トラブルシュート
一昨日、サエモン達があっさり地下2層の階層守護者ロカイを撃破し、3層への正規ルートを通しちまったと一報が入り凄ぇな、もうアイツらだけでいいんじゃないかぁ? 何て皆で話してたんだが、今日は午前中から大忙しになった!
次々と新しい冒険者達が『5組』、森の宿に現れた! ・・いや普通に予約はされてたし、従業員が最低限度しか揃ってないとはいっても、ここはちょっとした要塞並みの規模の宿だ。
まだあと1日いるカジオ達と合わせて6組くらい、どーって事ない。何なら今日来る5組も合間に特訓付けてやっか? 何て軽く見てたんだがっ、
「え? 全組、予約に無いの追加の同行者やや眷属化したモンスターを連れられたり逆に人数分少なくなったりしてる??」
「当日、食事の極端な好みやアレルギーを言われる方が多いでぇす・・」
「おいっ、『宗派が違う』と、このクピド筆頭足るわたしに塩を投げ付けて来たぞっ?!」
「にゃーっ! フーッ!! 勝手に温室の私の書斎小屋に入ってきて棚や木箱を開けたり壺を割って中身を確かめるヤツがいるにゃあっ!!」
「レンダ、あたしに、どうせガラガラ何だからもっといい部屋をチェンジしろ、って言ってくるヤツがいるんだけど獣舎の藁の中に突っ込んでいいか?」
「ちょっとぉ、簡易作業用のゴーレム蹴ったり、攻撃魔法の的にしてくる人居るんだけど?!」
「なぁ、屋根裏部のウチらのテリトリーに勝手に入ってきて、ウチの子分のピクシーを瓶に詰めて誘拐しようとしたヤツがいたから『蛙に変えたった』わ。どう思う?」
等々と、小手調べに過ぎなかったカジオ隊ではわからなかった問題が同時多発で頻発!! マジかと。
・・・その都度緊急協議の結果、まずギルドや国の予約の取り方は雑過ぎるし、予約形式が統一されてないから改善する。
アレルギーとか好みはある程度類型化できるが予約の時点では正直に記載しない事も多いから、事前にパターンごとにロスし難い食材を用意しとく。
宗派は違うのはしょうがないが、宿にクピドが居る事と『ちょっかい出せば反撃する事』を明示する。今日塩掛けたヤツはヨムエルの念力で『空気が凍てつき呼吸が困難になる高度』まで打ち上げて反省させた。
まずダンジョンには天界から派遣されたクピドがゴロゴロ居て、現地では殺気立ってるから下手な事したらタダじゃ済まないだろうしな・・
部屋や調度品荒らしは厳禁と明示。ただ、私室等の従業員エリアとの境界はもっと明確する事になった。因みに荒らしたヤツは老騎士セバスチャンに現行犯でボコられて弁償させられていた。セバスチャンは元騎士団の分隊長っ!
空いてる時はゴネたくもなるだろうが、果物屋で『安い果物買ったけど、その高い方の果物売れ残ってるならそれと無料で交換してくれ』って言ってるようなもんだ。部屋チェンジは別料金と明示! さらにゴネるなら藁に突っ込んでよし!!
ゴーレムにちょっかい禁止と明示! だが耐久性は盛って、警報機能付けた方が良さそうだぞ。
ピクシーエリアへの侵入は『最優先で阻止』、そしてピクシー誘拐等は重罪! 宿を出るまで蛙のままとすると明示ぃっ!!
