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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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ミィルスの部屋

5層の階層守護者のイルカみたいなのが倒されると、最近参戦したばかりの上級冒険者達はそのまま6層に潜っていった。

雨季前に『おおよその平時の階層構造の把握と主な動線の野営地の確保』だけでも済ますつもりらしい。

5層まではクピドの斥候がやってた事だ。


順路以外の5層の探索と雨季の水没予想から逆算した位置の聖堂の仮設、聖堂建設が無理そうな箇所への強め魔除けの設置作業は、フラ草原の冒険者ギルド主体で対応を始めてる。


特に浅層は粗方済んでる4層より上の作業の仕上げは、ベスドーアの森からルートが通った事もあって森のワードッグ、ドワーフ、ハーフエルフ、一部は観測所の眼鏡に叶った外部(と言っても緑の門でウロウロしてた連中)の作業員が担当してる。

岩宿のノーム達はどうも王都の方の政変? 対応で忙しいらしい。


でもって階層主討伐で活躍したワーラビット達や初期から活動してた騎士団関係の連中、もう全員中級くらいの腕前になってる上級未満の冒険者達、観測所のクピド軍団はというと、


「森人参ワインおかわり~っ!!」


「ここの厨房のスケルトンっ、味見どうやってるんだ??」


「はぁーっ、もう5年分くらい稼いだから地元のギルドに帰りたいんだけどっ?」


「王都の家族が心配だ・・疎開させた方がいいと思うんだ」


「教会は反新王派に肩入れし過ぎじゃないか? もし政争に敗れたらと思うとっ、おお! 神よっ!」


「オイッ、そこの教会兵! 地上のクッソどうでもいい権力闘争ごときで神にあれこれ願うのやめろっ、ヘヴンチョコレート喰らわすぞっ?!」


「神よっ、降臨してる使徒がチンピラみたいでガッカリですっ!」


「なぁにぃいい~~~っっ?!!」


はい、輪番で休息に来てるのが一階食堂で『また』乱闘始めた。壊した家具と食器、片っ端から弁償だぞっ?


「はぁ・・」


半個室になってる端のチャージ席の1つから様子を伺いつつため息をつく。


こういうのは主にティティが担当何だが、中継地としてもここが便利になったから、あいつの部屋の商工街がもう大忙しで、サラ猫と爺さんも引っ張り出して対応にてんやわんやしてた。


オイラは直接細々対応するワケじゃないが、指示書に他の事も含めてあれこれ書いてく。

まず指示書を書くの苦手何だよ。最初の頃「字が下手」「書式がオカシイ」「要領を得ない」「ロンダはこういうの意外とマメやったで~?」とか、皆に散々言われたしっ。


「大変そうですな、レンダ殿」


ケンタウルス族だから立ったままチャージ席の一角を陣取ってる騎士団の48番隊隊長のタロ。


「コンシェルジュを増やしてはどうです?」


黒い肌の教会兵16番隊隊長のミルシコット。2人は輪番休養の仕切りを担当してる。


「ヨムエルやつ、厨房にいないじゃんか。茶化してやろうと思ったのに」


クピド筆頭代行のユンシエルも来てた。この3人は以前サエモン達と2層階層守護者を狩った縁があるっぽい。


「・・ヨムエルはミィルスの二番館の運用試験に付き合ってる。オイラもそっちに行きたかったけどさ」


「ふーん」


「立て込んでますからな。ハハハ」


「『コック服を着ている』と聞いて是非、見たかったこですが。ふふ」


「・・・」


それなりの温度差だぞ?



・・・二番館の『私の部屋』は最初から発現してた。そこは歯車だらけの『機械の小部屋』で、中央に制御器が有る。


「さてと、作業ゴーレムのオーダーも溜まってきてるし、雨季前には覚えないとね! 『赤』、『青』護衛よろしくっ」


私は連れてきてる、今、私が使えるゴーレムの中で一番強い小型ゴーレム2体に声を掛け、制御器に触れた。


「任セテ」


「守ル」


同伴はゴーレム達だけじゃないんだ。


「さっさとダンジョン内に飛んだらええんとちゃうか~?」


「どっちでもいいが、いい加減中距離もやってみたらいい」


マリユッカとヨムエルが来てた。

何か珍しい組み合わせ。というか、ヨムエルは厨房忙しいのに護衛に来てもらって悪いな、て。


「マリユッカはほんとに森から離れて大丈夫なの?」


「二番館の中ならセーフや。それに森から出ても精霊界に『強制送還』されるだけやから。またこっちに『戻る』のややこしいけどな~」


厄介な縛りね。


「取り敢えず1回目の転送、行くよ?」


私のマナを制御器に連動させると、部屋の中空に二番館の周囲の映像が多数映し出された。制御器の正面には目的地の情報の羅列が移し出される。

それを正しく読み取り必要な入力を行う。

ウゥンと制御器が発光しだして、二番館自体のマナが高まりだした。


「取り敢えず、観測所の近くの上空に飛んで見るよ」


二番館の『空間転移機能』を作動させる!


