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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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42/49

暗い玉座

王都は延々止まない雨の中にあった。


選抜トーナメントの熱狂は忘れさられ、その後に多発した暴動とその鎮圧の争乱も消え、都民の大半は既に避難していた。


新王とその一派は王宮に籠城の構えを取り、反新王派は本来王家を祝福する大聖堂を最大拠点としていた。


反新王派の総代は侯爵サイルカ・グラスファルシオンである。勇ましい家名で、新王ナグワドの従兄弟でもあったが、この男、気弱である。


「うっ、胃が・・ゴゥラス! これでは謀叛ではないかっ」


「今さら議会や貴族会云々でもないでしょう」


野伏の衣ではなく、それなりの軍装をしたゴゥラスは非公式に参謀のような役回りとなっていた。

マルは作法の点で難があった為、隣室で控えているがむやみに小型の虫の幻獣等を呼び出す為、他の護衛を仰け反らせ気味であった。


「私は議会と貴族会と教会に総代を押し付けられた! 負ければギロチン、勝っても逆賊の汚名だっ」


「メゥラを初め、近隣諸国の支持は取り付けております。あとは法曹人事を刷新し、大学と新聞社と出版社と芸能者等にお金を撒かられるとよろしい」


「破産するっ! ううっっ、胃が・・」


具合の悪くなったサイルカに溜め息をつくゴゥラス。


(マル、治療を。それからボンボとサエモンに使いを出して急かせ。遅いっ。我らの大将の胃腸がもう持たん)


エコーハートの思念で指示すると、


(あーい)


雑な返事の後、虫達を連れ、一応軍装はしているマルがノックも何も無く、出入口の警備担当を仰天させながら入ってきた。


「出た! 虫女(むしおんな)っ」


「胃に『治す虫』を入れまーす」


「やめろぉーっ!! 誰かぁっ?!」


「刺激的~」


王宮を望める大聖堂の楼閣の一角に、後に『不遇王(ふぐうおう)』と歴史書に記載される事となるサイルカの悲鳴が響いた。



多重にマナ障壁と治癒の魔方陣の張られた玉座の間で、正統な王の装束を纏った新王ナグワドは死の縁にあった。

亡き谷のダンジョンマスターからの呪いによる物だった。


周囲に人気は無く、呪い避けの装備で固めたナグワドが王宮に連れ込んだ宮廷魔術師以外はもはや近付けない。


王宮内には宮廷魔術師が『傭兵』として使役する邪教徒とその眷属の下等な魔族や魔物が徘徊し、魔窟の様相を呈していた。


「・・・ああ、ああ、そうだな。俺が、余がっ、余こそが王だ!! そうだ、そうだとも、ゼンニマァク。お前はよくわかっている。そうだ、そうだ・・」


苦痛を紛らす為に薬物を使っているナグワドにはゼンニマァクの幻影が見えていた。


幻影のゼンニマァクは自由で、気品を保ち、微笑み、肯定し、あらゆる暴虐を推奨した。

ナグワドに有ってマディト・クールリーフに無いものがあるとすれば、それは『悪徳への渇望』であった。

故に、結論に達したナグワドは歓喜を持って、やや離れた位置に『椅子とテーブルを置き』独自に『自分専用の障壁を張って』茶を飲みながら読書をしていた旧知の宮廷魔術師に命じた。


「邪教徒どもに伝えろ!『壁』を召喚するっ。逆賊諸とも、極めて不敬なっ! 大聖堂を取り潰すのだっ!!」


「御意。されど、触媒等の王家の宝物庫の解錠が必要です。先日の御采配によりシープスプリガン氏より預かった。この『解錠のオーブ』に、『承認』して頂けますか?」


既に守護していた氏族を根絶やしにして奪っておいた宝珠を差し示す宮廷魔術師。


今のナグワドには言ってる意味を理解するのにやや時間を要した。


「・・? 余はシープスプリガン氏に命じさせたか?? まぁいい。承認する! 壁を放てっ。王威(おうい)を見せ付けよ!」


宝珠は反応し、宝物庫解錠の力を得た。


「では、そのように」


宮廷魔術師は障壁で閉ざされた玉座を間を去り、魔物の徘徊する廊下に出た。玉座の間の扉を護るのも魔族と魔物であった。


「・・・」


彼の目的は『宝物の奪取』。これは達成の見通しであり、この上狂った王の命を邪教徒どもに伝える筋合いは無い。

『壁の召喚』には大量の生け贄が必要であり、道義的には問題が有ると言えた。


しかし、ナグワドに使えて10年余り、その底の浅さ、外道さ、王位への固執をつぶさに見てきた彼は、ある種の『見知った売れない役者や画家等に対する哀れみ』のような情が涌いていた。

