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ESP会議・クーデター

 素直に十人は部屋を出た。さて、龍博は皆を見回した。

「まあ、これは妙な立場に置かれたが、さてどうするか」

 由紀子が言った。

「検討しましょう、爆破や殺人を知って知らぬ振りもできないでしょう。お父ちゃんが一枚かんでいるなら、私としては武器を使わせたくはない」

「俺は警察官としてはなんとしても阻止しなければならない」と隼人。

「問題は彼らの気持ちが収まる方法だわね」と美里。

「気持ち?」と聞く由紀子。

「つまり、理想の国家とは言っても彼らができることは限られている。逆にそれだからあせって極端な行動に出ようとしている。つまるところは彼らの振りかぶった手を、どうやって下ろさせるかねね」

「だけどさあ、ぶっちゃけ難しいよ」と幸雄が言うと、

「お前、あいつらの味方か」と睨む隼人。

「僕は彼らを全否定できないだけだよ。実際、政治家腐っているでしょ」


 龍博は幸雄の言に少し驚いていた。政治から一番遠い存在だと幸雄を決めつけるのは確かに間違っている。これだから人間は面白い。だが、

「爆弾はまずいでしょ。一人一殺なら理屈としては分かるが、爆弾はまずいだろ」と龍博。

「でも陽動作戦が無ければ彼らの計画は成立しない」と由紀子。

「由紀子さんは彼らの計画をどう思う」と龍博が聞くと、由紀子はゆっくり答えた。

「軍事作戦がマーケテイングに似ているのは確か。でも初めから自分の命を捨てるのを前提にするのは作戦とは言えないわね」

「ハハ、2.26みたいだな」

「そう、2.26も作戦目的が曖昧。また決起の後、誰にこの戦いの収束を託すのかが曖昧、つまり出たとこ勝負ね。これは旧日本軍に共通の行動原理なのよね」

 隼人が腕を組んでむずかしい顔をした。

「で、どうする?」


 龍博はゆっくり答えた。

「僕らは彼らのクーデターに変わる作戦を考える、あるいは考えるふりをして、時間を稼ぐというのはどうだろう」

「時間を稼いでどうするのさ」と幸雄。

「彼らは沸騰するヤカンだ。時間をかければ、ほころびが見えるかもしれない」

「できなければ」

「まあ、計画を立てる」

 美里がゆっくり考えながら言った。

「私は彼らの意思は固いと思う」

「何故、そう思う?」と隼人。

「腹斬るとまで言っているのよ、あの目は本物、何かやっぱり日本の軍人は侍を意識しているのよね。武士道とは死ぬことと見つけたり、よね、私も武術やっているから、そういう道というのは何となくわかる。日本人に特有の熱情、パッションよね」

 由紀子が頷きながら言った。

「ウチの、お父ちゃんも、そういうパッションを感じて手をかしたんでしょうねえ」

 龍博が全員を見回す。

「では考えるか、プランを」


 それから、龍博は単独で別棟に行き優斗を呼んだ、二人は外で向かい合った。

「作戦は考える。だからくれぐれもはやまらないでくれ」

「はい、しかし長くは待てません、もう彼らを抑えることは不可能でしょう」と優斗の顔が曇る。龍博は聞いた。

「倉科さんは、本当は作戦に反対では?」

「私個人としては、一人で決起するつもりでした。だが仲間ができて、正直迷っています。だが彼らを止めることはできない」

 こいつは本当に難題だな。だが優斗が笑いながら言った、

「でも、青柳さんも、ある意味私たちと同類でしょ」

 龍博はちょっと驚いた。

「え?」

「あなたも、この国は腐っていることを知っている。しかも頭もいいし、度胸もある。ただ自分の真の欲望を知らない。そこだけが私たちと違うところです」

 優斗はそう言うと、

「あの棟はお好きに使ってください」と言って去った。その後ろ姿は逞しい、だが、少し悲しくもあった。ああ、あの人は本当に死を覚悟しているのだな。いっそのこと彼らの好きにさせようか、いや、やはり犠牲者が必ず出るという状況は変えねばならない。さてどうするか。龍博は再び皆が待つ棟に帰った。


