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レンダとティティの宿  作者: 大石次郎


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階層守護者

表層とも言われる亡き谷のダンジョンの地上階は、平時ではスエリア国軍と中央教会の祈りに応えて地上に降臨した数体のクピドによって管理されていた。


地下のダンジョンの復活後、地上階にも変動や崩落、地下からのモンスターの進出や周辺の谷のモンスターの活性化等が起きていたが、これらへの初期対応は長年の備えもあり速やかに済んだ。


国への方針の確認とクピド達は天界への伺い立てが行われた後、両者は新たな地下一層の探索とベスドーアの森にダンジョンに呼応して発生したはずの森の宿の調査を行った後、

騎士団の増援と観測所に降臨したエンジェルナイト、イグエル達の戦力を元に本格的な地下1層攻略が開始された。


この時点でのスエリア国の対応は歴史の中で蓄積されたノウハウに基づく合理的な物であった。

が、存外早々に討ち取られた1層の階層守護者(かいそうしゅごしゃ)が巨大な虎の魔獣であり、首には魔族の言語で『メディシ』と記されたプレートを提げていた事。

さらに先行していたクピド達が地下2層の階層守護者が巨大な犬の魔獣であり、やはり首に提げたプレートに魔族の言語で『ロカイ』と記されていた事を報告されると、状況が変わった。


変事続きの後に新国王となったナグワドは突然、南ルート開拓による『天使達にも森の宿に認められない者達』による強引なダンジョン介入を命じた。


これによりこの災いに対するスエリア国の資金及び人員が上手く回らなくなり始め、また犠牲者の過大な増加と環境から想定される『アンデッドの急増』と『魔族の強化』が懸念された。


資金不足は緊急増税で賄われ、近年の変事やナグワド王その物への反発もありスエリア国には不穏な空気が漂いだしていた・・



苔と石で覆われた地下2層で、1人の侍職の男が鎧の肩に+3評価の刀『砕魂(さいこん)』をポンポン、と当てながら溜め息を吐いた。

スエリア国冒険者ギルドのグランドマスター、サエモンであった。


周囲には石のモンスター『レビテーションロック』と苔のモンスター『ファニーモスビースト』の群れ等の死骸が無数に転がっている。


「集まったもんだな」


「抗体的な反応ね。こんな初期に、マスタークラスが未踏破の階層守護者ルートに来たらそりゃ反応するよ」


側に居たスエリア国フラ草原のギルドマスター、パリカリが+2評価の杖『賢者人参けんじゃにんじんの杖』にもたれながら応えた。


「サエモンは長居できないんだよね? ボク達としてもあの『犬っころ』は鬱陶しかったから、とっとと始末しよっ」


クピド、ユンシエルは+1評価の大鎌『ぶちころすーん・改』を手に勢い付いていた。


「まぁ、現地組は初期に慌てたツケがきてるようだしな・・」


冒険者ならば3級戦士職くらいの腕前でこの程度のモンスター群にそこまで消耗しそうにないケンタウルス族の騎士タロと、同じく冒険者ならば3級神官戦士くらいの腕前の黒い肌のロングフット族の教会兵ミルシコットは、2人とも疲労の蓄積で青い顔をしている。


先日、攻略スケジュールは改められた、とサエモンも聞いていたが彼や彼女のような中級者は替えが利かず、上手く休めていないようだった。


(2人には悪いが俺達3人だけで階層主を始末するのは上手くない、新王は疑心暗鬼だ。目立ち過ぎるべきでない。観測所の正規の騎士と教会の人間の目のある中で討伐された方がいい。結果的に国軍と教会の支持も得やすくなる。来ないワケにゆかなかったが・・中央ギルドが一連の変事の調査をしている事を突かれる口実にされては敵わん)


「ユンシエル、2人になるべく負荷の軽い癒しを」


「いいけど?『プラスヒールレイン』!」


治癒の雨がタロとミルシコットを癒し、2人はそのまま眠ってしまった。


「寝落ちは早いよ~?」


肉球の両掌で頬に触れ、2人をギョッとさせて起こすパリカリ。


「身体はキツいだろうが、ここからは一気に行く。温存してもらっていた『加速の腕輪』を使うといい、ミルシコットは持たないなら自分で自分に回復魔法を」


「はい」


「付いてきます!」


2人が腕輪を付け、パリカリも自分に魔法を掛け、『加速状態』になったのを確認するとサエモンは高速で亡き谷のダンジョン地下2層の深部へと駆け出した。

パーティーメンバーもその速さに続く。


中途のモンスター群や半端なトラップはサエモンの剣技とパリカリの魔法で打ち破り、2層なりに高度なトラップや面倒なダンジョンの構造状の仕掛けはユンシエルがその『超知覚』と念力で解消。

