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計画②

 午後、いつのまにかカレーライスが届けられていた。ふうん、会議に干渉してこないか。まあ、隼人なんかには有効だ。幸雄が何を言い出すか不安でもある。だが自分のことは棚にあげる龍博だった、


 とりあえず龍博はA作戦、B作戦とホワイトボードに書いた。「A作戦は永田町民自党本部を籠城化すること、Bは民自党本部を占拠して人質を取り、政府に要求する案。この二つについて考えてくれ。そしてできる限り人命を損なうことは避けてだ。どうだろう」

 皆、否やは無かった。

 幸雄がスマホを弄りながら言った。

「この場所、地下鉄の出口と、青山通りにつながる道をふさげば、籠城できるんじゃない」

「まったく都内の一等地をなんでたかが一政党が占拠しているなんて許されないわよ」と美里。


 同じくスマホを見ながら、由紀子が言った。

「これは青山通り封鎖で良いんじゃない。その反対側の駐車場と永田町売バイパスは開けておくのが良い」

「何故だ?」と隼人が聞く。

「関係ない人はそこから逃げられるし、民自党本部からは丸見え」

 すると幸雄が「ハハ」と笑った。

「何がおかしい?」と目を細める由紀子。

「由紀子さん、本気で、この計画をやって犠牲者が一人も出ないなんて思っている?」

「それは……」

「爆弾使って、銃を、それも迫撃砲まで持っているんだよ、普通市街戦になるよ」

「だから、こうやって悩んでいるんじゃない」

「実効性の無い計画立てても、無理じゃん。太平洋戦争の日本軍じゃん」


 隼人が驚いた顔をした。

「お前呼んだのか太平洋戦争史」

「うん、まあひどいもんだね。あれじゃ兵隊になったら地獄だよ。まあブラック企業も似たようなもんだけど」

「まあ、確かに幸雄君の言うことも分かるけど、これは戦争ではないのよ。人質作戦なのよ」と由紀子。

 幸雄が「まあね」という顔になった。


 つまり、幸雄が一番リアリストかと龍博は思った。

俺がそうであるように、ここに居るメンバーは、好景気の日本を知らない。成人になったときはすでにデフレ社会だった。高度成長経済やバブルなぞはまさにテレビの昔話である。だから、優斗たちが今の政治に不満を持つのは分かる。今の若者は追い詰められている。二十代、三十代の一番の死因は自殺だという。この自殺が、自らを傷つける行為だが、他者を傷つける方にベクトルが動いたのが、優斗たちということだろう。龍博はこのテロと言っていいだろう計画を何とか穏便に収束できないかとは思っているのだが、幸雄はもはや彼らは止められない。とすれば死者の少ないプランをと考えているのだろう。それはリアルには正しい。が、それでいいのか?


 美里が口を開いた。

「もう少しこまかく検討した方が良い」

「そうだねストーリーを作っておこうよ。彼らが十分な戦力があるという前提で。」と由紀子が言った。多分死人が極力でない作戦を立てるということか。皮肉だなと龍博は思った。暴力の世界を誰よりも知る由紀子が、犠牲者は出すな、か。

 皆、黙って頷いた。


 次の日の夜。

「なるほど、籠城作戦ですか」と優斗は頷いた。

「複数個所の爆発は偶然性が高いでしょ。あなたがたの目的は自民党本部のはず、ならば、爆弾を使って、自民党本部に人や車両が近づけないようにすれば良い。まああなたがたにそれを可能にする爆弾を所有しているかどうかだけれど」と由紀子。

 隼人は苦笑いをする。

「なるほど、それで我々の戦力が分かる、ということ」

 由紀子は真剣な目をして尋ねる。

「出来るの、出来ないの?」

「出来ます」と優斗は答えた。


「じゃ、私たちのストーリーはこうよ。部隊は、デコレーションされたトラック二台と、四台の乗用車、部隊は青山通りに入り民自党党本部に向かう。ラジオで選挙結果を確認しながら、慎重にスピード違反等に留意しつつ部隊は少しお互いの距離を取りながら、出来れば無線、スマホなどは使わない。事前に全員が計画を頭に叩き込む。


 六台の車が青山通りに入ったころ、多分選挙の大勢は分かっているはず。一度だけ、スマホを使う。ラインでGOかNO。GOならば、七台が民自党本部へ。永田町付近は、まず報道関係や民自党関係者の車が多いはず。絶対に離れず、接近しすぎず車を走らせる。そして民自党本部が近づいたらトラック二台を先頭に、乗用車はその後方に続く。


