天使と悪魔
「レンダ『部屋』から獲得した、連なる星々の剣、は使えないのか?」
久し振りに来た博物館だか美術館だかな亡き谷の観測所の会議室で、イグエルがいつものように淡々と言った。
だが顔付きが違う、鞘に納まってた剣が抜かれたようだぞ? オイラが差し入れした+1評価の森林檎も齧らず、スッと袂にしまってた。
ダンジョン主の消失? とデビルロードに達した魔族の出現が観測所で探知されたからだ。
会議室には観測所のお歴々と、森の宿の鍵の管理者とロンダ、それからサエモンにパリカリまで集まってる。
いつぐらいぶりかでコック服から天使の格好に戻ったヨムエルは『当然』て顔でイグエルの側に立って控え、替わりにユンシエルはサエモンとパリカリの間に座らされて半泣きで悔しがってた。
「いや、無理。これは」
オイラはミィルスとゼルアンとマリユッカの3人掛かりで作ってもらった腰の後ろの鞘に入れてた連なる星々の剣を抜いてみせた。淡く煌めく。会議室にどよめきが広がった。
「最終的にダンジョンを『終わらせる』時にしか使えないと思う。あんまハッキリ思い出せないけど『そういう話』だった。その魔族云々は何かちょっと違う感じ何だよ?」
煌めく剣を見る。『名前』と、これに『歴代の宿に纏わる人々の思い』が宿ってるのはわかるし、そういう鑑定結果も出てる。+評価は『神器級』の+4だ。とんでもない!
誰か、女性、エルフ? の個人的な想いも込められてたような??
「・・そうか。ではこれも『過程に過ぎない』という認識か」
珍しくため息をつくイグエル。
「それに頼らず、森の宿二番館は8層守護者『竜のダゴ』の討伐を担当してくれ。魔族は我々が相手する。私が地下に降りれば、ヤツらも対抗せざるを得ない」
こっから具体的に作戦を決め込んでいった。ダンジョンの変動は多少収まったけど、色々立て込んでる。
それに宿の不在時や帰ってからの対応も整理しとかないとな。この間、王都に駆け付けた時は戻ってから大変だったし!
当日になった。僕、緊張っ!
胡麻粒散らしたみたいに遥か前方の中空とその下方に、魔族のその眷属の大軍勢が見え、中心にはデカいにも程がある砂嵐と焼けた石の身体を持つ竜が浮遊してる。
最後の守護者、ダゴだね。頭に乗ってる『何か凄い剣持ってる人』がたぶんデビルロード。
こんなフリーに階の中程まで守護者が出てきてるのはやっぱり異常だよ。
それにしても8層って奇妙な空間。『青空』があるように見えるけど、それは幻影で青い空気の層の向こうに古びた石材の天井が透けて見えた。
光源は天井に点在する形で設置されている鏡のような器物から、照射される陽火灯と同じ性質の光。
これが暑いっ! 7層の灼熱をこの層で消化してるんだろうけど、8層は砂漠と岩場の環境になってた。
一連のダンジョン変動で今は石とも砂ともつかない物でできた塔のような構造物もあちこちに乱立してる。
天使軍の最前列に浮かべた、二番館の屋根の上にいる僕らからそれらを見下ろせるんだ。
そして、すぐ隣に無機質な機械の要塞のような物と一体化して『メギドファイア』という特別な天使の形態に変わったイグエル様がいる。
ヨムエルとユンシエルは意外と僕達の護衛に回されていたけど、2人の姿も変わってた。
ヨムエルは『エクスキャリバー』という柱みたいな霊剣を背負った形態。ユンシエルは『ボレアス』という炎の刃を多数背負った形態になってるんだけど、2人とも普段の翼を持つロングフット族の子供みたいな姿じゃなくて『思春期』くらいの姿何だ。
「というか誰やねんっ。頭身変わっとるしっ!」
マリユッカから20回目以上のツッコミを入れられてうんざり顔をするヨムエルとユンシエル。
「だから、天使は進化すると成長するのだ」
「作戦上、お前達の警護に回ったがっ、ボクは『実質』クピド筆頭であり、あくまでイグエル様の配下だ!」
「というか自分、ボクっ娘やったんか~い」
「うるさいなーっ。チッ。こんな事ならサエモン達と組みたかった!」
サエモンさんとパリカリさん達、探索上級者勢は『挟み撃ち』を避ける為、少し前から7層の安定化を担当してるんだ。
8層の環境と、上級魔族もダゴは遠距離空中戦主体だから近接地上戦主体のサエモンさん達は上手く機能しない、って判断だった。
僕的にはサエモンさんとパリカリさんはこっちを優先すべきだと思ったけど、2人ともギルドの幹部だったりするから、苛烈な環境の7層の急な活動を他の人達だけに任すのは危うい、て事で纏まっちゃったんだよね。
サエモンさんとパリカリさんを8層に引っ張ってこれなかったから、進化したヨムエルとユンシエルが僕らに付けられたワケ。
(私はデビルロード、二番館の者達はダゴだ。雑魚は他の天使軍に任せていい)
「よっしっ、来ぉーーい!!」
テレパシーに普通に大声で応える兄さんに、イグエルさんも僕らも苦笑しちゃったよ。テンション高っ。
落ち着け、私。何て思ってる内に、開戦は前触れもなく溜め無しで放たれたダゴの『ペタ・エナジーブレス』で始まったよ!
