無くどんどんカジオのヌイグルミに乗り込んでゆくから、僕も慌てて続いた。すんごいモフモフしてるしっ。


ポポエルとユンシエルが抱えるようにして浄める女の子のヌイグルミを中心に煉瓦の破片のような物で覆われた奇妙な転送門が出現した。


「救出は可能だが、少々手荒になる。上手くするといい。この迷宮の魔法は、もう寿命なのだ」


「しっかりケリつけてやれよぉ?」


「「「カジオ頑張れ!!」」」


「「「姫様を護って!!」」」


「待機はしてるぜ?」


「もうちょい時間があれば私達も入れそうだったんだけどね・・」


僕らはヌイグルミの女の子の中へと吸い込まれた。

何とか持ち直した森の宿の力との繋がりはまだ感じる。これで、最後だ!



・・・そこはテレポートで経由する亜空間によく似た、無限の虚空。無数のダンジョンの破片が浮遊し、出来損ないの迷路を断片的に形成していた。


真なる最下層『底無き虚ろ』であった。


「たぶんこっちな気がするなぁ~?」


「大雑把やん?」


ヌイグルミのカジオは見知った痛みの気配を頼りに、虚空を飛行した。


奥へ奥へ、先へ先へ。永く飛び続け、前へ進んでいるのか怪しくなる程、飛び続けた先に、平らな草原があった。


その領域に入ると、辺りは夜明け前の暗い景色となった。時折、風化しつつある石材の残骸の散った草原を4人を乗せたヌイグルミのカジオは進む。


「9層とかフラ草原に似てるんだぞ?」


レンダが呟き、さらに進み続けると、


「あれ!」


ミィルスが差した暗い草原の先に明かりが見えた。

その場に到着すると、一行は対応を逡巡せざるを得なかった。


明かりの正体は粗末な服装の全ての肌を汚れた包帯で覆った男であり、その側の、周囲と変わらぬ草原の上に忽然と置かれた安楽椅子に、古風な膝掛けを掛けられ高貴な寝巻きを着込んだ美しい少女眠っていた。


「姫・・」


カジオは宙に浮いたまま、まさに感じる痛みその物を目の当たりとした事に衝撃を受けていた。

汚れた包帯の男は話し出す。


「私はスエリア・マゥナイという者だ。もっと劇的に私を討伐する英雄のような人々が来るのかとずっと空想していたが、そうはならなかったようだね」


自嘲気味なスエリアに、レンダがティティが静止する前にヌイグルミのカジオから飛び降り、連なる星々の剣を抜いた。

剣は煌めきはしたがその光はそう強くはなかった。


「お前が最初のダンジョンマスターだな? どうやったらこのダンジョンは終わるんだぞ? お前をこの剣で倒せばいいのか?」


「君はおおよそ事実は知ったはずだが、忘れてしまっているようだね。脳の負荷を考慮したのか・・『彼女』らしい配慮だが、改めて君達に知ってもらった方がいいだろう。せめて最初の私達の愚行くらいは」


スエリアのランタンが目映く光り出す。


「カジオ!」


「わかってるぅ~っっ」


「兄さんっ」


「サラマンダーっ」


「あかんっ、家入っといたらよかった!」


皆、咄嗟に反応したがランタンの光の中で、全員の意識は飛ばされていった。



何だか私とは関係の無い出来事の中にいる気がしていた。

遠い、北東の、さらに東には1度も見た事のない海があるというどこか潮風を感じてる。

ここは平凡なロングフット族としては魔法文明をそれなりには発達させた国。

葉の芽吹く浮き舟に乗った夜空の中の私達、ベスドーアの『()エルフ』民は、星の雨を降らせようとしていた。


「「「『ゼタ・メテオストライク』」」」


空の舟の私達よりさらに高い星の世界から、無数の星々が、世界を汚し、争いを繰り返し、私達古エルフの血さえ求めた愚かな国に延々と降り注ぎだした。

半端なマナ障壁を完膚なきまでに破壊し、罪深きロングフットの国を蹂躙してゆく。


「かふっっ」


突然、隣のお母様が吐血し、衣服も杖も身体も高純度の魔法石と化して崩れ去ってしまった。


「仕方のない事だ。アレはここまでだった。それより見なさい、エイバーレア」


お父様は動揺して魔法式が乱れた私の小さな腰を片手で強く掴んで星降る夜空を見上げさせる。


「この美しい、真実の叡智足る、魔法の全てを」


死の流星は降り続け、地上の慟哭は何も聴こえぬまま、私はただ夜空に開いた星の世界の入り口から見える、本当の星空を目にして、確かにここには真実しかない、と理解できた。

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