ワードック郷の人々
いくつかの部族が共同で暮らしてるワードックの北部郷は、倉庫や見張り台何かの公共施設以外は竪穴式の住居だ。
このタイプの家は排水がマズいと大雨ですぐ詰んじまうから郷自体が高台にあり、幅広めの深い側溝もあちこちに通ってた。
上空から見ても思ってたが、側溝は蓋も柵も殆んどなくて夜目が利いて感覚の鋭いワードック達じゃないと夜中出歩くのは危なっかしい感じだった。
「獣人の郷だけに全体、ワイルドだな」
男はしっかり固定する仕様のサンダルみたいな履き物に下履きと腰巻き後は腕輪くらいの格好で、女はそれにサラシを巻くか腹出し袖無しの上着を着てるだけだ。
道路工事に来てた連中は布地の少ないベストみたいなのを着てたりして、あれでも『余所行き』の格好してたんだな、と。
「森の北部で暮らす部族の寄り合い所、といった性質もある。家は個人ではなく部族単位で所有している事が多いんだよ」
「へぇ~」
ドワーフ郷と近く交流があるのでゼルアンが詳しかった。と、
「あかん、ウチやっぱ眠いわ。後よろしくやで?」
ナガとの対決で念力を使い過ぎたマリユッカが、宙に展開させた魔方陣から小さな天蓋付きのベッドに潜り込んで眠ってしまった。ベッドの周囲に球形のマナの障壁を張ってる。
「宿守さんは自由だよね。私の収納ポーチ性能いいから保護しとくわ」
眠ったマリユッカはミィルスに任す事にした。
ワードック達はドワーフ達程、オイラ達を見慣れてないのと『魔物』に対しても容赦無い傾向が強い。発着場でも普通にタツノジは威嚇されたし・・
というワケでここでは2班に分けて行動する事になった。オイラは顔が利くゼルアンと組み、
「じゃ、兄さん、ゼルアン、後で」
「ワードックさん達の酒場が今から楽しみですねぇ」
タツノジにはティティとミィルスが付いた。
オイラとゼルアンは里長に話しを通し、道路工事要員と狩猟と採集担当を探し、居るなら幻獣担当も口説く役回りだ。
「ゼルアン、ワードックの里長はやっぱ眼帯とか付けてるのか?」
「ふっ、そんな事はないさ。婆さんだよ、あたしより年下だけどね」
「ああ、ワードックも短命種だからなぁ」
何て話しながら里長の大きな竪穴式住居に向かった。
「ゼルアン! よく来たねぇ。ウチの郷の土木の組の連中は仕事が雑でねっ。森の宿もいいけど、城壁や高い建物の基礎もっ。見ておくれよ~」
「いや、また都合付けて様子は見るが、まずは森の宿だ。亡き谷のダンジョンはまだ『固まってない』ようだが、もう森のモンスター達は活性化しているだろう?」
「そんなの国の連中と妖精達が何とかするだろう? この間来た騎士団の連中の偉そうなことっ!」
こっから里長の愚痴が始まった。それが長いこと長いこと・・
「オイっ、ゼルアン! オイラ、まだ自己紹介もしてないぞっ?」
小声で抗議する。
「レン坊、ちょっと待ってくれっ。年々話が長くなってるが何とか切り替えるっっ」
ゼルアンも小声で返してきたが、そもそもゼルアン自体そんな口が立つ方じゃないから、四苦八苦していたぜ。
どうにか里長に許可を取り、ティティ達との待ち合わせの期限もあるのでオイラ達は小走りで、大工も兼ねた土木の組(人数は多いけどドワーフと違い複雑な大工仕事は苦手らしい)の詰所に行って谷への道の補修用の人員を最低限度は確保できた。
ただし、安全対策できるまで『工事は森の中だけ』に留めるとのこと。間の荒野でボーンジャイアントとか徘徊してるしな・・
「森の外は、最悪、ミィルスのゴーレムの物量と騎士団から人を借りて押し切るしかない。初期はむしろ転送門で手練れを送るのがメインで猶予もあるだろうしね」
「転送門かぁ。ノームかエルフ口説かないとな・・」
面倒だな。しかしそれは後の事! 今は素材採集担当者を口説こうと郷のよろず屋や薬師を当たってみたんだが、人手が足りず雇えなかった。う~ん、しばらくはオイラ自身と気紛れなピクシー達頼りか?
