カジオ隊の受難
試験中の二番館が襲われ、その際先代の宿の主の1人ロンダの霊が現れた事で森の宿でが騒ぎになった数日後。
結果的に他の初期投入の冒険者達より早くに休息を終えているカジオ隊は、今は5層に来ていた。
5層は現在フラ草原の冒険者達が対処している。彼らや彼女らの平均的な実力は3層探索者程度な為、ギルドで用意した魔法道具を気前良く使い捨てにしながらの活動であった。
「ちぇすとーーっ!」
簡易に魔除けの杭の打たれたルートからやや外れた凍てつく石材の足場で、フラ草原の冒険者の戦士職が『一撃熱血のシード』を使って1発限定の強打を放ち、氷属性の浮遊する魚のモンスター『凍結デメキン』を撃破していた。
その仲間達も次々消費型の強化魔法道具を使いモンスターの群れと交戦している。
「贅沢な戦い方してんな~」
簡易魔除けのルートからそれを見ていた防寒着で着脹れ気味のアーママが呆れて呟く。
「スエリア中のギルドから備蓄アイテムを徴収したという話ですわ」
「ああいうやり方は『拳の感覚』が鈍る。いずれ再教練が必要だ!」
「でも『物量と資本』でゴリ押しするマッチョさはワリと好きです。ふふ、カジオはどう思いますか?」
「いや・・役回りがある、だろうし・・」
休息明けのはずが青い顔で歯切れの悪いカジオ。
「カジオ? ヒールしましょうか?」
「大丈夫かよ? 使った残照物、マジ何層級だったんだ?」
「やっぱり観測所に報告した方がよかったと思いますわ。これまで積極的だったのに急に残照物回収のクエスト断るのも変でしたし」
「ふーむ、今回の通常の宝物回収が済んだらやはり一旦、3層作業辺りに戻って様子を見るか? 拳も酷使すればいいという物ではない」
森の宿で休んでいた時点ではすぐに回復していたカジオであったが、亡き谷のダンジョンの中層に潜った辺りで急激に具合が悪くなっていた。
「いや、皆は休息明けで体調いいし・・4層作業にしよう。浅層は、もう工事以外の仕事少ないし・・」
カジオも大いに困惑していた。オルメーシに対するあの効果。4層級どころか6層級の残照物であったかのようだった。
しかし触れた時点ではそこまでの物と感じられず、何よりあのイメージ。
いち早く『彼女』を助けなくてはならず、浅い層で休んでもいられない。
そのような思考に引っ張られている事までは仲間達にも打ち明けておらず、パーティーリーダーとしては問題であったがそもそもカジオは既に冷静な判断をできてはいなかった。
残照物の使用は基本的に禁じられている。
「よし、ここ終わったら4層だな! 頼むぜリーダー?」
「ああ・・」
その後、問題無く宝箱等からの宝物の回収は進んだ。比較的トラップの多い区画で、こういったエリアは魔法道具の多様では無理押しし難い為、カジオ達に仕事が回されていた。
『宝物の回収クエスト』自主回収と違って回収物を好きにはできないが、事前に通常クピド達が下調べした詳細な情報と引き替えである為、パーティーの適性に問題がなければ比較的用意な仕事と言える。
体調の優れないカジオに配慮した受注であった。
トラップ帯を抜けつつ、この辺りの順路になっている簡易魔除けルートへ戻ろうとしていた。
「水位が上がってる・・」
意識が混濁しているワケではないので、凍てつく石材の進路を進みながら周囲のあちこち薄く氷の張った水面の位置の高さを改めて気にするカジオ。
「この辺りはまだそうでもないけど、マゥナイ山地の方はもう降雨が増えてる。地下水だろな。2層の苔も増えてるって話だった」
「ルートが水没する前に回収が済んで良かったですわ」
「む? あそこの『テレポートトラップ』起動してるな」
進路沿いの分かれ道のすぐ先の広間に転移の魔法陣を目に止めるヤッチ。