タロとミルシコットはひたすら3人に追い付いていった。


一行は小一時間も掛けずに階層守護者の待ち構える広間の扉の前まで来ていた。

が、タロとミルシコットの疲労は限界に見えた。


「下手に魔法で回復しない方がいいね。グリーンポーションをゆっくり飲みなよ?」


「タロ、ミルシコット。アクセサリーは『守護の腕輪』に付け替え、『死なずに』見届けてくれたらいい。その意味も、己の立場も、理解できるな?」


「はいっ」


「この目で!」


「待って、ボクもさすがにヘブンペロペロキャンディーを1つ食べてから・・ペロペロペロペロっ!!」


高速で『天使の供物』ヘブンペロペロキャンディーを舐めて食べきるユンシエルに目を剥くサエモンとパリカリ。


「齧った方が早くない?」


「キャンディーを『噛む』とか、素人なの?」


「・・何か、ごめん」


「よし行くぜ!」


一行は階層守護者の間への扉を開けた。



完成した大規模ダンジョンは『それ自体が願い叶える器』の魔法である。

よって、そこで行われる全ての『試練』は『願いの対価』に過ぎない。


「オォオオオーーーンンッッッ!!!!」


石と苔の身体を持つ『犬のごとき巨獣』ロカイは口から衝撃波を放った。


守護者の広間ではロカイの眷属のこの階層の発生する石や苔のモンスターや、あるいは使い魔『インプ』が数百は跋扈(ばっこ)していたが、躊躇無く消し飛ばし、前衛のサエモンとパリカリとユンシエルを狙った。


「『プラスディフェンド』っ!」


壁のようなマナの盾を作って防ぎきるパリカリ。


「『神罰・処刑月夜(しょけいづきや)』っ!!」


大鎌から分裂する神聖属性の三日月型の刃を放ち、残り眷属を殲滅しつつ、ロカイ本体を牽制するユンシエル。


サエモンは『影潜(かげもぐ)り』のスキルで自分の影に入り、そのまま『床の瓦礫やモンスターの死骸の影の繋がりを全て見切って』ロカイの影に一瞬で到達し、飛び出し、抜き打ちで巨大な四肢を切断。

胴が床に落ちる前の中空で頭上の死角を取り、既に内なるマナを練り上げていた。


抜苦与楽(ばっくよらく)ッッ」


負の思念の強い魂に打撃を与える事に特化した剣のスキルで、心臓の位置にあった『生命の核』と強い呪いの込められた名を刻まれた首のプレートを両断する。


「オォゥ・・・」


呻き、プレート以外の部位は地に着く前に塵と消えてゆく中、


(姫、ゴメンネ・・)


「っ!」


着地しながら、サエモンも確かにロカイの子供のような思念を聴いていた。


集団襲撃(レイドミッション)で倒すべき階層主をたった3人で!」


「圧倒的だ・・」


腕輪で身を守りつつ、タロとミルシコットも後衛で無事であった。


「あ~、小腹空いた~」


ヘブンチョコレートを齧るユンシエル。


「感触はどうだった? まだ2層程度のマナで創造された守護者だけど。森人参食べる?」


レンダ達にもらった生の人参をサエモンに差し出すパリカリ。


「いい。やはりアンデッドに近く魔族の呪いも受けてるが、本質的な邪悪さは感じなかったな・・」


むしろ『精神の尊さ』すら感じていた。


「パリカリ、俺はこれで王都に戻るが、整備の甘い2層のルートの安定化と、3層序盤の安全地帯をしっかり確保してやってくれ、それだけで初級者の無駄な犠牲は随分減る」


「そだね。・・森の宿はどうだった? いや、改めて『このダンジョンの災いに対抗しうる』かな、って」


掃討された眷属のモンスターの内、見た目のファンシーなファニーモスビースト達だけは『死体の残骸が集まって』少数復元し、コソコソと破損した広間の隙間から逃げて始めた。

『ああいった種の魔物だけがダンジョン主の特段の庇護を受けている』のは明らかであった。


「どうだろう? ただ、あの宿に入った時、『いい場所だな』という気はした。あの安楽の感覚はこの迷宮にこびりつく、ある種の『哀れさ』に届く物である気はした」


「へぇ?」


パリカリは森人参を齧りつつ、狭い隙間から必死で逃げてゆこうとするファニーモスビースト達の丸い尻等を眺めていた。

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