火の錬金術師
『中央教会好み』のやたら白い正装をしたゴゥラスの仲間、ハーフエルフのフルーヤィとワードッグのノノカは一礼をして、教会の重鎮達が介した部屋を出て、そのまま聖職者や教会付きの兵士達と擦れ違い時折会釈しながら黙って正しい姿勢で歩き通し、人目のない中庭の1つに面した渡り廊下まで来ると、
「はぁ~っ、やってらんないわ!」
「『事を荒立てないように』って28回も言われましたねっ」
美しい装飾の胸壁にだらしなく凭れる2人。王都の昼の日差しと庭の小鳥達の鳴き声は麗らかであった。
2人はスエリア国中央教会の大聖堂に来ていた。
「だけど散々渋ってたヤツも含め、新王派以外の教会の重鎮! 全員、集めてやった。あたしらが退席した後も協議はしてるっ。教会方面の外堀は埋めてやったさっ!」
「ではフルーヤィ様、ボンボ様達とゴゥラス様とマルのサポートに回りましょう」
「いや、あっちはあっちで任す。教会は教会で条件次第で積極的に手を貸さないではないってのも居るからね? こっからは詰めるっ。『一番性格悪い事するヤツが勝つゲーム』さ!」
「・・何か楽しそうですね」
若干引くノノカ。
「何だよ、ノノカぁ? あたしはこれでも『1級僧侶職』だぜ?」
「それって、冒険者ギルドのジョブですよね? 教会から『異端警告』を40回くらい下されてますよね? 今さらですが、よく大聖堂に出入りできましたね・・」
「あたしの信仰は『地上』ではなく『天の神』に捧げられてるのさぁっ」
いつの間にか吸っていた煙管煙草を咥えて青空を仰ぐフルーヤィ。
「昔『イグエル様とボコボコに素手で殴り合いの喧嘩してた』って聞きましたよ?」
「いつの話だいっ?! 出世したようだが、アイツは現場でイキってる『低血圧チンピラ役人』みたいなもんだよ!!」
「低血圧チンピラ役人・・」
不穏な過去を持つフルーヤィの荒ぶりにノノカがさらに引きながらも、フルーヤィ班は地道に成果を上げているようだった。
同日の夕、同じくゴゥラスの仲間、隻眼のノーム族ボンボとドワーフのジャウナイとその一党はスエリア国の東北部山地にある有翼種族『バルタン族』の郷にいた。
「我々は役人ではない。息子は郷に帰っているな?」
この郷は、出奔した前王の治療者の1人の故郷であった。
「勘弁して下さいっ、息子は貧しい郷の為に大金を持ってきてくれたんですっ。この重税の中、どれだけ皆救われたか!」
ボンボ達は全員旅装ながら武装しており、何より全員手練れであった。特にジャウナイは黒金の城ごとき身体をしていた。
気圧された治療者の母は泣きながら訴えてくる。
しかしボンボも余裕は無かった。精神操作系の魔法で聞き出すより他ない。そもそもこの状況でのうのうと国内に留まっているのは甘過ぎる。母子共々国外に逃がしてやるにしても非常手段に出るより他ない。
そう思った矢先、ドンッ!!
郷の外れで爆発が起こった。母親が真っ青になる中、ボンボ達は即応した。
「3名残れ!」
言い残し母親を保護させ、ボンボは自分と脚の遅い手の者全員に加速魔法『クィックムーヴ』を無詠唱で掛け、郷の外れに急行した。
ショートカットする為に入った郷内の雑木林に入ると、木々に刻まれていた魔法式から陣が展開され、数十体の影の頭部に光る両目を持つ犬のモンスター『ブラックドッグ』が出現してボンボ達に襲い掛かってきたが、
「ふんっ!」
+2級の大戦斧をジャウナイが一閃し、『大山斬り』を発動して全てのブラックドッグと前方の雑木林の木々を両断して打ち倒した。
結果、ボンボ達は降ってくる進行方向の木々を回避せざるを得なくなった。
「ジャウナイ! 加減をしろっ!」
「ガッハッハッハッ」
笑うばかりのジャウナイにボンボが眉を吊り上げ、手の者達が大慌てしつつ雑木林を抜け、郷の外れまで来ると、消し飛び炎上する小屋らしき跡と、バルタン族の焦げた肉片もいくつか落ちていた。
既に周囲人気は無かった。
手の者の1人が頭部の破片を見付けた。
「ボンボ様!」
頭部の破片をボンボの元へ持ってゆく手の者。ジャウナイも覗き込んだ。
「こりゃ蘇生はできんの。『降霊』は試せそうだが、親不孝もんだ」
「後手に回ったか・・」
ボンボは悔しげに呟いた。
夜、ゴゥラスとその弟子マルはスエリアの中央ギルドが所有する籠牽きの騎竜『竜車』でスラムの端の辺りに到着した。中に1人、別の客を残して降りた2人は簡易は正装としてノームの帽子と岩宿の紋の入った緩い上着を羽織っている。
「ゴゥラス様、もう少し奥まで送らせますが?」
今まで同乗してギルドの事務職員、オーガ族の『ウーラ』が狭そうに開けた車窓から顔を出してきた。
「構わん、悪目立ちするだけだ」
「刺激、無~し・・」
やや退屈そうなマル。
「そうですか、それでは」
「気を付けてな」
「それじゃあでーす!」
「? はい・・」
マルに困惑するウーラの乗る竜車は御者に操られ、去っていった。
2人は場違いな帽子と上着を取り、代わりに野伏の衣を着込んだ。
特に合図も無く、早足でスラムなりに人家のある方へ歩きだすゴゥラスに続くマル。