このトラップは同じ5層のモンスター部屋に飛ばす物だが、存外便利な位置まで『飛ばしてくれる』のでショートカット手段として利用される事もあった。
転送先に用のないカジオ達には無関係であるが、トラップである本来隠されている転送の魔法陣が解放されて輝いている。
「妙ですね、嫌な感じがします」
「聖堂の急造や、水位上昇の影響でこの辺りの構造が変わろうとしているのかもしれませんわ」
「・・報告はするが、触れるのはよそう。変動中なら妙な所に飛ばされる可能性もある」
カジオ隊は不可解なテレポートトラップは避ける事にして、先を急いだ。
しかし、
ザバザバザバッッ、周囲の凍える水面を掻き立てて、多数のモンスター達がカジオ隊の進む石材の進路に迫り出した。
「走るぞっ!」
「クィックムーヴ!」
不自然なモンスターの集まり方ではあったが、直前に奇妙なテレポートトラップを目撃しダンジョンの変動の話をしていたカジオ達は即応した。
ノイレミアは加速魔法を自分に使い、全員で簡易魔除け順路まで駆け(ポポエルは飛行)だす。
カジオ達の機動性ならば十分間に合う距離であったが、
「ゴガググッッ!!!」
走り抜けようとした『凍てつく石材の進路その物』が『大型ストーンゴーレム亜種』に変形し、先の進路を消滅させ、行く手を阻んだ。
「反則だろっ?!」
たちまち水棲モンスター達も追い付き石材の上に飛び移ってカジオ達を囲んだ。
「脱出の鏡を使う!」
高価な5層使用の脱出の鏡をカジオ達は使用を決断したが、モンスター達はことごとくそれを『妨害』し、さらにカジオ達をテレポートトラップの脇道の方へと押し出し始めた。
「ちょっとカジオ! コイツらオカシイよっ??」
「俺達の拳をトラップへ誘導しているぞっ!」
「いや拳だけじゃないですわっ」
「使役されてますね。魔族が? 5層でこの影響力を持つ個体が??」
「くっ、ファンシー系多いな!」
大型ストーンゴーレム亜種はカジオ達を追い込みはしてもさほど攻撃はしてこないが、カジオはやたらと見た目のファンシーなイカ型の『アビスポヨイカ』トド型の『キューティートド兵』マリモ型の『マリモーン』等に押し寄せられていた。
それらは斬った側から再生し、場合によった『2体』に増えさえした。
ファンシーなモンスターは根絶し難いこのダンジョンの摂理を当て嵌めても尋常な事ではない。
「だったらっ、ポポエル! テレポートの陣を壊せるかっ?!」
ノイレミアより耐久性と速射に向いたポポエルに促すカジオ。
「了、解っ。シャインドリル!」
モンスターの群れに揉みくちゃにされながら旋回する光弾を数発、テレポート陣に放つポポエル。
魔法陣は2割程であったが、破損し、起動は止まり発光しなくなった。
「よしっ」
取り敢えず意図行き先不明のテレポートは回避できたと、カジオ達は安堵したが、その直後、
ドロォォッッッ!!!! ヘドロのような負のマナが破損した魔法陣から溢れ出し、『巨人の女の細腕』の形を取り、高速でファンシーな魔物達に捨て身で身体を抑えられたカジオを捕獲し、壊れた陣に引き込みだした。
「ぉおおーーっっ??!!!」
「カジオーっ!!」
一番素早いアーママがカジオに飛び付いたが、とても止めきれない。
「待ってろぉっ!」
モンスターを蹴散らし、より近いアーママに飛び付いて踏ん張るヤッチ。
「痛たたたっっ?? 死ぬっ、あたしが死ぬっ!!!」
絞め技の『ベアハッグ』を喰らった形になって悶絶するアーママ。
「おっ? すまんっ。いやしかしっ」
思うように力を込められず困惑するヤッチ。
「シャインフェザー!」
放射状の光弾でモンスターを払いながら『闇の腕』を牽制し、カジオの腕を取るポポエル。止まらない。
4人で陣に引き寄せられてゆく。
「ちょ、皆?! もうっ。『マナボム』!!」