「ティティの話だと、国から提示されてる支援額だと実際宿が稼働しだすとすぐ資金ショートするらしい、素材や加工品を売りまくらないとダメ何だって!」
「その辺りは先代の2人は上手く対応していたが、ちょっと考える必要があるだろね。いつまでもオーナーのレン坊に自分で小遣い稼ぎをさせるワケにもゆかないし」
「素材収集自体はわりと好きだけど、効率がなぁ」
ボヤきつつたぶん最後になる郷の外れの狩猟の組の詰所に着いた。竪穴じゃない横長の東屋仕様の解体施設も併設してた。
食肉解体施設に壁造らないのは中々本格的にワイルドだぜ。虫除けの香も焚かれててたが、『クー鳥』ていう飛ばない錐のような嘴の鳥の家畜化した種を放し飼いにして香が効かない大きめの虫を取らせているようだった。
鶏くらいの大きさのクー鳥達はトイレの位置は仕込まれるてるらしく、したくなるとわざわざ離れた位置にある長方形に藁の然れた所にトトト、と走って行って『致し』また無表情でトトト、と走って戻ってくる。
下処理中の獣や魚や食えるモンスターが吊るされる中、クー鳥達がヒョコヒョコ歩き回り、それをほぼ無視して黙々と作業するワードック達の様子は中々シュールだ。
これは撮らねば、も1枚光画を撮った。
「あの鳥の動き、ずっと見てられるぞ」
「この森の野生のクー鳥は2割増しで大きく、嘴の一撃で木に穴を空け、強い個体は妨害系魔法も唱えてくるぞ?」
「どうせオイラはペット化した動物しか愛でられないモヤシっ子だよっ」
「はは」
そんな事を話して詰所に入った。
結論から言うと狩猟担当者を4名雇えた。現時点では宿の自給率を上げるくらいだが、幻獣の餌を集めるのが地味に大変なので助かる。
で、その幻獣の飼育担当者に関しては、
「幻獣を扱える者はいる事はいるが、希少だよ。それに俺達は獣人だから祭事に関わってるんだ。平時ならともかく今はダンジョンの事もあるから難しいよ」
と断られちまった。しょうがないか・・
ここでオイラ達の班は時間切れ。
腹も減ったし疲れてきたし、ティティ達と目星を付けて予約しといたワードックの北部郷の酒場『ステーキに義務感を持つ店 モーモー』に行く。
義務感って何だよ、と思いつつ。
店の内部は階段とスロープがある広い竪穴式住居で、倒壊しないように柱が多い。
他の建物のそうだが、ワードック達は夜目が利くからここも薄暗い。虫や腐敗対策で建材を燻したり防腐香料を使ってるから、食糧庫みたいな匂いがする。鼻のいい種族だが、これは慣れてるらしい。
先に来ていたティティ達は自前のマナ式ランタンの光量を落として、テーブルに置いていた。
「兄さん! こっちこっちっ。どうだった?」
「採集担当と幻獣担当以外は何とかなった。ただ、オイラ達もだけど、やっぱ短命種は亡き谷のダンジョン云々て言われても『もう忘れてる』感じだな。共通の脅威や義務みたいに言っても通じないかも?」
「それは僕らも思った。実利で交渉する感じになっちゃうね」
「『ティー坊』達はどうだったんだ?」
「ベル係は雇えたけど、後はダメだったよ」
「そうか、適性があるだろうしね」
「しかしここは人口が多いので物資や家畜はかなり揃いました。料理や保存食は御期待下さい!」
「コミニティーが大きいから、以外と食品以外の素材も揃ったよ?」
「後は明日、ハーフエルフの郷で揃えるだけ揃えて、後日、それでも足りない人材はノームの岩宿まで行って当たってみようぜ?」
「ええんちゃーう?」
「わっ?」
ミィルスのポーチからマリユッカが飛び出してきた。
「さぁ~、元気なったし、晩御飯! 食べるで~っっ」
オイラ達は苦笑してから、ステーキとサラダばかり目立つメニュー構成の困惑しつつワードックの北部郷での夕飯に取り掛かった。




