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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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レンダの部屋

いよいよ雨季になったんだぞ。


初期投入者達の輪番の再休息もとっくに済み、ロンダの『頭オカシイ特訓』も一段落して宿の業務もダンジョン内作業の効率も格段上がった。

何しろオイラがティティ並みに事務仕事に対応できてるもんね。まぁ別に好きな作業じゃないけど・・


初期投入者達の代わりに、雨季前に6層探索をしていた上級冒険者や5層より上で作業していた連中が輪番で休息に来るようになって相変わらず、森の宿は盛況だった。


5層で失踪したカジオ隊の事は心配だが、オイラ達はまた会える事を前提に目の前の仕事に専念してる。

勿論、雨季明けの6層以下の探索再開にはバッチリ備えてるけどさぁ。


御先祖ロンダはミィルスとマリユッカと二番館に乗り込んで、岩宿やフラ草原何かの森の外への遠距離テレポートの試験をしたり、比較的安定化した4層以上の階へのテレポートを試みたり、てのを繰り返してる。

ミィルスの手が空かないからゴーレムアトリエは助手達主体の運営に切り替わって、戦闘や探索補助は技術開発に留め今は設備維持や工事用ゴーレムの提供やメンテが主な活動になってた。

ティティ曰く「これはこれで最適化だよ」て事なワケだが、ミィルスはちょっと微妙みたいだ。

錬金術ではなくゴーレム使役を選んだ事に拘りがあるみたいだったしな。


で、だ。何かずっと揉めててゴゥラスの爺さん達が首を突っ込んでる王都の方は、残ってる先代王の唯一の実子の女の子が反新王派に奪還されてもう一触即発らしい。

ゴゥラス、クーデターでもする気何か??


これに観測所のクピド以外の連中はだいぶ動揺してて、雨季中限定で騎士団と教会兵の一部が帰還する事になったようだ。

ただここで抜ける連中がこのタイミングで王都に行ってこっちに戻って来れるのか? て話も出てる。


向こうに行ったら新王派と反新王派で敵同士になっちまうから戻るに戻れない、って人も大勢いるみたいだし、めちゃややこしいみたいだ。世知が辛いんだぞ?


「・・というワケで、来週の第3曜日の『ブラウニータワー・プラチナリーグ』のイベント計画何だが、この間好評だったし裁縫部が乗り気な『森の動物コスプレ』での開催を断行しようと思うんだぞ?」


「よく今の雑談の流れからその企画の話に戻したね。設営に問題は無いが」


呆れるが会場設営に問題は無いゼルアンクオリティ。

鍵の管理者メンの内、二番館メンバーとティティとサラ猫以外のメンバーで、2階のもう運営用に押さえる事にしたパーティー用の小会議室の1つでミーティングをしていた。


「はぁい。ブラウニータワーイベントは興味無い人は全く無関心なので、食堂で東洋の『回るスシー』のミニイベントもやりましょう」


「じゃあ2階のサロンでクピド用に『ヘヴンチョコレートファウンテン』と『ヘヴン綿菓子』もやっておこう。水没してきた5層とカチコチになった6層の定期調査と観測、クピド任せになってイライラしてるのが多いし」


