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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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やり残し

毒の雨の降りしきる8層で、多数の楽器が重なったような二番館は撃墜されようとしていた。

鋼鉄の仮面を付けたダンジョンマスターは巨大な鎖を組み合わせたムカデ型の階層守護者を操り、クピド達の一斉掃射を無視して二番館に執拗攻撃を加える。


二番館を制御する『ナジーア』の部屋では、避難させた重傷のロンダ、ゴゥラス、ボンボ、ジャウナイを自身も傷付いているマリユッカとフルーヤィが必死で回復させていた。


「・・やぁ! 楽しかったねっ。でも、きっと、私はこの物語の結末を見届けられると思うなぁ」


唐突に陽気に言い出したナジーアに一同は唖然としたが、楽器その物の制御器を鳴らすと二番館は2つに割れ、ちょうど制御器の背後にいたロンダ達は二番館のもう半分と共に切り離された。

同時に二番館の魔方陣による最大の捕獲特性を発揮させ、ダンジョンマスターの鎖の魔獣を強引に拘束する。


「何をっ?」


「ナジーア!」


張り直されたマナ障壁に護られながら、ロンダ達は半分の二番館と共に地上へと転送されていった。


「は~い! クピド隊諸君もっ! 今の内に撤収どうぞ~っ。皆をよろしくねーっ!!」


拡声器で朗らかに言って制御器を鳴らし、ナジーアは歌いながら魔方陣を砕きつつある鎖の魔獣を扱う鉄仮面のダンジョンマスターへと残り半分の二番館を突撃させた。



・・・デビルロード撃破から時は少し遡る。


ダンジョンマスターの魂の宿る、燃える女の子のヌイグルミを奪ったカジオと元階層守護者達は湿地の環境の4層に来ていた。


新たな隠れ家を湿地の中の低木の林の中に作られている。

隠れ家には様々な障壁が張られており、残存の魔物や探索者達が側に来ても察知する事は困惑な物であった。


「イテテ・・こりゃすぐには治らないな」


「うむ、拳の痛みよ」


回収の際、ヌイグルミを焼く炎で焼かれた負のカジオとヤッチはノイレミアとポポエルから治療を受けていた。

側ではメディシ、ロカイ、クック、オルメーシ、ヨプー、ブンスケ、シュシュメムが燃える女の子のヌイグルミを囲み、少しずつ『鎮火』を試みている。

アーママがその側に付いて、メディシ達のマナが尽きないように希少な魔方石を躊躇無く次々と使用し忙しない。


「つーか、これからどうすんの? そもそもだけど、この子、その『元の人格』と同じ判定で合ってんの??」


皆、言わないので指摘するアーママ。


「姫様はもう元の記憶を身体に置いてきてる。魂を守る為に必要だったんだ。僕らはその魂を正しくこの世から旅立ってもらうつもり、何だけど・・」


「ニャ~ゴ! ダンジョンマスターが分かれたせいで姫の中に『本当のダンジョン最下層』ができてる。姫の魂はその一番奥だなぁ。何だか『変な気配』もするしっ」


「何か拗れてんのな」


アーママだけでなく、メディシ達も戸惑っていたが、徐々に鎮火してゆく女の子のヌイグルミは沈黙したまま反応は無い。


「・・2人の治療と、そちらの鎮火が済むまで。それが限界です。言い触らす事は絶対ありませんが、イグエル様に報告します。最下層の魔族達が何をするのかわかったもんじゃないですし、既に他の天使達の動きが慌ただしい事を感じています」


固く切り出すポポエル。


「ポポエル、パーティーから抜けちゃうんですの?」


「未定です、今そういう話でしたか?」


「え? 怒られてますの??」


違う角度でノイレミアも戸惑うのだった。



この後、テレパシーでポポエルから報告を受けたイグエルは『待機と調査と報告の継続』等を命じ、混乱を避ける為、この事は限られた者にのみ知らされた。


そうして、デビルロードは8層の闘いで討たれたが、9層の、傷、から最上位魔族達が不完全な形で召喚され、事態は収束しない。


イグエルはまだ戦える天使軍を再編成し、7層のサエモン達や上位の騎士団と教会兵にも選抜隊を組んでの増援を要請。

森の宿の面々が二番館の補修と当人達の回復が最低限度済み次第の継戦を申し出た他、王都のゴゥラス達も長距離テレポートを連打して駆け付ける事となった。


9層は枯れた草原と朽ちた遺跡の欠片と、黄昏じみた灯りの光源が天井に設置された空虚な空間が延々と続いている。


その中心の半壊した神殿じみた建造物から流動体状の最上位魔族達が噴出し、9層の強壮な魔物や、残存の魔族達を喰らいながらやみくもに拡大を続けだしていた。


イグエル達はミィルスが温存していたゴーレム軍を単純な挙動で出撃させ、状況を整うまでの時間稼ぎを計った。

最上位魔族の流動体の戦力はゴーレムを圧倒したが、サエモン達とゴゥラス達との合流は無事に済んだ。

テレポートで無理をし過ぎたボンボと、回復料理や回復道具の大量急製造をしたタツノジと、大量にマナを込める必要のある二番館の神速補修をしたゼルアン以外の大半の者達の一応の回復にも成功。