「エコーハート」
小声で念話魔法を唱え、テレパシーをマルと繋ぐゴゥラス。
(サエモンは話が早くていいが、ボンボの方は先回りされたらしい。教会は『後出し』でしか協力しないだろう。我らは続けて、冒険者ギルドを介しダンジョンと国境警備に掛かりきりなっておる騎士団と接触を図らねばならない。国軍全体にも)
(・・・)
(マル? どうした)
(刺激のニオイがします)
「っ!」
ゴゥラスは迷わず取り憑いているサラマンダーを出現させた。
直後に物陰からクロスボウの毒矢が多数放たれたが全てサラマンダーにより焼き尽くされ、射線の元を読んだマルが未舗装の土の道から錬成した『土の弾丸』を打ち込み、射手全員を吹っ飛して昏倒させた。
が、昏倒させられた射手達は瞬時に発火した。
激痛で目覚め、絶叫しながら息絶えてゆく射手達、その周囲に火は燃え移り、ここでようやくスラムの住人達は異変に気付いて騒ぎだした。
「いい弟子、いいサラマンダー! 持ってるねぇ? ゴゥラス・トーチブック」
近くの屋根に魔法道具で姿と気配を消していたらしい、魔法使いゼンニマァクが姿を表した。
ナグワドの元に現れた時とほぼ同じ装束だが、かなり着崩していた。
「容赦は無いようだが、わざわざ姿を表し、自信家だな」
ゴゥラスは手近な井戸から念力で水を大量に引き寄せ、鎮火に当たろうとしたが、
「『プラス・スプリットファイア』」
ゼンニマァクは笑顔で全ての焼死体から分散する火炎を爆ぜさせ、辺り一面に火災を拡大させた。たちまちスラムに悲鳴が飛び交う。
こめかみの辺りに青筋を立て、ゴゥラスは届く範囲で焼かれながらもまだ生存しているスラム住人達の滅びてを引き寄せた井戸の水で打ち消しながら、叫んだ。
「マル!」
「了解でーす!」
マルは収納の魔方陣から『+1評価の腐肉の塊』『+1評価の腐った果実の塊』を取り出し、
「蟲、蟲、蟲っ! 蟲魔餌錬成っ!!」
甘い悪臭の極みを放つ奇怪な餌のオブジェを造りだし、
「ドリアード!」
自身に憑いていたドリアードを解放し、餌のオブジェを対価に『無数の精霊界の蟲達』を呼び寄せた。
蟲の渦は唸り上げ、スラム住人の生存者達を恐怖させながら掬い上げ、火傷や軽度の欠損部は蟲達の分泌物や蟲自身が『血肉と成って』治療し、安全圏に飛ばしてゆく。
「刺激的レスキューっ!!」
「個性的じゃなぁい。救助何てしてるのは萎えちゃうけどさ?」
「減らず口をっ」
サラマンダー纏って、魔方障壁を張るゼンニマァクに突進するゴゥラス。2人は屋根を吹き飛ばしながら、炎と蟲の逆巻く無人と化したスラムの空中で対峙した。
「何でここで『近接』挑んでくるかなぁ? ま、面白いけど! 来い」
ゼンニマァクは大型の魔族『グレーターデーモン』を召喚し、ゴゥラスを弾いた。
「エクスプロージョン」
グレーターデーモンは火のマナの炸裂を連打してきた。サラマンダー纏い、回避し、打ち払うゴゥラス。
「お主! ただの刺客ではないなっ?」
「いや、別に『ただの刺客』だよ? まぁ『戦歴』はそれなりよ? シルクラ姫焼いちゃったしっ! アッハーーーッッ!!!! ちょっと拷問してあげたら『ダンジョン主』になっちゃうだからっ、清楚な顔して存外恨みがましい女、ねぇ? ぷぷっ」
「何の為に? どれだけ呪わしい事をしたかわかっているのか? ダンジョンがっ、どれ程慎重に、手厚く対応しても、多大な犠牲で攻略されるものかっ! わかっておるのかっ?!」
「いや知らないけど? 仕事で気持ち良くなっても別によくない? 折角だから、これからもっと! この国を焼き苦しめたいんだよ!! シルクラ姫ちゃんの願いも叶えばいいじゃん? どうせ復讐だろ? ぷぷっ、『いっそ世界ごと呪えばいいんじゃない? 面白く間抜けに滅びてくの、楽しそうじゃん?』」
「・・もうよい。サラマンダー、『真なる炎を錬成する』」
ゴゥラスのサラマンダーは発光しだした。
「あー、一応言っとくけど、仕事だからさ。『火炎無効のアクセサリー』持ってんだ。グレーターデーモン君は殺れるかもだけど、『あと3体契約』してるから、よろしく~」
+2級の腕輪を掲げ冷笑するゼンニマァク。が、
「っ?!」
グレーターデーモンと火炎無効の腕輪は光の炎と化して溶けるように散り、ゼンニマァク自身も痛みも無く光の炎に変換されだした。
「なっ? え??」
「『火炎還元錬成』マナも魂も『生命の炎』と解釈できる。お前のような者であっても『一片の個我も無き命の光』としてならば、世界の循環の中に還る事も許されよう」
「っっ・・き、気持ち良くない・・・」
ゼンニマァクの全ては光の炎に解体された。
「お師匠~。刺激的に避難終わりました」
蟲の渦を引き連れ、飛行するドリアードに乗ってマルが来た。
「続けて鎮火を頼む。久し振りに力を使ったからサラマンダーの抑えが利かん」
「は~い。大事になっちゃいましたね」
「面白がるでない。これは始末が厄介だ」
サラマンダーと共に浮かぶゴゥラスは、火の海となった無人のスラムをうんざりと見下ろしていた。