 急なことで、考えをまとめたいと皆は、その夜は男子部屋と女子部屋に分かれ、あまり会話をしなかった。皆、固有分野では一流である。軍事は専門ではないが、軍事を止める、いわば外交を任された政府のようなものである。何らかの考えは出るだろうと龍博は思っていた。ただ龍博はいろいろ考えが浮かんでは消え、また浮かぶと眠れなかった。


 この状況で高いびきをたてる幸雄のメンタルの強さは驚愕に値する。隼人も、警察で雑魚寝は慣れていると言ったから、寝ているのだろう。考えてみれば刑事は殺人事件などの捜査で所轄の警察で雑魚寝するメンタルの強さがある。ハハ俺が一番メンタル弱いか。

 木造りのベランダで、木造りの椅子に座って、煙草を出す。急なことで、この一箱である。貴重な一本を煙に消しながら、ただボーとした、が、声がかかった。

「龍博さん」

 由紀子だ。おや彼女も眠れないのか。

「やあ、眠れないのか」

「まあね」

「美里さんは」

「さすが世界を跨ぐ国際弁護士にして実は人権派、彼女どこでも熟睡できるタイプ、ただし三、四時間で起きるらしいけど」


 龍博は向かいに座った由紀子に、

「なあ、ぶっちゃけ、どう思う、彼らの計画」

 由紀子は笑いながら答えた。

「ぶっちゃけ爆弾が無ければ、やっちゃえって思う。基本的にやくざの殴り込みと同じ。私、やくざの娘だから」

「ハハ過激だね。ただ、彼らは本当に言う通りの火力を持っているのだろうか?」

「はったりだと言うの?」

「やくざの娘の目からどうだね?」

「うーん、究極的にはお金次第ね」

「金があれば可能。無ければ不可能」

「調達ルートはある。彼らは相当時間をかけて集めたんだと思う」

 すると、実現可能か。

「阻止するのはかなり難題だね」

「そうね、やっかいなのは理屈で動いていないことね」

「愛国心か」

「日本人の愛国心って、西欧型の愛国心とは違うのよね。一番違うのは日本は愛国心が民族と矛盾していないことね、ヨーロッパは国と民族がぐちゃぐちゃになっていて、それにユダヤ人問題なんかが絡むから複雑なのよね、その点日本民族は、例外はあるけど日本国民だから愛国心が理解しやすいのよ」


「なるほどな、やはり海が日本国民を守ってきたんだ」

「だから、一般の人も、こういう話は腑に落ちるわけね」

「だが、気になっていることがある」

「何?」

「携帯を取り上げなかったこと」

 由紀子はうんと頷いた。

「私もおかしいと思っている。少なくとも隼人君の携帯は取り上げるべきだよね」

「うん、警察官だからね。迂闊なのか、それとも何か意図があるのか」

「迂闊だったら、とても、あんな計画実行できない。ただ」

「ただ、何?」

「試しているのかもしれない、私たちを。隼人君、どこかに連絡していた?」

「いや、僕の見ている範囲ではなかった」

 由紀子が形のいい顎に指を当てて、

「優斗君、案外策士かもね」

 策士?

「どういうこと?」

「つまり優斗君の言った計画が実は誘導で、警察の目を選挙の日に向かわせる」

 なるほど、あり得る。だが、そうすると自分たちの計画を、上回る案を出せといった要求はどうなる?

「その場合、俺たちの役割は何だ? 自分たちの嘘を隼人君に信じさせるためか」

 由紀子はちょっと笑みを浮かべて言った。

「そこなのよね、分からないのは。やっぱり計画は本物なのかな?」

 倉科優斗か、新宿のゴジラの下で初めて会った若者、彼とこういう縁があるとは思っていなかった。

「優斗君の行動が鍵だな」

 由紀子は頷いた。

「ええ」


 冷たい風が吹いている。多分、ここは西多摩、東京の西はずれであろう。都市部の冬の風は乾いて冷たいが、今夜空を吹き渡る風は冷たく濡れていた。九〇年くらい前の二月二六日、東京は雪が降り、そして昭和維新の掛け声とともにクーデターが勃発した。

 優斗たちは本当に令和の維新を企てているのか。


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