「年寄りの仕事ではない・・あとは任せたぞ、ゴゥラス、ロンダ」


「皆さん、だいぶ薄くなってしまいました。草葉の陰から見守ってます・・」


「悪い。今の二番館で持久戦は無理だ。気を付けな・・」


9層に加え8層にもまともな安全地帯は現状無い為、3人は一先ず、タロとミルシコットを中心とした護衛を付け他の回復や転送魔法の負荷等でダウンした者達と共に、7層に確保された転送門併設の安全地帯に避難する事になった。


「ギリギリだな・・」


再びメギドファイア形態になる神力が足りなかった為、翼のような火器を4基背負った一段劣る重武装形態『アネモイ』となったイグエルは苦々しく呟いた。


徐々に迫る津波のような肉塊の劣化した最上位魔族群は戦う本能で無数の大蛇型に変異しだしていた。

一方で、これ以上の再召喚は『打ち止め』の気配であったが背後の、傷、は開いており、何らかの魔導具(まどうぐ)を介し生け贄による召喚術は有効になっているとイグエル達はタンチしていた。


知性が無い為、8層や9層の残存魔族や魔物をけし掛ける事はできない様子なのは好材料であっても戦力は足りていない。


魔導具の破壊と傷を塞ぐ事。ダンジョンマスター『本体』を奪われない事。森の宿の主達は最悪逃がす事。

この3点だけは完遂する必要があった。


疲労感を覚え、そう親しいワケでもなかったが馴染みのフルーヤィと遠目に目が合い変顔をされると、アップルパイ等を食べながら茶を飲みたくなるイグエルだった。



陣立ては6分割し、中央にイグエル、左手に天使軍、左の端をサエモン達7層選抜、右手を森の宿二番館、右の端をゴゥラス達が担当し、イグエルの背後にヨムエルとユンシエルを中心とした天使軍選抜が、傷、の対処専任として控える配置となった。


開戦は残るゴーレム達の自爆と共に始まり、イグエル達の連合軍は優勢だったが、


「あれ? ヤバいかも?!」


ミィルスが焦る中、二番館がいよいよ崩れ始めた。


(・・レンダ達は撤退してくれ、まだ役割がある。幸い、ゴゥラス隊が押している。再編すれば対処可能だ)


「う~ん」


「兄さん、この場に居てもこれ以上は」


「レンダ、俺とマリユッカは残る。俺はドリアードの力を借りれば宿から離れても何とかなるし、マズかったらまぁ逃げるし」


「三番館は本館の屋根裏に蓄えたパワーで動いとるからまだまだイケるでーっ?」


ロンダとマリユッカに促され、サラとお付きに騎士の疲労困憊ぶりも一瞥したレンダは決断した。


「わかった。オイラ達は大人しく引っ込むんだぞ。ミィルス、途中でゼルアンとタツノジも拾ってけるか?」


「や、やるだけやってみるけど・・」


「2人とも気を付けてね。使えそうな素材や道具は全部置いてくから」


二番館が最後に幻獣と精霊の遠距離攻撃を派手に撃って転送で撤収すると、天使軍の一部とゴゥラス達が陣形を構え直した。

一方、ドリアードの蔓を纏ったロンダと三番館に乗るマリユッカは遠距離攻撃しつつ清々とした顔をしていた。


「・・へへっ、『今度こそ』送り帰してやったぜぇ?」


「そういう流れで動いとるって感じで『ふぁ~っ』て進めたんが利いたんやで?」


「ナジーアの時はめちゃくちゃになっちまったからな」


先代二番館の主を思い起こす2人。


「前のダンジョンマスターは『願いを叶える事』に本気やったし」


「代わりに今回は外の人間と魔族が好き勝手してこの有り様よっ!」


ゴゥラスが大蛇化したサラマンダーに乗って駆け付けた。


「この戦力で右辺持つかぁ? ゴゥラス」


「サエモンの方からも回してくれてるが、厳しい。だがここでしくじればアレらに9層を占拠され、このダンジョンの始末は10年は遅れる。殲滅できずとも中央を突破させ、傷、を塞がさせねば」


