開業
ギルドマスター、パリカリ・シャインクレア。フラ草原の冒険者ギルドのマスター! 数百の魔法の精通する大魔法使い。フラ草原では最大多数派のワーラビット族の総代でもある。
グランドマスター、サエモン・ヒダ。スエリア国冒険者ギルドを取り纏める凄い侍! 数々の伝説的活躍をしてきたロングフット族で王族や中央教会すら一目置く男。
先にティティ達は戻っていた森の宿にそんな2人をいきなり連れてきた結果、
「わぁっ?! 本物ですかっ? いや、まだ開業はしてないのですがっ??」
「へぇ、あんたが噂のサエモンか。ちょっと腕相撲してみるかい?」
「フラ草原のワーラビットは『地母神』を信仰しているな?『天の主』に改宗するのだっ!」
「はぁい。東方の方とワーラビットの方・・ソイソースと森ニンジンのレシピでしょうねぇ」
「兎の人、オラとブラウニータワーやらねぇかぁ?」
「勝負ダっ!」
それなりにバタバタしたが、
「この辺で勘弁してくれ。この後、そのまま観測所に行くが、一通り仕上がり具合を見せてもらっていいかい?」
「亡き谷のダンジョンと対称になる縛りだろうけど、まぁ大した魔法だよね」
ざっと案内する事になった。獣舎、トーテム、周囲の幻獣達、亡き谷方面の道の補修の進捗(今日のミィルスはこっちにずっと居る)。
すっかり整理されたフロント周り、食堂、ゴーレムのアトリエと大工のガレージ、まだ閑散としてるティティの商工街の部屋、神父1人と僧侶2人ポツンと居る聖堂、大浴場、洗濯場。
地下の転送門設備、同じく地下のノームの霊術師の婆さんが助手の書類選考してる空っぽの蘇生所、倉庫、ドワーフ式ボイラーと給水施設。
2階のミーティングフロア、温室、だいぶ形になってきたサロン、訓練場。
後は客室や屋根裏のピクシー達のテリトリー等々・・
一通り見せて回り、最後に食堂で森ニンジンのフリッター蕎麦ヌードルを皆で食べる事になった。
「いい仕上がりだ。何の問題も無い! 蕎麦も美味いぜ?」
「恐縮でぇす」
「わたしが揚げた!」
「早速、明日にも最初の冒険者パーティーをこちらに寄越すからね?」
ん?
「「明日ーっ?!」」
聞いてないっ。
「何か、王都の『選抜トーナメント』だかの決勝はまだじゃないのかよ?」
「てっきり後、10日は猶予があると・・」
「ああ、トーナメントはまだ準決勝も終わってないが、『特別枠』でポツポツ寄越すからよ。1度に大勢いきなり来ても困るだろ?」
「ここより受け入れ能力の低い、観測所も考慮しないとね。これから行って確認するけど」
うーん、わからんではないが。
「そういう感じか・・」
「あの、まず何組でしょうか?」
「一組。4人だ。今後はちゃんと予約させる。今回はちょいと急でな。悪かったよ」
「はぁ」
「ま、4人くらいならどってことないけどさ」
それなりに困惑したけど、前倒しで開業する事になっちまった。
蕎麦ヌードルを食べ終わると、2人はさっさと地下の転送門に向かった。
「よし、光画を撮るぞ?」
「お?」
「そなの?」
1枚撮っとく。パシャっとな。
「諸々、詳しくは水晶通信でギルドに確認するといい」
「私達は帰りは使い切りの長距離帰還の魔法道具で帰るから、戻らないから。次に会うのはもっとダンジョンの攻略が進んでからになるね」
「俺は最後の方だろな。じゃあ、な」
2人はあっさり転送門で亡き谷の観測所へとテレポートしていった。
「・・何か、淡白なヤツらだったな」
「昔から上級冒険者は大体あんなもんやで? 擦れっ枯らしや!」
「それよりギルドに確認してっ、ちゃんと準備しないと」
「私はまぁ、あんまり関係にゃいけどにゃ」
「猫、お前は『温室係』だろ?」
「違うにゃっ! ただの気分転換にゃ!!」
何にしてもオイラ達は『正式なお客第一号』を迎えるべく、慌ただしく準備に取り掛かる事になった!