これ一発で王都滅ぶよね? ていう無属性のマナの奔流をテレポートで天使軍の先頭に出たヨムエルがエクスキャリバーで叩き切って相殺するっ。
同時に天使軍と魔族軍双方の遠距離掃射攻撃が始まるっ。
メギドファイア化したイグエル様とダゴの上から飛び出したデビルロードも、幻影の青空の天井近くギリギリまで高度を上げて最大火力で交戦開始っ。
「行くよっ!」
「ヨーソローやっ」
私も屋根に部屋の操作器だけ移してる二番館をダゴに向けて突進させる! すぐにテレポートでヨムエルが戻ってきたけど、力を使い果たしたらしいエクスキャリバーが砕けて、ヨムエル自身もパシュッと軽い光を放って元のコック服クピドに戻っちゃった。
「バテるのが早いぞヨムエル!」
「こっちの格好の方が調子が出るのだっ」
「ヨムエル君はワタクシと組んで立ち回りましょう」
うん、ここはいつも通りセットね。
「ゼルアン、攻撃に参加しなくていいからよ、ミィルスをガードしてくれ」
「任せな!」
幽霊になってからずっと冷静なロンダさんに未だに慣れないよ。
「回復は我々にお任せを!」
「にゃーっ!」
回復アイテムごっそり持ってきてるサラさんとお付きの人! 正直連れてきて大丈夫だったのかな、て。
「あのブレスは時と光の精霊達の障壁を合わせれば打ち消せそうだね、配合は・・」
ブツブツ言いつつ、ポコポコと数十体の光のラカと時のノーモンを喚び出してるティティ。普段は帳簿大好きっ子だけど普通に大魔法使いだわ。
「ふぉーっ、ふーっ! ほぉーっっ!!」
「おめさ、タワーにしてやるだどっ?!」
「バッチコイヤーっ!!」
最前でナガさんとツチタと一緒にワーワー言ってるレンダ。うん、よくわかんない。取り敢えず前面のマナ障壁強化しとこ・・
近付くとダゴは大きな城がうねるようにして宙で巨体を捻り、周りの魔族や魔物達を叩き潰しながら迫ってきたっ。
身体の周囲に光の粒を発生させて、そこから無数の熱線を撃ってくる! これを障壁に当たる前にユンシエルがボレアスの火の刃を撃って相殺してくれる。
「マリユッカ!」
「よっしゃっ」
「ツチタ!」
「ガッテンっ」
マリユッカがクレセントブーメラン改参にマナを込め、ナガさんはツチタを手槍状に変化させた。
「とりゃーっす!!」
投げ付けるロンダさんっ。発光する刃は不規則軌道でダゴの左右の翼に大穴を空けてロンダさんの手元に戻ってきた。凄っ。
怯んで動きが鈍ったダゴの胸板にナガさんが槍のツチタを投げ付け、直撃したツチタはダゴの体内の素早く動き回りながらあちこちで『炸裂』しだした。結構酷い攻撃っ。
「ルォオオーーッッ!!!」
吠えるダゴは熱線乱射に加えて巨大な鉤爪で襲ってきたけど、これはヨムエルとタツノジさんが光弾や斬撃を飛ばして障壁が削られる前に逸らしてくれた。
「ううっ」
二番館を急旋回させる。しんどいっっ。ゴーレム出す余裕無い!