「はぁ・・疲れた。何か、最悪忙しくても雑務が増えるくらいかと思ってたぞ?」
治癒高価より滋養と消化し易さ重視のグリーンポーションを、2階のサロンとミーティングフロアの中間にある従業員エリアの小じんまりとした休憩室で飲んでいると、
「レンダオーナー。今日、俺ら最終日ですけど、特訓は無いんですか?」
普通にパーティーメンバーと休憩室に居てソフトドリンクと菓子でティータイムをしてたらしい、カジオが聞いてきた。
初日は音を上げるていたが2日目の昨日はだいぶ対応できるようになってきたから、今日は平然としてんな。
つーか、従業員エリア入って来んなよ? 菓子食ってるし。
「んん? お前ら実戦経験はともかく、ステータス的にはもう『4級認定冒険者』くらいある。今日来た連中と同じくらいだぞ? 当面『浅層』で探索する分には大丈夫だろ」
「そッスか・・」
「では、わたくし達は今日何をしていれば?」
「特訓の疲れがあんだろ? メシ食って、風呂入って、後はお喋りしたりチェスとかカードゲームとかしとけよ? ここは宿屋だぞ?」
「・・まぁ、そう、ですわね」
「急に普通の事言い出したよ」
「拳の安息日か・・」
今日はもうカジオ達構ってらんないぜ。
それもこれも夕方には片付いた。全組大浴場で風呂に入れ、蛙にされたのはハーブの冷水浴をさせ、あれこれ注文の付いた夕飯も食堂で食わせ、それぞれの客室に全組引っ込んでいった。
後はサロンを軽く開けときゃいいだろ。ティティの部屋にポツポツある商工店は店主や工房主次第だ。
フロント奥の仮眠室は事務所も兼ねていて、ティティが事務担当スタッフと何やら業務修正後の諸々の書類を猛烈に書いたり計算したりしていた。
オイラは今日来たパーティー5組と特訓後のカジオ達の能力資料の捕捉やコメントをモソモソと書いてる。ギルドや観測所に送る情報だ。
勝手にダンジョンに突撃したりしない限り、観測所で適性ごとにあれこれダンジョン内依頼を発注される。
これは強制じゃないし複数ある中から選ぶ形になるだろうけど、先に正確なデータがあれば、いい感じにクエストを発注してくれるはずだ。
『取り扱い注釈を付ける』
これは目立つパーティーや手の空いてる時にしかできないが、森の宿でわりと重要な仕事だった。
今回の場合どうしてもカジオ隊へのコメントが多くなっちまうけどさぁ。
「・・兄さん、森の門で幻獣使いに志願する人達がチラホラ出てきてるから、資料に目を通してみて。後、ハーディさんだけど」
「ハーディ?」
「地下の蘇生所の元霊術師の方!」
「ああ、あのノームの婆さんか」
まだ光画撮れてない。
「助手の候補が『全員気に入らない』って。ちょっと話聞いてきてよ?」
「お、おう」
「それからナガさんとツチタ。トーテム管理でマナが有り余ってるみたいで、ブラウニータワーの対戦者見付けてあげて。発散させないと。今、ほぼあの2人だけで管理してるし」
「ちょ」
「それから、ヨムエルが怒って上空まで打ち上げた人、ショックでもう田舎に帰りたいって。話聞いてあげて。それから」
「ちょーいっ!」
オイラは事務の手を止めないティティの終わらない雑用発注を中断させた。
「ティティ、オイラは1人だぞっ? 他のスタッフで出来る事は他に回してくれよ!」
「あ~・・ごめんごめん。じゃあ、ハーディさんをよろしく」
「一番手強そうなヤツ! あんま喋った事無いしっ」
憂鬱だが、地下まで話を聞き行ってみるとハーディ婆さんは想定より機嫌悪くてっ、霊術で幽体離脱させられたり、話付けて光画1枚撮るまで散々だったぞ?!
翌朝、一番早くに地下の転送門からカジオ隊が出発する事になり、オイラ達は見送りに来ていた。
例によって光画を撮ってやる。
「これで遺影は・・」
「やめて下さいよっ」
「絶対言うと思った!」
レスポンスいいなコイツら。
「とにかく! お世話になりました。新しい装備と持ち道具も色々用意して頂いて」
カジオ達は『4級冒険者の装備』を身に纏っていた。
「平服までオイラ達がズタズタにしちまったからな。さすがに全裸でチェックアウトさせないぞ?」
「4級相当ならこれくらいでちょうどいいですよ? 頑張って下さいね」
「灰になって戻ってこんときや~」
「はい! それではっ」
「お世話になりましたわ!」
「まぁ地獄だったけどステータスは上がったし・・」
「『拳王ヤッチのサーガ』に御期待をっ!」
若い4人は意気揚々と転送していった。
「よっしっ! 今日はまた4組来るし、先に来たのも明日まで3組は残るかんなっ? 気を引き締めてサービスすんぞっ?!」
「皆、トラブルは『力任せ』で処理せずすぐ報告してねっ?」
オイラ達は本日の通常業務へと戻っていった。




