二つの転送門
「んだば、気を付けてなぁ~」
「石ノ中、注意ダヨ?」
ナガさんとツチタに見送られ僕、ゼルアンさんと大工の組の方々、タツノジさんと調理助手の方々、ヨムエルさん、転送門技師の方は亡き谷の観測所へと転送門でテレポートしていった。
・・・で、転送先は雑然とした薄暗い部屋で、窓からは陽が差し込んでた。
「ユンシエルのやつっ! 掃除をしておけと言ったのに!」
不満顔の調理服にコック帽子のヨムエルさん。どうも後輩に指示を出してたみたい。
「ヨムエル君、まぁ身動き取れない程ではないですし」
宥めるタツノジさん。
「オーナー。私はこちら側の転送門の調整しておきます」
「はい、頼みます」
転送門はノームの技師の方に任せて、僕らは物資を届けたり、色々確認を済ますことにした。
人気の無い転送門の部屋を出ると、早速物資を届け、ゼルアンさん達はあちこち傷んでるらしい観測所の補修箇所の確認(合間にバイトでこちらの補修も請け負う事になったんだ)に向かった。
タツノジさんと調理助手の方々は日頃だいぶ内容が厳しいらしい観測所の食堂で美味しい食事を振る舞いに行ってもらい、僕とヨムエルさんでイグエル様に会いにゆく事になった。
「観測所の武官や文官達も喜んでいるな。クピド用の差し入れはヨムエルが作ってくれたのか。よくやったぞ? ふふ」
「はっ、ありがたき幸せ」
赤面して身震いして膝をつくヨムエルさん。凄い忠誠! プルプルしてるっ。
「イグエル様、森の宿はもうすぐ開業です。亡き谷のダンジョンと、それから、先程チラっと見た感じでも思ったのですが、観測所の人員の損耗の度合いはどの程度でしょうか? 曾祖父の手記とは少々状況が違うようで・・」
無茶な南ルート開拓にリソースを取られて、こちらに国から派遣される人員や掛けられるべきコストが足りてないような?
「ああ、当代のスエリアの国王には難がある・・冒険者達がこちらを訪れられるようになったら一旦騎士団の者達は下がらせ、態勢を整えさそう。クピド達も無理が過ぎれば犠牲が増える。先行は地下2層までで一旦止める」
ヨムエルさんは畏まり過ぎてるから他にも僕がいくつかイグエル様に確認を取り、後は2人で食堂の手伝いに入った。
「順番ですので! これは備蓄分ではありませんっ、安心して下さいっっ」
「こらっ、クピド足る者ガツガツするな! 『ヘブンチョコレート』はまだある。あ、ユンシエル! 1人1枚だぞっ?!」
普段の節制の反動で大盛況だ。作業が一段落して、遅れてきたゼルアンさん達や転送門技師の方はギョッとしてた。
うん、こっちは後は武官と文官の上役の方と少し話すくらい用事は済むけど、兄さん達の方はどうかな?
緑の門は大型の魔除けの野営地跡だ。元々はエルフとの混血を求めるエルフ信奉者の短命種の集落だったらしい。
亡き谷のダンジョン発生時の最初の拠点として運用され、平時はベスドーアの森の珍しい素材を求める業者や探索者達の安全地帯として機能していた。
今はダンジョンが発生しているから本来騎士団が管理してはずだが、南ルート開拓の騒動で秩序が保てずハーフエルフ郷の状況を越えた完全な無法地帯と化してるのだぁ!
復旧がまだ知られていない端にある転送門を使いオイラ、マリユッカ、猫、騎士の爺さん、幻獣使いのハーフエルフ達、転送門技師1人が行くと、バリバリのならず者達があちこちで酒盛りをしてる。
「ギャハハッ! また騎士団の詰所に放火投石してやったぜっ」
「放火投石する日常っ!」
「詰所の獣舎から盗んだヒポグリフの肉、焼いて喰ったらウメぇーっっ!!!」
「ここは国領じゃねーからデカい顔させねーぜっ!!」
「南ルート開拓とかタルいぜっ!!」
「それより森の素材、テキトーに掻っ払って売っちまおうぜぇーっ!!」
「つーか、ハーフエルフの郷、襲っちまうかぁ?」
「ギャハハッッ!!!!」
・・協議の余地もあるかと一瞬思ったが、無駄か。
「猫、『処す』ぞ。いいよな?」
「私は何も見てないにゃ」
「マリユッカ、幻獣使い隊! 派手なの頼むっ、オイラが行くっ!」
「了解した。郷を守らねば・・」
「ほな、行くで~?」
「「召喚っ!!」」
潜んでた物陰から噴出するように森の幻獣軍団が出現した! オイラはスキュラの頭に乗ったっっ。
「どぉああっっ?!!!」
「幻獣ぅっっ??!!」
ビビるならず者達っ。
「オイラは森の宿の主レンダ! 今日からこの森の門もオイラの支配下だっ! 従わないヤツは前に出てこい!!」
「面白ぇ・・」
身長3メートルくらいある鬼人族の大男が破壊槌を持ってユラリと立ち上がった。
「俺様が今、この森の門を仕切ってる『暴風雨のゾリアーデ』様だっ! 森の宿の主だか何だか知らねーが、チビ助が」
「とりゃーーーーすっっっ!!!!」
奇声を上げて、スキュラの触手で400メートルくらい吹っ飛ばして昏倒させてやった。
「ふーっ! ふーっ! オイラの理性は持って後、1分っ!! ・・人間、モット、殴リタイッッ」
蠢くスキュラの上で、白眼を剥いてヨダレを垂らしてみた。
「うわぁああーーーっっっ??!!!」
「ダメだコイツっっ!!!」
「わ、わかった。あんたがここのトップだっ!!」
「勘弁してくれっっ!!」
よし、ならず者達を鎮圧っ!!!
詰所を襲撃したりハーフエルフ郷襲うとかいらん事すんな、とわからせ、オイラ達はボロボロになってる騎士団の詰所に行ってみた。
詰所の騎士達にやんやと歓迎される。
「ドラゴリリー卿っ! ならず者どもを鎮めてくれたのですか?!」
「ま、まぁ。私の『叡知』を持ってすればどうって事ないにゃ。にゃはははっ!!」
「・・・」
猫、調子こいてんな。
だが最初のここが荒れると連鎖的にマズいし人の出入りもあって状況変わり易いだろうから、制御し易い幻獣をいくらかと幻獣使いを1人交代でここに常駐させる事にした。
情報も伝わり易くなると期待だ。交易が本格化したらここは『稼ぎ場』にもなる。まずは地ならし地ならし!
何だかんだでこっちの転送門周りの調整も済み、森の宿に帰ろうとしたら、
「俺達も同伴していいかい?」
「現役の内にここの転送門を使う事になるとはね・・ツイてないわ。はぁ」
+3級(伝説級!)の装備の侍職らしいロングフット族の中年の男と、+2級の装備の魔法使い職らしい兎人族の女が『門の障壁を閉じたはず』の後方からシレっとした顔で表れた。
「にゃっ? グランドマスター!『サエモン』殿?!」
「そちらの方はフラ草原のギルドマスター『パリカリ』殿では?」
色めき立つ、猫と爺さん騎士! おお?
「へぇ、今はあのお侍がグランドマスター何やぁ」
ギルドマスターはその地域の冒険者ギルドの長、グランドマスターはその『国』の冒険者ギルドの長だ。
「何だ何だ? オイラは弟のティティと一緒に森の宿を預かってる、レンダ・サマークラウンだ!」
取り敢えず、どーんと、名乗っておいた。ふんっ! 下手には出ないぞっ?