しばらく小競り合いが続いて、溜めの済んだロンダさんとマリユッカの2撃目でダゴの左腕を破壊っ。
そこからユンシエルがボレアスを力を使い果たして元の姿に戻ってヘバってしまい、熱線は障壁と私の回避頼りになったっ。
ここで、
「ミィルス!『いい感じ』に飛べっ。もう準備できたっっ」
レンダはいつの間にか中空に大きな召喚の魔方陣を展開させていた。何か雑だけど、マナ出力がエグい魔方式編んでるっ。
「いい感じね!」
私は熱線で障壁ガンガン削られて、抜けてきた熱線で二番館をあちこち焼かれて、ゼルアンにもハンマーと盾で守ってもらいつつ、ダゴを誘導し、ここ! てタイミングで安全圏にテレポートした。
ダゴの後方頭上にレンダの魔方陣がきてるっ。
「いらっしゃいませだぞっ?!」
陣から森の宿の全ての幻獣達が溢れ、大波のようにダゴをズタズタにして交錯してゆく! ツチタ大丈夫なの??
幻獣達が召喚を解かれて森に還る頃にはダゴの身体は3割も残ってなかった。
それでも!
カッッッ!!! またノーモンションでペタ・エナジーブレスを撃ってくるダゴ!
「ツチタ尻尾っっ!!!!」
ティティが叫び、整然の配置されたラカとノーモン達が美しく、光と空間の歪みの障壁を発生させ、ペタ・エナジーブレスは歪曲と転移を繰り返して反射され、
ダゴの提げられたプレートと尻尾以外を消し飛ばしていった。
尻尾に逃げたツチタは尻尾を粉砕しながら姿を表す。よかった~。
「兄弟揃ッテ危ナイっ! 抗議スル!!」
めちゃ怒ってるし、まぁね・・
レンダ達とがダゴを撃破する中、8層上空、天井近くでも決着はつこうとしていた。
ベル・エノバゥムの魔剣にはヒビが入り、イグエルも要塞のごときメギドファイアの武装を失い水着に近い防具に戦斧1本と火器一丁となっていた。
「神の木偶人形がっ!」
激怒して振るわれた魔剣と戦斧が激突し揃って砕けたが、折れた魔剣の根元から焼かれた死霊とも悪魔ともつかない者達が溢れ、イグエルに迫る。
光属性の火器を連射し、溢れた魔物の4割とベル・エノバゥム本体に風穴を空けながらも火器を破壊され、身体を捉えられそうになるイグエル。
しかし、光輪と共に羽ばたき、溢れた魔物を飛び越え、森林檎+1をベル・エノバゥムの口に放り込む。
「もっ?!」
(林檎は好きか?)
テレパシーで伝え、背後から貫手でベル・エノバゥムの邪悪な心臓を破壊する。
ベル・エノバゥムは吐血と一緒に森林檎+1を噛み砕き、不快なまでに美味いと思いながら叫んだ。
「我が身と全ての軍勢を捧げる! 来たれっ」
『誓約』に呼応して、9層の細い傷の前に新たに設置されていた奇怪な酒杯のような台座から、濁った血液が溢れ傷に吸い込まれ、形も知性も保てない最上位魔族達が侵入を始め、それはイグエルにも探知できた。
「しつこい」
「ほざけっ、タダでは、負けぬ! ハ、ハハッッ」
背から胸を貫かれたまま、ベル・エノバゥムは折れた魔剣と、残存の8層の魔族と魔物の軍勢を道連れに消滅してゆく。
「・・取り込んだらしいダンジョン主が消えても迷宮の崩壊が起こらない。やはり、これは・・・」
「イグエル様ぁ~! 御召し物をお持ちしましたぁっ」
「いやっ、ここは私の用意した『素敵コック服』で!」
「素人かヨムエルっ、ここは敢えて『熊さんパジャマ』に決まってるっ!!」
「・・・」
着替えを持ってきたボロボロのユンシエルとヨムエルのされるがままになりながら、イグエルは思案していた。