「10年はアレやけど2~3年やったらええで? 今の宿の皆、好きやし、着々と3番館も成長を」


マリユッカの軽口の途中で、ロンダは戻ってきたクレセントブーメラン改参を受けるとドリアードと共に集中し始めた。


「中央、な」


マナは高まり、ブーメランにヒビが入り、ロンダの姿が薄まる。


「ロンダっ?! アカンっっ」


「番節を汚しまくったがそれなりに楽しい人生だった。うっかりこっちに戻ってからも子孫を鍛えられたし同窓会もできた。何の不満も無い、真ん丸満月だ! ヘヘヘっ」


ヒビ割れたクレセントブーメラン改参を構えるロンダ。マリユッカは攻撃の手を緩めないまま、止めに入ろうとしたが、ゴゥラスが制した。


「二番館は攻撃の為に有る。ロンダは、『(つるぎ)』として招かれた」


「ナジーアの時とおんなじやんっ! やるだけやったらそこまででええやんかっ、後の人らに任せても! 何でウチらばっかし・・」


泣きながら訴えるマリユッカ。


「マリユッカ、俺達はさ、まだ続きのつもりで集まったんだ。ナジーアだけじゃない。一端は触れたこのダンジョンの秘密、次のヤツらが、解き明かしてくれる!」


ロンダは大きくブーメランを構え、発光させた。マリユッカは叫び、ゴゥラスは歯を喰い縛った。


「言っとくかっ、とりゃーっす!!!」


放たれたブーメランは満月状の圧倒的なマナ出力の光のギロチンと化し、大蛇群型の最上位魔族の塊の右辺ではなく中央の肉塊に深々と食い込み炸裂し、衝撃が僅かではあるが真後ろまで突き抜けた。


「ヨムエル! ユンシエル!」


「「はいっっ!!」」


イグエルの叫びに、握った拳から流血する程焦れながら後方で控えていたヨムエル達天使の選抜隊は、最大の神力でマナを連結させ、加速した。

隙間を閉じようとしながらも負のマナ弾を連発する最上位魔族群の攻撃を回避し、障壁で受け流しながら、その僅かな隙間を突き抜ける天使選抜隊。

3割のクピドがそこで力を使い切って、粒子化して天界へと転送されていった。


崩壊したダンジョンマスターの牙城跡には負の障壁が張られていたが、これも突進で砕く。さらに4割のクピドが脱落。

減速せずに瓦礫の山に潜り込み、傷、の有るダンジョンマスターの間に入ると、隙間と魔導具にこびり付いていた最上位魔族群の汚染物が集まり『エクサ・ヘイトシュトルムスライム』と化して襲い掛かってきたが、残り3割のクピドの自爆攻撃で撃破。


「「うわぁああーーーっっっ!!!!」」


ヨムエルとユンシエルの薙刀と大鎌が猛る魔導具を切り裂き、イグエルから託された『福音のアンク』を、傷、に押し当て、爆発的な光を持ってその傷は塞がれた。


「オォォォッッッ!!!!」


呻きながら、目に見えて枯れて衰えだす最上位魔族群達。掃討が始まった。


「・・・いい仕事したなぁ。来る時、冥府の女皇に『お前がそのままに戻る事は無い』て予言されたけど、やっぱ、当たるなぁ、アイツぅ」


「ロンダ! アホっ。ホンマに・・」


9層の虚しい平原で、ドリアードの蔓に包まれるようにして項垂れて座り込み、消えてゆこうとするロンダをマリユッカとゴゥラスが見守っていた。と、


「ソウ、貴方ハ、ソノママハ戻ラナイ」


「え?」


ドリアードは不意に呟き、全ての生命のマナをロンダに注ぎ出した。


「おいっ? 何やってんだぁ?」


「私ノまなハ貴方共ニ世界ヲ巡リマス。まりゆっかニ、負ケナイカラ」


「あんた」


ロンダのドリアードはマリユッカに微笑み、消えていった。


「あああ??? おっ? 痒っっ」


保たれた霊体を通り越して『完全に生身』となったロンダの頭頂部から『芽』が噴き出した。


「何だよドリアード! 頼んでないだろぉ~??」


「ロンダぁっ!!」


「ごふっ?!」


マリユッカが三番館ごとロンダに飛び付き、ロンダを悶絶させた。


「ははっ、バカもんが! 本当に、なぁ? ナジーアよ・・」


労るように柔らかなサラマンダーの火に護られながら、ゴゥラスは呟いた。

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