放置しているが、既にノームの刺客一派が城内に入り込み、さらに別動の冒険者ギルドの奇襲隊も王宮に迫りつつある事は把握している。


「せめて希代の悪漢として名を遺してやるか・・」


宮廷魔術師は邪魔な呪い避けの装備を脱ぎ棄てつつ、離脱前に邪教徒の大神官に指示を伝える事にした。



忌まわしい魔法触媒と、邪法を駆使し、王宮の地下牢の囚人約3000人、城下数ヶ所の反新王派によって解放されていない収容施設に合わせて約9000人、合わせて約12000人を生け贄とし、地獄に巣くう魔物『ギガブッチャーウォール』20体が召喚された。


それはいずれも王宮の城壁を軽々と越える高さの『壁のごとき白骨の魔獣の群れ』。


「オオオォォォッッッッ!!!!」


呻き吠えながら、それらは直線上にある全ての構造物を粉砕しながら大聖堂へと進撃を始めた。


「何ぃっ??!!!」


「こりゃいかんのぉ」


潜入していたボンボとジャウナイ達、刺客一行は城壁の『外』に出現して、地響きを上げ直進を始め遠ざかるギガブッチャーウォール群に衝撃を受けていた。


「ボンボ、どうする? 予定通り新王を先に始末するかの?」


「ぐっ、先延ばしにし過ぎたか・・我らは新王の討伐を優先する!」


「させぬ」


通路先に突如出現した多数の転送の魔方陣から大神官等、邪教徒達が相次いで出現した。


「スエリアに更なる暗黒神の祝福をっ」


「ええいっ、邪教徒か!」


「前回と違ってダンジョンではなく、『国』の方に集まってしまったのぉ」


ボンボ達は邪教徒達と交戦を始めた。



サエモン達、ギルドの奇襲隊はボンボ達の円滑な活動と、大聖堂でここに至ってもまごついてい大勢は合流済みの反新王派の国軍に『やむを得ず動いた』既成事実を与える為に派手に突入する手筈であったが、ギガブッチャーウォール群の出現で状況が一変した。

至近距離での出現であった。大混乱となる奇襲隊。

巨大過ぎて遠目にはのろまに見えるギガブッチャーウォールは、実際には全速力の竜車に匹敵し、何より縦にも横にも巨大過ぎた。


「後衛は落ち着いて一旦下がれ! 前衛も地上でかち合うなっ、落ちてくる『崖』を小突くようなもんだ!!」


飛行獣や道具を全員用意する暇は無いので、自分以外には後衛に飛行魔方を使わせるしかない。

サエモンは状況の立て直しの為にまず1枚は倒し『隙間』を空けたかったが、出遅れた者達の救出に追われそれどころではなくなっていた。



大聖堂も騒然となっていた。


(マル!『危険な蟲』の使用を許可するっ。サエモン達を巻き込んではいかんぞ?!)


(あーい! ドリアード!)


