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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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王都

スエリア王国首都、『スエリア』はフラ草原の遥か北東のスエリア台地の中央にある。その起源は諸説あるが、現在では亡き谷のダンジョンの『最初の主の願い』で発生した国という説が有力とされている。


何故ならスエリア王国は歴史上、フラ草原とそう変わらない辺境の地に過ぎなかったスエリア台地にある時忽然と誕生したロングフット族主体の国で、建国から40年あまりは黙々とベストーアの森に隣接したフラ草原までを領地として開拓するばかりで外部と交易をしていなかった為、海を挟んだ大国メゥラ国がその調査団を派遣してようやくその実在が明らかとなった程、唐突な国だった。


メゥラと交渉した当時の『第2代』の国王はスエリア国の成り立ちについてそれなりに主張はしたものの、メゥラの外交史によれば『要領を得ず、何らかの尋常ではない対価による魔法の行使の産物の可能性が高い』と記されている。


そのような奇妙な出自の国の王都スエリアは現在、不穏の中にあった。



王都の貧民街を気配を消すフード付きマント『野伏の衣』を纏ったノーム族が2人足早に歩いていた。1人は若い眼鏡を掛けた女で1人は初老。初老の男はゴゥラスであった。


(貧民街の人口密度が増えてますね、何か殺気立ってる。刺激臭も刺激的!)


眼鏡のノームが念話(ねんわ)魔法の『エコーハート』を通してゴゥラスに語り掛けた。


(マル。あまり面白がるでない。短期でこれだけの増税に、敵対王族、貴族、武官、文官が大量に処分され、それに類する者達も数え切れぬ程処された。乱が起きていないのは必要な時がまだ経っていないだけだ)


物見遊山な気配のマルと呼ばれた眼鏡の若いノームを嗜めるゴゥラス。


(王家の廃絶の可能性や亡き谷のダンジョンの事もあるんでしょうねぇ? それに冒険者の選抜トーナメント大盛り上がりですし! やっぱ関心分散しちゃってるんですよ~。結局、皆、刺激! が好きだからっ)


(・・あまり面白がるでない)


改めて嗜め、ゴゥラスは脚を早めた。


2人は路地に入り、路時に垂らされたノームの岩宿をモチーフにした織り布が垂らされた先の行き止まりにそのまま進んでいった。

2人のしていた腕輪が反応し壁に魔法陣が浮かびだし、そのまま壁を通り抜けて全く別の複雑に入り組んだ迷路となった路地に出ると、迷うことなく進みその先の1つドアを開けて中へ入った。