一応マナを高めてからであったが、自分の足元に炸裂魔法を撃って、モンスターを払いつつ、焦げながら爆発の勢いでカジオ達の方に飛ぶノイレミア。
「ううぅっっ」
「っ? ノイレミア!」
カジオは盾を捨て、軌道がズレてそのまま素通りしそうなノイレミアの腰帯を掴まえ、結局5人は纏めて闇の腕に引き込まれ、
「「「うぁああ~~っっっ??!!」」」
破損した魔法陣の中へと消えていった。
・・・平服のカジオは朝露の草原を歩いていた。少し前を寝巻きのような少女も歩いている。
知っている子だ。その子は裸足で歩いている。靴を履いた方がいい、足が濡れる。といった意味の事をカジオが言うと、
「冷たくて気持ち好いのです」
微笑って少女は振り返ったが、朝陽の逆光でその顔は判然としなかった。
再び気が付くと、高熱。呼吸の困難。
「ぶっはっ? あっち?!」
砂まみれでカジオは起きた。周囲は延々の砂丘。青空から多数の強い日差しの光源。
よく見ると青空の向こうに遺跡のような石材の天井が透けて見えた。
「ダンジョン内? 砂漠の環境・・」
過去のダンジョンや天使達の観測から、この環境の階層は想定されていた。
「『8層』? 最下層かっ。・・! 皆はっ?」
多少は冷静さを取り戻し、焼け付く砂の中、仲間達を探すカジオ。
パーティーメンバーはいずれも近くの砂に埋まって何人かは窒息しかけていたが、無事、掘り起こされた。
「どういう状況ですの? これは??」
防寒着は取り、爆破と魔法の複雑な影響で毛髪が『チリチリパーマ』になっているノイレミア。
「これは『主に招かれ』ましたね・・最下層は未探索です。前回の8層は参考程度にしかなりませんよ?」
一行は過去のマップ情報を元に動いていたが、まず現在地の把握があやふやであった。
「水と食糧と回復薬の類いのストックあるけど、野営地を見付ないと、持たないぜ? 脱出の鏡も最下層からは無理だし」
「俺達の技量と拳で、8層のモンスターに対抗できるのか? という問題もあるぞう?」
「ヤッチ、そういう事を言うと」
カジオが言い出した側から、ゴゴゴッと地響きが起こり、直後に砂中から巨大なミミズのようなモンスター『メガサンドワーム』が7体現れた。
「この数は無理だっ」
「クィックムーヴ! 最悪ですわっ」
また遁走するハメになるカジオ達。だが今回はゆく当てすらなかった。
そこへ、遠くの中空でドワーフ式の照明弾が上がった。
「ギルドの照明弾??」
「最下層に到達した方がいらしたのかしら??」
「行ってみようっ」
他に何も材料の無いカジオ達は照明弾の方に爆走した。
砂丘の向こうに城のような大きな岩場があり、その端でフードマントを着たフェザーフットよりも小柄な『5人の』者達が手を振っている。
「何者だっ? 大丈夫な拳か??」
「罠でも岩場はやりようがあるっ! ポポエルっ」
「バテますからねっ?『フルシャインドリル』っ!!!」
全力で旋回する光弾を数十発メガサンドワーム達放って牽制し、そのままヘバったポポエルを抱えるヤッチ。
一行はどうにか岩場まで逃れた。サンドワーム達は地中まで深く埋まってるらしい岩場に近付けないらしく、周囲を恨めしそうに旋回している。
「大丈夫だったかい?」
「ビックリだよね?」
風変わりな声で話し掛けながら、岩場の向こうからフードの小さな者達が現れた。
ヘバっているポポエル以外の一同は身構える。
「安心して、僕達は敵じゃない」
「君達は選ばれた。『姫』を助ける手助けをしてほしいんだ」
フードを取る小さな者達。
「「「?!」」」
その者達は、擬人化した虎、犬、鶏、蛇、イルカのヌイグルミであった。
『ファンシーなモンスターは根絶し難い』
カジオはこのダンジョンの摂理を思い出していた。