 まず青山通りから民自党本部につながる道は三つ、乗用車が突っ込んで、二か所の道路をダイナマイトで破壊して、かつ乗用車が横向きになって封鎖する。そして残った道路からトラック二台を通した後、封鎖。入り込んだ部隊は民自党建物にそれぞれ配置。

 それぞれの車のバリケードの外の部分を改めて爆破、道路を使えなくする。実戦部隊が、入口に入り、人間を排除。そして入口に5.56ミリ機関銃銃座を二か所作り。入ってくる敵に備える。

 実働部隊は五人、小銃と拳銃を持って、多分大勢の人がいる民自党本部に突入。会見場に居る政治家以外は部屋の外に出す」


 ここで隼人が口を開いた。

「この五人の人選はともかく、行動は決まっている」

「何?」と由紀子が聞く。

「襲撃目標は首相、幹事長、政調会長、総務会長を斬ります」

「何故党三役なの?」

「この国の元凶は民自党です。だから幹部の彼らと、その総裁を斬ります」

「斬るとは殺すということ?」

「そうです」

「女も斬るの?」

 ちょっと優斗は詰まったが、きっと顔を上げた。

「はい」


 危ない目だなと龍博は感じた。彼はもう殺人を決心している。やくざにも殺しの目を持った人間はいたが、やくざはいわゆる粗暴犯だが、隼人は違う。純粋に暴力の行使が正義と信じている。日本刀は彼らにとって、彼らの思想を凝縮したものに違いない。だが、実行されれば血の海と化すだろう。

「普通の議員はどうするの」

「人質です。我々の要求を通すための」

「会場は血だらけの凄惨なことになるわよ」

「承知です」


 幸雄が聞いた。

「マスコミはどうするのさ」

「マスコミはテレビ局を除いて、部屋から出します」

「何故さ?」

「我々の行ったすべてを撮らせる」

「そんなもの全部流せないでしょ」

「承知です、だが撮ったビデオは残る。その我々の声明をテレビに流させる」


 美里が腕を組んで、鋭い目を優斗に向ける。

「あなたの主張聞きたいわね。それだけのことやって、言いたいことって何?」


 隼人は席を立つと、手を後ろに組み、鋭い目をして一同を眺めた。

「我々の決起は真に日本の未来を憂えるものである。しかし、どのような理由があっても殺人は罪である。我々の罪をそれで償えるものでは無いが。我々は決起の目的が遂げられたなら、我々は全員割腹自殺を遂行する。

 だが、これだけは言う、すべての政治家よ、あなたがたの決める立法、施策によって、絶望する若者、呻吟する女たち。家を破壊され、怨嗟の呻きを上げる人々が、人生の終わりに絶望のどん底に呻く老人が存在することを。政治は引き算である。何を引くのかは政治家に握られている。だから政治家の周りには賞賛と同時に怨嗟が生まれることを政治家は常に念頭におかなければならない。

 政治家は常にテロに倒れることを覚悟せよ。国家権力は究極的には軍隊と刑務所という暴力装置に依っている、ならば、被権力者もテロを持って対置することは自明の理である。これは左翼テロの原理ではない。なぜなら左翼テロは根幹に階級闘争が前提としてあるからである。我々は階級闘争の絶対性を認めない。それは人間の暴力の過渡的形態に過ぎない。人間存在の根幹にある暴力闘争とは極限まで肥大化した利欲に対する個を滅した、真に忠道滅私の天誅である。人間は人間を殺す動物である。人間とは大量逆殺者にほかならない。他の地球上の生物で、こんなに殺すのは人間だけである。その能力を権力が限りなく独裁的に有するのが近代国家である、だが近代国家に落ちこぼれる暴力は存在する。暴力団がその例である。あえて言おう我々の属する日本は、あなたがたの日本ではない。疑似右翼がご丁寧に信奉する戦前の日本でもない。それは未来にしかなく、未来にこそある日本だ。我々にリアルな政策があるわけではない。それを行うのは我々軍隊の責務ではない。それは能力があり、正当な評価を得たプロの政治集団であるべきだ。恣意的とのそしりを恐れず言えば、我々は日本を正しく運営する政治家のもとに本来あるべき集団である。何ものを持って正しいかは意見が、それぞれであろう。ただ我々が要求するのは政治は利他主義に基づくものであるべきだ、ということだ。裏技も使え、時には嘘もいい、だが行動の結果にあくまで利他の精神が無ければ自由も平等もあり得ない。権力が制限されるとは、このことを指している。