ドアの中は酒場だった。客の大半はノームで、旅装や野伏の衣を纏った者が多い。

2人はフードを取った。


「お帰り、ゴゥラスさん。マルちゃんも」


ノームの酒場の主人らしき女がゴゥラスにはエールを、マルにはルートビアを手際よく注いでカウンターに置いた。


「ありがとう、ボンボ達は?」


「来てるよ」


「このルートビア、刺激的?」


「生姜と『バッチの実』がたっぷりだよ?」


「最高!」


2人はジョッキを取り、ゴゥラスは代金をカウンターに置いて酒場の奥の個室へ向かった。


個室には初老の隻眼のノームと、初老のドワーフ、中年のハーフエルフの女、若いワードッグの女がいた。


「ゴゥラス、どうだった?」


隻眼のノームが聞く。


「やはり離宮の妹君の元へは一度も来ていないようだな、趣味ではないのと、暗殺を恐れているという話もあった」


ゴゥラスとマルは空いた席に着いた。マルは気安いらしい若いワードッグの女にハンドサインで『快調』と送り合った。


「胸糞悪い時勢の中じゃ、マシな材料だ」


初老のドワーフはパイプの煙を吐きながら言い捨てた。


「そっちは?」


「変死や出奔した先代王の治療関係者のリストは粗方作れた。だが変死はともかく、出奔した者達の調査は俺達だけじゃ厳しいな」


「中央教会とは交渉できそうだよ? ボンボはギルドと昔揉めたから、そっちもゴゥラスがやってくれよ。サエモンも近々戻ってくるらしいし」


ハーフエルフの女が億劫そうに話す。


「わかった、やってみよう、ボンボは変死者の調査を。ジャウナイはボンボの護衛、ノノカはフルーヤィの護衛だ。新王の『私兵』が嗅ぎ回っている」


「ジャウナイが街中で暴れると面倒だ。手下を使って上手くやるさ」


隻眼のノーム、ボンボは初老のドワーフ、ジャウナイを見ながら言った。


「ワシも歳だぞ? 暴れ牛のように言われてもな」


「こっちはノノカ達で事足りるけど、ゴゥラスはマルちゃんだけで大丈夫なの?」


「私の兄弟姉妹を貸してもいいですよ?」


ハーフエルフのフルーヤィとワードッグのノノカが続けて気遣ったが、


「私も年を取って『加減が甘くなった』、後始末をつけられる弟子が1人付くくらいで丁度いい」


とゴゥラスは言い切りながら独特の形に進化した火の精霊サラマンダーを朧気に実体化させ、


「刺激的ぃ」


マルは混ぜっ返しながらルートビアを飲んでいた。



・・・王宮奥深く、多重に魔除けの魔法式を施した部屋で、新王ナグワドは王家に伝わる+3評価の光属性の杖『天明(てんめい)の杖』にすがり付くようにして、寝台側の瀟洒な椅子に座っていた。

王位を示す王冠とマントを羽織っているが、その下は下履きしか穿かず、不精髭に冷や汗まみれで窶れ切っていた。


ベッドでは、娼婦らしいが着衣のままの年増の豊満なロングフット族の女が絞殺されていた。


魔法素養は大して無い、ナグワドにも部屋の隅々の施された魔除けの魔法式がジリジリと侵食されているのがわかった。


「・・はぁはぁはぁっ、クソッ!! こんなはずではっっ、あんな出来損ないの小娘の為に!!」


ナグワドは怯えながら激昂していたが、部屋のドアがノックされると、棒で突かれた蛇のように獰猛に光明の杖を構えた。


「誰だっ?!」


「ゼンニマァクだよ? 呼んどいて誰だはないだろ?」


「口の聞き方を慎めっ!」


「はいはい。開けますよ」


「魔族や死霊であれば1歩でもこの部屋に立ち入れば即座に滅されると知れっ!」


「わかってますよ。そう作らせましたし」


ゼンニマァク、シルクラ姫を焼殺した女の魔法使いが部屋へと入ってきた。すっかり良い身なりとなっていた。


ゼンニマァクはナグワドがマントだけでなく、王冠まで被っている事や、絞殺された娼婦が着衣のままである事に吹き出しそうになったが、どうにか堪えた。


「あ~らら、また随分慌てて『致された』ようですねぇ。ふふ」


「笑うなっ、すぐに始末しろ! 魂も完全にだっ。部屋の魔法式も補強し直せっっ。もう綻んでるぞっ?!」


「はいはい、肉はスライム、魂はレイスにでも喰わせますから。補強も直ちに手配します。ベッドの手入れはメイドでできますよね?」


「知るかっ!」


ゼンニマァクは念力で、死後の一時的な弛緩で汚れたベッドから娼婦の死体を引き寄せてそのまま、香水と汚物とまともに風呂に入っていないナグワドの臭いの籠った部屋から早々に退散しようとした。


「ゼンニマァク」


暗い声だった。人を人とも思わず、己だけを愛でる者だけが出せる美声だとゼンニマァクは感じる。


人の醜悪さの一つの極致をつぶさに観察できる。既に巨万の富を得たゼンニマァクがこの国に留まる理由であった。


「この王と成った私を! 嗅ぎ回る者どもが居るようだ。ギルドも教会も議会も騎士団も信用するな。私の敵を排除しろっ。あのダンジョンがっ、ダンジョンさえが打ち滅びれば私の勝ちだっ! 敵に何もさせるなっ、いいな? ゼンニマァクよ」


ゼンニマァクは娼婦の死体をわざと滑稽な形に浮かせたまま片膝を突き、芝居掛かって最敬礼をした。


「勿論でございます、ナグワド王。陛下の敵は、全て排除させて頂きます」


(もっと、この国が腐ってゆくのを観ていたい)


爛れた快感だけが彼女を突き動かしていた。

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