師の命でマルは木の精霊を喚び出しつつ、収納の魔方陣から『+2評価の腐肉の塊』『+2評価の腐った果実の塊』『+2評価のドリアードの花粉と蜜』を取り出し、


「蟲、蟲っっ! 王蟲魔餌(おうむしまえさ)錬成っ!!」


鼻血を出しながら6つの異様な餌のオブジェを造りだし、ドリアードの力を借りて6体のギガブッチャーウォールに匹敵する巨大な精霊界の蟲を召喚した。


「刺激的~っ!!!」


カブト虫、クワガタ、ムカデ、蜘蛛、ダンゴムシ、カマキリの形をした巨大蟲は6体のギガブッチャーウォールに激突し、押し合いとなった。


「ゴゥラス! 何体行けるっ?」


「マルっ? エリクサー使うからっ」


僧服を着たフルーヤィと教会兵の武装をきたノノカが駆け込んできた。ノノカは即座に鼻血が止まらないマルのサポートに入る。


「無念だが4体がいいとこだっ。力比べをするには老い過ぎた。サラマンダー! 雑で構わんっ、燃やし砕く!! 」


冷や汗をかきながら、喚び出したサラマンダーを4本の『炎の手槍』に変化させるとギガブッチャーウォール4本の『眉間』に撃ち込み、火炎の亀裂を入れさせて爆発的な水蒸気と共に絶叫させ、押し止めるゴゥラス。


「私も・・オラクル! コールアムリタ!!!」


残る10体の爆進するギガブッチャーウォールに集約させて、フルーヤィは雨季の雨を浄化の豪雨と変えて撃ち据えだした。


「オボボボォォオアッッッッ!!!!」


身体を半ば崩壊させると、さらに1体はどうにか立て直したサエモンによって両断され、さらに1体が他の奇襲隊員達によって破壊された。

残る8体は隙間を狭めながら教会に迫った。避難は到底間に合わない。


ゴゥラスとフルーヤィが共に自爆魔法を考えたその時、


パァンッ、と轟音と共に雨粒を弾いてやや不恰好なテレポートで森の宿二番館が大聖堂上空に出現した。


「おいっ、ミィルス! もっとソフティにテレポートしろよっ? 何かパァンってなったぞ?」


「遠いしっ、こんな雨降ってると思わないじゃんかっ?!」


「兄さん前々っ!! 来てる来てるっっ」


「お? ゴゥラス、死にかけてやんの。ひひひっ」


「言うとる自分は死んどるやん?」


ゴゥラス達が唖然とする中、二番館の台座部位に姿を表したレンダ達は構えた。


「猫とセバスチャン爺さんは回復アイテム準備っ、あとはフルボッコだぁ~っ!!!」


「「「了解っ!!!」」」


レンダの幻獣群、ティティの精霊群、ミィルスのゴーレム群、ゼルアンの降下の勢いを乗せた一撃、マリユッカの爆裂魔法連打、タツノジの食べると石化して死ぬパン、ヨムエルの光の剣、ロンダのクレセントブーメラン改参、全体を援護するナガの操るツチタの結晶の弾の連打が、残る8達のギガブッチャーウォールを次々と打ち倒していった。


「何と・・」


「あれまぁ」


「凄いですね」


「刺激的っ」


レンダ達は二番館を降下させた。


「お爺ちゃん!」


「ゴゥラス! フーヤィと、マルかぁ?」


「見たかっ、ウチの活躍ぅ~」


いち早くミィルスとロンダ、それから『浮遊するドールハウス』に乗ったマリユッカが降りる。


「マリユッカ、それは?」


「暫定やけど『ウチ専用、三番館』や!」


「また妙な物を・・」


「色々話したい所だが、そうもいかないようだぜっ?」


倒されたギガブッチャーウォールの背後から魔族と魔物の大群が追撃してきており、既にサエモン達が交戦を始めていた。

ここで国軍と教会兵達もようやく気勢を上げだした。


「勝てそうになったら張り切っちゃってさ、もう軍と教会の人達だけでいいんじゃないかな?」


「もう一仕事だっ、やんぞ~っ!!」


ティティが呆れるする中、再び交戦が始まった。



レンダ達の加わった反新王派軍が魔族達を押し返しだした頃、ボンボとジャウナイ達は部下を損耗させながらも、玉座の間に出入口を開く段までたどり着いていた。


「『外部からの』呪いの類いの気配が無いな・・」


「お前達は一応待機しておれい」


ボンボとジャウナイは2人だけで、玉座の間へと入った。


強力で多重の魔除けの障壁の先の玉座に、


「・・虚しいのぉ」


「呪われながらさらに呪わしい真似をするからだ。愚かな」


干からびて腐り果てたナグワドが居た。

玉座の周囲には魔除けも寄せ付けない地獄への魔方陣が負の炎で描かれ黒々と揺らめいていた。

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