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決起

 山道を二台の大型トラックと四台の乗用車が疾走していた。暗転の空には星ひとつなく、今にも雨が、いや雪が降りそうだった。気象庁が朝から東京方面に、夜の大雪情報が出ていた。とすれば作戦には好都合だ。警察も大都会の雪ではたとえ2、3cmでも行動が鈍くなる。


 龍博は乗用車の助手席に居た。運転するのは優斗だ。

「青柳さん、聞いていいですか」と隼人が運転しながら聞いてきた。

「何だ?」

「青柳さんの若いころのこと」

「おれの若いころ」

「ええ、新宿の龍と呼ばれたころの事」

「それはまた古いこと、で、俺の若いころの何を聞きたい?」

「青柳さん、なんで麻雀、いやギャンブルを選んだんですか」

「それは、またドストライクの質問だな」

「いや、ほかに方法があるのに、ギャンブルを選んだ青柳さんの理由を知りたいのです」

「選んだ理由か、まず一つはギャンブルは確かに不確実性がつきまとう、だが、ツボにはまれば、大きな金額を得ることができる。つまりハイリスクハイリターンだ、それに麻雀はついていないときにも何とかプラスマイナス0に持っていくことが可能だ。これが他の勝ち負けしかないギャンブルと違うところだ。まあ、これはかなり場数を踏まないとできないがね。これが理由かな」

「なるほど一見合理的だ」



 一見か、こいつ嫌なこと言うやつだな。

「あんたはギャンブルはやらないのか」と龍博が問うと、

「ええ、やりますよ」

 ほう、意外な言葉。

「何をやるんだ」

 隼人は淡々と言った。

「今、やろうとしていること」

 なるほど。

「結局、青柳さんも私らもギャンブラーなんですよ。だから分かるんですが、ギャンブラーは結局運命論者になってゆく。非合理な思考になってゆく。運とか、たまたまとかが人間の運命を変えてゆく、またはどうなるか分からない未来に身を投じたい、そんなパッションがある」

 なるほどなと龍博は思ったが、異なる話をした。

「俺が一番恐ろしかったのは、ある人間と対局したときだ」

「岡石戦争でしょうか?」

「いや、普通のギャンブルだよ」

「ほう」

「俺の対面に座ってな、赤城と言ったかな、長髪のやや青白い、そうだな三十代前半の男だったよ。一見するとしょぼいんだが、目を見たとき、ちょっと気押しされたんだ。そして場が進むにつれて、俺はいつもの感情とは違う感情を持ったんだ。こいつ気が狂っているのかと思うほど、まるででたらめな麻雀をやるんだ。他の二人も、当惑していたな。両面待ちを単騎待ちにする。平然と役満をすてて、ただの平和であがる。俺は俺の中のセオリーが崩れていくのを感じていた。こいつは異常だ。ここまで勝ちに徹するというのは、もはや論理ではない。執念としか言いようがない。それを知ったとき、現実は待ってくれなかった。そいつはオーラスで四暗刻単騎待ちをあがった。俺はそいつとは絶対に二度と麻雀をやりたくない、そう思ったね」


「なるほど、それは面白い話ですね」

「これを面白いというあんたも結構イカレテいると思うがね」

「正気でテロはできません」

「なるほど。まあ赤城みたいのが天才っていうんだろうな」

「青柳さんは」

「俺は天才じゃないさ、そもそも天才ってそんなにいるわけじゃない。ダ・ビンチ、モーツアルト、ニュートン、アインシュタインくらいじゃないのかな」

「それで、赤城さんは、今は?」

「風の便りで亡くなったって聞いた。もともと肺に問題があったらしいよ」

「そうですか…そんなものですか」

「そう、そういうものだよ」


 二人は都内に入って、言葉を交わすことは無かった。ただNHKラジオの選挙速報に耳をかた向けていた。

 そして、ついにラジオの声が、与党三分のニを伝えた。乾坤一擲、蜂起が遂に決まった!


 ラインにGOのサインを送る。警笛音が一斉に鳴った。優斗がアクセルを踏み込むと、セダンはうなりを挙げて疾走しはじめた。

 落ち着けとは思ったが、ここはもはや狂気の世界である。優斗はまっすぐ前を見ている。そして、青山通りが永田町バイパスと交錯する寸前の道にブレーキ音とともに入り込んでいく。と同時に車窓から男たちが道にダイナマイトを次々とばら撒く。ドオオオオオと爆発音が次々にあがり白い煙とともに道をぶっ壊してゆく。

 キイイイイイイイ! タイヤ音が悲鳴を上げたと同時に、優斗がハンドルを切った。車がギイイと傾いで、龍博は思わずシートベルトを両手でつかんだ、フロントガラスの向こうの景色が一瞬の後にビルの壁面になった。車が横向きになって道をふさいだのだ。