 だが現状はどうか。現在、政治家とは卑屈にも政治屋になりさがり、政治屋たることで利益を得る集団のことを指す。大手ゼネコン、重工業、原子力発電所、そして軍需産業の最大利益を追求することが政治屋の行動原理である。その原理を隠すために笑止なことに愛国を語る。我々が憤怒を抑えきれないのはこの疑似愛国主義である。敵が左翼であるなら我々も論理を持って対抗する。しかし、この似非右翼には感情を抑えきれない。欺瞞と傲慢しかない彼らには、正義の鉄槌を下すのみである。すべての似非右翼を断罪することは不可能である。我々は政権与党の幹部を断罪し、これによって社会にはびこる屑に警告する。キリストも言ったではないか、我は剣を持って来たれり、汝、悔い改めよ。我々は慈悲の心を捨てた阿修羅である。阿修羅のごとく国家権力に対峙するものである。我の手は、もはや権力者の血に塗れている。権力者よ銘記せよ。今日が令和維新の日である。

 我々の要求は次のとおりである。

1・参院議員選挙のやり直し

2・挙国一致の内閣の実現

 この二点である。今の日本は危機にある。政党の争いをしている時間は無いのである。

 以上」



 優斗はこれだけの内容を頭に叩き込んでいた。

 その顔はゆるぎなく、叫ぶでもなく、かといって声は小さくない。確実に、言わんとすることを明瞭な声で語った。

ああ、この顔は本気だな。

 目が狂気に満ちている。かつての龍博が若かったころ、多分、こんな目をしていたのかもしれない。龍博も、他者からみたら、狂気に満ちた行動をしていたのだから。

 由紀子が重い口を開いた。

「待って、要求の一項は衆議院解散・総選挙にしない。DISSOLUTION OF PARLIAMENTよ。名付けて、作戦DOP」


 隼人は聞いた。

「何故変える?」

「参院議員選挙やり直しは非現実的、解散総選挙なら交渉の余地がある」

 隼人は考え込んだ。

 さらに由紀子は言う。

「衆議院ならいつでも解散される可能性がある。議員もそのつもりのはず、ならば、現実に即して要求すべき」

「分かりました。皆に謀ります」

 龍博がならと言った。

「ここまで話が煮詰まっているのなら、我々を解放してくれないか」と龍博。

 優斗は首を横に振った。

「申し訳ありませんが、それはできません」

「なら、女性と赤羽君だけでも解放してもらえないか。あんたたちも人質は少ないほど良いだろう。二人が残れば警察に通報できない」


 優斗は少し考え込み、

「分かりました。ただ、私一人の考えではできません、明日までに皆に諮ります。お三人はただものではありませんから」


 女性軍は失笑した。

「まあ、評価してくれるのね」と由紀子。

「穴があったら入りたいわ」と美里。

「ラッキーだね、そうだよ僕は荒事は無理」

 最後のセリフはもちろん幸雄。

 そして、優斗は自分たちの仲間に帰っていった。


「どう思う?」と由紀子が龍博に聞いた。

「本気だな彼らは」

「ああいう人たちが必ず存在することが日本という国の特徴ね」と美里。

「まあ、俺も心情的には分からないでもないが、やはり殺人は許されない。彼らは割腹自殺すると言っているが、それは罪を償ったことにはならない」とはもちろん隼人。

 幸雄は黙っていた。そこで龍博は聞いてみた。

「幸雄君はどう思う」

「僕は別にっていうか、僕の周りには年収二百万以下の奴なんてごろごろいる。もうこんなの自己責任でどうこうできるレベルじゃないよね。僕のじいさんも自殺したしね」

! 初めて聞いた。

「それ、本当か?」と隼人が聞いた。

「そうだよ、首つり、下半身だいぶ弱っていたから、たいへんだったろうね。七ニ歳だから早いよね」


 龍博がフーとため息を吐いた。

「若者も老人も、もうこの国で生きていけない人間が多いということか」

「そういう意味で、彼らの気持ちは分かる」と由紀子が言った。

 その日は、そうやって更けていった。


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