最近、厨房の仕事の合間に料理以外の経口アイテムの製造も始めてるタツノジとヨムエル。淡々としてるが仕事量半端無い。


「オラはただひたすら『強者の祭典』を楽しみ尽くすだけだど・・」


「たわー弱者達ハ話ニナラナイヨ・・」


ダンジョン騒動が全部終わってからちゃんと社会復帰できるか不安になる最近口髭伸ばしてるナガとマント羽織ってるツチタ。


「よ~し。じゃ、ティティに確認取ってサラ猫にも温室と農園の相談があっから、オイラは商工街の部屋に行ってくるぞ? 皆はお茶飲み終わったら持ち場に戻ってくれ」


一先ず解散! オイラは追加改修した従業員通路への出入口の方に先に出ていった。と、


「ん?」


首から提げてるベスドーアの鍵が熱いような気がして取り出してみたが、特に何もない。


「・・気のせいか。近道近道っと」


オイラは鍵をしまい、段々複雑になって慣れない従業員が迷子になりがちな、宿の従業員通路をビュンっとフェザーフット族の小走りで駆け去っていった。



ブラウニータワーイベントの後、「仕上がってきた」という鬼教官御先祖ロンダの提案で、鍵の管理者全員参加で二番館の『一段進んだ』テレポート試験を実施する事になった。

ただし蘇生所と礼拝堂のメンバーも誘ったけど、普通に断られたぞ・・


「ミィルス、何か変わってないか?」


ツナギをやめて、転送系魔法を補助する格闘着みたいなスカンツのローブを着て、踊るように魔法式を組み上げてるミィルス。

しばらくまともに話してない間に様子変わり過ぎ。


「私、テレポートの専門家じゃないから最適解コツコツ踏んでるんだ」


「ほぇ~」


魔法使いチームは大変だな。・・お? そういやオイラは『何チーム』だ? 最近、『事務力』を高めただけ何だが。むぅ。


「お喋りしてないでそろそろ行くぞぉ? ティティもいつまで玩具イジってんだ?」


「玩具じゃないですっ。僕の商工街の試作品をですねっっ」


たくさん持ち込んでるから『若干ガラクタの山感』を出しちゃってるティティ。


「出発やっ! ヨーソローやっ!!」


特に魔法的な効果は無そうだが、『海賊風』の格好をしているマリユッカ。


「じゃ、行くよ?」


周囲に魔法式や様々な情報の映像を展開し、ミィルスは踊るように以前とは段違いに強力なマナ障壁に覆われた二番館をテレポートさせた。


空間が歪んで重力が半端になった感覚の後、二番館は雨のフラ草原の上空にテレポートしていた。


「おお~っ! 4ヶ月ぐらいしか経ってないけど、ちょっと懐かしい~」


「兄さん、窓から見ようっ」


オイラ達は窓から見たりして、はしゃいだが、


「はい次!『背骨街道(せぼねかいどう)』までっ」


背骨街道?! フラ草原と王都の中間くらいにあるかなり大きな街道だ。かなり遠い。オイラとティティも1度、記念のつもりで行商の遠征をした事があるが、行って帰ってくるだけで一仕事だったぞ?


「行ったれ~!」


「簡単に行ってくれるんだからっっ」


再テレポート!


「お、おぉ~っ?!」


「上から見るとホントに背骨だねっ」


平原にビシッと街道が通ってる。馬車や竜車が通る専用道もバッチリ通ってる。

雨中でも飛沫を上げてバンバン車が行き交い、昔のオイラ達は「こんな運ぶもんあんのか?」と唖然としたもんだ。


「このまま王都に帰りたいけど今帰ったら、対応間違えると即ギロチンにゃ・・」


ゲッソリ言うサラ猫。


「クールリーフ卿を逃がした上、虚偽報告していますからね」


「・・記憶にございませんにゃ」


お付きの爺さん騎士に言われてますますゲッソリするサラ猫だった。


「んんんっ、テレポート!!!」


それから二番館はフラ草原を介してオイラ達はベスドーアの森上空に戻ったが、これで終わりじゃなかった。


一旦休憩にミィルスはロンダやマリユッカにマジックポーションを飲ませてもらったり、「ナイスファイトやっ!」「ゴゥラスを見返してやれ」等と檄を飛ばされ、すぐに復活した。


「しゃっ! 私は優秀っ。私は孫っ。マルより優位っ!!」


マルって誰だよ? と思わされたが、ミィルスは「うりゃあっっ」等とヤケクソ気味にテレポートを発動させ、二番館を6層の中空、猛吹雪の最中にテレポートさせた!  いや6層かよっ?


「何で6層だロンダ! ミィルス煽り過ぎだろっ?」


「凄い氷のマナ! 障壁の外は備え無しじゃ即死だよ、コレっ」


「挨拶代わりだ! 向こうも速攻来るぞっ。ミィルスは迎撃に参加せず障壁の『開閉』と離脱準備!!」


開閉?!


「了解っ。皆、気を付けてね」


エリクサーを飲みつつ器用に踊って魔法式を調整するミィルス。


「かましたるで~っっ」


マリユッカもやる気満々だが、オイラ達は慌てたっ。


「兄さん、全員集めた時点でタダじゃ済まないよっ。腹を括ろう」


「う~っ、サラ猫はボウガンで援護、爺さんは猫ガード!」


「にゃっ!」


「心得てますっ」


「他の皆はいつも通りだぁ!」


「「「了解!!!」」」


案の定、吹雪の中から、下級魔族『レッサーデーモン』見た目は綿菓子みたいでファンシーな冷気ガスの塊『もくもくフロストガス』氷の死霊『アイスレイス』氷塊の魔物『プリズムテトラ』の大群が吹雪の中、逆巻いて接近してきた!


「ドンと来いだぁ!」


ドリアードを出してクレセントブーメランを持ったロンダは控えに回るつもりようだったが、オイラ達はミィルスを護衛のゴーレム2体に任せて機械仕掛けの部屋を出て二番館の玄関に向かい、ドアを開けた。


開けられた障壁からのべらぼうな遠距離攻撃の連打をナガがツチタを巨大な盾化させて防ぎ、オイラとティティが幻獣と精霊達を召喚し、戦いは始まった。


敵の数と勢いと『キリの無さ』はタダ事じゃなかったけど、属性は『氷』で固定されてるから、今のオイラ達のパワーでガンガン倒していった。そして、


「よし、そろそろだろだぁ? 帰るぜ!」


ロンダの合図を機械の部屋のミィルスが集音器で聞き取り、障壁が閉じられ、中に残ったヤツらもオイラ達と一投投げたロンダの攻撃で壊滅させ、二番館は観測所近くまでテレポートで脱出に成功した。