 そこそこかしこでギイイとブレーキ音が鳴り響いて、民自党永田町の敷地が八方ふさがりになった。


 優斗が白い鉢巻を締めると言った。

「青柳さん、どうしますか、ここまできた以上、もはや、あなたは人質ではない」

「つきあうよ、最後までな」と龍博が言うと、

「やっぱりあなたもいかれてる」と優斗が笑った。

 車のトランクから、優斗は日本刀と、自動小銃AKMを取り出すと、

「行きます」と言った。灰色のつなぎを纏った、三人の男が優斗ともにセダンから降りて、民自党本部に疾走する。運動不足の龍博にはきつかったが、何とかついていく。

「龍博さん、運動不足ですよ」と声がかかった。振り返ってみれば隼人が走っている。


「お先に」と隼人は一段ギアを上げて、龍博を抜いて行った。ドドーンと爆発音が鳴り響き、複数個所で多分ダイナマイトがなり響いている。トラックが二台急速に玄関に乗り付け、いっせいに銃を手にした灰色の作務衣の男たちが降りてくる。その中に白い鉢巻を締めた人間が居る。彼らが決死隊であろう。


 だが、すると、パン! ヒュー! と拳銃の発射音が鳴った。弾は龍博の足元に弾けた。

 見ると、建物から次々とスーツ姿の男たちが出て、拳銃を構えている。SPだな。だがSPの武器は拳銃しかない。優斗がマシンガンを空に撃ち威嚇する。拳銃ではマシンガンにはかなわない。だがSPはひるまなかった。が、いっぽうそれは無謀でもある。日本人の職業意識は良くも悪くも観念的である。簡単に言えば、今の場合、拳銃を放棄して逃げるべきである。ところが日本人は、それを潔しとしない癖がある。今も、必死で、SPはマシンガンに拳銃で対抗しようとする。何故か、それが仕事だからだ。見上げたものだが、無謀だ。


 SPが一人、一人と、頭を打ちぬかれ、腹部を真っ赤に染めて倒れてゆく。

 ああ、やっちまったな。明らかにテロだ。これで警察が全力で鎮静化しようとするだろう。だが、マシンガン、迫撃砲を持っている部隊に警察力は通用しないだろう。とすれば新憲法下では初めて、自衛隊の治安出動である。装甲装輪車であれば、多分がれきを越えられると思う。ただテロ対策は警察が主に主導すると思うが、これは、警察庁と防衛省の綱引きが始まるだろう。優斗君のつけめはここだろう。日本と言う国は戦争のとき、中央指令室に人材が少ない。前線司令官の足を中央組織が引っ張るのである。これが優斗君たちのつけめである。交渉を行う機関が決まる間に長い時間がかかる。そのうちに優斗君たちは人質を確保して、腰を据える。このテロは連合赤軍とは桁違いなのである。だから、優斗君たちはじっくりと政府と交渉できる。


 優斗君は空に拳銃を発射して、「突入」と叫んだ。二十人くらいが呼応して、自民党本部の一階に殺到する。

 一階は阿鼻叫喚だった。

「死にたい奴は残れ、生きたい奴は出ろ!」

 優斗君の一喝で、大勢の人間が出口に殺到する。その雪崩がいったん止まると、

「一班、一階の出口を封鎖しろ」

 二門の重機関銃の銃座を四人の男たちが作った。

 残りの男たちが階段を凄まじい速さで上って行く。かなり訓練したのだろう。だが、龍博もアドデナリン全開で、狂ったようについていく。四階のフロアーに出たところで三人の白鉢巻きが合流、決死隊五人そろった。


 優斗が龍博とすでに四階にいた隼人に言った。

「お二人に歴史の証人をお願いしたい」

 二人とも無言でうなずいた。

「残りの半分は四階を制圧、半分は屋上で迎撃の体制を作ってくれ」

 皆無言でうなずいた。

「決死隊、出発!」

 優斗の号令で決死隊五人が奥の大広間のドアに殺到した。内から鍵をかけているのだろう、ドアは開かなかった。

「爆破!」と大声で隼人が言った。中にも聞こえるように。

 五秒後、バーン! と扉が砕け散った。

 素早く、優斗を先頭に五人が中に躍り込む、と同時に抜刀した。

 ひな壇に五人は殺到した。

 ギラリ日本刀が豪華なシャンデリアの光を反射する。

「天誅!」隼人の刀はまっすぐ高梨まりえに向かって突き出された。高梨は胸をぐさり貫かれて、血しぶきか宙に噴き出す。

 !

 真っ暗な空間の中で龍博は目を開いた。「夢か」ボソッと龍博はつぶやいた。


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