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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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二番館の主

ずっと昔、前回の森の宿のお爺ちゃん達が居る、主の仮眠室に行く機会がたまにあった。


お爺ちゃんは特別優秀な人で、補佐の事務員は2人しか雇わずに淡々と膨大な量の宿の事務仕事をこなしていた。


事務員が少ないから事務スペースも狭くて、それ以外はロンダさんが散らかし放題。今、思えば凄い環境だったな。て・・


遊びに来たけどロクに構ってもらえない私は端の席で玩具のゴーレムをイジりながら、もう1人の子供をこっそり見ていた。

別の端の席でぼんやり頭に森カブト虫を乗せているお爺ちゃんの内弟子で孤児のマル。

大き過ぎる眼鏡を掛けてる。


「・・・」


魔法の才能があるみたいだけど、何だかだらしなくて、心ここにあらずで、変な子。

お爺ちゃんは私にはあまり魔法も錬金術も教えてくれない。

ゴーレム造りは魔法の才能があまり無かったお母さんと、元は木彫り職人だったお父さんの仕事だった。


友達は居たけど、私は一人っ子で、親は仕事で忙しく、お爺ちゃんは変なカブト虫頭に乗せてる子を育ててる。


私は何となく孤独な気分の少女だったと思う。何となく、ね。


「よーしっ! 来月のクランごとの慰労会プラン! できたぞゴゥラスっ」


散らかった自分の机で何か書いていたロンダさんが声を上げた。


「まず他の鍵の管理者達に見せて修正してくるんだ。この間の騎士団の慰労企画も酷かった。すぐ見たくない」


「んだよ~。ま、いいや! 後でびっくらこくなよ? 行くぞっ、ドリアード!」


ロンダさんは当時よく連れてた、鉢植えで居眠りしてたドリアードを呼び寄せて慌ただしく部屋から出ていった。

彼はいつもこんな調子だったなぁ。レンダと似てるけどもっと猪突猛進、みたいな。


それから一段と静かになった気がする仮眠室で、


「・・あ」


無駄にイジり過ぎて、玩具のゴーレムが壊れてしまった私がうんざりしていると、


「ミィルス」


急に、作業の手を止めずにお爺ちゃんが話し掛けてきた。


「この宿に、もうすぐ二番館が発生する見込みだ。『下手にその主に指名されると面倒だ』。お前はここに来るのを辞めなさい」


「・・何で」


何でも何もないんだけど、マルには言わないのがムッとした私は聞き返した。


「二番館は一番館と違い、ダンジョンへの『直接的な攻撃手段』として発生する。主のリスクは高い」


「マルはいいの?」


「この子はアレな所はあるが、マナに祝福されている。補助すれば問題無い」


「私は祝福されてないんだね」


嫌な事言う子供だったなぁ。


「いつか意志と技量が確かとなれば、才能等は越えられる。この災いは続くであろうしな。お前の番も、あるいは来るだろう」


「何か、面倒臭い。帰る」


急に話が現実的になった事に気圧された事もあって、格好つかない私はふて腐れた事を言って宿を後にして、結局全部が終わるまでそれから一度も前回の宿を訪れる事は無かった。



・・・フロント担当を3人雇えたけど、とても回らないから、4時間だけ私が久し振りに立つ事になった。


午前2時から午前6時までね。ダンジョン内のエレベーター工事用ゴーレムの改修作業でほぼ徹夜をしている私がだよ?


嘘だよね?「森メロン味だ!」ってレンダにポーション+1を1本渡されたけどさ。


「はぁ」


ため息ついていると、最近導入した『掃除ゴーレム』と目が合って片手を上げて挨拶されたから私も曖昧に返す。


間が持たなくなって、カウンターの下に隠していた森メロン味のポーション+1の飲み残しを飲んでいると、地下の転送門の通路の方からドタドタ足音が近付いてきた。

予約より小一時間は早いしっ。


液が変なとこ入りそうになったけど、素早くポーションの瓶をカウンターの下にしまい。スンっ、て感じのそれらしい佇まいを取った。

今、裁縫部が気合い入れて作った制服をちゃん着てるしね。レンダが裁縫部の人達に「バーテンっぽいぞ?」て見たまま言ったら変な空気になったヤツね。

隣で口を開いた瞬間「コイツ、言うな」てわかったけどねっ。


客の、パーティーのリーダーらしいロングフット族の女ともう1人のここらじゃ珍しい子守熊人(ワーコアラ)族の性別はちょっとわからない人が、地下の通路の方から足早に来た。

2人ともダンジョンからそのまま来たみたいでドロドロだ。廊下も汚しまくり、掃除ゴーレムが目の部位(注目表示兼、視認装置なので『目』でいいと思う)をキラーン! と輝かせて反応した。