建物が時の精霊のノーモン、光の精霊ラカ、闇の精霊シン達のマナに覆われ、中の私達も『時空のマナ』を帯びる。

通常の転送門より精霊がダイレクトに関与してくる仕様。古代の魔法形式なのかも?


バシュッ! と瞬間的に二番館は観測所近くの上空に飛んだ。映像では下方の先に観測所とその先の亡き谷とダンジョンの入り口が見えた。

時空のマナの付与も解けた。


「問題ない・・ね。浮遊機能もよし! と」


「おっほ~っ、久し振りに森の外に来たわ~っっ。ちょっと窓から直に外見てみるで~」


「マリユッカ、窓から出るなよ? しち面倒臭い事になるんだろ?」


ヨムエルが迷惑顔で付いてった。私も取り敢えずこの位置に二番館を固定し、観測所に不審がられないように、向こうの水晶通信器に文字メッセージを送っておく。


「私達もちょっと見てみよう、これまでで一番遠くまで飛んだし」


赤と青を連れて、私の部屋を出た。

一歩出るとそこはファンシーな空間。外観同様、ドールハウスより甘ったるいデフォルメされた内装。

3階建ての小ぢんまりとした宿の形態を取ってるけど、都会に行けばこういうコンセプトホテルもあるかな?? むしろカフェの方がありそう?


ここの仕様は特殊で、何の管理をする必要もなかった。掃除も不要。水、燃料、食料、その他備品。全て自動供給。

勿論本館やトーテムの溢れるパワーありきである意味効率は悪いんだろうけど、人気も無く、客に解放される事もないから何だか白昼夢の中にいるみたい。


「トドメを刺す為に生えてくる、か・・2人は、フロントかな?」


一階の方でワーワー騒いでるね。赤青と丸っこいケーキみたいなデザインの階段を降りてく。

2人はフロントの左手の壁の窓から身を乗り出して、


「はい、ここまでセーフ~」


「ちょっ? そういう綱渡りみたいなのやめろっっ」


等とキャッキャとしてる。うん、二番館の底の皿みたいな台座も『敷地』扱いだからちょっとくらいハミ出しても大丈夫だろうけどね。

急にあのテンションに入るのも大変だし、何なら、


『2人の扱い未だによくわかってない』


手持ち無沙汰な感じになって、ふと無人の形ばかりのフロントを振り返ってみた。


ファンシーなデザインのフロントの向こうの壁には似つかわしくない、ゴツい業物の武器が掛けてある。

『クレセントブーメラン改参(かいさん)』だ。先代森の宿の主の1人、ロンダさんの武器。前回の亡き谷のダンジョンの最下層で失われたはずの物が、なぜかこの二番館のフロントの後ろの壁に有った。


マリユッカがやたらと私の二番館の作動試験に同伴したがる要因でもある、と思う。

これ、レンダでも使えるかな? とカウンター越しに触れてみようとしたら、鈴のような音が館のお菓子みたいなデザインのマナ拡声器が響いた。


「接近警報!」


主の権限で、私の部屋以外でも展開できる周辺映像を宙に出した。


人を乗せた4騎の飛竜がこちら向かってる。格好は騎士団。

谷っぽい方角から来てる。


谷? 巡回の帰り、とか?