まず客の確認。
パーティーリーダーは『カジオ・ラックダック』戦士職でロングフット族の男。パーティーメンバーは『ノイレミア・ヒートカップ』賢者職でハーフノーム族の女。『アーママ・ヤクモ』忍者職でハーフフェザーフット族の女。『ヤッチ・ハミングモス』格闘士職でハーフドワーフ族の男。
ハーフ率高い。冒険者としての等級はなぜかギルド職員が言葉を濁して教えてくれなかった。ふん? まぁ職業試験が難しい賢者職と忍者職がいるし、それなりのもんだろ。たぶん・・
翌日、昼前になると予定通りに『カジオ隊』の冒険者達が地下の転送門にテレポートしてきた!
「うっ、やっと着いた! うう・・」
「朝一でテレポート5ヵ所連続って、スケジュール頭オカシイじゃないですの??」
「ううっ、転送酔いだわっっ」
「お前達! 鍛え方が甘いぞっ? 俺等は多少酔っても『膝しか笑ってない』ぞ?! ハハハッ!!」
4人中3人が速攻ダウン。残る1人は仁王立ちで笑い、両膝をガクガクさせてる・・
オイラ達は唖然とした。どう見ても駆け出し冒険者だ!
装備もショボいっ。銅の剣に皮の鎧と盾、練習用に見える簡素な杖にタダの布のローブ、色は暗色だがフード付きの布服に粗末なナイフ2本、どう見ても訓練着に『素手』。
オイオイ・・
「えっと、あんたがリーダーのカジオ?」
「あ、はい。よろしくです! 伝説の森の宿に泊まれて光栄です!! いや、でも、うっぷっ」
「え~と、取り敢えず。ヒールライト!」
ティティの回復魔法が炸裂せざるを得なかったぜ。
話を聞いてみると、カジオ達は実力を見る王都のトーナメントの予選で普通に敗退したが、よくわからんが『伸び代がある』とサエモン達に推薦されて『最初の冒険者』に選ばれたらしい。
「伸び代、か・・」
食堂で4人は『オートミールと胃腸に優しいハーブティのセット』をほっこり顔で食べている。
「前の時は普通に最初からそこそこ手練れが集まっててんけどな? 今回色々ズラしてくるわぁ?」
「確認した予約では『5日泊まってから観測所にテレポートする』ってもう料金も王都の口座に支払われてるけど?」
「これはシュミレーション要員だにゃ。私は温室・・もとい、職務室に戻るにゃ!」
「わたしはヘブンチョコレートとヘブンペロペロキャンディーの量産作業に戻る・・」
「オラたつとデュエルするには実力不足だべ・・」
感心を早々に失った3人と爺さん騎士とツチタは食堂から去っていった。うむ。
食堂にグダった空気が一瞬流れたが、
「ねぇ、この人達が私達の最初のお客さん何だよ? ちゃんとしようよ?!」
ミィルスが気張った。うむ!
「さすがだ、初孫! よしっ、お前ら、いつまでも離乳食みたいなのを食ってる場合じゃないぞ? 宿に入る所からやり直しだ!!」
「兄さん、そこから?」
カジオ達はパチンコで豆ぶつけられた鳩みたいな顔をしていたが、こういうのはきっちりしとかないとな!
・・・何だか独特のノリの人達だけど、僕達は一旦宿の外に出された。
改めて見回すととんでもない環境だ! 濃厚なマナ! 強力な魔法障壁で覆われた神秘的な森でざわめく幻獣達! とんでもない密度で精霊達が取り憑いてる宿の側のトーテム群! そして、要塞のごとき大きさの円柱型のシルエットの、伝説のっ、森の宿!!
「行こうか」
「よろしくてよ」
「何の段取りか知らないけどさ」
「俺の『拳王』としての第一歩だ!」
僕達はスロープ脇の階段を登り、大きな鍵穴のある扉を開けた。
途端、頭上でくす玉が割れ、ハーフエルフとノームとドワーフとワードッグ達の楽器が派手に鳴らされ、ピクシー達が花弁を撒いて飛び回った。
「「ようこそっ、森の宿へ!!」」
「ゆっくりしてきぃや~~っ」
どうやら、僕達は伝説の1ページ目に登場してしまったらしい。