結構な勢いだったから、近くのベル係の2人が慌てたけど、私はニッコリ微笑んでみせた。


「いらっしゃいませ。ようこそ森の」


「蘇生の手続きをっ!」


食い気味ね。


「何だあの蘇生所の婆さんっっ、話にならない! あと腕利きの遺体錬成の使い手も居るんだろ?!」


コアラの人、モフモフなのと声がカン高いから喋ってもどっちかよくわかんないや。

腕利きかは微妙なとこだけど、たぶん私の事だな。

専門のハーディさんは予約が雑だとヘソ曲げるんだよね。カジオの時もレンダがワーワー言うから喧嘩になって大変だったわ。


「では御遺体の」


「仲間の死体は地下に預けたわ! 使えそうな素材は持ってきたっ。ダメなの? いいの?!」


気持ちはわかるけどグイグイ来るよね。


「観測所の蘇生所だと騎士と聖職者以外は高いし、想定の仕上がり粗いんだよ? 新鮮な『肉』も一杯持ってきたからっ。『大喰らいカバの霜降り肉』!『砲弾魚(ほうだんうお)の赤身』っ!」


コアラの人は収納ポーチから『保冷樽(ほれいだる)』を2つ取り出してフロントの前に置いた。


4層のモンスターの肉ね。腐ってはないみたいだし、栄養はあるんだろうけど・・


クッサ~~~っっっ!!!!


掃除ゴーレムもちょっと『防衛反応』してるしっ。


「お客様、マナと生命力の強いモンスターの肉での蘇生は『ちょっと混ざったりするので』値は張りますが普通の家畜の血肉を御使用になられることをお勧めします。それから蘇生の手続きは地下の蘇生所でお願いします! 助手の方々はお話し易いはずですのでっ。今、連絡を取らさせて頂きますね!!」


巻くし立て、ベル係の2人に目で合図して、肉々しい樽をしまわせるよう促し、伝声器の内線で蘇生所に連絡を取り出した。


肉は結局幻獣の餌として買い取る事になったよ!



早朝、どうにかフロントの仕事を終え、ネクタイを取った制服でヨロヨロと従業員通路を歩いて、一階のアトリエの一角にある私の私室に向かってた。従業員通路使うと遠いんだよね・・


「うっ、ポーションの反動で胃がヤバいっ。仮眠明けはタツノジさんにオートミール作ってもらおっかな? ふぅ~・・」


「あ、いたいた。ミィルス!」


「ふぇ?」


通路の向こうにティティがひょこっと顔を出した。早朝なのに元気そう。


「二番館が完成したみたい何だ! ベスドーアの鍵も反応してるっ。もう兄さん達も行ってるから!!」


駆け寄ってきて手を引いてくる。大人しいイメージのティティだけど、さすがに若いフェザーフット族だから素早くて、うおっ? てなる。


「何何??」


私はなすがままに迷路みたいな従業員通路を抜けて、勝手口の1つから外に出された。


「・・? いや、わかんないけど?」


朝霧と、マナ障壁と3階建ての2階まで覆う塀のせいでちょっとよくわかんなかった。


「こっちこっち」


何人か寝巻きの鍵の管理者と、なぜか普通に居るカジオ達が集まってる方に移動。


「ミィルス連れてきたよっ」


「おう。じゃ、ナガとツチタ、よろしく」


「任せるだど」


「ヨッシャ~」


まず障壁を解除するナガとツチタ。癖強い障壁と思ってたら2人が掛けてたんだ。


「じゃ、開けるよ」


障壁が解かれるとゼルアンが鍵を開けて重そうな塀の門を開けた。その向こうには、


「んん~??」


渋い顔の寝巻きのレンダ。それもそう、二番館は確かに前よりどっしりとした構えに成長していたけど、相変わらずメルヘンな造りで、でも、


「・・・皿?」


そう、完成したという二番館は大きな皿みたいな物の上に乗っていた。二番館自体がファンシーな工芸菓子みたいだから、より『お菓子感』が強くなったような??


「いや、これは転送門だね」


ゼルアンがざっと調べて言った。寝巻きでもさっきから仕事がプロ。


「『移動型』の二番館か。ようあるタイプやで? 二番館はその時代のダンジョンに『トドメ刺す』為に生えてくるさかいな」


ネグリジェがセクシーだけど皆触れ難いからそこはスルーされてるマリユッカ。


「ふんっ、問題はコイツだな」


レンダは懐からベスドーアの鍵を取り出した。淡く光って反応してる。と、


「おっ?」


一際強く、鍵が光ると光の欠片が飛び出して浮き上がって・・私の手元に来た。


光は形を成して『ファンシーな鍵』に変わると、私の手に収まった。


「・・・」


「順当に、二番館の主はミィルスやな! 気張りやっ」


「頑張れよ~」


「皆でサポートするからね」


予期はしていた。

私はもう子供じゃなくて、お爺ちゃんとは違う技量を身に付けた。意志はどうだろう?


先代の二番館の主が前回のダンジョンを終わらせる為に亡くなっていて、その事が原因でお爺ちゃんとロンダさんが決裂していた。


私は、繰り返さない。レンダとティティとお爺ちゃんと、皆に、傷を残さない。それは思ってる。


「・・やるだけやってみるよ。というか、開けてみるね?」


私はなるべくどって事ない顔で入り口まで歩いて行き、カチャっと玩具じみた軽い音を立てて、お菓子みたいな、攻撃する為のもう一つの森の宿の鍵を開けた。

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