さっきメッセージを送った観測所からの返信には、「了解した」くらいしかない。


行き違いや、現場判断でこちらの様子を見に来た可能性もある。


「ミィルス、二番館の魔除けの障壁しっかり張っとるな?」


「うんっ」


「魔物の中には巧妙に化ける者も居る。魔族も複雑な化け方をするヤツが居る。ティティも待ち伏せされたんだろう?」


「油断はしないから!」


赤と青にも警戒させ、映像で確認する。


接近する4騎は、魔除けの障壁を・・越えた。


「何だ」


「いやミィルスまだだ」


「『ええ皮を張り付けたヤツ』やとこれくらいの障壁、越えてくんで?」


4騎の内、隊長格らしい1騎が二番館の『皿状の縁』の部分に着陸し、ノックしてきた。


「わたくし19番隊副隊長のオルトォー・ゴールドシープと申します。谷周辺の巡回からの帰還の折、御見掛けしまして。こちらの水晶回線番号がわからなかったので直に来てしまい、失礼しました。森の宿の新しい二番館でありますよね? よろしければ御挨拶を」


(どの道だ、私が開ける。2人はゴーレムの後ろに)


テレパシーで伝え、ヨムエルは虚空から+2級の薙刀『雲断(くもだ)ち』を出して構えた。


「いらっしゃいませ~」


ヨムエルは実際の接客では一度も言った事の無いと思う台詞を言いながら、片手の指をクイっと動かし念力で正面口の扉を開け放った。


「おや? 物騒ですね。しかし備えあれば憂いなし。感心感心。では、中に失礼しますよ? 天使のコックさん」


自称19番隊副隊長オットーは雲断ちを構えたヨムエルに驚きながらも、二番館の中に一歩、踏み入れ、


ガッ! 前触れ無く打ち込まれた眉間へのヨムエルの雲断ちの突きをオットーは『高速で首を伸ばして噛み付き』受けた。


「あふないじゃひゃあないでひゅかぁ? 邪邪邪っっ!!!」


「調理で鼻が利くようになった! 臭うぞ魔族っ!」


「『メガティンクルアロー』っ!」


「赤っ、青!」


マリユッカは高出力の光属性のマナ弾の連射を、私は2体のゴーレムに『振動針弾(しんどうしんだん)』を連射させた!


「邪っはぁっ!!」


捻った樹脂かバネのように跳び跳ねて天井まで飛んで回避し皮を破って魔族デーモンウォリアの姿を晒す自称オットーっ。かなり固有の容姿をしてる!

背後の飛竜は蜂の巣になったけど、『竜の皮』の下は変身術が得意なモモンガ型のモンスター『マネモモンガ』だった。


背後の飛竜3騎もそれぞれ、マネモモンガとやっぱり変身する『脳吸(のうす)いカメレオンマン』の正体を表して館に飛び込んで来るっ。


「邪邪! 亜種まで出世できたのでっ、次は『アークデビル』辺りに出世させて下さぁいっ!!」


虚空から出したフォークみたいな武器でヨムエルの追い打ちを弾きながら喚くオットーだかデーモンウォリア亜種だかっ。


宿、ちょっとくらい壊してもしょうがない? 敵の動線がバラバラっ。不用意だった? 谷に近付く前に二番館の防衛機能もっと確認しとけば・・というか、まだダンジョン入ってないよね? 南ルートの被害が『(かて)』になった??


慌てて後手に回っちゃった。脳吸いカメレオンマンやマネモモンガはマリユッカが迎撃に当たってるっ。

私はどっちを? いや『屋内』でも二番館の防衛機能、色々あったはず。私が主だから、ちゃんとしないとっ。

ええっと、まず、捕獲、あ、その前に赤と青に指示を、大丈夫っ。私はマルよりできるんだから・・


何て、私があたふたしていると、


「『元祖』、とりゃーーっす!!!!」


「「「っ?!」」」


誰か、知ってる声? 小柄な人が、いきなりフロントのカウンターの上からいきなりクレセントブーメラン改参に強烈なマナを込めて投げ付けた!


ブーメランは不規則な軌道でデーモンウォリア亜種と脳吸いカメレオンマン、マネモモンガの頭部を次々と粉砕して『その人』の手元に戻っていった。


「邪ぁ・・???」


眷属も死に、塵と消えてゆくデーモンウォリア亜種。


「お前は、確か」


唖然とするヨムエル。


「嘘や」


固まるマリユッカ。


「・・何で??」


私もワケがわからなかった。フロントのカウンターの上には『透けた身体で』、クレセントブーメランを手にフェザーフット族の青年が笑ってた。


「何で、て。ここ宿だろ? なら『客』だって来ちゃうぜ? へへ」


「ロンダぁ~っ!!!」


マリユッカが泣いて透けた姿のロンダさんに飛び付いていった。


「二番館、『死人(しびと)』を招く機能もあったのか?」


「ううん、わかんないっ??」


私はヨムエルに上手く答えられなかったよ。

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