「はぁ~、今の6層のモンスターはさすがに硬いんだぞ・・」


「それなりだったぜ?『子孫その1』っ」


「そりゃどうもっ」


「うわっ? 兄さん! 障壁の下にモンスターの死骸が溜まっちゃってる! 何か焦げ臭いと思ったっ。もくもくガス再生してきるしっ」


「えーっ? アイツらそんなファンシーに見えないんだぞ?! 大体もうダンジョン出たしっ」


こっから後処理が地味に面倒だったんだ。



・・・雨季の中程になった頃、遂に想定される真の最下層9層の出現が観測された。


森の宿も反応して、やや不安定になり、オイラ達も気がきじゃない。ミィルスもテレポート試験を一旦休止して、探索補助用のゴーレムの開発に戻った。

同時期、悪かったらしい新王の体調が悪化したみたいで王都もより騒がしくなりだしているみたいだ。


色々ミーティングはしたけど、今日、今! オイラは新商品の『消臭拭き紙』を各クランに売り込みで忙しかった。

いや、スケジュール的にそうなっただけでっ、コレをそこまで重視してるワケじゃないだぞ?!


「何でクピド筆頭代行足るこのボクが拭き紙の営業何かに・・」


なぜか人称を繕うの忘れてるユンシエルが手伝いに入ってた。


「ブラウニータワーでヨムエルにボコられたからだろ? オイラ、宿の地下とかトーテムの点検に付き合いたいから、さっさと済ますぞ?」


「あのデュエルは不正じゃないかなぁ! ボクの方がアイツより賢いしっ」


往生際~。何て思ってたら、


「熱ちちっっ??!!!」


猛烈に提げてるベスドーアの鍵が熱くなりっ、さらにグイグイ引っ張られた!


「これは、地下だぞっ。ユンシエル! オイラ地下に行くから管理者を全員集めてくれっ」


「えっ? 拭き紙は??」


「任せた!」


オイラは速駆けで駆けだす。


「ズルいぞ~っ!」


文句は後で聞くっ。


鍵が導いてる! 地下の蘇生所の向こう、片付いてない物置の奥の壁際っ。


光る扉が出現していた。


「オイラの、部屋・・」


ベスドーアの鍵で開けると、そこはどこかの山深い粗末な粗末な郷だった。


「標高ある。ここらだとマゥナイ山? 晴れてる、というか『部屋の中』だろ??」


オイラは怪しみながら鍵に導かれるまま、かなり臭いも強い、無人の粗末な郷を進んだ。

たどり着いたのは郷の広場だった。白骨が積み上げられてる。


「うわ~、厳しいなっ。コレでオイラの部屋? えー? 何かオイラ的に不服というか・・」


ボヤいてると、骨の山から宝箱が押し出され、独りでに開いた。ここでベスドーアの鍵の反応が収まった。

中には巻物が収まっていた。知らない文字で題が書かれていたが、読めた。


『連なる星々(ほしぼし)の剣』


と書かれている。


「ロールなのに剣とはこれいかに?」


軽口を言いながら拾って拡げてみると、それは一瞬でつむじ風のように拡がり、オイラを取り巻き、記されていた文字を理解できた。


それは、歴代森の宿の主と、挑戦者達の記憶。敗れた者、打ち勝った者。叶えられた願い、阻まれた願い。


その連鎖の向こうに、女がいた。それはベスドーアの森から消えた純血のエルフで、アイマスクをし、『樹木のような杖』を持っていた。

場所はいつの間にか森、ベスドーアの、オイラ達の宿のあった場所に来ていた。宿は無く、代わりに遺跡の破片のような物が散乱している。


女は杖を宿のあるべき場所に差すとそれは芽吹いて童話のようなツリーハウスになった。よく見ると、犬小屋みたいな二番館もちゃんと生えてる。


アイマスクのエルフはそれを見届けると吐血し、オイラを振り返った。


「・・二番館の魔法は成功したようです、繋がった。最後の貴方、良かった。届いた。成されたのですね、連なる星々の剣の精製が」


そう言った側から、オイラの周囲の『物語達』が1つの輝く小剣となった。


「これは残酷な魔法。願いを叶え続け、彼を苦しめ続けるこの物語を、終わらせる為だけの魔法」


エルフはマスクの下で泣きながらオイラの手に触れた。


「全ての勇者達の物語を対価に捧げます。最後の貴方、どうか、私達の失敗を・・」


その女は塵と消えていった。


「兄さん!」


気付くとオイラは輝きを失った小剣を手に、物置の先の何も無い小部屋に立っていた。

狭い出入口の向こうに皆居て、オイラは何だか、涙が止まらなくなったんだぞ。

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